見逃し厳禁!脳梗塞が近い人に起きる 目の症状
今回は脳梗塞のサインかもしれない目の症状に関してお話ししたいます。
脳梗塞と聞くと、「片麻痺が残る」「命に関わる危険な病気」といったイメージがあるかと思いますが、実は目にもサインが現れることがあるのをご存知でしょうか?
目から入った情報は、視神経を通って脳に伝わり、脳が処理することではじめて「見える」と認識されます。また、目を動かしたり、まばたきをコントロールしたりするのも、すべて脳の働きによるものです。そのため、脳の異常は、そのまま目の異常としても現れることがあります。
実際に「見えづらい」「かすむ」といった症状で来院された方の中に、調べてみると脳梗塞の初期だったというケースもあります。
今回は、脳梗塞の前兆として見逃してはいけない目の症状を5つ、詳しくご紹介します。
- 脳梗塞とは何か?なぜ「目の症状」が危険なサインなのか?
脳梗塞とは脳の血管が詰まってしまい、血液が届かなくなることで、脳細胞が酸素や栄養を受け取れずに死んでしまう病気です。
いったん壊れてしまった脳細胞は、残念ながら元には戻りません。脳梗塞が起きた場所や広がりによって、さまざまな後遺症が残ることがあります。たとえば
手や足が動かしにくくなる「麻痺」や、言葉が出にくくなる「失語症」、意識がもうろうとする「意識障害」などが代表的です。
また、脳には視覚に関わる領域や、目の動きをコントロールする神経がたくさん存在しています。
そのため、脳の血流が悪くなると、突然ものが見えづらくなったり、物が二重に見えたりといった普段経験することのないような目の異常が現われます。
- 見逃し厳禁!脳梗塞が近い人に起きる「目の症状」5選
具体的に、脳梗塞が近い人に起きる可能性のある、特に注意すべき目の症状を5つ解説していきます。先に五つをいうと、①一過性黒内障、➁複視、③眼瞼下垂、④同名半盲、⑤目のかすみです。それぞれ詳しくみていきます。
症状1:まず一つ目、急な片目の視力低下・視野の欠け、一過性黒内障という症状です。
この症状は、脳梗塞のサインの中でも特に緊急性が高く、見過ごしてはならない最も危険な症状の一つです。
たとえば、こんな見え方をすることがあります。正常
だとこのように見えるとすると

「まるでシャッターが急に下りたように、片目が一瞬で見えなくなった」
「テレビ画面の中央だけが真っ黒に抜けたように見えた」という具合になります。
ポイントは、視界が全体的にぼやけたり霞むという症状ではなく、片目だけ、急に真っ暗になるという見え方です。
多くの場合、数分から数十分程度で自然に回復してしまうことがあります。これが「気のせいかな」「疲れているだけかな」と放置してしまう原因になります。この急に全く見えなくなって、その後回復するという症状を「一過性黒内障(いっかせいこくないしょう)」といいます。
見え方が回復したからといって決して安心しないでください。この症状は「脳梗塞の前兆」である可能性が非常に高いからです。
心臓や首の動脈(頸動脈)から剥がれた血栓、血の塊が、一時的に目の動脈(網膜中心動脈)に詰まることで起こります。
血栓が一時的に血流を妨げるので、目の視覚機能が一時的に停止して見えなくなります。
その後血栓が流れていくと血流が再開して、視力が回復します。
そのため急にみえなくなって、その後回復するという現象がおきます。見えるようになると“あぁよかった”となるのですが、必ず脳神経外科または眼科にかかるようにしてください。
一時的に目の血管を詰まらせた血栓は溶けてなくなるわけではなく、その後脳の血管に流れ込んで、本格的な脳梗塞を引き起こすリスクが高いからです。
過去のデータでは、一過性黒内障を経験した人の約10~15%が、3カ月以内に本格的な脳梗塞を発症すると報告されています。
「ちょっと見えなかったけど、もう大丈夫だから」という自己判断は、目にとっても命取りになるので、注意してください。
症状2:2つ目は物が二重に見える、複視という症状です。
これは、普段は問題なく見えていたものが、ある日突然、二重に見えるようになる症状です。
たとえば、「テレビの字幕が二重にブレて見える」「スマートフォンの文字が重なって見える」「前を歩いている人が2人に見える」など、見え方に異常を感じることがあります。
こうした症状は、左右の目の動きにズレが生じていることで起こります。
複視には大きく2種類あります。
1つは「片眼性複視」で、片目で見ると物が二重に見える複視です。
これは主に白内障など目そのものの異常によって起こります。
もう1つが「両眼性複視」で、片目で見たときは正常でも、両目を開けると二重に見えるというものです。脳梗塞に関連するのは、この内、両眼性複視です。
私たちの目の動きは、動眼神経・滑車神経・外転神経という3つの脳神経によってコントロールされています。これらの神経に障害が生じると、目の動きがうまく連動せず、左右の視線がずれて複視が起こります。
そして、これらの神経はすべて脳幹という非常に重要な領域から出ています。脳幹は、目の動きだけでなく、呼吸や心拍、意識など生命維持に関わる中枢が集まる部位です。そのため、急に複視が起きた場合は、脳幹の異常である可能性があるので注意が必要です。
さらに、複視とともに手足のしびれや言葉のもつれ、ろれつが回らないといった症状が同時に現れている場合は、脳梗塞の緊急サインである可能性が非常に高くなります。
