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145.緑内障 悪化する人 特徴

今回は緑内障の治療を強化するタイミングに関してお話させて頂きます。緑内障の経過でみていくのは主に眼圧と視野検査だと思います。それは緑内障は

①主に眼圧に依存する疾患で

②視神経に障害が起きて

③そして障害部位にそって視野異常を発症する

というのが緑内障の病態だからです。毎回眼圧を測って視野の検査も定期的にされると思います。緑内障の治療が強化されるタイミングは例えば、

①眼圧が全然下がらない、正常値の20を超える眼圧が続いているということだったり、

②視野進行がどんどんすすんでいる それだけでなく

③視力も下がってきている 

このような場合点眼が追加されたり、手術の話が出ることは納得していただけると思います。ですが、

①普段測っている眼圧の値と大きく変わらないのにある所見をきっかけに治療を強化することがありますし、

②視野欠損がほとんどないのに治療を強化しなければならない場合

があります。今回は緑内障の治療を強化するタイミングに関してお話させて頂きます。

今回お話したいポイントは①乳頭出血の存在 ②視神経と視野の関係 ③中心視野への障害 の3点に関してです。

まず1つ目が乳頭出血



です。乳頭出血とは視神経乳頭から出血することをいいます。日本人に多い正常眼圧緑内障に特徴的な所見です。視神経に出血するとなぜいけないのかというと出血を起こすと視野の進行が2~4倍程度早くなることが報告されているからです。

4倍というと非常に早い進行速度です。進行速度の指標でMDスロープ



というものがあります。通常正常眼圧緑内障は無治療だと-0.5dB/Y、治療するとその半分の-0.25dB/Yと言われています。正常眼圧緑内障は眼圧の値が低いので全ての緑内障の中で進行が非常に遅いとされています。

ですが、これが4倍



となると、1年で-1〜-2dBの速さで進むことになります。数値だけ言うとぱっとしないかもしれませんが、正常の方を0dB程度として、-30dBを失明の値とすると、早いと発症して15年程度で視力を失う可能性があります。正常眼圧緑内障なのに全く油断できない緑内障になってしまいます。

なぜ正常眼圧緑内障の方に乳頭出血が多いのか、これはまだ充分に明らかになっていないんですが原因の1つとして、視神経乳頭



から出た血管が網膜に入る時に血管が折れ曲がります。折れ曲がった部分は脆弱で物理的に弱い部分とされていて眼圧の影響を受けやすいからではないか考えられています。眼底出血を起こすと何らか自覚症状が出ることが多いんですが、乳頭出血は出血の量が少量なので自覚することはまずありません。稀に飛蚊症として自覚される方もおられますが、定期的に受診されないと見つかることがないんですね。

緑内障の方は毎回診察の度に目の奥をみてもらうと思いますが、これは単に視神経がどの程度悪くなっているか見るだけでなく、目の奥に出血がおきていないかを見るためでもあります。

乳頭出血は男性よりも60歳以降の女性におきやすいとされています。緑内障の女性の方の1割に出血を起こしているとも報告されています。この出血は皮膚の内出血と違って2-3日程度で消えません。だいたい1ヶ月程度続きます。そして消えたと思ったらまた出血することがあります。このような場合眼圧下降不十分と考えて治療を強化する1つのタイミングになります。乳頭出血を僕らはdisc hemorrage略してDHと言っています。私が勤めていた緑内障専門施設はこの乳頭出血が緑内障の大きな危険因子であることを世に広げたこともあって、外来でDHを探せと何度も上司に言われて教育を受けておりました。この乳頭出血が1つ目の治療を強化するタイミングです。

2つ目は視神経の損傷の程度と視野欠損が一致していない場合です。通常視野欠損は神経の障害に遅れて発症します。すなわち視神経に障害がおきて何年かたつとその部位に沿った視野欠損が現れます。緑内障の非常に初期の段階で前視野緑内障というものがあります。これは明らかに緑内障性の変化があるにも関わらず、視野には異常が出ていない、緑内障の非常に早い段階をいいます。統計的に5-6年で視野欠損がはじまるので、視野欠損がなくても視神経に異常があれば早めに治療を開始するのが今のスタンダードとなっています。

このように視神経の損傷具合と視野欠損の程度が一致しない場合があります。

問題なのは、前視野緑内障のような軽度の視神経の損傷ではなくて、かなり視神経の損傷があるにも関わらず視野変化がわずかな場合です。視神経



に緑内障性変化がだいぶあるのに、視野にはまだほとんど現れていない、当然自覚症状もないといったことがあります。

この場合、神経はかなりダメージがあるのに視野欠損がほとんどなくてよかったねというわけではなくて、実は非常に注意が必要な状態なんです。それは視神経の障害の後に遅れて視野障害が始まるので、今後かなりのスピードで視野異常が出てくる可能性があるからです。

