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149.コーヒーと目の関係


今回はコーヒーの目への健康効果に関してお話しいたします。

コーヒーは世界中で愛されている嗜好品です。私も毎朝1杯必ずコーヒーを飲んでいます。カフェオレのような甘いコーヒーは好きじゃないんですが、毎朝スタッフが全員分のコーヒーを淹れているのでそこから1杯もらっています。近年の研究では、習慣的なコーヒー摂取が 健康に良い影響を与えることが分かってきました。コーヒー


をよく飲んでいる人の方が全く飲まない人より、糖尿病や 心血管疾患、肝硬変、いくつかの癌や認知症になりにくく、死亡率も低いという報告がされています。

その一方で、眼科では緑内障の患者さんとお話ししているとコーヒーを含め緑茶、紅茶を一切避けられている方もみえます。

実際患者さんから「カフェインって、緑内障にはよくないですよね?」という質問をよく受けます。以前は緑内障の生活習慣として、水を一気に飲むことやコーヒーは眼圧の上昇につながるのであまりよくないと考えられていたことがありましたし、実際そのような論文はいくつか報告されています。

今回はコーヒーを毎日飲むと目にどうなのかということに関してお話いたします。


コーヒーが健康によいとされる有効成分は主に2つあります。1つはカフェインともう1つはコーヒー豆に含まれるポリフェノールです。カフェインは知っている方も多いと思います。カフェイン


は身体を落ち着かせるアデノシンという物質の働きを抑えます。

そのため覚醒作用があるので目を覚ますためであったり、集中するためであったり、運動前に取られている方もいるかもしれません。

もう一つの有効成分はコーヒー豆に特に多く含まれているポリフェノールで、クロロゲン酸というものです。

糖質の吸収を抑えたり、炎症や酸化ストレスを抑える働きがあるので糖尿病や心臓疾患、癌などによく全身的にメリットがある事が多くの論文で報告されています。

コーヒーは目にも健康効果が報告されていて、例えばコーヒーを飲む人ほど糖尿病網膜症


になりにくいという報告もされています。これはクロロゲン酸には、新生血管という悪い血管の働きを抑える作用が考えられているからです。2型糖尿病患者さんの中で1日2杯以上、砂糖入りなど種類を問わずなにかコーヒーを飲んでいる人の方が飲まない人と比べると糖尿病網膜症の有病率が低かったとされています。

また、コーヒーの中でも深煎りしたブラックコーヒーはビタミンB3のニコチン酸が多く含まれています。

ニコチン酸はミトコンドリアのエネルギー源となる、NADの前駆体です。体内


で吸収されたニコチン酸はNMN、NADとなってミトコンドリアのエネルギー源となります。最近よく若返りで注目されている栄養素です。ミトコンドリア



を活性化させることが緑内障の視野回復の鍵になるかもしれないという研究も行われているぐらいです。そのようなニコチン酸も多く含んでいます。

更に、コーヒー豆には神経を保護する作用があるBDNFという神経栄養因子を増やす効果があるとされています。

緑内障で傷んだ視神経は再生できないと考えられていますが、神経栄養因子は生き残っている神経細胞に作用して緑内障の進行を抑制できたり、変性した視神経を再生できる可能性があるのではないかという研究がされています。

コーヒー


を飲むことでそのBDNFを143%増やしたとされています。

このようにコーヒーには身体だけでなく目にとってもよい効果が期待できる可能性があります。

その反面で、目の病気で気になっている方は緑内障には悪いんじゃないの?という事だと思います。

それはカフェインが眼圧を上げるとされているからです。コーヒー飲むと眼圧上がるから飲みすぎは良くないなんて聞いた事はないでしょうか。

確かにほとんどの研究では、摂取後1 ~ 4 時間にわたって、0 ~ 4 mmHg の範囲でわずかに眼圧が上昇すると報告されています。

緑内障という病気は充分ご存知の方が多いと思いますが、主に眼圧


が視神経に影響して視野障害を来たし視野が欠けていく目の病気です。眼圧上昇は緑内障の発症や進行リスクに関わってくるので習慣的に飲んでいたコーヒーで眼圧があがったら大変ですよね。

そのような事もあって控えられていた方もいると思いますが、最近の日本人を対象とした研究では習慣的にコーヒーを摂取している人の方がなんと眼圧が低かったと報告されています。

「眼圧」


とコーヒーの関係に関して京都大学眼科から報告されています。

滋賀県長浜市にお住いの約1万人の方を対象に、生活習慣を調査する「長浜スタディ」を行っています。

今回の研究では、長浜スタディに参加された方でコーヒーを飲む頻度と眼圧の関係を調べました。

その結果はコーヒーを1日3回以上飲む人は、1回未満の人と比べて眼圧が平均で約0.4mmHg、割合にすると3%程度低かったと報告されています。それも飲む回数が1回、2回と増えるにつれて、眼圧が低下する傾向が認められました。すなわち1日1杯以上コーヒーを飲む人は、まったくコーヒーを飲まない人と比べて、眼圧が低い傾向にあったという結果です。

