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146.網膜剥離 危険な初期症状

今回は注意したい飛蚊症に関してお話いたします。晴れた日に空を見上げると、黒いものが浮かんでいたり、糸くずのような浮遊物が飛んでいることに気づくかもしれません。このような自分にしかみえない浮遊物を飛蚊症といいます。

蚊が飛ぶいう名前の通り、まるで本物の蚊が目の前を飛んでいるかのような状態をいいます。思わず本当の蚊と思って追い払うような事をしたり、掴もうとした事はないでしょうか。追い払っても目を動かせばついてきますし、もちろん掴むこともできません。そのような事を経験すると、あ、これは本物の蚊ではなくて、実在しないものが見えているんだと感じると思います。黒いものが常に視界にかかる、鬱陶しくて仕方ないとして受診される患者さんも実際多いです。

飛蚊症は付き合っていかないといけない飛蚊症が多いんですが、中には絶対放置してはいけない飛蚊症があります。今回はこのような飛蚊症には注意してください。という事に関してお話いたします。

50-60代の飛蚊症の主な原因は後部硝子体剝離



という加齢現象による事が多いです。

目の中には硝子体というゲル状の透明な物質が充満されていて、30台までの若い間は水晶体と網膜の間に接触して密になっています。ところが、歳をとるにつれて硝子体の中にあるコラーゲンなどの繊維性の成分が変性することによって硝子体は縮小して網膜の後ろ側から前方に向かってはがれていきます。

網膜と接着していた部分



は混濁している事が多いので、網膜から少し離れる




とこの混濁した部分が網膜に影を落として飛蚊症を自覚するようになります。

これが加齢による飛蚊症の主な原因です。なので、加齢現象によるこの後部硝子体剥離は飛蚊症の発症とすごく関係があります。この現象は生きていれば多くの方が経験するんですが、中には注意しなくてはならない飛蚊症があります。どのような時が注意が必要なのかいくつかお話します。

1つ目が急に増えた飛蚊症です。急に飛蚊症が増えたというのは、目になにかイベントが発生(はっせい)している事を意味します。先ほどお話した後部硝子体剥離による加齢による飛蚊症なら生理的なものなので様子をみていくしかないんですが、中には



硝子体が網膜から離れていく時に網膜に穴を空けるときがあります。

硝子体と網膜は接着が基本的には緩いんですが、強い部分があります。具体的



には網膜の周辺部といわれる部分と、黄斑という視力の要となる部分、そして視神経という部分です。この部分は接着が強くてうまくはがれずに網膜に穴を空けてしまう事があります。網膜に穴があくと、網膜剥離に繋がるのでレーザー治療が必要になります。

このように飛蚊症には加齢で問題ないものから病的なモノがあります。

飛蚊症が生理的なものなのか、病的なものかどのように見分けたらいいでしょうか。

何か簡単に自分で判断できる方法があればいいんですが、そのような方法は残念ながらありません。眼科に行って検査しない限り分かりません。

急に出てきた飛蚊症の多くは生理的なもので放置してよいものが実際は多いんですが、中には病的なものがあるので今まで無かった黒いものが①急に見えるようになった、②明らかに増えているといった場合 必ず眼科受診するようにしてください。

2つ目に注意したいのは年齢です。後部硝子体剥離が起きるのはどの年齢でも起きるわけではなくて、50-60台が最も多いです。網膜剥離が起きやすい年齢があって、それもこの50、60台です。何故この年齢に注意しないといけないかというと、網膜裂孔の原因は、先ほどもお話した後部硝子体剥離



と関係があって、この年齢で起きるからです。後部硝子体剥離自体は正常の方でも起きる自然現象であって多くの方は問題なく剝がれていきます。しかし注意していた方が良い方がいます。それが

3つ目、近視が強い方です。特に以前眼科受診して網膜が弱くなっている部分があると言われている方は注意です。近視が強いほど、網膜に穴ができる網膜裂孔の発症率が高くなることで知られています。これは何故かというと近視の方は



目の大きさが正常の方と比べて大きいので、網膜が引き延ばされて薄くなっていて構造的に弱いからです。薄くなって弱くなっているので、刺激に弱いです。

網膜の厚み



はどの場所も一定ではありません、網膜の端の方は非常に薄くそしてその部分が硝子体との接着が強いです。そのため網膜に穴ができる網膜裂孔は網膜の周辺部に多いんですね。薄い部分に強くくっついているので、離れる際に力がかかって引っ張って穴をあけてしまう事があります。ある報告によると0--3Dまでの軽い近視の方は近視でない正常の方と比べると3倍 ー3~ー6Dまでの中等度の近視なら8倍 ー6D以上の強度近視になると12倍網膜剥離のリスクが増えるとされています。近視が強いほど、網膜が薄くなるのでどうしてもリスクは高まります。先ほどお話した後部硝子体剝離は近視が強い方は30台と若くから発症することがあります。近視が強めの方は30歳以降、急に黒いものが増えないか身構えておいた方がよいかもしれません。

4つ目、頻発する光視症に注意してください。光視症



とは、実際は光がないのに、光って見える現象です。光がついていない真っ暗な場所でぴかっと稲妻のような光がはしってびっくりしたような経験ないでしょうか?このように実在しない光を感じることを光視症といいます。これも後部硝子体剥離によっておきます。硝子体




