今回は失明しやすいタイプの緑内障に関してお話させて頂きます。緑内障には進行が早いものから遅いものまで様々なタイプがあります。日本人に多いのは正常眼圧緑内障というタイプの緑内障です。このタイプの緑内障は全ての緑内障の中で最も進行が遅い緑内障です。早期発見が非常に大切で、早めに分かってしまえば失明するような事はまずありません。正常眼圧緑内障はこのように進行の遅いタイプの緑内障ではありますが、それとは逆に進行速度が早く難治性といわれる緑内障があります。
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それが血管新生緑内障という緑内障です。正常眼圧緑内障は発症する人しない人がいるわけですが、このタイプの緑内障は生活習慣をおろそかにしていると誰しも発症しうる緑内障です。今回はこの血管新生緑内障とはどのようなものなのかということに関してお話させていただきます。
血管新生緑内障は緑内障の中でも非常に難治性で進行が早いタイプの緑内障です。眼圧が20,30とやや高くなるレベルではなく、場合によっては50,60と急激に眼圧があがってしまいます。薬も効きにくく中々正常値以下まで眼圧が下がりません。眼圧レベルが非常に高いので一気に視野が悪くなり、数ヶ月後に失明するということがあるんです。
なぜこのような緑内障が発症してしまうんでしょうか。
この緑内障を起こしやすい人には2つの基礎疾患が関係しています。1つは糖尿病、もう1つは高血圧です。このような病気に無頓着でいるとこの緑内障になってしまう事があるので注意が必要です。
糖尿病になってコントロールがよくないままでいると糖尿病網膜症が発症することがあります。糖尿病網膜症とは糖尿病が原因で目の奥の網膜という組織が障害を受けて視力低下を起こす病気です。糖尿病網膜症も軽度なものならそれほど問題になりません。ところがそのまま放置しておくと重度の糖尿病網膜症、増殖型糖尿病網膜症といいますがそのような状態になってしまって網膜が強い酸欠状態になってしまいます。その事をきっかけに目にとって悪い組織や悪い血管が増えてくるんです。この目にとって悪影響を及ぼす悪い血管を新生血管といいます。このような血管が目の中で増えてくると目の中に隅角という水の出口があるんですが、その部位を塞いでしまうことがあるんです。
目の中には絶えず房水
という水の循環があるんですが、隅角という水の出口が塞がれてしまうと水の排出ができなくなります。
このようなために眼圧が爆発的に上昇します。悪い血管が増えていくことが原因なので、悪い血管をレーザー治療や硝子体注射といって目の中に注射をしたり場合によっては手術を行うんですが、治療は中々一筋縄でいかないことが多いです。糖尿病で失明される方の5%はこの血管新生緑内障と言われています。糖尿病が悪くならないようにきちんと内科的な管理をされるようにしてください。糖尿病のコントロールの指標でHbA1cというのがありますが眼科の場合この数値で7を切られたらほとんど目に問題になることがないと言われています。この血管新生緑内障になられる方は糖尿病の数値が10前後で放置してしまった人が発症しやすいです。ここまで放置する方はまれではありますが、この緑内障になってしまった場合あっという間に見えなくなってしまいますので糖尿病の方は注意するようにしてください。
次に高血圧の方です。高血圧で動脈硬化が起きるとなりやすい目の病気に網膜中心静脈閉塞症
という病気があります。この病気は名前の
通り目の中の中心静脈という静脈が詰まってしまい破裂することで眼底出血を起こす病気です。50歳以上になると発症しやすくなり、高血圧と深い関係があります。この病気を発症すると一気に視力が低下します。
視力に大切な黄斑という部位が腫れて視力が低下しますし、網膜に強い炎症とむくみを起こす結果視覚的な後遺症を残す事がほとんどです。レーザー治療や硝子体注射という治療を行うんですが元通りまで回復することはほとんどありません。
このような病気を発症してしまうと同じく目の中が強い酸欠状態になってしまいます。この事が血管新生緑内障の原因になってしまい先ほどの重度の糖尿病網膜症と同じで治療の甲斐なく失明となってしまう可能性があります。
糖尿病や高血圧を治療しないままでいるとこのように非常に治療が難しい緑内障になることがあります。
その他にも頸動脈狭窄症という病気が血管新生緑内障を発症する可能性があります。これも糖尿病や高血圧を治療しないでいると発症してしまう病気です。頸動脈
とは心臓から頭に血流が流れるための重要な血管です。この部分が細くなる
と頭への血流障害が起きる結果脳梗塞の原因になったりするんですが、脳梗塞の原因になるだけなく目への血流障害が起きます。これを眼虚血症候群といいます。
首の血管が細くなると目に充分な血液が行き届かなくなります。
このことが血管新生緑内障の原因になります。この病気の前兆として眼前暗黒感という症状があります。その名の通り目の前が一時的に真っ暗になりみえなくなってしまう現象です。これは首の血管が細くなって既に目への血流障害が起きているために起きる症状として考えられています。そのような症状があればすぐに病院に受診しなければなりません。
今回お話した糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症、頸動脈狭窄症はこの血管新生緑内障を引き起こす原因の3大疾患です。
多くの場合眼圧のコントロールがつかずに手術による対応になることが多いのですが、手術をしたとしても視覚的な後遺症が残り経過がよくないことが多いです。
緑内障は正常眼圧緑内障のように進行がゆっくりで早期発見すれば重症化しにくい緑内障ばかりではありません。今回お話した血管新生緑内障は眼科医なら知っているとても予後が非常に悪いタイプの緑内障です。
今回のお話をまとめますと
①緑内障で最も予後が悪い緑内障に血管新生緑内障という緑内障があります。
②糖尿病や高血圧を放置していた結果発症することが多いです。
➂難治性であるため失明にまで至ることも少なくありません。
④内科的な治療をしっかり継続することが大切です。
という4点です。今回お話した緑内障は自己管理が甘いことで起きる緑内障です。緑内障は目の病気だから高血圧や糖尿病は目には影響がないと思われることが多いのですが、このように身体の病気を放置していたことで緑内障になってしまうことがあります。通常緑内障の治療は点眼による眼圧下降をはかるのが一般的ではありますが、このタイプの緑内障は点眼治療に加え、レーザー治療、注射治療、手術と様々な治療をしなくてはなりませんし当然その分治療費も高額になってきます。また働き盛りの方に多く、身体より仕事を優先した結果取り返しのつかない結果になってしまったということをよくみてきました。当然ながら見えなくなってからでは治療ができないんですね。今回の緑内障にしろ、正常眼圧緑内障のような慢性型の緑内障にしろ早期発見が大切できちんと健康管理をすることが大切です。この病気で失明する方が少しでもなくなればいいと思いまして今回のお話をさせて頂きました。今回は緑内障の中でも最も深刻な緑内障に関してお話させて頂きました。
(2022.8.22)