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140. 未来の眼内レンズはこれ!

今回は新しい眼内レンズに関してお話したします。白内障手術は年々新しい眼内レンズがでて、日々新しい治療について考えられています。

しかし、どんな新しい治療法や新しいレンズが登場しても常に何かしら改善点がみられるため、そこを改善するための研究が日々されています。眼内レンズは単焦点眼内レンズにはじまって、遠近の2焦点眼内レンズから遠中近の3焦点眼内レンズと改良されて多くの方が希望に沿った見え方を実現できるようになりました。この先眼内レンズはどのように変わっていくのだろうか、と思っているのはおそらく私だけではないと思います。今海外ではどのような眼内レンズの研究をしているのかというと、全く新しいタイプの眼内レンズの治験がすすんでいます。今回は現在まだ治験中ですが、今世界で研究されている新しい眼内レンズの話をお話いたします。


新しい眼内レンズの話をする前に人の目の特徴を知っておかないと今回の新しい眼内レンズは理解しにくいので私達の目の機能を簡単に説明します。

私達の目は近くにも遠くにも自動でピントが合うオートフォーカス機能を持っています。10代、20代、30代若いうちは皆さん見たい部分に即座にピントを合わせて見ることができますよね。

何故このように見えるのかというと、目の中にある水晶体

レンズの働きによります。

レンズの厚さ

を薄くしたり、厚くしたり調節をして、ピントを合わせています。この調節にかかわっているのが「毛様体筋」

という筋肉で、この筋肉が水晶体を引っ張ったり緩めたりしています。遠くを見るときは、毛様体筋が緩まって、水晶体を薄くしてピントを合わせます。一方、近くを見るときは、毛様体筋が緊張して水晶体を膨らませてピントを合わせます。

これを「調節」といいます。


このように人には見たい部分にすぐにピントを合わせる高精度なオートフォーカス機能、「調節」というものを備えています。

ただ残念なことにこの調節機能は耐用年数は40年程度と短いです。

いわゆる老眼が発症してくるからです。人が生きている間、このオートフォーカス機能がもってくれたらいいのですが、残念ながら老眼という目の老化現象は人生のだいたい半分の時点で発症してしまいます。


老眼の原因は目の水晶体というレンズの老化

によります。老化により水晶体が硬くなって、ピント調節力が衰えるので、近くが見えにくくなります。老眼の原因は水晶体にあって、筋肉ではありません。パソコン作業のように、近くをじっと長時間見るような場合は、毛様体筋がずっと緊張していることになってピントの調節が一時的に麻痺する事がありますが、いわゆる加齢による老眼とは別です。


老眼や白内障は生きていれば誰しも発症するので病気ではありません。しかし、老眼を治す治療法はありません。治す薬もありませんし、遠近トレーニングやつぼ押しのような事をされている方もみえますが、それで老眼が改善するということはありません。

水晶体

はタンパク質で出来ていて、一度固くなった水晶体が柔軟性を取り戻す事がないからです。


このような老眼に対して白内障を伴っていれば白内障手術が行われます。

白内障手術でその老眼の原因である水晶体を除去

して、人工のレンズに入れかえます。濁ったレンズを除去して、綺麗な人工レンズに入れ変えることによって多くの方は視力が回復します。

しかし、当たり前ではありますが、人工のレンズは元の人の生まれ持ったレンズとは異なります。生まれ持った水晶体との決定的な違いは何か、

それは人工レンズ

には伸びたり縮んだりといった収縮機能が備わっていない事です。

なので先ほどお話したピントの「調節」というものができません。


通常の保険のレンズ、単焦点眼内レンズの場合、ピントが合った部分に関しては白内障以外に病気がなければ、くっきりはっきり見えますが、ピントが合っていない部分に関してはぼやけてしまいます。そのため術後ピントが合っていない部分は眼鏡が必要になります。遠方に合わせたら手元の眼鏡が必要になりますし、手元に合わせたら遠用眼鏡をする必要があります。


術後眼鏡をしたくないという方は多焦点眼内レンズが有効な手段なります。眼内レンズは光学部

という光を通す部分とレンズを固定するための2つの支持部でできています。このうち光学部

に回折構造というぐるぐるとした特殊な構造をつけることによって、光を遠くから手元まで振り分ける事によって広範囲でものをみる事が可能になります。


現在の主流は3焦点タイプの眼内レンズです。遠方、60cm程度の中間距離、手元40cm程度の距離にピントを合わせ連続的にみる事が可能です。老眼治療を兼ねた白内障手術となると、このようなレンズを入れることにより遠くから手元まで見えるようになるわけですが、多焦点眼内レンズですらピントの合わせ方は生まれ持った水晶体の働きと同じではありません。

繰り返しになりますが、生まれ持ったレンズは毛様体筋

という筋肉の働きによって遠く、近くのようにピントの調節をしていますが、多焦点眼内レンズはピントの調節ができません。筋肉の働きではなくて、レンズの構造によって遠くと近くの両方が常にピントが合っているという、これまでに無い見え方を経験をすることになります。


