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116. 保険で治す老眼治療

今回は保険診療で出来る老眼治療に関してお話させて頂きます。

現在保険診療で行える白内障手術には様々な選択肢があります。数年前までは保険診療で出来る眼内レンズは単焦点眼内レンズ一択でした。

単焦点眼内レンズは単焦点という名前の通りポイントが1つしかありません。

基本は遠方に合わせるか手元に合わせるかどちらかです。遠くに合わせた場合、裸眼で遠くははっきりみえますが、手元を見るときは眼鏡が必要になります。そのため単焦点眼内レンズで遠方に合わせた場合、老眼を治す、すなわち手元の見え方を改善させる事がほとんどできませんでした。今だと一部自己負担になりますが選定療養などで多焦点眼内レンズを使用して手元の見え方を改善できるようになったんですが、

①値段が片目だけで数十万するという金銭的な理由であったり➁白内障以外の緑内障や黄斑症のような眼疾患がない方が適応になる➂回折構造のためコントラストが少し落ちたり、ハローグレアといった異常光視症を伴う場合があります。 

そのような事があって興味があっても諦めるしかなかったという方もおられました。

ですが、昨年から保険診療でも焦点深度が広いテクニスアイハンスという眼内レンズが登場しています。アイハンスで老眼が治るとも言われています。今回は保険で行う老眼治療にはどのような方法があるのかということに関してお話させて頂きます。

テクニスアイハンスという眼内レンズは保険診療で行える従来の単焦点眼内レンスより焦点深度がやや広いタイプの眼内レンズです。海外では単焦点プラスとして2019年春頃から販売されておりますが、日本では2021年の秋から販売されています。

このレンズの特徴は大きく3つあります。

①回折構造がないため、多焦点眼内レンズの合併症であるコントラスト感度の低下やハローグレアの心配がほとんどない。

②単焦点眼内レンズの見え方の質を保ちながら焦点範囲が広い。

➂緑内障や網膜疾患など白内障以外に眼疾患がある方でも使える。

という3点です。

レンズの中心直径2mmの範囲に焦点深度を拡張する特殊な構造がついています。多く

の眼内レンズは焦点深度を広げるためにレンズにぐるぐるとした回折構造がついています。

回折構造の部分で光が分かれて、遠方から手元まで見え方を広げるようになっています。現在ほぼ全ての多焦点眼内レンズにこの回折構造がついています。回折構造は全ての光を有効活用できません。光学的ロスといいますが、反射などで眼内に入って来ない光が10%程度あります。残り90%の光を遠方、中間、近方で5:2:2程度に光を振り分けて遠方から手元まで見えるようにしています。

多焦点眼内レンズはこのように見える力を振り分ける事で見え方が広がる一方で

①コントラスト感度が低下する可能性がある事、そして

➁異常光視症といいますが、街灯の光が輪っか状に見えるハローという症状であったり光が滲んで見えるグレアが強く出ることがあります。

保険での単焦点眼内レンズはピントが合う範囲が限られてしまうのが最大の欠点ですが、よいところもあって、ピントが合った部分の見え方の鮮明さはどのレンズよりも優れているところです。

テクニスアイハンスには回折構造がありません。そのため、回折構造で見られるコントラスト感度の低下やハローグレアの心配がほとんどいりません。

そして単焦点眼内レンズと同様の見え方の質を保ちながら、見える範囲を拡張させているというのもポイントです。

アイハンスは日本では保険診療で行えますが、実は海外ではプレミアムレンズの1つとしての位置づけなので日本と違い追加費用を払わないと使用できません。その点、日本では保険診療内で治療できるという点も大きなメリットです。

このような特徴があるテクニスアイハンスではありますが、焦点範囲に関しては多焦点眼内レンズに敵いません。単焦点眼内レンズより見える範囲が広いですが、多焦点ほど広範囲な見え方にはなりません。遠方に合わせた場合、遠方からパソコンまでの中間距離60-70cm程度は快適にみえるけど、手元に関してはやはり眼鏡が必要になる可能性が高いです。

