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45. LASIKとICLに関して

LASIKやICLのような屈折矯正手術に関するお話をさせていただきます。
どちらも屈折矯正手術で人気のある手術ですが、これらに関しては外来に来られる患者さんからも相談を受ける事が多いです。芸能人の方も多数受けられておりますし、裸眼で1.5見えるようになった、世界が変わった、本当にやってよかったというような感想をのべられておりますので、近視で悩んでいる多くの方は憧れがあるようです。ちなみに私自身も近視で眼が悪く、このような手術に対する憧れは眼科医になる前まではずっとありました。やはり眼鏡やコンタクトレンズが安全であるといっても煩わしいと思う方がほとんどだと思いますし、裸眼で生活が快適に送れるのならそれに越した事ないですよね。
それでも私自身が結局どちらの手術を受けずに結局眼鏡やコンタクトレンズでの生活を送っているわけに関してお話します。
それは簡単に言うと眼科医になってからLASIKやICLのような屈折矯正手術で近視を矯正することがもったいないなと感じるようになったのが一番の理由です。手術をするのが怖いといった理由ではありません。
近視で遠くの見え方に困っているのにその近視を治すことにもったいないとはどういうことなのかと思われるかもしれませんが、以下その理由に関してお話します。
LASIKやICLは手術方法が全く違いますが、手術の目的は同じで遠方にピントを合わせてはっきりみえるようにする技術です。なので例えば裸眼で0.1とか0.0いくつといった視力に対してLASIKなら近視の分だけ角膜を削って矯正しますしICLなら近視の度数に合った度数のレンズを眼の中にいれて矯正して裸眼で1.5見えるようにするというものです。だいたいこのような屈折矯正手術を受けるのは20-30歳台の方がメインになります。若い方の場合は老眼が発症していないので遠くがはっきり見えるのはもちろんの事手元もはっきりみえるので完全にコンタクトやメガネが卒業できるようになります。今まで近視で悩んでいた事が嘘のように快適で感動する事は想像できます。ただし術後20年ぐらいの間はもちろん快適な生活が送れると思いますが、40歳以降近くの見え方に見にくさを自覚してくることになると思います。これは水晶体というレンズ

が少しずつ老化していく白内障の影響のためでいわゆる老眼の影響がでてきます。そのために遠くははっきりみえるのに手元が見にくくなってくるためにメガネが必要になってきます。なので近視の時と逆転した生活が今後は起きてしまいます。

すなわち近視の時は手元は裸眼でそれなりに見えていたけど遠方は裸眼で見えないのでメガネなどが必要だったと思いますが、今後は遠くはメガネなしでもある程度みえるけど手元は見えないから手元用のメガネいわゆる老眼鏡が必用になるといった状態になります。
それでいいという方はもちろんそれでいいと思うのですが、現代社会において近業作業は昔に比べて多くなっています。今だとスマホのようなものを使う事が多いと思いますし、リモートワークでパソコンを使うような方も多いと思います。私は眼科医になってからこの手元、中間、遠方との見え方において見え方の優先順位は手元が一番だと思っています。遠方ももちろん大事なのですが、遠方に関しては歳をとるにつれて重要度という点で考えると下がっていくのではないかと考えております。
すなわち屈折矯正手術で40歳以降老眼になる将来がみえているなら近視を残して手元を裸眼でみえる状態をとっておいた方がいいのではないかと考えるようになったからです。特にー3前後以内の軽度の近視の方が屈折矯正手術をするのは個人的には本当にもったいないと思っています。例えばー3という値は手元30cmの距離が裸眼ではっきりみえる値です。老眼になっても手元30cmの距離が一番ピントが合う部分なので、手元は裸眼で生活できますし、遠くは若い時と同じようにメガネをしてみたらなんの問題もなく見えます。ー1とかー2とかでも同じです。近視の度数のー1やー2という値は50cm~1mが老眼が起きたとしてもピントが合う距離です。この距離はパソコンをしたり少し離れたところからテレビを見るのにちょうどいい距離と言われております。この軽度近視は老後までの生活を考えると実はかなり過ごしやすい近視の度数だと思うのですが、これをわざわざ遠方に合わせて近視矯正するのはとても勿体ないと思っています。LASIKやICLが老眼にも対応できていれば言うことないんですが、残念ながら遠くにピントを合うようにする手術ですので老眼への対応はできないんですね。
その他にもLASIKは削った角膜に対して術後近視の戻りがあります、10年に1割程度戻ると言われております。将来緑内障になった場合角膜が薄くなると眼圧測定が不正解になります。これが緑内障治療において時に問題になる場合があります。ICLはLASIKと違い眼内の操作なので近視の戻りはないものの眼内に炎症が起きたり角膜内皮細胞が減るリスクがあります。身体の中には常在菌という菌がもともといるのですが眼内は一切菌がない非常にクリアな空間です。この部位をわざわざ人工的にメスをいれるのはどうなのかというように思います。結局のところこのようなリスクも受け入れられていないのも理由ですが、それは二の次です。
今回の話をまとめますと
①LASIKやICLは遠方にピントを合わせる手術であり老眼には対応していません。
②40歳以降誰しも老眼が起きてくるので、屈折矯正手術をしても手元が見にくくなるので老眼鏡が必用になります。
③老眼になっても裸眼で手元を見れた生活の方が私はいいと思うので近視を矯正するのはもったいないと思います。
④特にー3前後くらいまでの軽度の近視は老後の生活を送る上で理想的な屈折値なのにそれ手術をするのは更にもったいないと思います。
という4点になります。私自身は近くの見え方を重視したいので実は白内障手術をするときにはピントが近くになるようなレンズをいれたいと思っているぐらいです。若い方が屈折矯正手術を受けて直後感動する生活が送れるのは僕らからすると当然の感想だと思うのですが、長い目でみるとその元の近視は実は残しておいた方がいい場合もあります。
よければご参考にしてください。

(2021.8.21)