緑内障は眼圧が低い方がよいですよね、

それならコーヒーを飲まない人も無理にでもコーヒーを飲む習慣を作った方がいいのかなと思われたかもしれませんが、残念ながらそのような報告ではありません。

「コーヒーをよく飲む人ほど眼圧が低かった」という結果で、「コーヒーに眼圧が下がる効果があって、コーヒーを飲んだ方が緑内障によいという意味ではありません。

少なくともこの国内の臨床研究では習慣的なコーヒーが目に悪影響を及ぼすものではないと考えられています。

対象となっている方が全て健常者の方なので、緑内障の方にはどうなのかというのがあるんですが、緑内障の方でも適度な量であれば何の問題がないと思います。

適度な量はどのぐらいかというと3杯までです。

それは①緑内障の家族歴がある方、➁特殊な病型の緑内障の方にはあまりよくないという報告があるからです。

海外


でも2020年にコーヒーと目の関係を調べた大規模な疫学調査がophtalmologyという信憑性の高い雑誌で報告されています。こちらの対象者は日本人の10倍、約12万人、の大規模スタディです。健常者の方だけでなく、緑内障の方も3年間追跡調査し、カフェインの量、種類、緑内障の家族歴なども踏まえて様々な研究がされました。

結果は、こちらの研究でも先ほどの日本の研究と同じでカフェインの多量摂取は、眼圧上昇や緑内障へのリスクと関係がないことが報告されました。

ただし、注意点があって、緑内障の家族歴がある方です。緑内障の家族歴がある方が1日3杯以上量にして321mg以上のカフェインを飲むと、同じ家族歴があって、全く飲まない人と比べると緑内障の有病率が3.9倍高まったと報告されています。また緑内障の遺伝的リスクが高い方は、1日4杯以上、量にして480mg以上のカフェインを摂取した人は、1日80mg未満の人に比べて、眼圧が0.35mmHg高くなったという報告もされています。0.35mmHgというとわずかな上昇ではありますが、もしかしたら緑内障の家族歴がある方はコーヒーは1日3杯までに控えておいた方がよいかもしれません。

もう一つは緑内障の病型である特殊な病型の方です。

落屑緑内障と言われている方も注意が必要かもしれません。2012年


のハーバード大学での報告によると3杯以上のコーヒーを飲むと落屑緑内障の有病率が1.66倍高まったと報告されています。落屑緑内障は日本人に多い正常眼圧緑内障と違って非常にまれではありますが、少しやっかいな緑内障です。眼圧が20以上大きくなるタイプの緑内障で一気に悪くなる事があります。目の中の老廃物が、隅角という水の出口につまって、眼圧上昇を引き起こすタイプの緑内障です。何故コーヒーを飲み過ぎるとこのタイプの緑内障になりやすいのかというとカフェインにはホモシステインというアミノ酸の血中濃度をあげるからとされています。通常のカフェインの量なら問題ないわけですが、大量に摂りすぎるとホモシステインが蓄積されて心臓などの循環器系に良くない影響があるのではと考えられています。目の場合ホモシステインの蓄積がこのようなタイプの緑内障になりやすいのではないかと推測されています。

そのため、もし緑内障の中でも正常眼圧緑内障ではなくて落屑緑内障と診断を受けている方は3杯までにしたほうがいいかもしれません。

カフェインが含まれているのはコーヒーだけではありません。紅茶、緑茶、チョコレートにも含まれているんですが、これらはコーヒーと比べるとカフェインの量が少ないので問題にならないとする報告が多いです。特に緑茶は習慣的に飲むことで緑内障によい影響があるとされています。

お茶にはフラボノイドのような、コーヒーとは違うポリフェノールをもっています。ある報告


では習慣的に温かいお茶を飲んでいる方は緑内障のリスクを17%下げるという報告もされています。

このようにコーヒーを含め健康に与える影響の研究は色々あり、その関係性を医学的に証明するのは実際はなかなか難しいわけですが、コーヒーは多くの方にメリットがありそうです。緑内障の方でも過剰、具体的には3杯程度までなら問題ないと考えています。

今回の話しをまとめますと

①コーヒーは身体にとってよいとされるのはカフェインとクロロゲン酸を含んでいることによります。

②コーヒーを習慣的に飲んでいた人の方が糖尿病網膜症のリスクが軽減されて神経を守る栄養素が上昇するという報告がされています。

③国内での報告では習慣的にコーヒーをとっている人は眼圧が低い傾向にありました。

④緑内障の家族歴、落屑緑内障と言われている方は3杯程度にしたほうがよさそうです。

⑤緑茶や紅茶は緑内障のリスクを下げると報告されています。

という5点です。どんなにコーヒーがいいと言っても過剰にとるのはよくありません。カフェインには中毒性があって動悸などの原因になります。砂糖たっぷり含んでいるコーヒーやエナジードリンクもオススメしません。エナジードリンクは正常の方でも眼血流を悪くするという報告もあります。コーヒーを飲む場合、クロロゲン酸は淹れ立てに多く含まれているので、温かいうちに無糖で飲まれるのがおススメです。よければ参考にしてください。

今回はコーヒーと目に関する報告に関してお話しいたしました。

(2024.2.6)