が収縮すると網膜を引っ張るのでそれが電気信号に変わってピカッと光る現象がおきます。月に数回起きる程度だと問題ないことが多いですが、1日に何度もぴかぴかと光ってみえる現象が起きている時は注意が必要です。硝子体が網膜を強く引っ張っている可能性があるからです。

光視症を感じた時に確認してほしいことがあります。それはそのぴかぴかとみえる現象、片目のみの症状なのか、それとも左右どちらの目でもおきている現象なのかチェックしてみてください。

片目ずつでみてもらって片目で見えるけど、もう片目では見えないといった場合目に異常が起きています。逆に片目ずつ閉じてどちらの目でも見えている場合、閃輝暗点といって原因が目ではなく脳由来のもので片頭痛などの可能性があります。これは脳の血管の異常な収縮によって起きるものです。多くは生理的なものとされていますが、今お話した通り

①片方ずつ目をつぶってみて、どちらの目でもみえる

②頭痛を伴っている、

③吐き気があると

いった場合眼科ではなくまず脳神経外科を受診されるようにしてください。逆に片目ずつみて片目のみに症状があってもう片目ではみられない場合、原因は目にあります。頻発するような事があったり、飛蚊症も伴っている場合早めに眼科受診するようにしてください。


5つ目は白内障手術を受けた方です。白内障手術を受けた後は飛蚊症を自覚しやすくなります。これは白内障手術



を受けることによって飛蚊症が増えたのではなくて、白内障で今までぼやけていた視界が取り除かれることによって、元々あった飛蚊症に気づいてしまうようになるからです。

今まで見えなかった黒い点が見える、これは白内障手術の失敗ではないか

として言われることがあります。

白内障手術



により、濁った水晶体を取り除いて、透明な眼内レンズに替えるので、それだけ外から入ってくる光の量が増えます。そうすると、もともとあった硝子体中の濁りがはっきりわかるようになります。光が強くなればその分、影もはっきり、くっきりわかるようになります。

これは元々あったものに気づくようになっただけなので、もちろん手術のミスなどではありません。診察を受けて問題なければ気にしなくて大丈夫です。

そのような元々の濁りとは別に、手術直後ではなく、1カ月、3カ月としばらくたつと飛蚊症が増える事があるのでその場合は注意が必要です。

白内障手術後



は通常加齢によっておきる硝子体の収縮、後部硝子体剥離が起きやすくなります。これは元々の水晶体がなくなって、薄い人工のレンズに置き換わる事で、硝子体のスペースが物理的に大きくなることで起きやすくなるからとされています。術後1年以内におきやすいとされているので、元々近視が強い方、以前に網膜剥離のレーザー治療をされた方は白内障手術後 飛蚊症が増えないか注意するようにしてください。

このように注意したい飛蚊症には後部硝子体剥離という加齢現象と大きく関係しています。後部硝子体剥離は 網膜裂孔という網膜に穴を空ける病気以外に、様々な眼疾患を引き起こす引き金になります、黄斑円孔といって、黄斑部に孔をあける原因にもなります。黄斑に孔があくと視力が落ちるだけでなく、中心暗点といって見たい部分が霞んで見えるようになったり、モノが歪んでみえたり様々な症状を引き起こします。または網膜前膜といって、硝子体が黄斑を引っ張りあげて歪みや暗点など異常な症状を起こすこともあります。

黄斑


と硝子体の接着が強いので、このような現象を引き起こす事があります。

または血管をひっぱって出血を起こして眼底出血を起こすこともあります。近視が強い方は30台から、そうでない方は50-60台は目の見え方に注意するようにしてください。今回の話をまとめますと

①加齢による飛蚊症のきっかけは後部硝子体剝離によるものが多いです。

➁病的なものか、単に加齢による飛蚊症かを見分ける方法はありません。眼科受診して調べるしかありません

➂近視が強い方は網膜が薄いので、急に増える飛蚊症に特に注意が必要です。

④白内障手術後は後部硝子体剥離がおきやすくなります。術後1年は飛蚊症が増えないか注意してください。

⑤後部硝子体剝離は網膜裂孔だけでなく、黄斑円孔、網膜前膜、眼底出血など様々な眼疾患の原因になります。

という5点です。

飛蚊症のような何かおかしな見え方は何らか目に異常が起きていることが多いので、放置せずにまずは眼科受診するようにしてください。結果として加齢によるものならよいのですが、中には網膜に孔があいていた、何もないもう片目も調べてみたらそっちの目にも穴が既に何個かあったなんてことも眼科ではよく経験することです。穴があっても早めにわければレーザー治療すればそれで後遺症残さず済みます。

いつか治るだろうと放置しているといつの間にか網膜剥離になって、片目が全く見えないという状態になって結果として歪みなどの後遺症を残してしまう事も少なくありません。

こうならないためにも、目に異常があればすぐに受診することであったり、1カ月に1回でいいのでセルフチェックをすることをおすすめしています。片目ずつ目をつぶってみて見え方に差がないか確認するようにしてください。片目だけ飛蚊症が異様に多いなんて事ないでしょうか?両目でみても健康な目が見えていない目をカバーするので必ず片目ずつ行う必要があります。アムスラーチャート



というものを使うのもよいです。携帯で調べるとすぐに見つかります。線が等間隔みえるか、歪んでみえないか、欠損してる部分はないか確認してみてください。

今回は放置してはいけない飛蚊症に関してお話いたしました。

(2024.1.24)