前回は近視抑制でオルソケラトロジーというナイトレンズに関してお話しました。
今回はその第二弾、近視が1日1回の点眼で抑制できますというお話です。
今までの近視抑制における点眼はトロピカミド(ミドリンM)という点眼が近視のお子様に使われていました。1日1回就寝前に使うというものです。近視と診断されたらまず処方する点眼はこれといった具合によく処方される点眼ですが、実は近視の抑制では効果があまり期待できないということが分かりました。近視の抑制という意味では効果がないのですが、仮性近視、今では”偽近視”と言うのですが簡単に言いますと近視の一歩手前の状態です、こういった状態には一定の効果があると言われています。ですが、この近視になりかけの状態で一時的に使うのはよいのですが、その後近視になった後に使っても効果はないのです。なので近視になったら使用してもあまり意味がないと考えています。
その後研究がすすみアトロピンという点眼がでました。この点眼は医学用語で難しいかもしれませんがムスカリン受容体阻害薬で副交感神経の作用を制御する薬です。色々な使い方があるのですが、子供には目の検査のために調節をとって詳しく検査する場合がありその場合この点眼を使用します。たった一度の点眼で12日程度瞳が開きっぱなしで効果が消えるのに時間がかかる目薬なのです。
シンガポールの研究で初めてこのアトロピンが近視の抑制に効果があるのではないかということでatropine for the treatment of childhood myopia1(ATOM-1)という大規模な研究が行われました。2006年にその成果が発表され、アトロピンは近視抑制に効果があると言うことが確認されたのです。
ただしアトロピン点眼をそのまま使用すると瞳が開きっぱなしになり、ピントが合わなくなります。その期間も12日程、いくら効果があるといえど現実的にそれを小さいお子さんに使うのは日常生活に不便であり問題がありました。その他、発熱や吐き気、動悸などなんらか副作用を生じる子が50%ほどおりました。使用されている点眼は1%のアトロピンで1%といえど効果が強く、副作用だけでなくやめたらリバウンドがあるなどの問題がありました。その後研究を重ね1%アトロピンを100倍に薄めた低濃度のアトロピン0.01%はこういった副作用もなくリバウンドも少なくかつ効果的であり極めて有効である点眼ということが報告されています。日本では今も尚この点眼での効果に関して調査中であり、正式な薬剤としては保険診療として認可されておりませんが、今だと海外の輸入品のものを自費診療という形で購入することができます。
アトロピンは濃度依存的に効果が高まることが研究結果から報告されております。現状は海外の輸入品の0.01%アトロピンしか使用する事が難しそうですが、やや高価であるため一般的な治療法としてまだ広がるのに時間がかかりそうです。ちなみに、0.025%や0.05%のアトロピンの治験データも出てきており、今のところ大きな副作用は確認されていないようです。このような少し濃度を濃くした点眼も出たらいいなと思ってます。
治療開始の理想のタイミングとしては調節麻痺の点眼を使い-0.5D以下の近視が確認されたら使用されるのが一般的かと思います。片眼だけでもわずかな近視が分かったときに開始した方がいいのでおそらく対象となる方は非常に多くの若いお子様になると思います。
現在近視抑制に最も有力な3本柱は①オルソケラトロジー ②低濃度アトロピン そして③バイオレットライトを浴びる屋外活動です。これらを組み合わせることで近視抑制の効果が高まるといわれており、例えば低濃度アトロピンにオルソケラトロジーの両方を取り組むことで1.5倍の近視抑制効果があったなど報告もあります。
この3つの柱を全て取り組むことがもちろんベストなのですがオルソケラトロジーは自費診療になってしまうのでなかなかすべては取り組めないという方も多いのではないかと思います。
一方、低濃度アトロピンは1日1回夜寝る前にするだけで副作用もほとんどなく、取り組みやすいのではないでしょうか。
ただなんにせよ近視治療に一番大事なことは、生活習慣をまずは見直すことです。ゲームの時間を短くし、屋外活動を増やす。それだけでも近視抑制にはだいぶ効果があると思います。
ただ現在は教育のためにどんどんタブレットなどを使用した教育が国から支援されている状態です。わざわざ学校に行かなくても自分のペースで勉強できる、聞き漏らしたことは巻き戻して何度でも授業が見れる。私の時代には考えられなかった変化がありそれ自体はとてもいいことだと思いますが、悪くいってしまうとゲームなどの近業作業をすることと変わらないわけであって、近視人口に歯止めが効かない状態になってしまっているなと思っています。
タブレットなどでの学習環境がどんどん整備されていくと思いますので、ルールを作ることが大事なのではないでしょうか。具合的にには1時間見たら最低でも15分は空ける。そのうえ2時間以上の屋外活動を出来るだけ毎日確保するようにする。
コロナ下でどこまでできるかは分かりません。
ただこの点眼治療が普及すれば、近視抑制治療に大きな貢献がありそうな気がしています。
今後薬物の効果が日本で実証され、保険診療として使用できる日が来ないかと思っています。
(2021.1.23)