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177.ウォーキングによる目への健康効果

今回はウォーキングによる目への健康効果に関してお話いたします。運動習慣は健康維持のために大切であることは多くのかたがご存知だと思いますが、目にとっても大切です。

例えば、いくつかの研究



では、ウォーキング、ランニング、ジョギングなど有酸素運動を定期的に行うことで眼圧が下がることが報告されています。眼圧は緑内障にとても関連しているので、運動することで緑内障のリスクが減少する可能性があります。また、糖尿病



の予防にもなります。糖尿病は眼に悪影響を及ぼす疾患です。糖尿病性網膜症



などのリスクを高めるので、血糖値を適切にコントロールすることが目の健康にとっても重要です。その他に、近年のアメリカの研究



では、運動をよくする人は、そうでない人に比べて加齢黄斑変性の危険性が軽減するという報告がされています。 運動によって抗酸化作用や抗炎症効果が高まって網膜への酸化ストレスを軽減する可能性が考えられています。

このように運動することで様々な健康効果が期待されますが、それでも多くの方は、そうはいってもなかなか忙しくてジムで筋トレするような時間もないし、めんどくさい、気が進まないなと思う方もいると思います。そのような方にご紹介したいのが今回のウォーキングです。ウォーキングだったら、日々の通勤、買い物などのついでに少し行う事ができると思いますし、緑内障においてはウォーキングで視野の進行に抑制があったという報告もあるぐらいです。
今回は目のために知っておきたいウォーキングに関してお話しいたします。

ウォーキングに対する研究は様々おこなわれていて、多くの健康効果があることで知られています。最強の生活習慣の1つとしてもよく挙げられています。

ウォーキングは、免疫レベルが向上して感染症やメタボの予防、インスリンの感受性を高めることで糖尿病などの生活習慣病にも役立ちます。骨粗鬆症の予防にもなり、筋肉の強化にもつながります。ストレスや不眠、うつ、不安など自律神経に関連した不調、心疾患のリスクの軽減、認知症の予防や認知機能の改善、さらにはがんなどの病気にも効果があり、死亡率


を下げることもわかりました。
2110人



の成人を平均10.8年経過をみた報告では1日7000歩以上歩く人は7000歩未満の人に比べて死亡率が50-70%減少するということが報告されました。本当にウォーキングのみが影響しているのか、対象となる方の既往歴や体重、喫煙歴、飲酒歴、年齢などその他の条件をすべて加味したうえで行う統計を多変量解析といいますが、そのような特殊な統計方法をしてもウォーキングのみが50-70%の死亡率の低下と関係しているということが分かりました。もう1つ




興味深い結果はただ歩けば歩くほどいいというわけではなく、1日1万歩までのウォーキングは徐々に死亡率は減少していきましたが、1万歩以上歩いても健康効果は横ばいだったということです。7000歩から1万歩歩く人は7000歩未満の人と比べると死亡リスクが72%低下してました。

この結果はこの論文だけでなく同様な結果が他にも報告



されています。ウォーキング



の効果は1万歩以上になると横ばいになり、4000歩未満



の人と8000歩以上の人で比べると51%死亡率が有意に低かったという報告もされています。
ウォーキングを行うことは非常に健康によい可能性がありますが眼にもよいです。

生活習慣病の糖尿病は目にも影響します。糖尿病は血液中の糖分が多いことで、全身の血管が傷ついていく血管病です。高血糖が長期間にわたって続くと、身体の細い血管から障害されていきます。とくに細い血管が集中している神経、目、腎臓は合併症が起きやすく、神経→目→腎臓の順に症状がでてきます。これを糖尿病の三大合併症と呼び、頭文字をとって“しめじ”といわれています。目に対しては糖尿病網膜症が発症し、重症化すると血管新生緑内障という難治性の緑内障を引き起こす可能性があります。

2020年のスエーデンで報告された内容



ですが、患者の一日の歩数が糖尿病の発症のリスクに影響するかどうかを調査しました。糖尿病の罹患歴がない、3055名平均70歳の方を調査したという内容です。こちらも先ほどの内容と同様の結果が報告されています。歩けば




歩くほど糖尿病の罹患率が低下しますが、だいたい8000歩以上歩いてもその効果は頭打ちになりました。1日



あたり少なくとも6500歩歩く人は1日4500歩未満の人と比べて糖尿病が発症するリスクが57%減少していました。1日8500歩



あるくひとは4500歩未満の人と比べると63%リスクが減少していました。糖尿病になると糖尿病網膜症



のリスクが高まります。糖尿病を予防するためには1日8000歩のウォーキングを意識することで予防につながる可能性があります。

緑内障



に関してはウォーキングは視野の進行の速度を抑えたという報告がされています。この研究では60 歳から 80 歳の緑内障患者 さん141 名が参加しました。全員に万歩計をつけて調査した結果

