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141.緑内障ならこれ食べて

今回は緑内障なら食べたい食事に関してお話いたします。
緑内障は、全世界で1億2千万人以上の方が罹患していて、国内では中途失明原因1位の眼疾患です。

網膜の神経細胞がダメージを受けて、障害を受けた神経に沿って視野障害を起こすのが緑内障の病態です。視野障害

は視野の周りから欠けていって、最終的には中心部分の視野だけ残って、最悪その中心部分の視野も失われてしまう場合があります。

その神経細胞のダメージに大きく関わっているのが眼圧です。

日本を含んだアジア人はこの眼圧の値が正常の正常眼圧緑内障が多いですが、正常の眼圧の方でも眼圧をさげる事が非常に有効であることが多くの論文で明らかにされています。

たった1眼圧下げることが10%の視野進行抑制効果につながると報告されているぐらいです。

進行を抑制させる手段として目薬をはじめとしたレーザーや手術などの眼圧降下療法が現在広く普及しています。神経は一度ダメージを受けると回復する事はありません。そのため緑内障治療はいかに残存している神経を守って今ある視野を維持できるかというのが重要なポイントになってきます。しかし眼圧下降療法の中で

  1. 眼圧が十分に下がっているにも関わらず進行する方や、
  2. 眼圧下降療法に反応しにくい方がいるのも事実なので

眼圧に依存しない原因、血流の循環障害や必要な成分が不足する事で起こる代謝の異常など様々な研究がされています。

その内、代謝の異常に関して報告があって、緑内障にとってこういったビタミンを補うと緑内障で損傷を受けている視野に効果があったとされる報告があります。

今回は緑内障なら知っておきたい補いたい栄養素、ビタミンに関してお話いたします。


【網膜神経節細胞に関して】

今回の栄養素の話をする前にそもそも緑内障はどういった病気なのかということを知って頂くとなぜこのビタミンが必要なのか分かりやすいと思うので、簡単に緑内障はどんな病気なのかという説明をします。

緑内障は神経細胞が障害を受けて機能を失っていく病気なんですが、もう少し詳しくお話すると網膜の中の網膜神経節細胞

という部分に障害をうける病気です。

私達がみている画像は簡単に説明すると3つの工程で伝わっています。



に入った光刺激が網膜の一番奥にある

1 視細胞が受けとって、電気信号に変換

されます。 その信号を中間ニューロンである

2 双極細胞を介して


3 網膜神経節細胞に伝えます。

網膜神経節細胞は視神経線維という体内で最も長い突起、電線みたいなものをもっています。この電線は網膜の表面をつたって、100万本程度が束ねられて視神経となって眼球の外にでて脳につないでモノをみていています。

緑内障で障害を受ける部分は、網膜の奥にある視細胞ではなく、中間層の神経でもなく、網膜の再表面の網膜神経節細胞とその先の電線、視神経線維と呼ばれる部分に障害をうけます。

この部位

に障害を受けるので、視細胞が光をうけとって、その情報を電気信号にかえて双極細胞といった中間ニューロンに情報を伝えても、その先の網膜神経節細胞や視神経線維に障害があるので情報を脳に伝えることができません。

OCTという画像で解析する検査があるんですが、それでみると分かりやすいです。網膜

はこのようにバームクーヘンのように10層でできています。このうち緑内障


がやられる部分は表面の白い部分です。正常の方

と緑内障の方を比べるとこの部分が明らかに薄くなっているのが分かると思います。緑内障の方がOCTをとるのはこの厚みがどの程度減っているのか見ていきたいからです。経時的にみて厚みが変わらなければ緑内障の状態は安定していると考えれますし、減っていれば進行していると予測することができます。


では何故この部分に障害を受けるのかというとやはり眼圧による圧ストレスによる影響が主に考えられているんですが、それ以外に神経の代謝の異常も影響しているんではないかという研究が海外では行われています。

網膜は代謝が非常に活発でもの凄くエネルギーを使います。情報を脳に伝えるために多くのエネルギーが必要になりますが、そのエネルギーはどこで作られるかというとミトコンドリアという部分で作られています。ミトコンドリア

がATPというエネルギーを作って、そのエネルギーを利用して視覚情報を脳に伝えています。

特に網膜神経節細胞は非常に長い軸索、電線を持っていて、大量のエネルギーを使うので神経に含まれるミトコンドリアが正常に機能し続ける必要があります。


ミトコンドリアは網膜に限った話ではないんですが、視覚情報を脳に伝えるためのエネルギーの製造場所で大切なものなんですが、何からエネルギーを作っているのかというと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、NADという物質を利用してつくっています。

食事

で摂ったビタミンBの中のB3が吸収されて、NADという物質に変換されて、それがミトコンドリアに入り込んで、エネルギーが作られています。

NADの量は加齢とともに低下することが知られていて、不足することでアルツハイマー型認知症、癌、代謝異常、糖尿病、筋力低下、虚弱などいくつかの老化関連疾患との因果関係があることで報告されています。

逆にNADの値が回復することで、これらの加齢に伴う疾患の進行を遅らせたり、あるいは改善すると多くの研究で報告されていて、世界中でNADによる研究がされています。


緑内障に関する研究もすすんでいます。同じように緑内障は神経の病気ですし、NADは加齢によって減少するだけでなく、緑内障患者の方は更にNADの量が少ないという報告がされているからです。