脳がこの見え方に慣れるのに時間がかかる場合があるので、ご高齢の方は適応に時間がかかる場合もあります。

また、光を分光してものをみているため、ハローグレアやコントラスト感度の低下といった注意点が少なからずあります。その他に緑内障や黄斑症のような病気がある方、夜間長時間の運転をされる方は多焦点眼内レンズの不適応になる事があります。

最近だとVivityという新しい眼内レンズが登場しました。回折構造がない非回折構造の眼内レンズで、ハローグレアが単焦点眼内レンズと同等であり、コントラストも非常に良好で癖がほとんどないレンズです。近方の見え方が、3焦点タイプよりやや落ちるので、40cm以内で細かい字を見るときは老眼鏡の使用が一時的に必要になるかもしれないという注意点だけ理解していただければ多くの方が適応になるレンズです。多少見える範囲は狭くなっても見え方の癖が少ないレンズというのが最近の流れのように思います。


前置きが長くなりましたが、最近研究されているのはモジュラー式の形状変化型眼内レンズです。モジュラー式というのは組み合わさったという意味です。

モジュラー式の形状変化型眼内レンズ、組み合わさって、形状が変わる眼内レンズ、どんな眼内レンズなのでしょうか。

世界中でまだどの国でも販売されていませんが、すでに海外では人の目に対する治験が行われています。

いくつか同じタイプのレンズが治験されているんですが、仕組みがだいたい同じなのでそのうち1つ紹介いたします。

LensGen(レンズゲン)という会社のJuvene(ジュビン) IOLというものがあります。現在の眼内レンズ

は光学部と目の中で固定する二つの支持部が一体化となっていますが、このレンズ

は2つの部品で別れています。

1つは毛様体筋の動きを感知するベースレンズ

もう一つはそのベースレンズにフィットして形状が変化する光学部のレンズです。光学部はシリコン素材の液状ベースで構成されていて、毛様体筋の刺激をうけて段階的に屈折力をコントロールする事ができます。

この2つを組み合わせて目にいれると、まるで人の水晶体

と同じように伸びたり縮んだりして見え方を調節するという原理になっています。

2020年から人による臨床研究がはじまり3年の経過がたち、術後36カ月の経過が報告されています。

その報告によると視力に関しては1年、2年、3年と見え方の質は変わらず、通常の単焦点と同等のコントラストが維持で、ハローグレアの発生(はっせい)もないようです。遠方1.2、中間0.8程度 40cm程度の近距離は0.6程度で良好な視力を維持しているようです。

そしてこのレンズは光学部が合わなければ、時間がたってもほかの度数のレンズに交換できるというのもポイントです。

現在の白内障手術は一度目にいれた眼内レンズを基本交換することがありません。入れたレンズが合わなければ術後早ければ交換するような事がありますが、だいたい半年もたつと、レンズを固定している嚢という部分が線維化してしっかり固まるのでレンズを取り出すことが物理的にできなくなってしまうからです。


しかしこのレンズ

は、ベースとなっている部分が嚢自体を覆っているため、嚢の影響を受けません。

レンズが交換できるので、度数が合わなかったり、将来何か眼疾患にかかってしまって違う見え方を希望する場合、光学部のみの入れ替え手術が可能になります。


他にも同様の眼内レンズが各社開発されていて、今後このような毛様体筋の刺激をうけて、レンズが伸縮するタイプが新たな眼内レンズとして主流になっていくかもしれません。


実はこのような調節型といわれる眼内レンズは今お話したような形ではありませんが、ずいぶん前に存在

していました。ですが、今回の話のように嚢全体を覆うとかそういった構造ではないため水晶体の嚢の繊維化などが理由でうまく調節の力が伝わらず全く流行らなかったという経緯があります。

まだこのような眼内レンズは臨床研究の段階なので、世界どこにも販売されていませんが、今後長期的に良いデータが揃ってきたらこのような眼内レンズが次世代型として主流になっていくかもしれませんね。

今回の話をまとめますと

  1. 人の目にはオートフォーカス機能、調節する力が備わっています
  2. その力は40歳前後を境に衰えていきます=老眼の発症です
  3. 老眼治療に対して多焦点眼内レンズを入れてもその見え方は元の見え方とは異なります
  4. モジュラー式の形状変化型眼内レンズは交換可能な眼内レンズで調節機能が備わっています
  5. 現状良好な成績が確認されているようです。

という5点です。

白内障の眼内レンズはどんどん進化していますよね。

国内では2007年に2焦点眼内レンズが広まり、その後3焦点タイプが使えるようになり、現在はVivityのような限りなく自然な見え方を提供する眼内レンズが登場しています。まだ5年、10年かかるかもしれませんが、新たな眼内レンズとしてこのようなレンズが世に出てくるかもしれません。眼内レンズの究極の目標は若い時の水晶体と同じようなピント調節機能が可能になることだと思います。それが近い未来可能になるかもしれません。

今回は未来の新しい眼内レンズに関してお話いたしました。


(2023.1.9)