じゃあテクニスアイハンスを使っても結局手元が見えないじゃないかとなりますよね。

ターゲット

を遠方に設定すると確かに手元は眼鏡が必要になりますが、アイハンスの良いところは手元を重視したかったら手元重視にすることが出来る事です。単焦点眼内レンズ

と違ってある程度の遠方視力を維持しながら手元にピントを寄せることができます。

このように手元もしっかり見たいということなら遠くは少しぼやけますが、ターゲットを少し手前にすることでやや遠方から手元までしっかり見えるようにすることできます。従来の単焦点眼内レンズ

だと少し手前にピントを寄せて中間は見えても結局手元も遠くも眼鏡がないと見にくいという中途半端になることがありました。ですがテクニスアイハンスは焦点範囲が広いので少し手前にピントを寄せることである程度の遠方視力を保ちながらから手元まで見ることができます。

実は私はアイハンスの良いところはここだと思っています。中間視力を保ちながら近方視力を出すことができるところです。遠くを見るときは眼鏡が必要で中間手元を重視したい方にはメリットがあります。単焦点眼内レンズで手元にあわせると、手元は裸眼で見えるけどちょっとその先が見にくいので家の中でも眼鏡が必要になる事が多かったのですが、アイハンスでの近方狙いなら眼鏡無しでの生活が可能になることが多いです。

実際当院でそのようにさせて頂いてますが、家の中での生活が中心の方だと眼鏡が要らなくなったいう方が多い印象を受けます。運転の時のような遠方視の際にはどうしても眼鏡が必要になる可能性がありますが、その点をご理解頂ければアイハンスの中間手元合わせは満足度が高いなと実感しています。


もしできるだけ眼鏡なしで、遠くから近くまで見たいということでしたらミニモノビジョンを併用するのも方法もよいです。モノビジョンというのは左、右の屈折の値に差をつけて両眼視で快適に過ごす方法です。

例えば

右眼を遠方から中間に合わせて左眼を中間から手元に合わせるという方法です。ミニモノビジョンという名前の通り、少しだけ左右の度数に差をつけて広範囲に見えるようにすることができます。モノビジョンは差が大きいと適応できない事がありますが、ミニモノビジョンはわずかにズラすだけなので適応し易いです。

焦点範囲が少し広いのでこのような事もテクニスアイハンスなら可能です。単焦点眼内レンズでもミニモノビジョンを併用することはできますが、アイハンスほどの焦点距離は難しいです。

このように遠見を重視したいのか、それとも中間距離から手元距離を重視したいのか、できるだけ眼鏡をしたくないのかということよって様々な選択肢があります。

ただ注意点もあって、焦点範囲が広いからといって完全に眼鏡なしの生活を期待している方でしたらこのレンズは不向きです。眼鏡なしにしたいのなら多焦点眼内レンズを選択された方がよいと思います。また重度の緑内障や網膜疾患がある方は最もコントラストがよい単焦点眼内レンズの方がよいです。どなたにとってもこのレンズがよいとは思っていませんが、興味がある方は主治医の先生と話してレンズを決めて頂けたらと思います。

今回の話をまとめますと

①単焦点眼内レンズより焦点深度が広いテクニスアイハンスが登場しています。

➁コントラスト感度の低下やハローグレアの心配がほとんどありません。

➂緑内障や網膜症のような眼疾患がある方も適応になります。

④遠方合わせの場合は老眼鏡が必要になる可能性が高いです。

⑤中間手元合わせにすると適度な遠方視力を保ちながら手元を見ることができます。

という5点です。現在デスクワークや在宅勤務が増えてきて、パソコンやスマホを使用される方が多くなっています。とにかく眼鏡をしたくないという方はこのレンズは不向きですが、このように家の中での生活がほとんどの方なら大きなメリットがあると思います。良ければ参考にしてください。

今回は保険で治す老眼治療に関してお話させて頂きました。


(2023.1.18)