2019年のフランス

の報告では緑内障患者さん34名と緑内障でない患者さん30名の血液データを比較検討行ったところ緑内障患者さんはビタミンB3として知られるニコチンアミドの血中濃度が有意に低いことが報告されています。

そのようなことから、ビタミンB3と緑内障の研究がどんどんすすんで2021年

のコロンビア大学からの報告ではビタミンB3とピルビン酸のサプリメントを中期の緑内障患者さんに投与したところ内服していない人と比べると、部分的に視野が改善したということが報告されました。通常、緑内障が原因で起きた視力障害や視野障害は改善することはないんですが、内服する前と後で比べると感度が落ちかけている部分の一部に改善がみられたと報告されています。

え、そんな事あるの?って思いますよね。

どの部分かというとこのような視野が欠け始めているグレーの部分に関してです。

ここで緑内障の視野を少し説明します。

正常の方

はこのように白い視野で、緑内障の方は黒くなっています。この視野

をよくよくみえると、全て黒いというわけではなく、黒い部分やグレーの部分のようにコントラストがあることに気づくと思います。色が濃いほど強く障害されています。

真っ黒な部分は完全に光に対する感度がなくなっている部分です。全く光

を感知していない部分を0に山の記号(この青の部位の字幕は 部分を<0でお願いします!)で表記されるんですが、光に対する感度が全く失われている状態です。グレーになっている部分は障害を受け始めている部分です。

白い部分はほとんど障害を受けていない、または正常の部分です。緑内障が進行していくと白からグレー、黒のように変わっていきます。

言い換えると

、黒い部分は網膜神経節細胞がかなりダメージを受けている状態で、既に機能していない状態です。グレーの部分は中等度ダメージを受けている状態、白はほとんど受けていない部分です。

黒い部分

は回復することがないので緑内障の視野検査で大切なのはグレーの部分がいかに黒に変化していかないかというのが、進行をみる重要な指標になります。

この論文で

検討されている部分はまさにこのグレーの部分に関してです。黒くなっている部分が回復するという事は残念ながら示されていません。機能を失った部分に関して回復するというような報告ではありません。

グレーの部分は神経の機能が落ちかけている部分なんですが、NADの補充が網膜神経節細胞に含まれるミトコンドリアに良い影響を与えて部分的な視野の改善に繋がっているのではないかと考えられています。

研究で使用されているビタミンの量は結構多いです。1週間でビタミンB3を1500mg ピルビン酸を2000mg毎日内服して次の1週間はどちらも2000mgずつ、最後の1週間はどちらも3000mgずつとったとされています。

この研究の参加者は56人と小規模なので、どうなのかなという部分があるんですが、同様の研究がオーストラリア

でもされています。

ビタミンB3を毎日1500mg 6週間摂取しその後毎日3000mgを6週間継続すると内服していない人と比べるとやはり視野に改善があったと報告されています。

ビタミンの内服で視野が改善するとなると魅力的な話しではありますが、先ほどもお話しました1500mgや3000mgはかなり多い量です。厚生労働省の示す上限量は300mgとされているからです。まだどの程度の量が適切なのか、また効果はどれほど持続するのかはっきりしていません。

現在ビタミンB3の内服と緑内障に関する治験が世界的に行われており研究結果がスウェーデンでは2026年12月に、香港では2026年11月に終了の予定で、現在はその結果が待たれているところです。

ビタミンB3の内服が部分的な視野改善につながるというのは興味深い話ではありますが、ビタミンB3のサプリメントにすぐに飛びつかないでください。高用量ではナイアシンフラッシュといいますが、蕁麻疹や湿疹、動悸、嘔吐などの副作用が報告されています。

そのため、自然に食事から意識して摂る分には通常過剰になることはないので、食事からの摂取はおススメです。

ビタミンB3であるナイアシンは、玄米、たらこ、かつお、まぐろなどの魚や、鶏肉のような肉類、ナッツなどに含まれています。

いわゆる身体によいものなんですが、日頃からこのような食品をとりいれながらバランスの整った食生活を意識することが大切です。

食事だけでなく運動習慣を作ることもミトコンドリアの活性に繋がります。現代の座りっぱなしのライフスタイルは、加齢に伴う神経変性疾患の発症に影響する要因となります。

緑内障の方は特に有酸素運動おすすめです、週に3-4回、45分程度してください。ミトコンドリアと関係なく運動による緑内障の好影響も報告されています。

運動と食事対策によるミコンドリアの活性化はもしかしたら今後緑内障の発症の遅れに有効となるかもしれません。

今回の話しをまとめますと

①NADはミトコンドリアのエネルギー源になります。

➁ビタミンB3がNADに変換されます

➂緑内障患者さんはビタミンB3の血中濃度が低いと報告されています。

④ビタミンB3を意識してとることが機能が落ちかけている網膜神経節細胞に良い影響を与えるかもしれません

⑤魚、鶏肉、ナッツなどの食事から意識してとるとよいでしょう

という5点です。緑内障の視野は基本改善する事はありません。先ほどもお話しましたが、黒い部分がグレーや白になっていくような事はありませんが、完全に機能を失っていないグレーの部分はもしかしたら回復する力があるのかもしれません。ビタミンB3には眼圧を下げる作用はないんですんが、ミトコンドリアを活性化させることは、緑内障だけでなく私達の身体はミトコンドリアからのエネルギーに依存しているので様々なメリットがあります。良ければ参考にしてください。

今回はビタミンB3と緑内障に関してお話いたしました。


(2023.1.16)