眼内レンズを入れて後悔した…!本当に知っておくべき7つの落とし穴
今回は“このレンズを選択したことを後悔しています”ということに関してお話しいたします。白内障手術は濁ったレンズを除去して人工のレンズに置き換える手術です。術後の見え方はその人工レンズが大きく影響します。きちんと考えて選ばないと『最新のレンズがいいと言われて手術したのに、思ったように見えなかった』『手術は成功したと言われているが、以前より生活が不便になってしまった』というようなことがあります。“周りはみんなやってよかったと言っているのに白内障手術を受けて後悔するような事なんてあるの?”と思われるかもしれませんが、実際このようなこともあります。
今回は、実際に「眼内レンズを入れて後悔した」と感じた方のケースに関して、その原因と対策、そして納得できるレンズ選びの考え方に関してお話しいたします。
2種類の眼内レンズ
眼内レンズは大きくわけて単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの2種類があります。
単焦点眼内レンズは、その名の通り見える範囲が限定されるレンズです。
遠くに合わせるか、中間に合わせるのか、近くに合わせるかをあらかじめ決めます。裸眼でピントが合わない部分に関しての距離はメガネで補う必要があります。
一方で、多焦点眼内レンズは、遠く・中間・近くなど複数の距離にピントが合うよう設計されたレンズです。
メガネなしでもある程度幅広い距離が見える一方で、光を分散するため、夜間の光がまぶしく感じたり、
見え方のすっきりした感じが低下したりすることがあります。(コントラスト感度)
このように両者メリットデメリットがあり、高いレンズであればいいというわけではありません。違いを理解したうえで、どちらが自分の生活スタイルに合っているのか、しっかり見極めることが大切です。それと同じぐらい知っておきたいことは最新のレンズが一番いいとは限らないということです。
新しいモデルが出るたびに「さらによくなり改善しました」と紹介されたりします。特に3焦点タイプの多焦点眼内レンズは今種類が豊富です。従来のものよりハローグレアが少ない、コントラストがよい、手元の見え方はこのタイプよりも更にみえると紹介されたりします。それならそれがいいなとつい思ってしまうと思いますが、実際のところ、従来のものと大きな違いがない、違いがないどころか、後々データが出てくるとそこまでよくなかったということもあります。
多焦点眼内レンズで特に問題になるのが「waxy vision(ワクシービジョン)」という症状です。
たとえば、ある50代の患者さんでは、雑誌などで「多焦点眼内レンズをいれたら老眼が治る」というのを見て眼科に行きました。その方はもともと目が良い方でしたが、老眼の症状に困っている方でした。眼科に受診したら白内障はあまりないけどいつかは白内障になるので、最新のレンズは老眼も治るし今のうちに受けちゃいましょうという説明を聞いて手術を決心しました。術後は遠くも近くも見えてすごくよくなった!となる予定でしたが、結果は手元がみやすくなるどころか、遠くも近くも手術前より見にくくなってしまった。なんか膜がはったような感じですっきりみえない、以前は老眼鏡必要だったけどその時のほうがくっきりみえたんですがどうしたらいいですかということでご相談にお越し頂きました。
これは多焦点眼内レンズを入れたことによっておきたwaxy visionという症状です。コントラストの低下が起きてしまってくっきりした見え方が失われた状態です。
白内障がまだほとんどない段階で多焦点眼内レンズに置き換えると、かえってコントラストが下がって、見え方に違和感を感じることがあります。海外ではPRELEX(Presbyopic Lens Exchange)と言っていますが、40代〜50代の老眼治療として早めにもともとの自分のレンズを多焦点眼内レンズに交換することがあるようです。ですが、あまりこのようなことは勧められなくて、白内障がない状態での多焦点眼内レンズの交換はこのようなリスクがあることを知っておいてください。
合わなければ基本は単焦点眼内レンズへの交換になります。そうなると結局老眼の症状が残ります。老眼を直すために手術をうけたのに結局何のための手術だったのかと後悔する要因となります。
最新の多焦点眼内レンズは確かに改良に改良を重ねてよりよくなっています。以前の遠近タイプの2焦点眼内レンズよりはるかに改善されていますし、最近の3焦点タイプはいくつか種類がでてきて、ハロー・グレアのような副作用を軽減されるように設計されています。なのでよりよく改良されているのは間違いありませんが、それでも「限界」があります。なぜかというと基本的な構造は同じだからです。光を複数の焦点に分けて分配するため、どうしてもハロー・グレアの発生やコントラスト感度の低下といった副作用はある程度避けられません。
すなわちハロー・グレアはゼロにはなりませんし、そのため夜間の運転は注意が必要ですし、コントラスト感度はやはり単焦点眼内レンズに劣ります。
3焦点タイプの多焦点眼内レンズのような回折構造があるタイプのものは最新のレンズでも基本的な構造は変わらないので劇的に“見え方”が異なることはないということを知っておきましょう。
