今回は目のために積極的に摂りたい魚に関してお話いたします。
目のために必要な栄養素といえばルテインやゼアキサンチンといったカロテノイドが代表的な栄養素です。これらは抗酸化作用が強くて、目の機能を維持するための大切な栄養素であることが認識されています。代表的な研究はAREADsという、大規模スタディといって米国の何万人もの患者さんから統計をとって出した研究結果から明らかにされています。
ルテインなどは目の水晶体と網膜
に含まれている事が明らかになっていて、白内障や黄斑変性症の発症や進行抑制に効果があることが報告されています。
積極的に摂りたい栄養素の1つなんですが、目のために大切な栄養素が他にもあります。ずばりDHAとEPAという脂です。
脂というと①太るとか②カロリーが高いとか➂血管が詰まるとか
身体にとってあまりよいイメージがないかもしれません。
しかしひとくちに脂といっても脂には様々な種類があって、とりすぎ注意な脂、豚肉や牛肉、バターなどに含まれる飽和脂肪酸と、不飽和脂肪酸の中でも積極的にとりたいオメガ3系の脂があることで知られています。
今回は目のために必要な脂に関してお話させて頂きます。
人はものを見るときに、角膜から水晶体、硝子体、網膜、網膜の中にある視細胞が光を受け取って、それを電気信号に変換してその刺激を視神経、脳と伝えて物をみています。
このうち目の後ろ側、網膜や視神経そして脳は脂がとても多い部分です。他の臓器の細胞に含まれる脂質の内、DHAの含有量はだいたい1-5%程度とわずかですが、脳や網膜のような神経系の組織はDHAが特に多くて50%程度も含有している事で知られています。
DHAはこのように
①目に大切な網膜などの神経系の構成成分
であるということだけでなく
➁抗炎症作用
➂抗酸化作用
があり網膜などの組織の機能を維持して、網膜の変性を防ぐ作用があります。
事実DHAが不足することで視機能に関する様々な障害が生じることが報告されています。
具体的には
糖尿病網膜症、加齢黄斑変性症といった網膜の炎症性の疾患です。
糖尿病網膜症は国内では中途失明原因3位の眼疾患
です。DHAには新生血管抑制作用というものがあります。新しく生えてきた血管と書いて、新生血管といいますが、非常にもろくて、すぐに出血して網膜に悪影響を与えるよくない血管です。
重症型の糖尿病網膜症や加齢黄斑変性症はこの新生血管が目を悪くします。症状がひどい方だと目の中に注射したりレーザー治療をしたりしてこの悪い血管の働きを抑制させたり、破壊したりするんですが、活性化したDHAはこのような新生血管を抑える作用がある事が報告されています。
糖尿病網膜症を発症している患者さんを調査した報告によると、DHAの摂取が多い人と少ない人で比べたところ重症型の網膜症を発症している人が38%低かったというような報告もされています。
加齢黄斑変性症は中途失明原因4位の病気
で国内でも食の欧米化などで今後増えていくとされている眼疾患です。視力が落ちるだけでなく、物が歪んでみえたり、見ている中心部に暗点ができたり、非常に厄介な視覚的な後遺症を残す眼疾患です。これもある報告では週に2回魚を食べると、初期および後期加齢黄斑変性症のリスクを30%程度低下したという報告もされています。
このような網膜系の病気だけではありません。ドライアイの症状とも関係があります
ドライアイは単純に涙の水不足と思わている方が多いと思いますが、涙は水だけでなくて水と脂の2つの層でできています。
水分の上に油の層があって、脂は水分が蒸発しないように大切な役割があります。
実際、日本人のドライアイの8割は水分が不足しているわけではなく、油不足が原因であることが知られています。
そのため市販のドライアイの目薬は水分を補う目薬がほとんどなので、効果が限定的であることが多いです。
DHAなどのω3脂肪酸は
①ドライアイによっておきている眼表面の炎症を抑える
だけでなく
➁マイボーム腺
という脂の分泌腺から出る脂の質を改善する効果があることが報告されています。
このように糖尿病網膜症、黄斑変性症、ドライアイなど幅広い眼疾患の予防や改善効果があることで知られています。
もちろん目だけではありません。全身的にも冠状動脈性心疾患による死亡リスクの低下、加齢に伴う認知機能低下の遅延とも関連しています。
しかしDHAは、ルテインなどと同様に加齢と共に減少することで知られていて、また必須であるのに体内で合成できないので積極的に摂取する必要があります。
ルテインとDHAが一緒に摂れる食品があれば便利なんですが。中々ありません。
ルテインが多く含まれている食事は緑の野菜が特に多いです。ケール、小松菜、ほうれん草などです。卵の卵黄部分に多く含まれていますし、果物だとキウイフルーツ、ナッツだとピスタチオなどが代表的なルテインの供給源です。
しかしDHAはブロッコリー、ほうれん草など野菜には含まれていません。卵はEPAは100gあたり120mg程度含まれていますが、DHAは含まれていません。豚肉、鶏肉、牛肉は動物性の脂は多いですがDHA,EPAでみると100gあたり数十mg程度ずつしか含まれていません。
