今回はあるものを食べたら飛蚊症が改善したという報告に関してお話させて頂きます。飛蚊症というのは自分にしか見えない透明なアメーバー状のものであったり黒い点状のものをいいます。多くは加齢によるものが原因です。加齢性の飛蚊症は後部硝子体剥離
をきっかけに起きます。加齢現象により硝子体というゲル状のものが液体になっていき収縮していくのですが、収縮していく中で硝子体の中にあるタンパク質の成分のコラーゲンが凝集することによって自覚します。
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今まで目が良くて何ともなかった方でもある日飛蚊症を自覚してびっくりして眼科を受診されるということは非常によくあることです。眼科受診して網膜裂孔のような病的なものでなければその飛蚊症は生理的なもので経過をみていくしかありません。保険診療では生理的な飛蚊症に対する治療はありません。自由診療では硝子体手術や硝子体YAGレーザー、ビトレオライシスといった治療がありますが、リスクも伴います。硝子体手術であれば緑内障の原因となる眼圧上昇、目の中の感染症眼内炎、網膜剥離、白内障手術を同時に行わなければ白内障が進行したりします。レーザー治療はうまくレーザーが浮遊物に当たらない場合網膜を損傷させて出血させたり視野障害が残ってしまう可能性があります。漢方のような内服薬であったりまたはサプリメントで飛蚊症を薄くできたりすればいいのですが、残念ながらそのようなものは現在ありません。そのようなこともあり加齢性のものと診断されると自然に薄くなることを期待して経過をみていく事がほとんどです。ですが2019年の4月に意外な食べ物で飛蚊症が70%も改善されたという報告があります。今回はこれを食べたら飛蚊症が改善できるかもしれないという事に関してお話させていただきます。2019年
に台湾で行われた研究でパイナップルを3カ月食べたら飛蚊症が改善されたという事が報告されました。いろいろ食べ物があるのに何故パイナップルというように思われると思います。私もそう思いました。これはパイナップルに含まれているある成分に注目されています。このヒントはアメリカにはオクリプラスミンというまだ研究段階のコラーゲンを分解する硝子体注射という目の中にする注射があるのですが、それがきっかけになっているようです。
どのような病気
に使用されているかというと、あまり聞き慣れない病気かもしれませんが硝子体黄斑牽引症候群、初期の黄斑円孔という病気に対して使用されています。硝子体の周りの硝子体皮質という部分が黄斑部という視力に非常に大事な部分を強く引っ張ることが原因になっている病気です。進行すると視力が低下するだけでなくものが歪んでみえたり、中心暗点といって見たい中心部分が霞んで見にくくなる病気です。現在このような病気に対して硝子体手術が行われていますが、手術をせずに治せるような治療はないかという事で開発された薬です。
オクリプラスミンはタンパク質を分解する成分が含まれていて、硝子体皮質を分解することで網膜への刺激を除去して治療することができると考えられています。
蛋白成分に反応するので飛蚊症の原因であるコラーゲンのような硝子体線維も分解する効果も認められています。まだ実用化されていないんですが米国FDAで初めて硝子体手術の代用となる非侵襲的な治療として2012年に認可されています。
やや話は遠回りになりましたが、このような作用があることに注目して同じくタンパク質分解酵素のブロメラインというものを持っているのがパイナップルです。ブロメラインはコラーゲンを分解することができます。例えば酢豚にパイナップルが含まれているのもタンパク質を分解してお肉を柔らかくしていると言われていますよね。
この酵素に注目してパイナップルを食事として摂ると眼内の浮遊物にも効果があるのではないかと考えられて研究が行われました。行われた研究は平均42歳の方で388人の方にパイナップルを食べてもらいました。2つ実験が行われていまして1つは1つだけ飛蚊症が見えている120人と複数の飛蚊症が見えている70人の2つのグループを作りました。それぞれ毎日昼食にパイナップルを200g食べてもらったという非常にシンプルな内容です。3カ月後
