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179.単焦点眼内レンズの全て

今回は白内障手術で使う単焦点眼内レンズで知っておきたいことに関してお話しいたします。

白内障手術では手術をうける方の95%以上は単焦点眼内レンズが選ばれています。

単焦点眼内レンズはどこにピントを合わせるか非常に大切になります。

医師から遠くに合わせますか?近くにあわせますか?どこに合わるか聞かれると思いますが、なんとなく遠くとかとにかく近くがいいと伝えると思わぬトラブルの原因になることがあります。

手元合わせにしたけど、思った以上に遠くが見えない、もう少し遠くに合わせた方がよかったなあとか遠くはみえるようになったけど、近くは全然見えないなとか不満に繋がることがあるからです

今回は手術前におさえておきたい単焦点眼内レンズの特徴に関してお話しいたします。

単焦点眼内レンズは単焦点という名前がついている通り見える範囲が限られています。そのためどの部分にピントを合わせるのかということが大事になってきますが、単焦点眼内レンズにもある程度の明視域、焦点深度があります。

ピントがあったその部分しか見えないですか?少しでも離すと全くみえませんかと聞かれることがありますが、ある程度の明視域があります。例えば完全に遠方に合わせた場合どの距離までみえると思いますか?10m以降遠方ですか?5m以降遠方ですか?1m以降遠方ですか?

完全に



遠方に合わせた0Dの状態の焦点深度をみてみると分かるんですが、焦点深度曲線このようになっています。

医療機関用のデータなので少しわかりにくいかもしれませんが、左は視力で下がピントが合う距離になります。どの部分



にピントを合うかは、D【ディオプター】という屈折の数値で決まります。

簡単にDに関して説明すると

0D



が完全に遠方に合っている状態です。5m以降遠方にピントが合っている状態が0D。

ここからマイナスの数値が大きくなるほどピントは手元によってきます。0Dよりもー1Dの方が近くがみえますし、―1Dよりもー2D、更に-3Dの方が近くにピントが合います。

Dの数値の逆数で距離を出しています。-1Dなら1分の1で1mにピントが合います。ー2Dなら2分の1で50cmにピントが合います。-3Dなら33cmにピントが合います。

そのため距離を記載すると先ほどの図はこうなります。



0Dに合わせた場合視力は1.2でています。1.2前後はブルーで書かれていますが、これは±0.5D



の範囲で少しねらい度数からずれても視力は1.0キープきますよという意味です。

単焦点眼内レンズはこのように屈折誤差耐性が少し備わっています。今は機械が優秀なので測定した度数から外れるということはほとんどありませんが、それでも多少ずれやすい方がいます。

±0.5Dの範囲なら目標度数から少しずれても視力はでます。

それでどの程度まで見えるかですが、有効視力といって実用的な視力は0.6以上とされているので0.6



までみえるはどこまでかというと、大体1m~70cm程度です。

なので完全に遠方に合わせた場合どこまでピントが合うのかの答えは



だいたい1m以降遠方にピントが合いますよということになります。単焦点眼内レンズにも1D弱の焦点深度があります。0に1Dの明視域を加えたー1Dまでの範囲、すなわち1mまでピントが合うというように考える事もできます。

運転を裸眼でしたい、演劇や景色を裸眼で楽しみたい、とにかく遠くの見え方にこだわりたいという人の合わせ方です。

スマホや読書といった近距離はもちろん料理やパソコンなどの中間距離は眼鏡が必要になると考えてください。

運転手などしっかり遠方に合わせた方が良い方は0Dに合わせるということでいいと思います。しかし、そうでない方が完全に遠方に合わすのはあまりおすすめしません。レストラン行ってメニュー表も見えない、パソコンも見えない、食べるものも分からないと中間の見え方に不満となる事があるからです。

遠方合わせでも0Dより少し近視側―0.5Dに合わす事もあります。焦点深度曲線



でみるとこのような感じです。-0.5Dは2mなので、2mの位置で視力のピークが出ます。私はドライバーとか特殊なお仕事をされている方を除けば遠方合わせは-0.5D程度に合わすことを勧めています。-0.5近視側




にずらしても遠方視力だいたい1.0程度維持できて、そして70cm程度の中間視力もあがるからです。

0Dとの視力を比べて


みるとこのような感じです。(※視力は年齢や瞳孔径等で変化するのであくまで参考値となります。)