オメガ3脂肪酸の1日の摂取目安量は1日2000mg程度とされているので、野菜、牛肉、果物を中心にとっても不足することがわかると思います。
ではDHAなどのオメガ3脂肪酸の供給源はなにかというと魚、青魚になります。サンマ、マグロ、鯖、鮭などの冷水魚です。冷水魚とは冷水で最も活動的で高い水温になるとストレスがかかる魚のことを言います。
魚の中で特におすすめしたいのは鮭です。鮭は100gあたりDHA500mg EPA250mg程度とれます
①DHA以外にもビタミンB郡もたくさん取れる
➁アスタキサンチンが含まれている
➂鮭は水銀などの毒素の濃度が比較的低い
というのもポイントです。
また天然と養殖のもので比べると天然ものの方が栄養素が高濃度に含まれていて、毒素も少ないということを知っておくことも重要です。
天然の鮭100gあたり1日に必要なビタミンBのうちチアミン ビタミンB1 20%、ナイアシン B3 60% B5 30% B6 60% B12 120%程度含んでいます。ナイアシンのビタミンB3はミトコンドリアという体内でエネルギーを作る細胞の貴重なエネルギー源になります。最近少し話題になっていて緑内障によい影響を与えるとされているビタミンです。
ビタミンB12は視神経の機能維持のための大切なビタミンです。アスタキサンチンはルテインなどと同様にカロテノイドの一種でその中でも抗酸化作用が強く、キングオブカロテノイドと言われています。女性の方には美白やシミなどの効果があるのでそのことでご存知の方も多いかもしれません。眼球内に含まれるカロテノイドはルテインとゼアキサンチンのみではありますが、眼としては眼精疲労に効果があるのではないかと報告されています。
アスタキサンチンはえび、かに、いくらに含まれていますが、やはり鮭が圧倒的に多いです。
このように鮭には多くの栄養素が含まれています。鮭はよい脂質を多く含んでいるので脂溶性の栄養素の吸収を助けます。ルテインなどのカロテノイドやビタミンA,D、E、Kは脂溶性の栄養素です。魚とサラダを一緒にとったりすると栄養の吸収力が高まりますので是非一緒に食べるようにしてください。私も朝は野菜と魚を一緒に食べています。
調理方法はお刺身など生で摂れるDHAの量を100%とした場合、焼き物・煮物で約20%減少。揚げ物では、なんと約50%も減少してしまいます。高温で加熱する程大切な脂がどんどん失われるので加熱する際には注意してください。
魚が苦手という方はサプリメントで代用することもできます。しかしルテインと同様に基本は食事による栄養補給を推奨しています。
それは食事由来のDHAとEPAの方が生体利用率が高い形で存在しているからです。食事由来の脂肪が多い魚の摂取には網膜変性疾患の抑制効果があったが、魚油のサプリメントには効果なかったというような報告も事実あるからです。DHAとEPAはトリアシルグリセロールなど色々な結合した型があるんですが、多くのサプリメントは網膜内に吸収されないとされています。網膜内に届くには血液網膜関門という関所があるんですが、そこを通過しないといけません。食事由来のものはこの関所を通るけど、多くのサプリメント由来のDHAは通らないとされています
その他に注意したいこととして、オメガ3脂肪酸というとリノレン酸、EPA、DHAと3つあります。リノレン酸とはナッツの内くるみや、エゴマ油、アマニ油に含まれるものです。大切な脂ではありますが、体内でリノレン酸からEPAやDHAに変換される量は5ー10%程度とわずかでしかない事が知られています。そのためDHA、EPAを体内で増やすには植物由来ではなく魚のような動物由来のω3系脂肪酸をとる事が大切です。
今回の話をまとめますと
①眼球内の網膜、視神経、脳などの神経系組織の多くの部分にDHAが含まれています。
➁DHAが不足する事で網膜疾患やドライアイとの関係が報告されています。
➂DHAを積極的にとるには魚の中で鮭がおススメです。
④鮭にはビタミンB群やアスタキサンチンが含まれています
⑤サプリの場合はタイプによっては効きにくいものがあります
という5点です。
DHAやEPAは必須脂肪酸の1つですが同じく必須脂肪酸に,オメガ3系の脂肪酸ではなくオメガ6系の脂肪酸があります。どちらも大切な脂ではありますが、オメガ6系の脂は揚げ物や加工食品などいわゆる欧米食に含まれていて多くの人は摂りすぎている傾向にあるとされています、
本来オメガ6系の脂肪酸は免疫を活性化する働きがありますが過剰になると体内で炎症反応を起こすため、理想的なバランスはオメガ3とオメガ6は1:2~1:5程度とされています。DHAなどのオメガ3系の脂肪酸はオメガ6系の脂肪酸による炎症反応を抑える働きも報告もされています。
ただ残念なことに、日本人の魚の消費量は年々減ってきています。週に2回ほど意識して鮭などの脂が多い魚を取れたらよいですね。今回は目のために食べたい魚に関してお話いたしました。
(2024.3.21)