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130. 白内障術後 これ注意!

今回は白内障手術後の過ごし方の注意点に関してお話させて頂きます。

現在白内障手術は年間140万人程度の方が受けられています。満足度が高い手術です。

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このページの解説は以下のYouTubeでもしています

https://youtu.be/DIi5WkFWOnk

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・10分〜15分程度の手術で安全に行えて、日帰りでできてしまう。

・近視や遠視や乱視などの屈折の状態を治すことができる。

・老眼を治すような事もできます。

・保険診療でも高機能タイプのレンズを選択できる。

というように満足度が高いのは単に白内障を治療するというだけでなくこのような付加価値がついていることによります。

そういうこともあって、もっと早くやっておけばよかった、本当にやってよかったと言われる方が多いです。このように満足していただける方が多いんですが、術後によく聞かれる事として

「この見え方一生続きますか?」「眼内レンズの寿命っていつまで続くんでしょうか」と心配して聞いていただけることがあります。

国内で認可されている眼内レンズに関しては耐久性に関する試験を通過しているので、半永久的に使用する事が可能です。例えばアトピーなど若くして白内障手術を受ける方でも生涯、眼内レンズの機能が落ちて取り出して入れ直さなくれてはならないという事はありません。

ですが、当然ではありますが、眼底出血のような眼球に何らか障害が起きてしまえば話は別です。その見え方は何らか後遺症を残してしまう場合があります。

特に白内障手術術後は注意する点がいくつかあります。

今回は白内障手術術後の見え方を維持するためのポイントに関してお話させて頂きます。

今回の話のポイントは①術後の感染、②緑内障の方、③糖尿病がある方 ④強度近視の方に対してです。

まず術後早期に問題になるのは術後眼内炎という感染症です。手術で行った切開層から細菌が目の中に入ると目の中で増殖して化膿します。

眼内炎は最悪失明に至るような非常に怖い病気です。

日本国内での発生頻度は0.05%程度と言われているので非常に少ないわけですが、国内での手術件数を考えると年間500例程度は発症している事になります。

術後眼内炎は2週間以内に発生することがほとんどです。

特に術後最初の1週間は傷口がしっかり閉じていないのでこの期間は要注意です。術後に目を触ったり、目を濡らしたりすることはしないでください。外出するときは保護眼鏡をされた方がいいと思いますし、術前から抗生剤の目薬を指示されているところが多いと思います。

きちんと目薬をしていただいて、指示された通りに受診して頂く必要があるんですが、もし経過中に

・強い痛みを自覚している 

・充血が酷くなった

・急に見え方が悪くなった

このような場合感染症を発症している可能性があります。次の受診を待たずにすぐに受診する必要があります。

白内障手術を受けると、それで手術が終わったと思って翌日から草むしりを始めたりする方が時々おられますが、まずは1週間できるだけ安静にして頂きたいです。

2つ目は緑内障の方に注意して頂きたいことです。キサラタン、タプロス、トラバタンズ、ルミガンといったプロスタグランジン関連薬の目薬をしている方は白内障手術、術後注意が必要です。

プロスタグランジン系の目薬は1日1回の点眼で、全ての緑内障目薬の中で最も眼圧下降効果が得られます。まつげが伸びたり、目の周りの皮膚が黒ずむといった眼局所の副作用はあるんですが、全身的副作用がないので緑内障治療の第一選択としてよく使われる目薬です。緑内障の目薬は主に①お水の排出を促して眼圧を下げるもの、または②お水の排出を抑制して眼圧を下げるもの

の2タイプに分かれますが、プロスタグランジン製剤はブドウ膜強膜流出路というお水の排出路を促して眼圧を下げるタイプの目薬になります。強力な生理活性作用があって、眼圧下降効果が強い目薬なんですが、プロスタグランジンには炎症を起こす作用があります。

白内障手術のような手術後炎症が起きている状態で使うと術後嚢胞様黄斑浮腫

といいますが、黄斑部という視力に大切な部分に炎症を起こして腫れて、視力が下がることがあります。

術後すごく良くみえていたのに

①視力が低下した感じがする

②ものが全体的に暗く見える

③特に真ん中が霞んで見える

④人の顔や文字が歪んで見える

といった症状がある場合緑内障点眼による副作用が出ている可能性があります。

頻度からするとこちらも眼内炎と同様に稀なんですが、症状が長引くと網膜は神経細胞の塊なので何らか視覚的な後遺症が残る場合があります。

そのため私は、術後にラタノプロストのような緑内障の目薬を使用している場合一旦中止して頂いて、炎症が落ち着くまでチモプトールのような他のタイプの緑内障の目薬を使ったり、どうしてもプロスタグランジン系製剤が必要な方にはジクロードやブロナックといった非ステロイド系の目薬を長めに使うようにして頂いています。

