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135.単焦点眼内レンズ 向いている人 向いていない人

今回は白内障手術で単焦点眼内レンズが向いている人、向いていない人に関してお話させていただきます。

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このページの解説は以下のYouTubeでもしています

https://youtu.be/YE71ekdPA-M

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現在白内障手術は大きく分けて2つのパターンがあります。一つが保険で行う単焦点眼内レンズで白内障手術を行う方法、もう一つは多焦点眼内レンズで白内障手術を行う方法です。白内障手術の術後視機能に大きく影響するのが眼内レンズなので、手術前のレンズの選択はとても重要です。もし眼内レンズが1種類しかないのなら迷う必要がないのでいいんですが、今は色々選択肢があります。保険のレンズでも多焦点眼内レンズがありますし、保険外のレンズになると更に多くの種類のレンズがあるので色々調べても結局何がいいのか分からないと言われる事もあります。

ですが、分からないからといって次のような選び方をしている事があれば注意が必要です。

  1. とにかく高いレンズをいれたらいいに違いない とか、
  2. 眼鏡なしになるならそれが間違いなくいいだろう とか、
  3. 保険より保険外の方がいいに決まっている

とか

このように考えてみたことないでしょうか。

通常世に出ているものは高いものが安いものよりよいサービスを受けれる傾向があるので、高額なものを選択すればなんとなく安心だなと思われるかもしれませんが、眼内レンズに関してはそうではありません。今回は色々レンズがある中で保険で使う単焦点眼内レンズが向いている人と

向いていない人に関してお話させて頂きます。


国内で白内障手術を受けている方の95%は単焦点眼内レンズを選択されています。すなわち保険での白内障手術を選択される方がほとんどです。

その理由は保険のレンズのメリットデメリットの話の前に金銭的な事情によることが多いです。保険が3割の方なら手術費用は片目で4万5千円程度、2割の方なら3万円程度、1割の方なら1万5千円程度です。さらに高額療養費制度といって主に70歳以上の方が対象になるんですが、保険料の支払いの限度額がある方は、上限額を超えた分が還付されるのでお得にという言い方は適切ではないかもしれませんが手術費用をだいぶ抑えて白内障手術を受けることが出来ます。(詳しくは白内障手術いくらかかる?御覧ください)

一方で国が認めた多焦点眼内レンズで行う白内障手術、選定療養といいますがこの形で手術を行うと手術費用に関しては保険が効くんですが、レンズの費用は自己負担になります。レンズの値段は大体20万以上するところが多いので、手術費用とトータルで片目で30万近く、両眼なら60万程度かかります。

そのため単焦点、多焦点のメリットデメリットうんぬんの前に費用の点でもう保険でいいですと言われることが多いです。


ですが、せっかく自分の目にいれるレンズなので保険で使うレンズにもメリットがあること知っていただきたいですし、これから単焦点と多焦点で迷われている方にも知って頂きたい単焦点眼内レンズの特徴があります。


まず単焦点眼内レンズはどんなレンズなのかというところから簡単にお話させて頂きます。

単焦点眼内レンズは単焦点という名前がついている通り見える範囲が限られています。もともと

産まれもった水晶体は伸び縮みできるので遠くをみたり近くをみたりピントの調節ができますが、人工のレンズ

は伸びたり縮んだりということができません。そのため見える範囲が制限されます。裸眼で見えない部分に関しては眼鏡などを使用する必要があります。

ピントの合わせ方は遠くに合わせるか手元に合わせるかの2択が多いです。遠くに合わせると、裸眼で遠方はよくみえるようになります。しかし手元はぼやけてしまうので近くをみる時は老眼鏡が必要になります。逆に手元に合わせると、30−50cmの手元の距離に関してはピントが合いますが、遠くはぼやけてみえてしまうので遠方視の際にはメガネが必要になります。このように裸眼で見える範囲が限られてしまうのが最大の弱点ですが、よい部分もあります

1つ目は見え方の鮮明さ、僕らはコントラストがいいというように言ったりしますが

①はっきりした見え方は全ての眼内レンズの中でもっとも良いです。

2つ目に異常光視症といいますが

②ハロー・グレアが強く出ることがほとんどありません。

ハローというのは暗いところで光の周りに輪っかが見える現象で、グレアというのは光がにじんでみえる現象のことです。夜間問題になることが多いんですが、そのような不快な症状を感じる事がほとんどありません。

3つ目は

③将来何か眼疾患にかかってしまった場合でもレンズのせいで見にくくなることがない。

という主に3点の良い部分があります。

どれもとても大切なことなんですね。

単焦点眼内レンズはレンズ自体非常にシンプルで癖がありません。メガネすることに抵抗なければ実際多くの方が満足されています。

そのため、単焦点眼内レンズに向いている人、まず

1つ目はメガネを使う生活に慣れている方です。

例えばもともと眼がよい方だと、新聞やスマホを見る時に老眼鏡をされていると思います。逆に近視の方は遠くを見るときはメガネをされると思います。このように手術前から眼鏡を使う事に慣れている方は単焦点眼内レンズに適応しやすいです。術後も同じ感覚で見ることができるからです。今までと同じようにメガネをすればはっきりと手元、遠くをみることができます。