にはなんと120のうち70.8%の方に飛蚊症がなくなりました。70人の複数飛蚊症が見えていた人は72.8%なくなりました。
このような結果からパイナップルはある程度効果があるのではと考えられるようになりました。実験1ではパイナップルは200gでしたが、この効果はパイナップルの量に依存するのかという事を調べるために次の実験2で行いました。
毎日100g、200g、300gパイナップル食べる人をそれぞれ66人ずつに分けました。先ほどと同じように毎日昼食にパイナップルを食べて3ヶ月後どのようになったかという研究を行いました。100g
食べた続けた人は54.5%改善されました、200g食べていた人は62.5%、300g食べていた人は69.8%改善されました。このことからパイナップルは量を取った方が効果があるのではないかと報告されております。
パイナップル100g程度の量ならなんとか毎日続けれそうな気はしますが、300g継続は中々な量だと思います。
パイナップルは美味しいフルーツではあり、実は色々な効能があることで知られています。抗炎症作用、抗ガン作用、鎮痛作用が期待されていて変形性関節症であったりまたは直腸癌の予防効果があることも報告されています。飛蚊症の原因である硝子体の混濁がパイナップルを食べる事だけで改善できるのであれば、邪魔な飛蚊症が改善できてとてもよいですよね。
一方で今回の研究でいくつか注意点があげられています。
パイナップルは糖分であるため糖尿病があったりカロリー制限がある方は摂取量は注意しなければなりません。
ラテックス、小麦、ニンジンにアレルギーがある方はパイナップルに含まれているブロメラインにアレルギーがある可能性があります。今回の話に興味があって初めてパイナップルを食べてみようと思われた方は注意してください。
またブロメラインは酵素のため熱処理すると不活化されるます。缶詰のパイナップルやパイナップルジュースでは効果がないと思います。試してみようと思われた方は今回の実験通り生のパイナップルを摂られるのがよいです。
その他まだ分かっていないこととしてどの程度パイナップルに含まれているブロメラインが眼内に入っているかわかりませんし、対照群との比較がないためこの研究にはまだ課題があります。
パイナップルで飛蚊症がなくなるという事は非常に魅力的な話ではありますが、このような事もあるんだなという程度に知っていただけたらと思います。今回のお話をまとめますと
①飛蚊症の原因は加齢によりタンパク質のコラーゲンが凝集することによって自覚します。
②アメリカではこのタンパク質成分を溶かすオクリプラスミンという硝子体注射があります。
③パイナップルにはブロメラインというタンパク質を分解する酵素が含まれています。
④100g程度の量を3ヶ月程度食べると54.5%の方が改善できた、300gの量なら69.8%の方が改善できたという結果になりました。
⑤糖尿病のためカロリー制限をしている方、アレルギーがある方は注意してください。
という5点です。まだ明らかになっていない点がありますが、パイナップルを食べるだけで鬱陶しい飛蚊症が改善できるのならいいですよね。このような研究が進んで飛蚊症に対する内服薬がいつかできたらいいなと思っています。この論文の最後に書かれていることですが硝子体のコラーゲン繊維に反応することが明らかになれば、飛蚊症が改善できるだけでなく網膜剥離の予防になる可能性もあります。
網膜剥離の原因
は硝子体皮質というコラーゲンで出来た部位が網膜を強く引っ張って孔を開けることが原因です。もし硝子体皮質を分解できれば網膜剥離になるリスクをかなり軽減出来る可能性があります。
ただ現状は、飛蚊症を自覚したらまずパイナップルを試してみようと思わないでください。網膜出血や網膜裂孔、ぶどう膜炎のような病的なものが隠れている可能性があるので必ず病的なものでないかを眼科受診して確認されるようにしてください。病的なものでないと診断された場合は自然に軽快していくことが多いです。ですが飛蚊症がとにかく鬱陶しくて仕方がない、精神的に落ちこんでいて何とかしたいと考えられている方はパイナップルをお試ししていただくのもいいかもしれません。今回はパイナップルによる飛蚊症改善の可能性に関してお話させて頂きました。
(2022.9.22)