又、多焦点眼内レンズは、一般的に高齢になるほどリスクが高まるとも言われています。その理由は、レンズ自体の性能ではなく、“受け取る側”の目の機能が年齢とともに衰えてしまうからです。年齢とともに耳が聞こえにくくなる“難聴”があるように、目も病気がなくても見る力が徐々に低下していきます。網膜感度の低下といいますが、年齢と共に光をうけとる細胞の能力が弱くなってしまいます。目に何も病気がなくて、手術も問題なく終わった、通常なら1.0出るはずなのに、視力が0.5ぐらいまでしかでないというようなことがあります。その場合眼鏡をしても何してもすっきりした見え方にならないので注意が必要です。
「80歳でも多焦点眼内レンズにできますよ」と言われる場合は注意が必要です。
多焦点眼内レンズは近くにもピントが合いやすくなるレンズではありますが、読書やスマホのような“近距離をしっかり見たい”ということなら、実は単焦点レンズを近くに合わせた方が、むしろはっきり見えます。近くを見る作業が多い方は、“バチッと”近方に合った視力にするとそれだけで十分満足されます。
多焦点眼内レンズは老眼が完全になくなるわけではなく、眼鏡の使用頻度が減る程度という認識でいた方が、ギャップは少ないかもしれません。
最新かどうかというよりも、自分の目の状態と生活スタイルから決めることの方が重要です。
もちろん全ての方に多焦点眼内レンズを否定しているわけではありません。当院でも適応があってご希望の方には多焦点眼内レンズ使用していますし、実際多焦点眼内レンズの存在を知らずに後悔されているかたもみえます。「うちでは単焦点しか扱っていません」「多焦点はよくないから勧めていません」と言われたという声もよく聞きます。
実は、クリニックによって、そのクリニックの医師の方針で最初から選択肢が制限されていることがあります。多焦点眼内レンズを使用する場合、技術だけでなく新たな設備投資が必要になる場合がありますし、スタッフの対応力も求められるので、導入していないクリニックも多く存在します。
多焦点眼内レンズの存在を患者さんに十分説明せずに、「単焦点が最もいいレンズ」と誤解させるような対応をされた場合は気を付けて下さい。場合によってはセカンドオピニオンを受けるのも一つの手です。複数の施設で話を聞くことで、より納得のいく判断ができるようになります。
乱視について
そしてもう1つ知っておきたいことは乱視の矯正に関してです。乱視とはピントがうまく合わず、「ぼやけて見える」「にじんで見える」状態のことです。乱視と聞くと「見えにくくて困るもの」よくないものと思うかもしれませんが、実は軽い乱視は、ピントの合う範囲=“焦点深度”が広がって、近くも遠くも、ほどよく見えることもあります。そのため全ての乱視が悪であるというわけではありませんが、乱視が強いとやっぱり日常生活に支障が出ます。ものが二重に見えたり、にじんだりして、遠くも近くもどこもピントが合いにくいということがあります。そこで登場するのが、「乱視用の眼内レンズ」、トーリックレンズというものです。これは、白内障手術のときに普通のレンズの代わりに使うことで、乱視もいっしょに矯正できるかなり優秀なレンズ。……なのですが、ここにちょっとした“医療の裏事情”があります。実はこのトーリックレンズ、仕入れ値が高いのです。更に、保険診療では「乱視があるかどうか」で診療報酬の点数が分かれていません。つまりどういうことかというとクリニックが高価な乱視用のレンズを使っても、その分の収入は増えません。増えないどころかむしろコストだけが上がります。言ってみたら乱視用の眼内レンズはクリニックにとっては“ただコストがかかるだけ”という現実があります。それだけではありません。トーリック眼内レンズは、ただ入れるだけではダメで、正確な位置に回転させて固定するという、ちょっとした技術も必要です。これがまた簡単ではなく、神経を使う作業となります。本来なら、こうした技術やコストに対しても報酬があるべきだと思うんですが、現状の制度では、普通のレンズとまったく同じ扱いになっています。
患者さんにとっては乱視用のレンズを使っても費用が変わらないのでいいことではありますが、このような裏事情があるので、クリニックによっては「うちはトーリックレンズ扱っていません」、「乱視は年齢とともに変わるから、入れても意味ないですよ」と説明されたという患者さんもいます。でも実際は、強い乱視がある方には、トーリックレンズを入れた方がかなりクリアな見え方になります。
すべての乱視を矯正しないといけないわけではありませんが、強い乱視の場合は、しっかり矯正した方が明らかに見え方がよくなります。
そのため、
①自分に乱視があるのか?➁ その乱視は矯正したほうがいいのか?
➂ その病院ではトーリックレンズを使ってくれるのか?
こういったことを事前にしっかり確認しておくことが、とても大切です。
色々話しましたが知っている事が多かったらかなり眼内レンズに関して詳しいと思ってください。最後にもう一度、重要なポイントを整理して、後悔しない選択のためのヒントをまとめます。
まとめ
①多焦点が「必ず良い」とは限りません。
➁最新モデルが「必ず良い」とも限りません。
➂高齢になるほど多焦点眼内レンズの効果は出にくい傾向にあります。
➃鮮明な手元の見え方を期待するなら多焦点より単焦点の方がいいです。
⑤白内障があまり進んでいない状態での多焦点眼内レンズは要注意です。
⑥多焦点眼内レンズに否定的で選択肢を提示しない医療機関も存在します。
⑦乱視矯正がされないまま手術されることもあるので注意してください。
レンズ選びは、“これからの視界”を左右する重要な選択です。後悔しないために、正しい情報と冷静な判断で、納得のいく選択をしてください。
今回は白内障手術で“このようにレンズを入れたから後悔しましたと”いうことに関してお話しいたしました。
(2025.5.16)