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131. 歯が汚いと目こうなります

今回は歯が汚いと目はどうなるのかということに関してお話させて頂きます。

口の中を清潔に保つことは大切ですというと多くの方はそんな事当たり前だと言われると思います。口の中が不衛生だと虫歯になって、歯が痛くなって、歯を抜かなければならないような事ありますよね。

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このページの解説は以下のYouTubeでもしています

https://youtu.be/-I-UHtLjbXo

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でも口腔内の問題は単にお口の中のみに影響があるというわけではありません。


口腔内の不衛生な環境が血液などによって遠く離れた臓器に影響を及ぼすことが明らかになってきています。最近では口の中の環境がなんと目にも影響すると報告されています。実際目に病気が見つかると原因検索のために口腔外科に紹介させていただく場合もあります。

今回は口腔内の環境が及ぼす目への影響に関してお話させていただきます。


口腔内における菌が身体に影響するというのは実はかなり昔にも記述があります。紀元前400年に医学の父と言われるヒポクラテスが抜歯することで関節炎を治したというような過去の報告が残っています。

関節炎と歯周病、一見何の関係もないように思えるんですが、実は非常に密接した関係があることが今では知られています。

リウマチなどの関節炎を発症している方が、歯周病になりやすいんですが、これはリウマチによって手指の動きが悪くなるので、歯磨きのような細かい動作がしにくくなるということや、リウマチの薬でプレドニンといってステロイドを使うことがあるんですが、その影響で口腔内の環境が変化してしまうことで歯周病が発症しやすくなります。そのためリウマチの方が歯周病になりやすいというのは理解していただけると思うんですが、逆に歯周病が原因でリウマチになるというようなことも報告されています。

これは歯周病の原因となる菌に感染すると色々な酵素を介して免疫バランスを崩したり、自分の組織を攻撃する自己抗体というのものが作られるためであるというようにされています。

このように何かの病気が原因で歯周病になるというだけでなくて、歯周病がきっかけで何かの病気になってしまうという理解が近年深まってきています。


関節リウマチ以外に全身への影響ですでに報告されているものとして

糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞、アルツハイマー型認知症、肺炎、肥満、女性の場合早産などに関係があると報告されています。


歯周病になると歯周病菌によって毒素がでるんですが、それが血糖値を下げるインスリンというホルモンの働きを悪くします。そのことで

血糖のコントロールが悪くなる、すなわち糖尿病が悪くなりますし、歯周病の治療をすることで血糖コントロールが改善するとされています。

同じく歯周病菌による毒素や炎症物質が血管に炎症を起こして動脈硬化を誘導すると考えられています。動脈硬化は血管そのものが硬くなって狭くなる病気です。進行すると脳梗塞や心筋梗塞のような病気になって命に関わるような場合があります。

アルツハイマー型認知症は脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積することで発症するとされていますが、歯周病菌はこのアミロイドβの生成・促進に関与することが分かっています。


このようにまだ充分に機序が明らかになっていないところはあるんですが、このような全身疾患への関与が多く報告されているんですね。


目にはというと、緑内障、加齢黄斑変性のような慢性疾患との関係が報告されてきています。


2016年にOpthalmology

で報告された内容によると、自分の歯を失った人や歯周病と診断されている人は低眼圧タイプの原発開放隅角緑内障、すなわち日本人に多い正常眼圧緑内障の事ですが1.45倍~1.85倍リスクが増加したという報告がされています。

同じく2016年

にJournal of Glaucoma という雑誌でも歯周病と緑内障の関係が報告されています。原発開放隅角緑内障の119人の成人被験者と、緑内障ではない78人の健常者の歯の数であったり、口腔内の状態が比較がされました。結果からすると

・健康な方に比べて緑内障の方は歯が少なかった

・虫歯菌の1つであるレンサ球菌が優位に多かった

という結果が報告されました。


口腔内の衛生状態の悪化と、その結果起きた虫歯菌の増殖によって炎症がおきて、その細菌の毒素や炎症物質が血液などによって視神経に関与して緑内障の発症に影響を及ぼしている可能性が指摘されています。

