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70. 緑内障進行のサイン

今回は緑内障が進行している事を示す目の中のあるサインに関してお話させていただきます。
緑内障という病気は視野欠損がすすみそのまま無治療にしてしておくと失明してしまう病気です。目薬を中心とした治療で眼圧を下げていくことを行いながら定期的に視野検査をしていきます。視野検査を何度かしていく中で気になるのは治療が順調かどうかということだと思います。即ち視野の進行がしっかりとまっているか、または抑制されているかということが一番気になることではないでしょうか。ただ緑内障の視野の判定は数回視野検査をしただけでは進行を捉えることが中々難しいんですね。今回は眼科医は緑内障の進行をどのようにしてみているのか、また治療を強化するタイミングはどのような時があるのかという事に関してお話させて頂きます。

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このページの解説は以下のYouTubeでもしています

https://youtu.be/W3HznAn6zRQ

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緑内障になったら視野検査をしていきます。視野検査をしてどれ程悪くなっているのかを評価していきます。緑内障診療において視野検査は今の目の状態をまさに表しているのでとても重要な検査なんです。視野検査を2回、3回していくとその後に多くの患者さんに聞かれることは緑内障、私は進んでいますか?と聞かれます。視野検査を数回すればすぐに進行しているかどうか分かるはずだと思われるかもしれませんが、多くの場合はすぐに緑内障の進行が判定できるわけではありません。
これには知っていただきたい大きな理由が2つあります。
1つ目は視野検査が自覚検査だからです。視野検査

は自覚検査なのでその日の体調であったり、その日の集中力であったりちょっとした事が影響して毎回データがばらつくんですね。前回あった欠損部位が次の視野検査のときにはなくなっているということもよくあるんです。もちろん視野欠損自体が大きく変わるということではありません。進行しているなと思っていた所見が次の検査では実はそんなことなかったということもあります。このようなためにすぐに進行を判定ができないんですね。
視野検査の悪化の指標としてMD値
というものがあります。マイナスの値が大きくなればなるほど進行していると判断するんですが、このMD値も視野検査と同じように前回はよかったけど今回は悪かった、でもその次はまた少し値がよくなったというように変わっていくんです。そのため視野が本当に進行しているか判断するには時間がかかります。
視野検査はそもそも難しい検査ですよね。視野検査が初心者の方はきちんと検査できるようになるまで最低でも5回は検査しないと正確な結果にならないと言われています。そのような事もありまして、特にこれから緑内障の検査を行っていく方は進行の判定に時間がかかります。このように視野検査は自覚検査なのですぐには判定できないというのが1つ目です。
そして2つ目の理由、日本人に多い正常眼圧緑内障は進行が非常にゆっくりなので進行の判定に時間がかかります。数年かけて少しずつ変化していくタイプの緑内障なんです。明らかに変化している場合は別として、通常は視野変化がゆっくりなのですぐに進行の判定はできません。これは裏を返せばとても良いことでもあるんですがそのために進行しているかどうか分かるのに最低でも2−3年、平均して5年ぐらいの経過観察期間が必要です。それぐらい長い経過をみないと緑内障の視野変化はわからないんです。緑内障になるひとつ前の段階に前視野緑内障という状態があります。これは緑内障の非常に初期の段階です。視神経には障害があるのに視野には障害がでていない状態をいいます。この状態を放置しておくと視野欠損が出現するんですが、視野障害が出るまで5.6年かかるんです。それぐらい視野に変化が出るまで時間がかかるんです。
その状態で点眼による治療がはじまると更に進行がゆっくりになります。そのためわずかな進行をとらえるのに時間かかるんです。正常眼圧緑内障の場合目標眼圧は無治療の状態から30%下降した値と言われています。30%下がるとかなり進行が抑制されるんです。データ上は80%停止するといわれています。
点眼のファーストチョイスはラタノプロストのようなプロスタグランジン系製剤が多いんですが、この目薬一つ使うだけで眼圧が30%近く下がることがあります。
そのような事もあり、もともと正常眼圧緑内障は進行がゆっくりなタイプの緑内障なのにそれに薬物治療が加わると進行が抑制されますのですぐには効果が判定できないんですね。
そういうこともありまして特に初診の方、これから緑内障治療をはじめていく場合はすぐに進行がとまっているかどうか長い経過をみなかればなりません。逆にいうとそれほど進行がゆっくりなものですので、しっかり通院されている方であればあまり心配はないとも言えます。進行していないからといって治療をドロップアウトされる方もおられますが、それだけは絶対いけませんので注意してください。
このように緑内障の進行は非常にゆっくりなのですぐに判定はできないのですが、その経過の中で緑内障がまだ進行しそうだなという所見があります。それが乳頭出血という所見です。乳頭は視神経乳頭のことで要するに視神経の事なのですが、視神経から一部出血することがあるんです。これはすべての緑内障の中でも正常眼圧緑内障に特徴的な所見です。緑内障なのに神経に出血するって不思議な所見ですよね。例えば目の奥に出血する病気だと糖尿病とか高血圧とかそのような血管に対する異常があれば目の奥に出血することは想像できると思います。ただ緑内障でも神経から出血することがあるんです。しかも正常眼圧緑内障に特徴的な所見であり、出血したところでまったく自覚症状がでない出血なんですね。僕らはdisc hemorrrhage,略してDHと言っています。この所見があるとまだまだ緑内障進みますよ、まだ眼圧が下がりきっていませんよというサインなんですね。この乳頭出血が起きる原因ははっきりと分かっていません。このような出血があるために正常眼圧緑内障は血液循環障害があるとも言われていますし、濾過手術のような緑内障手術で眼圧が下がると乳頭出血が少なくなるということも言われているので眼圧が関係あるのではないかとも言われています。
いずれにしろ緑内障進行のサインとして考えられています。このサインが見られた場合これは治療を強化しなけばならない、注意深く経過を診なければならないと判断します。このように緑内障治療は単に眼圧と視野変化だけみていくわけではありません。目の奥の診察のために目の写真を取ったり、目の奥を診察しながら経過を診ていくんですね。今回のお話をまとめますと
①視野検査は自覚検査なのでその日の体調などで結果がばらつきます。
②進行が最も遅い緑内障が正常眼圧緑内障であり少しずつしか変化してきません。
③進行の判定するには目安として通常5年ほどはかかります。
④乳頭出血は進行のサインとして考えられています
 
という4点です。緑内障の進行が収まっているかどうかというのはとても気になることだと思いますが、視野の判定はすぐにはできないんです。視野検査が自覚検査であること、そして正常眼圧緑内障は進行がゆっくりなのですぐに判定ができないんですね。特に初診で緑内障として診断されてその後点眼が開始になるんですが、それまでの状態、点眼していなかった状態の視野変化が遅れて半年後ぐらいにきますから点眼を開始しても最初は視野が悪くなりがちです。その後薬の効果判定がされていきます。正常眼圧緑内障は進行がゆっくりである点はいいのですが、そのため進行の判定には時間がかかります。その中で今回お話したような出血のようなサインがあれば治療を強化するタイミングと考えられています。
今回は緑内障の視野進行の考え方と治療強化するタイミングに関してお話させて頂きました。

(2022.6.6)