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136. その白内障手術 待った!

今回は白内障手術を受ける前に知っておきたいことに関してお話させて頂きます。

現在白内障手術は色々な選択肢があります。保険で行う白内障手術にもレンズの選択肢がありますし、保険外で行う白内障手術になると更に多くのレンズの選択肢があります。

当院にも白内障手術を希望されて受診される方みえるんですが、どのような見え方を術後希望されますか?とお話すると手術前からよく調べてきて頂いて

①このレンズにしたい

②このレンズで手元に合わせたい、または遠方に合わせたいとか

すごく良く知っていて私がびっくりするような方も見えますし、ただ中には

③よく分からないから先生にお任せでよいですとか

色々な患者さんがおみえになります。

よく分からないという方はお任せでいいんですが、自分の目の中に入れるレンズなので保険のレンズであっても手術前に知っておいた方がよいことがありますし、後悔しないために知っておきたいこともあります。

今回は白内障手術を受ける前に知っておきたい事に関してお話させて頂きます。

多くの方は保険で行う白内障手術をされると思います。なので保険で行う白内障手術を中心にお話させて頂きます。

白内障手術をする上で欠かせないことは色々あるんですが、その中でも特に大切なことは2つだと思っています。それは

①眼内レンズの選択と➁その度数の決定です。

この2つが術後視力に大きく影響してきます。

患者さんの中にはだれだれ先生の手術を受けたい、入院施設がある大きな病院の方が安全だと思うから大きいところで受けたい言われる方も時々みえます。

それは目の手術は怖いし、失敗したら怖いなというような気持ちになるからだと思います。

ですが、現在、白内障手術自体は安全性が非常に高いので手術で失敗するということはまずありませんので、どこで受けるかというよりどのレンズを入れて、どのような見え方を選択するかの方が大切かもしれません。

そのためまず手術を受ける前に知っておきたいこと1つ目はカウンセリングの時間をしっかりとってくれる眼科を選ぶようにしてください。

あまり話を聞いてくれない先生だと「あなたは元々強度近視だから単焦点眼内レンズで手元合わせね」とか、「遠くに合わせた方が自然だからその方がよい」とかこのように一方的に入れるレンズを決められてしまう可能性があります。生活の中心がスポーツや運転をされている方でしたら、強度近視だからといって手元に合わせるより遠方に合わせた方がよい場合ももちろんあります。


でも手術後の状態って中々どんな感じになるか分かりませんよね。

術後の状態と完全に同じ状態をシミュレーションできるわけではないんですが、ある程度術後の見え方に似たような感覚を感じてもらうためにコンタクトレンズを手術前にしてもらうことがあります。

例えば

50代の方で片目だけ白内障があって、もう片目がほとんど白内障がない場合、よい方の目にコンタクトレンズをしてもらっています。コンタクトレンズも遠方と−2D程度のあえて弱めの近視の状態になるように試してもらいます。

遠方に合わせると遠方視力は1.0ぐらいみえるようになります。なるほど、遠くはよく見えるなと思ってもらえると思いますが、逆に手元は老眼で老眼鏡を使わないと見にくいのがわかると思います。単焦点眼内レンズでの遠方合わせがどんな感じか感じていただけると思います。一方で−2.0Dぐらいのあえて低矯正の状態、すなわち手元に合わせる状態だと、先程の逆で、あ、手元はたしかに楽にみえるなというのが実感できると思いますが、遠方の見え方はこのぐらいなんだというのも逆にわかっていただけると思います。両眼とも白内障でともに矯正視力が0.7、0.8で1.0を切っているような方はこのようなシミュレーションをしてもらう事は難しいんですが、

①45歳以降で老眼が発症していて

②片目だけ白内障があって両眼白内障手術を検討している

というような場合このような方法はよいですね。コンタクトレンズで術後の見え方を試してみる、これが意外な発見につながることがあります。強度近視で手元に合わせようと思っていたけど、遠方に合わせて術後は老眼鏡でいいです。とか当初の考えから変わるような事も事実あります。

単焦点のコンタクトレンズより多焦点の、いわゆる遠近のコンタクトレンズの方がよい場合 単焦点から多焦点に変わるような事もありますね。

コンタクトレンズを使ってみるこれが術前に知っておきたいポイントの2つ目です。

3つ目、可能なら両目手術する場合、手術の日にちを別々にしましょう。というのが3つ目です。

従来白内障手術は別々に手術するのが一般的でしたが、最近だと機械の進歩などもあって両目同時に手術をするクリニックが増えてきています。これは①仕事などの都合で休めない ②通院回数をなるべく減らしたい ③付き添ってもらえる方の都合であったりとか または車の運転は術後1週間程度中止するところが多いと思います。片目ずつだと最低でも2週間程度運転できなくなります。そのため④できるだけ早く運転したい

だとか、強度近視の方

は片目ずつだと次の手術までの間見え方の左右差ができてしまいます。この事を術後の不同視といいますが⑤不同視を回避することも出来ます。

このようなメリットが事実ありますので、当てはまる方には両眼手術はよろしいかなと思います。実際当院でもご希望がある方は両眼同時手術を予定させていただいています。両眼同時手術と片目ずつの手術を比べても①度数のズレや②感染症の差はないという報告も既に多くされていますので、手術自体の安全性という点では問題ないかと思います。

ですが、当院ではできるだけ片目ずつの手術をおすすめしています。それは片目

が手術終わって見え方に物足りなさを感じたときにもう片目で微調整することができるからです。

例えば強度近視の方が手元狙いで片目手術を終えた。たしかに術後手元はすごく見やすくなったけど思っていた以上に遠くが見にくい。逆もあります。もう少し手元が見えたらいいというような事があります。この場合適応がある方は、マイクロモノビジョンといいますが、少しだけ右と左で見え方に差をつけて見える範囲を広げる事もできます。

