今回は腸がよくないと目にどのような影響があるのか?ということに関してお話させていただきます。
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腸と目は別の臓器で何の関係があるの?と思われる方もいると思います。目は見る臓器、腸は食べ物を消化して吸収する臓器で全く別ですよね。ところが最近になって、腸内
の環境は腸自体に影響があるだけでなく遠く離れた臓器にまで影響を及ぼすことが分かってきています。
例えば脳腸相関というものがあります。これは脳の状態が腸に影響を与えたり、逆に腸の状態が脳に影響を与えたりするというものです。様々な原因で腸の状態が悪いと神経や血液を介して脳に有害な影響を与える事がわかっています。脳と目の網膜の部分は発生学的に同一組織からできています。すなわち目は脳の一部です。
最近腸内環境と目は話題になっていて、脳に影響があるということは当然目にも影響があるのではないかと考えられていて様々な研究がされています。
今回は最近報告された腸内環境が与える目への影響に関してお話させて頂きます。
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①腸とは
腸は食べ物を消化して、吸収する臓器だと思っている方が多いと思います。しかし腸の仕事はそれだけではありません。腸は免疫系が非常に活発な臓器です。免疫というのは病気を守るための体内における大切な防御システムです。その免疫システムの7割が腸にあります。そのため腸内環境が悪くなると免疫力の低下につながって様々な病気を引き起こします。
正常な免疫の状態を維持するために大切なのは腸の中にいる腸内細菌
という菌の働きによります。
腸内細菌は酢酸、酪酸、プロピオン酸といった短鎖脂肪酸というものを作ります。
この短鎖脂肪酸は腸内細菌にしか作れないものなんですが、
①炎症を抑える作用や ➁免疫細胞のエネルギーになったり ➂悪玉菌の増殖を抑えて腸内環境をとのえたり優れた生理効果を発揮することが分かっています。
ところが食生活やストレスなどによって腸内環境が悪くなると腸内細菌の働きが悪くなって短鎖脂肪酸が少なくなって、腸の粘膜がダメージを受けてリーキーガット
といいますが「腸もれ」の状態になります。通常腸の粘膜細胞はピッタリくっついて隙間がありません。
腸の中の有害物質が外に漏れないようになっているんですが、肉眼で確認できないような小さいな隙間ができて腸内の成分が腸の外に漏れるようになります。この「腸もれ」の状態になると腸の中の有害物質が血液中に入り込んで体内で炎症を起こします。これは腸にまつわる病気だけでなく、糖尿病、動脈硬化、認知症など様々な病気を引き起こすことが知られています。
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②目に関する効果
このような全身炎症に伴う代表的な眼疾患にぶどう膜炎という目の病気があります。
虹彩、毛様体、脈絡膜まとめてぶどう膜といいますが、血流が豊富な部分です。
全身で起きている炎症物質が血液によって運ばれて目の中で炎症が起きます。ぶどう膜炎の代表的な病気にベーチェット病やサルコイドーシス、原田病などがあります。治療としてステロイドや免疫抑制剤、生物学的製剤を使用しますが治療がうまくいかず、炎症が長引く事も少なくありません。
このような病気に新たな治療として腸内細菌による治療が注目されているんですね。
①ベーチェット病や原田病といったぶどう膜炎を起こす病気には免疫細胞のエネルギー源となる短鎖脂肪酸のうち酪酸を産生する酪酸菌が減少していたという報告であったり、
➁ぶどう膜炎を起こしているマウスに腸内細菌の餌となる食物繊維を与えると目の状態は改善したという報告もあります。
このような事から腸内細菌とぶどう膜炎の関連性も考えられていて、今後の研究に期待されています
ぶどう膜炎のような自己免疫が関わる病気だけではありません。
その他に加齢黄斑変性症、網膜中心動脈閉塞症のような眼疾患に腸と網膜の関係も報告されています。
加齢黄斑変性症という病気は視覚に大事な黄斑という部分に障害が生じて見ようとするところが見えにくくなる病気です。
網膜は10層でできていますが、その内の一番奥にある網膜色素上皮細胞という部分の変性によって病気は発症します。
網膜色素上皮細胞
には血液網膜関門というバリア機能があります。網膜がきちんと機能するために血液の中の栄養を網膜に運んだり、または網膜の中の老廃物を排出するいるいわば関所みたいな役目があって非常に重要な役割があります。この関所
の部分がダメージを受けると網膜の機能が維持できなくなって、網膜内で炎症が起きます。
加齢黄斑変性症は喫煙や紫外線の暴露、食生活などが関与していると考えられていますが、最近では
腸内細菌による影響も考えられるようになってきています。
