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12. 多焦点眼内レンズについて

老眼矯正眼内レンズというものに関してのお話です。前回は白内障手術で使う保険適用のレンズに関してお話させていただきました。現在白内障手術に入れるレンズは多数あるんです。ただ、種類は多いものの眼内レンズには大きく分けて単焦点レンズと多焦点レンズという二つに分けられ、前回は単焦点レンズに関してお話させていただきました。単焦点レンズは保険診療で受けられる手術であり、単焦点という名前の通り遠方か手元かどっちかしかピントが合わないレンズですよという話でした。ですから術後は基本眼鏡が必要で、裸眼で遠くをみたいのかそれとも手元をみたいのか、ご自身の生活で本を読むことが多いのかそれとも裸眼で車の運転がしたいだとかそういうライフスタイルを考えて選んで下さいねとお話させていただきました。それが従来の単焦点のレンズでしたが、最近だと通常の単焦点レンズに一部遠視レンズが負荷された低下入度分節眼内レンズというものがとてもいいレンズが出まして、私はとてもいいレンズだと考えております。ここまでが前回のお話です。

今回は多焦点レンズに関してお話です。多焦点レンズは老眼矯正レンズなんて言われていることもあり、高額であっても老眼が治るならぜひ入れたいと言われております。多焦点眼内レンズと老眼矯正レンズは言い方が違うだけで同じものです。2020年3月までは先進医療特約で受けれた手術なのですが、現在は選定医療に変わり簡単にいいますと値上がりしました。自費診療だし、金額も両眼で100万超すような手術ですので非常に期待される方も多いのだろうなと思います。人が眼のいわゆる近視だとか遠視だとか乱視などの屈折値を治せるのは白内障手術の時がチャンスです、多少高くても眼のためにと考えられる方も多いのではないでしょうか。白内障手術は基本人生に1度きりですし、レンズを交換するということはまずありませんから後悔しない選択をする必要があります。

多焦点眼内レンズは遠・近がみえる二焦点眼内レンズということで2007年に承認されました。

通常の単焦点レンズは遠方か近方かどちらかにしか合わすできなかったのですが、これが遠方と手元も見えるようになるんです。これだけ聞くと、お金があればそっちのレンズにしたいなって誰しも思いますよね。ところがこのレンズはあまり流行りませんでした。それは、当初の多焦点眼内レンズは屈折型と言いまして、瞳孔といって黒目の大きさに依存するレンズだったんです。そして遠・近はみえるんですが、70cm-100cmくらいの中間の距離がみにくく、さらに多焦点レンズの欠点である、ハローグレアという光が滲んで見える現象であったり、単焦点レンズよりコントラストが低下するんです。ようは見え方の質が単焦点レンズより劣るということです。そうなんです、保険適用の単焦点レンズは安いからダメなレンズでは決してなく、逆に高いお金を払って多焦点眼内レンズを入れても満足いかない場合も意外と多いんです。多焦点眼内レンズは一枚のレンズに遠方と近方とレンズを組み込むのでこういった現象が起こるんです。すなわち多焦点レンズとは遠くも手元も単焦点レンズと同じくらいに見えるレンズではなく、レンズが一枚に遠方用と手元用になるようにつくられているのでどうしても光学的なロスができてしますのです。ですからこのレンズは流行りませんでした。せっかく高いお金を出してこのレンズを入れたのに不満例も多くこんなはずじゃなかった、なんとかレンズを交換したいということでレンズ交換のための再手術を受けて多焦点眼内レンズから保険適用の単焦点レンズに変更することもあるんです。そしてレンズは改良され、現在は遠・近に加えて中間もピントが合う、三焦点の眼内レンズが発売されております。このレンズをいれると遠方・中間・近方と裸眼でみえるようになるわけです。この話だけ聞くといいレンズなんだなと思われるかもしれませんが、現状でもやはり1つのレンズに遠方・中間・近方とレンズを組み合わせて作るのでやはり光学的なロスがどうしてもできてしまうのですね。以前よりだいぶよくなったといえ先ほど申し上げたハローグレアという光が滲む現状、そしてコントラスト感度も低下します。中にはゴースト減少といって文字が右に滲むような現象も起こることがあるようです。ですから現状の最新の三焦点眼内レンズといえど、若いときのようにはっきりみえるようになるわけではなくある種妥協は必要かなと思います。とはいえ多くの人が満足されているのは間違いないので、いいレンズなのかなと思ったりしますがあまり神経質な人には向いていないかもしれませんね。夜は車の運転をしないとかどうしても裸眼で手元みたいとかいう方には考えてもらっていいのではないでしょうか。

ここまでをまとめますと単焦点レンズと多焦点眼内レンズの大きな違いは見え方の質に関ししては単焦点レンズの方がいいです。多焦点眼内レンズは遠方・中間・近方と裸眼でみえる3焦点眼内レンズが最近のもので出ており、従来の多焦点レンズは遠方・近方と2焦点でみえるレンズより改良されましたが、その見え方の質は単焦点レンズより劣りますということです。私は現状は保険診療の単焦点レンズを自分なら入れるだろうなと思います。最後に最近の論文を一つご紹介させて頂いて終わりにします。2019年の論文で多焦点レンズを扱っている眼科医に質問、自分が白内障手術を受けるならどのレンズを入れますか?と347名の眼科医にアンケートをとったものがあります。結論として、61.3%の眼科医が単焦点眼内レンズを選ぶというものでした。その理由もやはり見え方の質をとる傾向があるとのことでした。そういうことで、現状はわざわざ高いレンズをいれなくても保険診療の眼内レンズで充分ではないかと思います。現段階では完璧なレンズ(若い時と同じように遠くも近くも自然に見えるレンズ)はなく、何らか妥協しなければなりませんがいずれそのような完璧なレンズが出来たらいいなと思ってます。


(2021.4.6)