緑内障の目薬は手術前日までは通常通り使って頂いて問題ありませんが、種類によっては術後問題になることがあるので緑内障がある方は指示に従うようにしてください。

3つ目糖尿病がある方です。糖尿病の方で以前に糖尿病網膜症があってこれから手術を受ける方場合 注意が必要です。白内障手術後に糖尿病網膜症の状態がひどくなって、眼底出血を起こしたり、黄斑部が腫れる黄斑浮腫を起こす場合があります。現在白内障は低侵襲で安全に行う手術ではありますが、それでも術後は炎症がおきます。

術後の炎症が網膜症を悪化させてしまうことがあります。

糖尿病の状態が悪いとすぐに白内障手術ができない事がありますが、それはこのためです。手術前に

①糖尿病のコントロールがよい状態であるようにする 具体的にはHbA1cが7.0をきるようにする必要がありますし

②術前にレーザー治療やステロイドの注射、抗VEGF薬といった硝子体注射で網膜症を治しておく必要があります。

せっかく白内障手術は問題なく終わったのに、術後網膜症の悪化で視力が落ちるともったいないと思います。

最後4つ目は術後の網膜剥離です。特に強度近視の方は注意が必要です。白内障と網膜剥離は一見関係ないように思いますよね。白内障は水晶体というレンズの問題ですし、網膜剥離は網膜といって目の奥側の問題です。なぜ白内障手術後と網膜剥離に関係があるのかというと、白内障手術後

に後部硝子体剥離という現象が起きやすくなるからです。目の中は硝子体

というゼリー状の物質で満たされていて、網膜と接着しています。硝子体はクッションみたいな役割があって、目の組織を外力から保護してくれます。この硝子体ですが、加齢とともに成分が少しずつ変化して収縮して網膜から離れていきます。これを後部硝子体剥離といいます。60歳前後からこのような加齢現象が起きやすくなります。後部硝子体剥離が起きると、飛蚊症や光視症といって、目の前に黒いゴミが飛んで見えたり、実際にはない光を感じるようになってびっくりして受診される方もおられます。この後部硝子体剥離自体は加齢現象で問題ないんですが、強度近視の方は注意が必要です。近視の方は

網膜が薄いので硝子体が収縮するときに網膜を引っ張って穴を開けるような場合があります。これを網膜剥離の前段階の網膜裂孔といいます。そのため強度近視の方は後部硝子体剥離がおきやすくなる50-60代は要注意の年齢なんですが、白内障手術をすると半年〜1年程度で年齢とは関係なく後部硝子体剥離が起きやすくなることが知られています。手術直後に起きることもあるので注意が必要なんですが、手術して1年の間は定期検査を受けて頂いて眼底に異常がないか診てもらうようにしてください。

・急に飛蚊症が増えた

・光視症が頻発する

・視界が欠けてきて見えない部分がある

・視力が落ちてきている

このような場合要注意です。すぐに眼科受診する必要があります。

このように白内障手術は術後に気を付けることが色々あります。術後は担当の先生の指示に従ってきちんと経過をみて頂くようにしてください。

今回の話をまとめますと

①術後1週間は手術の傷口が不安定です。手術した部分を触らない、濡らさない、術前後の目薬をきちんとするようにしてください。

②緑内障目薬でラタノプロストのようなプロスタグランジン関連薬を使われている方は術後嚢胞様黄斑浮腫が発生する可能性があります。白内障手術後の点眼の使用は医師に確認してください。

③糖尿病のコントロールが不十分だと白内障手術後に網膜症が悪化する場合があります。

④白内障手術後は後部硝子体剥離がおきやすくなります。急な飛蚊症などに注意してください

という4点です。白内障手術は昔と違ってレンズ自体に付加価値がついたものが多くなってきました。見え方に満足される方多いんですが、その見え方を維持できるかどうかは眼球に新たな病気が発生するかどうかによります。術後はきちんと目薬が必要になりますし、何もないとしても術後きちんと通院されることが大切です。

今回は白内障手術の過ごし方のポイントに関してお話させて頂きました。


(2023.5.18)