そのため、自覚症状がほとんどない、視野欠損もほとんどないけど薬物治療を強化してかなり低い眼圧を維持しなくてならない場合があります。視野障害がわずかであっても視神経の状態によっては何本か目薬をささなくてはならないことがあるんですね。

ちなみに逆のパターンもあります。それは視神経は



ほとんど異常がないのに、視野に大きな異常があることがあります。これは緑内障以外の病気の可能性を考えなくてはなりません。代表的な病気だと脳梗塞でも視野欠損を起こすことがありますし、網膜静脈分枝閉塞症のような眼疾患があるんですがそのような病気が視野に影響を及ぼしていることがあります。その場合、視緑内障の治療を強化するようなことは当然ありません。場合によっては脳外科にかかってもらって頭のMRIをとっていただいたり、散瞳検査をして緑内障以外の病気をチェックさせて頂く場合があります。

このように視神経の状態と視野の状態が乖離している、主に視神経がかなり損傷しているにも関わらず視野変化が軽微であるといった場合治療を強化することがあります。

3つ目は中心に向かって視野変化がすすんできた時です。緑内障の視野



は周辺から障害がくるものと中心から障害くるものと2パターンにわかれます。このうち8割ぐらいの方は周辺から始まるタイプの視野障害の方です。周辺の上方からの変化がほとんどです。鼻側




からの欠損が中心を避けるようにして盲点に繋がってくるのが1番多い視野変化です。周辺からの視野障害はある程度進行したとしても自覚症状が出ないことがほとんどです。

極端な事をいうとたとえ進行していたとしても中心視野への障害がほぼなくこの方は生涯視力を失う事がないなと予測できる場合あえて治療を強化しない場合があります。

ただし周辺から広がった視野が中心に向かったり、中心から始まるタイプの視野障害の場合は話が違ってきます。中心部位の損傷は黄斑部の損傷を意味します。黄斑部は視機能でとても大切な部分です。この部位に損傷が起きると軽微な変化であっても自覚症状がでやすいです。

特に視野



の下側の視野は大切だと言われています。基本人の視野




は上方が遠方、下方で手元をみています。これは例えば遠近両用の眼鏡も上方が遠用、下方が近用になっていることから分かっていただると思いますが、下の視野は近くをみるために大切な部分です。下方の視野欠損は特に生活に支障をきたしやすい部分とされています。本を読んだり、スマホがを触ったりというのがしにくくなるからです。少し顎をさげて腕をあげないと手元がみえません。逆に近方作業がほとんどなくて運転などが中心の生活スタイルの方は上方の視野は大切です。上方の視野欠損があると顎をあげないと遠方が見にくくなってしまうからです。

このように中心の視野障害は日常生活に直接支障をきたしやすくなります。そのため



という中心、黄斑部の障害をとるプログラムがあるんですが、緑内障での視野検査は全体の視野検査と中心の視野検査と両方する場合があります。

視野検査は自覚検査で嫌がられる方が多いんですが、現状は代用となる検査方法がありませんので出来るだけお付き合いいただけたらと思います。今回の話をまとめますと

①視神経から出血することがあります。乳頭出血は乳頭陥凹以外にある緑内障に特徴的な所見です。

②乳頭出血は自覚症状がありません。緑内障の女性の方に1割程度いることが報告されています。

③視神経の損傷の程度に対して視野障害が軽度な場合、緑内障治療を強化する場合があります。

④逆に視神経の状態がよいのに視野が悪い場合、緑内障以外の原因、頭の検査をしたりします。

⑤中心視野への障害は自覚症状が強く出ることが多いので治療を強化するタイミングです。

⑥下方の視野障害は近見障害を、上方の視野障害は遠見障害をきたしやすいです。

という6点です。緑内障の経過をみていると患者さんから、視野検査をしたくないとか、眼圧変わっていないから間隔を延ばしてほしいと言われることがあります。ですが緑内障は急に状態が悪くなることがありますし、その期間を見逃すと乳頭出血のような治療強化のタイミングを逃す事になります。当院ではだいたい1-2カ月おきに眼圧だけでなく目の奥の所見をみさせてもらっています。緑内障の治療を強化するタイミングはまだ他にもあってOCTで進行を見る方法であったり、朝、昼、または体位によって眼圧の変動が大きい場合など色々あるんですが、今回はよくある緑内障の治療を強化するタイミングに関してお話させて頂きました。

(2024.1.24)