加齢黄斑変性症を発症している患者さん57人と健常者58人の腸内細菌を調べたところ、腸内細菌のバランスに違いがあってその事が関与しているのではないかとという報告もあるぐらいです。
網膜中心動脈閉塞症
は網膜全体に血液を送る網膜中心動脈という血管が血の塊などで詰まってしまって起きる病気です。血流が途絶えると、網膜に栄養や酸素が送れないので網膜細胞が壊死してしまいます。網膜は神経組織の塊なので障害に弱いです。ダメージを受けると元の状態まで回復することがほとんどありません、そのため視力予後が厳しい病気として知られています。この病気はアテローム性動脈硬化というものと関係があります。
アテロームとは血管の内側に悪玉コレステロールなどの脂肪がドロドロになってこべりついたものです。動脈の内腔が細くなるだけでなく、一部が剥がれてその先の細い血管を詰まらせる事があります。1番多いのは首の血管の内頚動脈という部分にアテロームができて、その一部が剝れてその先の目の動脈、すなわち網膜中心動脈を詰まらせるというパターンです。
このアテローム性動脈硬化
も腸内細菌が関与していることが分かってきています。正常な腸内細菌のバランスが崩れてクロストリジウムといった悪玉菌によって作られる代謝産物がアテロームの合成に関わっていることが分かってきています。
まだ充分メカニズムが明らかになっていない部分もありますが、このように腸内細菌による影響が少しずつ分かってきています。
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そのため普段から腸内環境を整えることが大切だと考えられています。具体的には
①プロバイオティックスといいますが、善玉菌を含んだ食事を発酵食品を摂ることです。みそ、納豆、ヨーグルト、キムチといった食事です。ただ善玉菌だけ身体にいれてもいけません、菌の働きを促進する
②プレバイオティクスといいますが、善玉菌の餌となる食物繊維の中でも水溶性食物繊維やオリゴ糖をとる事も大切です。
食物繊維には水溶性と不溶性と2種類に分類されてそれぞれ違う働きがあります。
この内水溶性食物繊維は腸内の善玉菌を増やしたり、短鎖脂肪酸の産生を助けて腸内環境を整える作用があります。
水溶性食物繊維はオートミールや人参、りんご、みそや納豆のような発酵食品、海藻類やきのこ、野菜に多いです。
オリゴ糖は砂糖と違って消化されにくい糖でそのまま大腸に到達して善玉菌であるビフィズス菌の餌になります。
オリゴ糖はごぼう、れんこん、大豆、玉ねぎ、バナナ、ブロッコリー、アスパラガスに含まれています。
このような食品を積極的にとって
③加工食品や冷凍食品、精製された炭水化物であるパスタや白いパンを避けるようにしてください。このような食品には精製の過程でビタミンやミネラルだけでなく善玉菌の餌となる食物繊維が取り除かれているからです。
また
④不要な抗生剤の使用をやめるようにしてください。抗生剤は重症感染症から命を救う事ができます。抗生剤ができたことによって結核や肺炎は激減して平均寿命が飛躍的に向上しました。ですが、最近では抗菌薬が効くはずのない風邪などで安易に処方されてしまったり、患者さんからも不要な抗生剤の処方を求められるような事もあります。抗生物質の慢性的な使用は人に必要な腸内細菌にも攻撃して腸内の環境を変化させます。
普段から便秘や下痢気味であったり、便が出ていたとしても硬くて小さいといった場合腸内環境が悪い可能性があります。腸内環境はストレスなどの精神症状や運動や睡眠不足といった生活習慣でも変わりますが、食生活も関係しています。腸を健康に保つことで様々なメリットがあります。
⑥まとめ
今回の話をまとめますと
①腸は消化吸収をするだけの臓器ではなく、重要な免疫組織です。
➁その免疫は腸内細菌のバランスによって維持されています。
➂腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸は免疫のエネルギーになります。不足することで免疫力が低下します。
④免疫力が下がって、腸内の環境が乱れるとリーキーガットといわれる腸もれを起こして身体全体に炎症を起こします。
⑤腸に関連する腸疾患だけでなく、ぶどう膜炎、加齢黄斑変性症、網膜中心動脈閉塞症といった眼疾患とも関係があります
⑥善玉菌を増やす食事(発酵食品)や善玉菌の餌である水溶性食物繊維やオリゴ糖をとるようにしてください。
という6点です。
このように腸を健康に保つことは、目にも関係があります。大腸は水分を吸収して食べかすを固形にする、すなわち便を作るだけの臓器ではありません。免疫系の中心が腸にあります。その免疫系には腸内細菌が正常に働くことによって機能しています。
今回は腸がよくないと目にどのような影響があるのかということに関してお話させて頂きました。
2023.4.20