今回は白内障手術をしたらどのような見え方になるのかという事に関してお話しいたします。
白内障手術でやはり気になるのは、手術後の見え方はどうなるのか? ということだと思います。思った通りの見え方になるか気になりますよね。
白内障手術は濁ったレンズを除去して人工のレンズに入れ替える手術です。術後の見え方はそのレンズの種類やピントの合わせ方が大きく影響します。手術後の見え方は、ある程度術前に話を聞くと思いますが、あまり分かっていなかったりすると、
「視力は上がったけど手術前より不便になった、こんなはずではなかった」
ということがあります。視力があがったのに不便になるとはどういうことだろうと思いますよね。
実際に手術を受ける前の方が便利だったということがあるので注意して頂きたいのですが、そうならないために知っておきたいことがあります。
今回は白内障手術術後の見え方に関してお話しいたします。
白内障手術は濁ったレンズを除去して人工のレンズに置き換える手術です。術後の見え方は目に入れる人工レンズが大きく影響します。
そのレンズは大きく二つに分かれます。1つが単焦点眼内レンズ、もう1つが多焦点眼内レンズです。単焦点眼内レンズは通常保険診療で入れるレンズです。単焦点眼内レンズは遠くも近くも見えるようになる!というものではありません。単焦点という名前がついている通りピントが合う箇所は限られています。遠くに
合わせると手元は眼鏡、近くに合わせると遠くは眼鏡といったように、術後は眼鏡が必要になります。中には単焦点眼内レンズでも眼鏡が不要になるかたもいますが、まれです。
単焦点眼内レンズの場合、ピントの合わせ方は、遠方に合わせるか、中間に合わせるか、近距離に合わせるかのいずれかです。生活スタイルに沿って裸眼でピントが合う部分を決めていきます。裸眼でどこにピントを合わせたいか手術前に考えておいてください。自動車
や登山をするときに裸眼で過ごしたいということなら遠方合わせになります。買い物をしたり化粧をしたり、料理をしたり、パソコンをしたりピアノを弾くことなど幅広い日常生活の見え方を確保したいという方は中間合わせになります。読書、新聞、スマホという生活が中心なら近方合わせになります。
まず遠方に合わせた場合、どのような見え方になるのでしょうか。
完全に遠方に合わせた状態の見え方のイメージは
こんな感じです。確かに遠くはしっかり見えるけど、近距離のスマホ、中間距離のパソコンは見にくいですよね。しっかり遠方
に合わせると見える範囲はだいたい1mまで、50cm程度
の中間距離は視力が0.4ぐらい、手元は0.2程度になります。有効視力といって実用的な視力は0.6以上なので、50cm以内の距離は不十分になります。しっかり遠くに合わせると、パソコンも少しぼやけて見えますし、手元はほとんどピントが合わないという状態になります。そのため
術後は近用の眼鏡または遠近両用の眼鏡が必要になります。
車の運転や、映画鑑賞、演劇鑑賞、スポーツをとにかく裸眼で楽しみたいという方にはいいかなと思います。
車の運転免許は返納している、生活の中心がほぼ家で、テレビがみえたらとりあえずよい、裸眼視力1.0も必要としないという方は同じ遠方合わせでも、2m程度
の距離に合わせる事があります。
2m
のポイントに合わせると、遠方視力は0.8程度と少し下がりますが、その分中間距離の見え方は完全に遠方に合わせた場合より楽になります。手元はやはり老眼鏡が必要になりますが、50cm程度の視力が0.6ぐらいでてきます。パソコンぐらいまでの距離なら見える方が多いかなと思います。ただし手元の視力は0.3程度、近見はやはり眼鏡が必要です。
中間距離は60cm程度~1mの距離をいいます。パソコン作業や料理、買い物などある程度、日常生活を裸眼でカバーしたい方はこの部分にピントを合わせます。スマホなどは少しピントを大きくしないと見にくいかもしれません。細かい文字は老眼鏡で、運転などをする際は眼鏡という方には中間距離に合わすことがあります。
近距離は30、40cmに合わせることです。イメージ
はこんな感じです。とにかく裸眼で新聞、読書をしたい、テレビはあまりみない、見ることがあっても眼鏡をすることが分かっている方です。70代後半のご年配の方に多いです。もう遠くはいい、とにかく手元がしっかりピントがあうようにしてほしいという方結構多いですね。その場合このように近くにピントを合わせます。
これが保険での単焦点眼内レンズの合わせ方です。
冒頭で話した視力がよくなったのに術後不便になるという方はどのような方かというと、術前に手元のピントが合っているのに術後見えなくなってしまう方です。
イメージ
でいうとこんな感じです。
一般的な視力検査は、5m離れた視標で測定する視力検査です。指標から5mくらい離れたところに皆さん座って視力検査していると思います。これは視力検査の中でも遠見の視力検査で、遠方の視力を測ってます。視力検査といえば このような遠方視力を測るもののみと思われがちなのですが、近見の視力検査もあります。30cm程度指標を離して近くがどの程度みえるかという視力検査です。
ここは少し注意が必要なのですが
遠方視力が悪ければ、近見視力も悪いというわけではありません。
遠方の視力が悪くても近見視力が良い方は結構みえます。
極端な話をすると通常