効き目

を遠方に合わせることが多いんですが、片目を遠くに合わせて、もう片目を近くに合わせるといったことをモノビジョンといいます。右目と左目、度数に差をつけていいの?と思われる方もいるかもしれません。
もちろん大きくずらす事はできません。違和感がない範囲でわずかにずらすのがマイクロモノビジョンという方法です。このモノビジョン法は患者さんの満足度を高める方法として知られていて、眼科医が実際白内障手術を受けるとしても両眼全く同じ度数にするよりわずかにずらして広範囲な見え方を選択する方が多かったという結論になった論文も報告されています。

先程のコンタクトレンズの話になりますが、両眼白内障手術予定で、片目のみ白内障が強い場合、まずは白内障が強い方から手術をする。もう

片目を手術するときは手術していない目にコンタクトレンズで遠くに合わせたり、手元に合わせたり、または遠近をしてもらって術後の状態を感じてみるというのも良い方法だと思います。

手術した目と同じ感覚でよければもう片目も同じ度数のレンズを入れるという事でよいですし、もう少し遠くが見たい、逆にもう少し近くが見たいということでしたら少しずらす事で結果満足度が高くなることがあります。もう片目は多焦点眼内レンズを入れるということもあります。

手術は基本生涯1度きりなので片目終わった時点で見え方をしっかり確認して納得して頂いた上で選択されるのがよいと思います。

このように片目ずつ手術するということは術後の見え方を確認しながらもう片目の手術にのぞめるというメリットがあります。

慎重に見え方を確認しながら手術をしたいという方の場合、片目ずつがよいですね。

最後4つ目は保険で行う白内障手術でもレンズに選択肢があります。

昔だと保険で行う白内障手術は単焦点眼内レンズ、乱視があれば乱視矯正用の眼内レンズのみでした。そのためレンズの選択に関して私達眼科医は迷う必要がありませんでしたし、患者さんも迷う必要がありませんでした。ただ最近だと従来の保険の眼内レンズにはない特徴をもった眼内レンズ、+0.5Dの加入があるテクニスアイハンスや+1.5Dの加入があるレンティスコンフォートという眼内レンズがあります。+の値が大きいほど見える範囲が拡大しています。レンティスコンフォートは保険で使える唯一の多焦点眼内レンズです。遠方に合わせた場合保険外のパンオプティクスのような3焦点眼内レンズほど手元は見えませんが、パソコンのような中間距離60cm程度までは楽に見えます。近くを重視したいという方でしたら、手元に合わす事も可能です。多焦点眼内レンズなので、緑内障や黄斑変性などの眼疾患がない方が適応になります。+1.5D加入というのは最近発売されたVivityと実は焦点深度がほとんど変わりません。わずかながらハロー・グレアが出ますので、①夜間の運転をほとんどしない、②生活の中心が家である、③眼疾患がない、④眼鏡の必要性を理解しているという方でしたらよい適応かなと思います。テクニスアイハンスは従来の単焦点眼内レンズより僅かに見える範囲が広がっています。加入度数は+0.5D程度でわずかです。通常この+の度数、加入度数が大きいほどハロー・グレアや、コントラストの低下など副症状が出ます。こちらのレンズは加入度数が僅かなので幅広い見え方を獲得するという事はできませんが、副症状がほとんどないというのが一番いいところです。見え方の質も単焦点と同等で、軽度の眼疾患がある方にも適応になります。遠方に合わせた場合は手元に関しては眼鏡が必要ですが、手元合わせの場合、従来の単焦点眼内レンズよりも手元の視力を維持しながら遠見の見え方も確保できるというのがアイハンスの良い部分です。

通常の単焦点眼内レンズが最もコントラストがいいのですが、その①単焦点と同等のコントラストを得られて、②保険の範囲で少しでも見える範囲をひろげたい、③ハロー・グレアの副症状が気になるという方は良い適応になるかなと思います。

このように白内障手術を受ける前に知っておきたい事があります。なんとなく

①両眼同時手術で ②大きな病院で ③有名な先生の手術の執刀

なら間違いないだろうと思われるかもしれません。患者さんによってはこれらを選択した方が満足度につながることも事実あると思います。ですが基本的には、冒頭でもお話した通り手術を成功するために大切な事は①レンズの選択とその②度数の設定です。

コンタクトレンズに関しては当てはまる人、当てはまらない人がいるかもしれませんが、軽い白内障の方は是非参考にしてみてください。今回の話をまとめますと

①見え方のカウンセリングをしっかり聞いてもらえる事が大切です。

②両眼手術予定で片目のみ白内障が強い場合、良い方の目にコンタクトレンズをしてみて術後の見え方を体験してみて下さい。

③可能なら片目ずつの手術がおすすめです。

④片目が終わったあとに、少し度数をずらして両眼視で見える範囲を広げることもできます。

⑤保険のレンズにも選択肢が色々あります。

という5点です。現在白内障手術は機械やレンズが進歩した事もあって、術後の度数のズレもほぼなく乱視もしっかり矯正することができます。ただ予定通り手術が終わったとしても、もう少しこう見えたらよかったな、多焦点の場合なら思った以上にハロー・グレアがきついなという事があります。その場合もう片目は違うタイプの眼内レンズを入れた方がいい場合もありますし、急いでもう片目を手術しない方がよい場合もあります。なので慎重な方は片目ずつの手術がよいかもしれません。

今回は白内障手術を受ける前に知っておきたいことに関してお話させていただきました。
(2023.8.26)