普段からメガネを使っているこれが1つ目の単焦点眼内レンズに向いている人です。


2つ目、私のような眼科医も含めてですが、顕微鏡を使うような細かい仕事をされている方や絵描きのような仕事をされている方です。はっきり見る事であったりしっかり色を見ることを優先する仕事や趣味をお持ちの方は単焦点眼内レンズがよいです。それはコントラスト、見え方の鮮明さが全てのレンズの中で単焦点眼内レンズが最もよいからです。多焦点眼内レンズ

はレンズの中心にあるグルグルした構造によって、光を振り分けて遠くから手元まで見えるようにしています。遠方50%、中間25%、手元25%のように光を振り分けます。単焦点で近くに合わせた場合、全て焦点が手元に集まるので手元100%の力ではっきり見ることができます。ピントがあった距離の見え方は多焦点眼内レンズより単焦点眼内レンズの方がよいです。はっきりくっきり見ることが大切な仕事をされている方は単焦点眼内レンズがよいと思います。これが2つ目です。


3つ目は、網膜裂孔や黄斑疾患、緑内障のような、何らか眼疾患がある方または目に病気がないとしても80歳以上の方はできるだけ単焦点眼内レンズにされたほうがよいです。

多焦点眼内レンズは眼疾患がなくて視機能が落ちていない健康な眼に入れることが大前提とされています。

それは緑内障のような病気があったり、または病気がなくても80歳以上の方は正常の方と比べて見る力が低下している場合があるからです。

多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズより見え方のシャープさが劣ります。そのため手術は問題なく終わったけどなんかすっきり見えないな、というように術後の不満につながる場合があります。

緑内障の方は

①薬物で進行がほとんど止まっている方であったり、

②ほとんど視野障害がない初期の緑内障の方は

施設によって多焦点眼内レンズを入れる場合もあるようですが、私としてはできるだけ単焦点眼内レンズがよいと思っています。それは

①今は視野欠損がわずかであっても10年もたつと視野欠損が広がってきている方もおられますし

②緑内障の目薬の中には瞳孔といって黒目の大きさを収縮させる作用があるものがあります。

多焦点眼内レンズ

は黒目の大きさが小さすぎると充分に遠近の力が発揮できないタイプのものがあります。瞳が小さくなるというのは緑内障で目薬を使っている方だけではありません。加齢

とともに瞳の大きさが小さくなる傾向があるので、ご高齢の方が多焦点眼内レンズを選択しない方がよいと言われているのはこのような理由もあります。

そのため、白内障以外の眼疾患がある方、加齢によって網膜の機能が落ちている、すなわち見える力が落ちていると言われている方は単焦点眼内レンズがいいと思います。


逆に単焦点眼内レンズが向いていない人もいます、それは

①眼鏡をせずにまだそれなりに遠くも近くも見えている方です。これは白内障手術後に後悔する原因で多い事なんですが、眼鏡なしである程度遠くも手元も見えている方はすぐに手術をしないほうがいいかもしれません。このような方は屈折の値が−1とか−2程度の軽い近視であったり、または片目が軽い遠視でもう片目が軽い近視で俗に言うガチャ目の見え方に慣れている方です。

このような方は老眼を自覚しにくいので、眼鏡を使わない生活をされている事があります。


単焦点眼内レンズは基本術後眼鏡が必要になります。

あまり見え方に困っていない状態で安易に手術をうけると、確かに遠くははっきりみえるようになった、けど手元が前ほど見えない。手術前より不便になったということで不満に繋がる場合があります。多くの場合はしっかりしたカウンセリングでこのような事は防げるんですが、生活の中心が家の中でまだ見え方にあまり困っていない方は注意が必要です。


②2つ目は仕事上または美容上眼鏡が使えない方です。化粧品売場のような美容関係のお仕事をされている方は眼鏡をしないように言われていることがあります。この場合単焦点眼内レンズを選択するのはよくない可能性があります。


いずれも眼鏡を許容できるかどうかによってくるんですが、今まで眼鏡をしたことがない方、又は眼鏡を不向きとしている仕事をされている方は注意が必要です。


このように単焦点眼内レンズに向いている人、向いていない人がいます。

私個人の意見としては

①将来どんな眼疾患にかかるか分からない、また

②年齢と共に網膜の機能などが落ちる可能性があることや

②仕事上見え方の質を大切にしたい

と考えているので

単焦点眼内レンズにして手元に合わせるかなと現時点では思っています。


今回の話をまとめますと

①単焦点眼内レンズは見える範囲が限られるので術後眼鏡が必要になります。

②全てのレンズの中でコントラストが最もよいです。

③写真家のような芸術関係の仕事や趣味をもたれている方や繊細な見え方を必要としている方にはおすすめです。

④今までの生活で眼鏡を使用されている方は適応しやすいです。

⑤眼鏡をしたことがない、眼鏡をすることが仕事上好ましくないとされている方は注意が必要です。

という5点です。

レンズ選びは白内障手術術後の見え方を左右するのでとても大切です。国が認めている眼内レンズは100年以上の耐久性が確認されているので生きている間にレンズが原因で見にくくなることはありません。ですが当然ながら目に何か病気ができたり、加齢による目の機能障害が起きれば見える力は落ちていきます。それぞれの方のライフスタイルによって選択する眼内レンズは変わってくるんですが、私のような保守的な考え方の方には保険のレンズがよい選択になるかもしれません。今回は白内障手術における単焦点眼内レンズ向いている人、向いていない人に関してお話させて頂きました。


(2023.7.3)