の遠方用の視力検査で0.2、0.3ぐらいしかみえていなくても近見視力が0.6、0.7見えていれば手元が見えるので家の中で生活する程度ならあまり不便に感じません。そのような方が安易に遠くにピントを合わせると、裸眼での術後の遠方視力は1.0前後まであがりますが、近見視力は0.2、0.4程度になって今までより下がってしまいます。
これが術後不満となるケースです。
術前からこの見え方を理解されている方ならいいのですが、あまり理解されないまま手術するとこのような不満に繋がる場合があります。
できるだけ保険内で裸眼で見える範囲を広げたい方はレンティスコンフォート
という眼内レンズも選択になります。こちらは保険診療で使用できる唯一の多焦点眼内レンズになります。遠方
に合わせるとこのような感じになります。単焦点の場合
遠方に合わせると、だいたい1mぐらいまではピントが合いますが、レンティスコンフォートなら60cmまで合います。パソコンぐらいまでの距離ならピントが合いますし、場合によってはスマホもフォントを少し大きくしたり、または腕を伸ばせば見える場合があります。
単焦点眼内レンズも多焦点のレンティスコンフォート、手術費用は全く同じです。多焦点だから追加費用がかかるということもありません。
それなら幅広く見えるレンティスコンフォートの方がいい!となるわけですが、注意点もあります。多焦点眼内レンズ特有の
①ハロー・グレアという異常光視症
が少しでます。イメージ
としてはこんな感じ、光の滲みや、輪っか状の光が見えるようになります。通常の多焦点より軽めではありますが、夜間運転される方は若干注意が必要です。また、
②くっきりはっきり見るチカラをコントラストといいますが、単焦点よりは若干落ちます。絵を書いたり、デザイン関係の仕事をしている、また細かい作業が好きな方には適していません。
そのため
③白内障以外に眼疾患がある方や、加齢による見る力が衰えている方も適応外となります。
人は水晶体だけでものをみているわけではありません。角膜や水晶体の奥、硝子体、網膜、黄斑、脳が全て正常に機能する必要があります。
緑内障や黄斑変性症のような病気があったり、加齢による網膜の機能の低下が疑われる方は多焦点眼内レンズではすっきりした見え方にならない可能性があるので原則適応外となります。
極力レンズによる副作用を減らしたい方は最近出たビビディがおすすめです。ただしこちらは選定療養という形になり、一部自己負担金が必要となります。また現時点では乱視用がでていません。裸眼での見える範囲はレンティスコンフォートと同等ですが、コントラストがよく、ハロー・グレアも単焦点と同等でほとんど感じません。単焦点眼内レンズと見え方の質が同じで、そのまま見える範囲が広がったレンズと思ってもらえたら良いと思います。
ただし、近距離は弱いので、30-40cmの距離を裸眼でスマホをみたいという方には適しません。出来るだけ自然な見え方で、近距離は眼鏡が必要になるかもしれないと理解されている方にはよいかなと思います。
近くまで裸眼で見たい方は同じく自己負担金が必要ですが、パンオプティクスのような3焦点タイプがよいと思います。こちらは40cmまでピントが合います。見え方のイメージ
はこのような感じです。遠くも近くも見える、便利なレンズではありますが、多焦点眼内レンズ特有の問題点、ハローグレアとくっきりはっきり見るコントラスト感度が若干下がります。
神経質な方やデザイン関係の仕事をされている方は注意が必要です。
このように白内障手術術後の見え方は入れるレンズであったり、その合わせ方によって変わります。眼内レンズの選び方は、①術後眼鏡をすることに問題ないか ➁裸眼でどこの距離が譲れないか、または諦めれるか ➂デザイン関係の仕事をしているか ④眼疾患の有無 ⑤金銭的な事情はどうか ということによってかわってきます。
患者さんとしてもあまり難しい話はされたくないようで、レンズは先生にお任せでいいですと言われることが結構ありますが、ここの確認はとても大切です。
万が一入れたレンズがどうしても合わない場合、取り出して入れ直すといった事が必要になりますが、眼鏡のレンズ交換のように簡単に出来る事ではないので後悔しないように決めて頂けたらと思います。今回の話をまとめますと
①単焦点眼内レンズで完全に遠方に合わすと裸眼で1mまではピントがあいますが、50cm以内の距離は基本眼鏡が必要になります。
➁遠方合わせでも少しピントを手前【2m】にするとパソコンぐらいまでの距離が見えるようになります。
➂手元にピントが合っている方が安易に遠方に合わすと、手元が見にくくなって後悔することがあります。
④幅広くみたいという方は保険ならレンティスコンフォート、選定療養ならビビティがおすすめです。
⑤とにかく眼鏡をしたくない方は三焦点タイプがよいです。
という5点です。
白内障手術術後の見え方を完全に術前に再現できれば術後の不満に繋がらないと思いますが、それができないのでできるだけイメージして、ゆずれない事をしっかり確認しておくことが重要だと思います。運転は絶対眼鏡をしたくない、その代わり手元は老眼鏡を許容できるとか、とにかく眼鏡をしたくないとか、遠くはいいからとにかく新聞を裸眼で読みたいとか、何が譲れないのか教えて頂けるとこちらも対応しやすいです。
よければ参考にしてください。今回は白内障手術術後の見え方に関してお話しいたしました。
(2024.6.18)