遠方視力はもしかしたら0.8程度になるかもしれませんが、家の中でテレビを見るぐらいでしたら充分な視力です。0.8あれば裸眼で運転もできます。5m以降遠方視力は0.8以上、2m視力1.2、1mは1.0  70cm視力0.8 50cm視力 0.5  40cm視力  0.4 30cm視力 0.3です。近方視力はまだまだ不十分ですが、0Dと比べると遠方視力を維持しながら中間距離の70cm視力が0.6を超えてくることがポイントになります。-0.5Dに合わすと単焦点の1Dの焦点深度を考えて、-1.5D、すなわち66cm程度まではピントが合うということになりますね【この部分は余白に字幕お願いします】。

このように同じ遠方合わせでも0Dと-0.5Dでは少し違ってきます。ただ遠くに合わせてくださいというと、しっかり遠方に合った0Dで計画される場合があります。家の中がほとんどで、できるだけパソコンのような中間視力を維持しながら遠方に合わせたい方は-0.5D程度の度数が合っていると思います。

このような感じでメインとなる焦点深度曲線をズラすと、ずらした分だけ明視域は変わってきます。近視側にずれるほど遠方視力は落ちますが、近方視力はよくなります

次に中間合わせで多い-1.0D


をみてみます。
これも-1Dに単焦点の1Dの焦点深度を加えると-2D、50cmまでピントが合います。1mの位置に視力のピークがきて、近方50cm程度までみえるということになります。遠方視力は0.6、2m視力1.0、1m視力1.0 70cm視力0.8 50cm視力0.6 40cm視力0.4 30cm視力0.3となります。0.6以上の視力が有効視力なのでだいたい50cm~2mまでピントが合うイメージです。(※視力は年齢や瞳孔径等で変化するのであくまで参考値となります。)

料理やパソコンといった生活スタイルが中心な方には合っていると思います。ただし50cm以下の距離はピントが合いにくいです。新聞の見出しは見えても文字は少し離さないと見にくいかなと思います。スマホもピントを大きくしないとみにくいと思います。細かい文字を見るときは老眼鏡が必要で、運転のときは眼鏡が必要となることを分かっている方にはいいと思います。

次は中間合わせでも少し手元に合わた、-1.5D


をみてみます。1Dの焦点深度があることを考えると-2.5D、40cmまでピントが合うことになります。距離にすると40cm~2mにピントが合います。遠方視力0.4、2m視力0.8、1m視力0.9 70cm視力1.0 50cm視力0.8 40cm視力0.6 30cm視力0.4程度となります。パソコンは裸眼でできますし、スマホも40cm離せばピントがあいます。個人的には幅広く焦点が合うので好きなピントの合わせ方です。自分が単焦点眼内レンズ入れるならここに合わすかなとも思います。車の運転をするときは眼鏡が必要になりますが、家の中だと裸眼で生活できます。

次は手元合わせの-2.0D



の場合をみてみます。-2Dなので50cmの部分で視力のピークがきて、-2Dに1Dの焦点深度を加えた-3.0D、3分の1で33cmまでピントが合います、距離にすると30cm~1mにピントが合うということになります。視力は遠方視力は0.3、2m視力0.5、1m視力0.7 70cm視力0.9 50cm視力1.0 40cm視力0.9 30cm視力0.6となります。パソコンから特に手元の作業が中心の方にはおススメです。

更に手元に合わせた-2.5D



の場合をみてみます。-2.5Dなので40cmがピークになります。-2.5Dに1D程度の焦点深度を加えると-3.5D、28cmまでの範囲にピントが合います。距離にすると30cm~70cmにピントがあいます。

遠方視力は0.3、2m視力0.4、1m視力0.5 70cm視力0.6 50cm視力0.9 40cm視力1.0 30cm視力0.7となります。手元合わせは-2.0Dまでで充分本などみえると思いますが、中には読書を何時間もされる方おられますし、とにかく手元の見え方にこだわっている方はより近い距離に合った-2.5Dでもよいと思います。