普段のウォーキングから1 日 1,000 歩増えるごとに、視野の感度低下が抑制される傾向があり、5000歩普段の歩数から追加すると視野進行がベースラインから10%抑制されました。

1日あたりより多く歩いて、より多くの身体活動をすることが緑内障による影響を抑えるために重要であると考えられてます。

定期的な運動は、緑内障の主な危険因子の 1 つである眼圧を下げるのに役立つ可能性がありますし、循環の改善作用も期待できます。日本人に多い正常眼圧緑内障は視神経の血流の問題点も指摘されているので非常に重要です。

または運動には加齢によって減るBDNF 脳由来神経栄養因子という視神経の修復・成長に必要な栄養因子を増やす作用があることで知られています。緑内障患者さんはこのBDNFの血中濃度が低いという報告もされているのでそのような点からも運動習慣は重要と考えます。

もちろん運動だけでは緑内障の治療に代わるわけではありませんが、日々の目薬に加えることで病気の進行を遅らせる可能性があります。

加齢黄斑変性症に対しても報告されています。加齢黄斑変性症



は視力の要となる黄斑部に障害がおきる病気です。滲出型と萎縮型の2つのタイプがありますが、治療の対象



となるのは滲出型のみです。日本人はこのうち滲出型が7.8割りと多いです。治療法はあって効く方もいますが、効果は限定的な場合もあるので早期発見して進行しないようにするというのが緑内障と同じで重要です。禁煙やルテインやゼアキサンチンという栄養素を含んだサプリメントや食事をとることは効果的と考えられていますが、運動習慣を作る事も有効です。ウォーキングに関しても次のような報告がされています。

15年間



にわたって3874名の方を追跡調査した研究では、滲出型の加齢黄斑変性症が発症するリスクはウォーキングの習慣がある方は習慣がない人と比較すると30%低い。更に週に3回定期的な運動習慣



を行っている人はしていない人と比べて、70%も低いと報告されています。

2017年にはメタ解析といってこれまでに報告された論文の研究結果をまとめたものでは、加齢黄斑変性症に対する身体活動の有用性が分析されました。

その報告



によると運動習慣がある方は早期の加齢黄斑変性症に対するリスクを8%低下させて、末期の加齢黄斑変性症に対してはリスクを41%低下したと報告されています。

末期まで進行すると元の状態に戻すことはかなり困難です。遺伝子治療、IPS細胞を使った移植治療の研究が進められていますが、これらの治療法はまだ臨床試験段階で、利用可能になるまでにはまだまだ時間がかかる可能性があります。

運動習慣を組み合わせることで、加齢黄斑変性症から眼を守る可能性があります。

白内障についてはどうでしょうか。こちらもメタ解の報告がされています。身体活動



と加齢性白内障のリスクを調べた研究で運動習慣がある方は10%減少すると報告されています。身体活動の増加が抗酸化酵素の活性を高めて水晶体の酸化ダメージを軽減する可能性が考えられています。日本のような先進国は白内障になっても手術すれば治るからとあまり心配されない方もいるかもしれませんが、世界での失明率一位は実は白内障です。医療が充分に行き届いていない発展途上国では、依然として多くの患者さんが白内障に対して適切な治療を受けられない状況にあります。そのためこのような予防を含めた研究がされているわけなんですね。

1日に歩くべき歩数は、健康状態などによっても違ってくるので、無理にでも歩いてくださいというわけではありませんが、一般的な目安としては7000-8000歩歩くと目を含めた全身的な健康のメリットがありそうです。1万歩以上あるいても効果が横ばいとされる報告が多かったです。

まずは少しずつ歩く習慣を作ってみてはいかがでしょうか。エレベーターを使わず階段を使ってみるとか、休憩時間に少し歩いてみる、買い物まで車を使わず歩いてみるとか無理のない範囲で、徐々に増やしていくのが良いかもしれません。気楽に、無理なく、長く続けることが、重要です。

今回の話をまとめると

  1. 7000-8000歩程度あるくと4000歩未満の人と比べると死亡率が半減していました。
  2. 糖尿病の罹患率の低下とも関係があります。
  3. 緑内障進行に関しては日々の歩行数に1日5000歩追加すると10%の視野抑制効果が報告されています。
  4. 週3回以上運動習慣がある方は滲出型黄斑変性症の発症リスクが70%低いと報告されました。
  5. 抗酸化酵素の働きを高めて白内障を予防します

ウォーキングは全身的な健康効果に留まらず緑内障、加齢黄斑変性症、白内障といった眼の病気にも関係がありそうです。ウォーキングをすればそれでいいというわけではありませんが、日々の治療に加えて行えるといいですね。今だとスマホやスマートウォッチで簡単に測定できるので、何歩ぐらい歩いているかチェックしてみてはいかがでしょうか。

今回はウォーキングによる目への健康効果に関してお話しいたしました。

(2024.10.1)