今回は白内障手術をしたらどの程度視力は回復するのかということに関してお話させて頂きます。白内障手術を受けられる方で気になることは術後視力がどこまで上がるのかということだと思います。手術を受けられた方の話を聞かれる事があると思いますが、私は手術後本当によくみえるようになってよかったよ、あなたも早くしたほうがいいよと言われた事もあると思いますし、一方で中には手術をしてもほとんど変わらなかった、あまり困っていないのなら白内障手術待った方がいいよというように言われた事がある方もおられるのではないでしょうか。
このような話を聞かれる中で、私は白内障手術受けたらどの程度見えるようになるんだろうと考えられる方が多いです。
実際は術後、見え方に満足される方が多いですが、手術を受けた結果は人それぞれ違います。手術の結果は手術を受ける前の目の状態であったり、ターゲットとする焦点距離であったり、入れるレンズによって見え方は当然異なります。そのため人それぞれ術後の見え方は変わるわけですが、どの程度見えるようになるかというのはポイントがあります。今回は白内障手術術後どの程度視力が回復するのかということに関してお話させて頂きます。
白内障手術術後視力がどの程度回復するかどうか、結論から言いますと白内障以外の眼疾患があるのか、あればどの程度障害があるのかということで大きく左右します。白内障は代表的な視力低下を引き起こす病気ではありますが、視力低下を起こす病気は当然ながら白内障だけではありません。見える映像の刺激
は目の中の眼球の再表面の角膜、瞳孔を通って水晶体、硝子体、網膜、黄斑、視神経、脳と伝わり知覚します。この経路のどこにも異常がなくて白内障だけが問題であれば白内障手術を行うことで視力が回復する可能性が高いです。ですが、この経路のどこかに異常があって、その障害の程度によっては白内障手術をしたところで視力の回復は限定的かもしれません。
もし白内障だけが視覚的な問題であった場合を考えてみます。その場合例えば単焦点眼内レンズで白内障手術を行った場合であれば、遠方合わせにした場合遠方は裸眼で1.0前後見えるようになる可能性が高いです。ただし手元視力は0.3前後になってしまうので術後眼鏡が必要になることが多いです。一方で手元合わせにした場合は手元の視力は裸眼で1.0前後になる可能性が高いです。逆に遠方視力は0.1-0.3程度になるのでしっかり遠方をみるときは眼鏡が必要になります。術後の乱視や瞳孔の大きさによって多少この視力から前後することありますが、基本的には見え方は大きく改善する事がほとんどです。
次に白内障に加えて何らか病気がある場合です。日本人の中途失明率で高い緑内障を合併していた場合です。緑内障がある場合中心視野への障害がどの程度あるかで術後視力が変わってきます。中心視野への障害
というのは別の言い方でいうと黄斑部にまでどの程度障害が及んでいるかどうかという点になります。初期から中期の緑内障の一般的な視野障害は周辺
から変化していくことが多いです。周辺部位というのは黄斑から離れていますので視力低下を引き起こす事はありません。周辺の視野欠損がかかなりあったとしても極端な話中心視野が良好であれば矯正視力は出ます。緑内障の評価で視野の欠損範囲を把握することは大切です。ですが、単純に欠損範囲が多ければ視力が出にくくて、欠損範囲が狭ければ視力が出るというわけではありません。
黄斑部にどの程度見える力があるのかという事が大切です。
ある程度緑内障が進行しているとしても中心視野が良好であれば白内障術後に視力が回復する可能性が高いです。黄斑の障害が少なければ視力自体は出る可能性が高いですが、術後は視野欠損
が広い方ほど緑内障でみえていない部位ははっきりします。緑内障で障害を受けている神経線維層まで白内障手術で回復するわけではもちろんありませんので注意が必要です。緑内障患者さんが白内障術後によく言われることは見えていないところと見えるところがはっきりするようになりました。緑内障で悪い部分がはっきりわかります。というように言われます。視野欠損が多い方ほどこの傾向にありますので、視野欠損がある方はこのような結果になる可能性があることを意識しておいた方がいいかもしれません。
中心視野がある程度残存していればこのように視野欠損を自覚するものの矯正視力は改善する可能性がありますが、一方で緑内障
が進行しており、中心視野にまで障害を受けている場合視力の上がり方はやはり限定的かもしれません。
このように中心が障害を受けているかどうかは様々な病気に対して同じように考える事ができます。例えば網膜静脈分枝閉塞症という病気の場合です。この病気は主に高血圧が原因で動脈硬化がおきて眼底出血を引き起こす病気です。この場合
も視力が回復するかどうかは黄斑部への障害の有無で大きく変わってきます。黄斑部にまで出血の拡大がなければ、先ほどの緑内障の時と同じで障害を受けた網膜の部位に関しては光を感知する力が低下しますので何となく見にくい部位が残ってしまう可能性がありますが、視力自体は出る可能性が高いです。一方で黄斑部にまで出血があると視力の出方は限定的です。黄斑部は神経の集合体であり、一度損傷してしまうと改善せず後遺症として残ってしまうからです。白内障手術を終えたとしても視力はあまり改善しないかもしれません。
そのような事もあり黄斑部の障害の程度によっては白内障手術をしても視力がほとんど変わらない事があるので手術をすすめない場合があります。例えば加齢黄斑変性症という病気です。加齢黄斑変性症は黄斑部に変性をきたす病気であり、中々視力は改善しません。そのため白内障がかなりあったとしても病状がひどい場合はほとんど視力が回復しないのであえて白内障手術をすすめないような事もあります。このように白内障手術術後の見え方は白内障以外の病気の有無によって人それぞれ違います。もし白内障以外に病気がなければ基本的には視力が上がる可能性が高いと思います。手術後にどのくらい視力がでそうだろうと思われた方はご参考いただけたらと思います。
今回のお話をまとめますと
①白内障手術術後の視力はその他の眼疾患の程度によって異なります。
②特に黄斑部の障害の程度は大切です。
③黄斑部が良好なら白内障手術にて視力は回復する可能性は高いです。
ただし障害を受けた網膜に対応する視野部分は残ります。
④黄斑部に障害を受けた場合は視力の回復が限定的かもしれません。
という4点です。白内障以外に病気がなければ白内障術後数日で視力はすんなり出ることが多いです。一方で白内障以外に病気があれば視力の出方は限定的かもしれません。
それと何かに加えて白内障手術も行う場合、例えば白内障に加えて緑内障の手術であったり白内障に加えて硝子体の手術を併用する場合は視力がでるのに時間がかかる場合があります。MIGSのような緑内障手術を併用すれば術後前房内出血といって術後目の中に出血することがあるので出血が軽減するまで視力が出るのに時間がかかりますし、黄斑前膜のような硝子体手術の場合見え方が改善するのに1−2年程必要な場合もあります。そのような事もあるので同じ白内障手術をしたとしても白内障手術術後見え方に時間がかかる場合があります。
今回は白内障手術術後どの程度視力があがるのかということに関してお話させて頂きました。
(2022.9.14)