-2.5Dよりも更に手元に合わせる、-3.0Dとか近視の値を強くすることはできますが、おすすめはしません。遠くがかなりぼやけるからです。-3D



であわすとこのような感じです。遠方視力は0.2、2m視力0.3、1m視力0.4 70cm視力0.5 50cm視力0.7 40cm視力0.8 30cm視力1.0となります。50cm以内しかピントが合わないのでだいぶ見える範囲が狭くなるんですよね。(※視力は年齢や瞳孔径等で変化するのであくまで参考値となります。)

一昔前は手元合わせは-3Dでとしていたときもありましたが、見ていただいた通り-3Dまで近付けると裸眼での明範囲は30-50cmとかなり狭くなります。

ましてや-4Dや-5Dにすると更に見える範囲は減りますのでおすすめしません。

ここは私の経験上の話になりますが、手元合わせでも-2.0Dで近くがみにくいと言われたことはないです。

これを何故説明したのかというと、実際他院で手術された患者さんでおられたんですが、近くがみたいにと伝えた結果、―2Dでもある程度手元の見え方はカバーできるのに、30cmに視力のピークがくる―3Dとかー3.5Dで手術されていました。

確かに30cmにピントは合うんだけど、少し離すと全くピントが合わない。パソコンも眼鏡をしないとみえない本当に不便だもう少し遠くに合わせてほしかったというような感じです。

手元合わせでも基本的にはできるだけ遠方を確保しながら見たいポイントも確保するということが大切ですので、どのような見え方になるかきちんと知っておく必要があります。

そのため単焦点眼内レンズの度数を決めるうえで次のことを知っていてください。

1つ目、単に遠く、または近くに合わせてくださいと伝えるよりは、自分の生活スタイルをできるだけ話してこの範囲がみえたらいいなというように伝えてください。

読書が好きなので、本を読む距離にピントを合わせたいです。ただし、ある程度遠くも見えるようにしたいとか、遠くに合わせたいけど、パソコンもできたらみたいとか、本も読むし、スマホもするし、パソコンします、そのあたりが裸眼でできるようにしたいとか。どこも全て見えるようにというのはやはり難しいですが、具体的に焦点が合う部分を伝えてもらうとこちらもイメージしやすくなります。

2つ目、できるだけ片目ずつ手術をするようにしてください。白内障手術は安全性が高くて現在両眼同日行うところが増えていますが、基本は別々に分けることをおすすめしています。片目手術を終えたあとに思っていたイメージと実際の見え方が異なる場合があります。そのときに反対の目を手術するときに微調整することができます。

例えば片目-1.5Dを狙って手術をしたけど、もう少し近くにピントを合わせたい場合、もう片目は‐1.75やー2Dの状態にして両眼での見え方を少し深めることもできます。左右で0.5D程度ずらす、わずかにずらす事をマイクロモノビジョンといいますが、0.5ずらしたぐらいではほとんど見え方に差はできません。両目同時だと思っていた見え方と違ったとなった場合対応が中々難しくなります。

3つ目、強度近視の方で、片目だけ手術をするような方も注意してください。

白内障手術は近視や乱視を治せる絶好の機会です。片目はほとんど白内障がないから、片目だけの手術にしましょう。強度近視残ってしまうけど、眼鏡をすればいいのでとか元々の状態が強度近視だからと説明を受けた場合はちょっと考えた方がいいかもしれませんね。一生強度近視が残ることに納得していればいいですが、手術の機会に少しでも近視を弱めた方がいいと思います。場合によっては白内障が軽い方の目も早めに手術を検討して度を調整するということも検討されるかなと思います。

このように単焦点眼内レンズはある程度の明視域があります。

よければ参考にしてください。

今回の話をまとめますと

  1. 単焦点眼内レンズにも1D程度の焦点深度があります。
  2. 遠方合わせの場合、運転手など特殊な仕事をされている方は0D、テレビが見えたら充分という方は-0.5D程度がおすすめです。
  3. 手元合わせは-2.0Dがおススメです。何時間も読書をする方は更に手元の-2.5Dでもよいと思います。-2.5Dよりも強い近視を残す事はあまりすすめません。
  4. 出来るだけ片目ずつ手術をしましょう。
  5. 強度近視の片眼だけの手術は注意してください。

という5点です。単焦点眼内レンズは多焦点眼内レンズほどではありませんが、ある程度の明範囲があります。このようなことも知って頂いてレンズの度数を決めて頂けたらと思います。今回は単焦点眼内レンズの特徴に関してお話しいたしました。

(2024.10.10)