緑内障のエビデンスがある治療は眼圧を下げる眼圧下降療法のみですが、かなり低い眼圧でも緑内障が発症している場合もありますし、眼圧が充分下がっているのに進行している方もみえます。緑内障の原因は今だ充分にはっきりしていない部分もあります。このような報告がされているので口腔内の環境も緑内障の発症の1つの原因になっているかもしれないです。


また加齢黄斑変性症とも関係があると報告されています。加齢黄斑変性症とは黄斑部という視力の要となる部分に障害を起こす病気です。この病気の主な原因として

①紫外線など光刺激による酸化ストレスと

②血液などからの炎症反応が

網膜の中の網膜色素上皮細胞といいますが、網膜の土台となる部分に障害を与えて病気が発症していると考えられています。2020年のサイエンテッィクレポート

によると加齢黄斑変性症を発症している人とそうでない人を比較したところ口腔内の菌で放線菌という虫歯菌が多かったとされています。本来の口腔内の微生物の構成が変化して、その菌によって口腔内で炎症が起きて、先ほどと同じようにその炎症が眼球にまで波及していると考えられています。

その他にも糖尿病網膜症や強膜炎という目の炎症性疾患、シェーグレン症候群というドライアイが酷い病気があるんですが、そのような眼疾患との関係性も指摘されています。


今まではベーチェット病という病気によるぶどう膜炎であったり、感染性の眼内炎という病気は口腔内と大きく関係がある事が知られていました。ベーチェット病というのは国内で指定難病にされている病気です。免疫のはたらきが過剰になって全身のさまざまな部位に炎症を起こす病気です。眼にはぶどう膜炎という病気を起こす事で知られています。目以外に口腔内のアフタ性潰瘍といいますが口内炎ができやすい特徴があります。ぶどう膜炎の症状に加えて、口内炎のような症状がある場合ベーチェット病の疑いということで口腔外科ご紹介させて頂くことがあります。

また眼内炎という病気は抜歯で発症することがあります。不衛生な口腔内の状態で抜歯をすると、抜歯した際に口腔内の細菌が血液を介して眼球に感染するといったような恐ろしいことがあります。頻度からすると非常に稀なわけですが、一旦なってしまうと最悪失明に至るような怖い病気です。

このようなうなベーチェット病によるぶどう膜炎だったり、眼内炎という感染症と口腔内の関連性は昔からよく知られているんですが、最近だとそのような病気だけでなく先ほどお話した加齢黄斑変性症、緑内障のような慢性的な眼疾患との関係性が少しずつ分かってきています。




まだこれから研究が進んでいくところではありますが、口腔内を清潔に保つために砂糖を多く含んだお菓子であったり、不要に抗生剤を使うこと、タバコを吸うこと、ストレスがない生活を送ることに加えて定期的に歯科健診を受けることが大切ですね。

今回の話をまとめますと


①歯周病がおきると、歯肉におきた炎症や歯周病菌による毒素が血液を介して全身に炎症を起こします。

②全身的には糖尿病、狭心症、脳卒中、認知症、誤嚥性肺炎、肥満、早産などと関係があるとされています。

③目の場合緑内障や加齢黄斑変性症、ぶどう膜炎などとの関係が報告されています。

④歯の数が少なかったり、放線菌、レンサ球菌といった虫歯菌が多くなっている人ほど注意が必要です。

⑤半年に一度歯科検診を受けてください

という5点です。厚生労働省が示す歯の喪失防止の目標として8020運動というのがあります。これは80歳になっても20本以上自分の歯を保つようにしましょうという運動です。歯周病はほとんど症状もなくどんどん進んでいくので今歯は痛くないし、何ともないとしても歯科医院で定期検査をうける必要があります。

私もだいたい3カ月おきに歯科検診しております。時間を割いて歯科健診を受けて頂くことをお勧めします。

今回は口腔内の影響が及ぼす目への影響に関してお話させて頂きました。


(2023.5.30)