そのような場合は、ためらわずすぐに119番通報してください。
症状3:次3つ目は、片側のまぶたが下がる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」という症状です。
ここでのポイントは、片目だけに起こるということです。
たとえば、「急に片方の目が小さく見える」「眠そうな顔に見える」このような変化が突然現れた場合には注意が必要です。
まぶたが下がることで、目が十分に開かなくなり、視界が狭く感じたり、物が見えにくくなったりします。
また、顔の表情にも左右差が出るため、家族や周囲の人から「目がおかしいよ」「眠たそうだね」と指摘されることもあります。
このような症状が起こる原因は、まぶたを持ち上げる「動眼神経(どうがんしんけい)」という脳神経の麻痺にあります。
脳梗塞などによってこの神経が障害を受けると、まぶたを上げることができなくなって、片側の眼瞼下垂が起こります。
一方で、まったく別の原因として注意すべきなのが、「脳の動脈にできた動脈瘤(どうみゃくりゅう)」が動眼神経を圧迫しているケースです。
この場合、動脈瘤が破裂するとくも膜下出血を引き起こし、命に関わる緊急事態になります。
眼瞼下垂に加えて
・強い頭痛
・目の奥の痛み
・物が二重に見える(複視)
といった症状が同時にある場合は、脳動脈瘤が破裂する前兆すなわちくも膜下出血の前兆である可能性があります。
これはすぐに脳神経外科を受診すべき緊急サインです。
まぶたが下がる症状というと通常は加齢によってゆっくり現れる症状を思い浮かべる方が多いと思いますが、このように急に発症して、しかも片側だけという場合は、脳に異常が隠れている可能性があります。
「年のせいかな」と思わずに、早めに医療機関で検査を受けることがとても大切です。
症状4: 4つ目のサインは、視界の右半分、または左半分がまったく見えなくなるという症状です。
これを「同名半盲(どうめいはんもう)」といいます。
この症状があると、
・食事中、お皿の右側(または左側)だけを残してしまう
・横から来る自転車や車に気づかず、ぶつかりそうになる
・誰かが片側から話しかけてきても、気づけない
ということが起きたりします。
両目でみると「視界が欠けている」と気づきにくいことがあるので、周りの人が気づいて指摘することも多いです。
では、どうして視界の半分が見えなくなるのでしょうか?
目から入った情報は、脳の後ろの部分(後頭葉)にある「見るための中枢部分」で処理されて、「見える」と感じることができます。
でも、その部分に脳梗塞が起こってしまうと、視界の一部が処理できなくなり、結果として半分見えなくなるという状態になります。
たとえば、脳の左側に異常が起きると、右側の視野が見えなくなるというように、脳と視界は対称性があります。
このように、「視野の半分が見えない」という症状は、目そのものではなく、“脳の異常”が原因で起こります。
しかも、脳梗塞が原因であることが多くて、早急な対応が必要です。
見えにくさに気づいたり、周囲の人から「何か変だよ」と言われたときは、「疲れのせいかな」と思わず、すぐに脳神経外科または眼科で検査を受けることが大切です。
症状5: 5つ目は、目のピントが合わない・全体的にぼやけるといった症状です。
「なんとなくかすむ」
「遠くも近くもピントが合わない」
「文字がにじんで読みにくい」
このような見え方は、「疲れているだけかな?」「老眼かも」と軽く考えてしまいやすいですが、急に起こった場合は注意が必要です。
これは動眼神経というピント調節に関与している神経が麻痺すると、近くがぼやける、瞳孔といって黒目が開いたままになるといった症状が出ます。結果としてピントが合わなくなります。
特に次のような症状が一緒に現れている場合は、脳梗塞の可能性が高まります。
・手足のしびれ
・ろれつが回らない
・顔がゆがむ
これらは脳梗塞の典型的なサインで、ぼやけた視界と組み合わさっている場合は非常に危険な状態です。
もちろん、ピントが合わない、かすんでみえるといった症状は、白内障や緑内障、老眼、目の疲れなど眼科的な原因で起こることが多いわけですが、次に話す「他の症状と一緒に出ていないか?」が非常に重要なポイントです。
- 脳梗塞の他の典型的な症状:F.A.S.T.を覚えよう!
覚えていただきたいのが、**F.A.S.T.(ファスト)**という言葉です。これは脳梗塞の代表的な症状の頭文字をとったもので、脳卒中の疑いがあるので、すぐに病院にきてほしいという願いを込めた言葉です。
FはFace(顔の麻痺)のFです。
「顔の半分がゆがむ」「片側の口角が下がる」「片側のまぶたが閉じにくい」といった症状です。
例えば、「イー」と歯を見せた時に、顔の左右が対称でなく、片側だけがうまく動かない場合は要注意です。鏡で自分の顔をチェックしたり、ご家族に確認してもらったりするのも良いです。
AはArm(腕の麻痺)のAです。
「片方の腕に力が入らない」「箸をうまく使えない」「持っていたものが手から滑り落ちる」といった症状です。
両腕を前に出して、手のひらを上にして目を閉じた時に、片方の腕がだらんと下がってくる場合は危険なサインです。
SはSpeech(言葉の障害)のSです。
「ろれつが回らない」「言葉が出にくい、または全く出ない」「相手の言っていることが理解できない」といった症状です。
簡単な文章を繰り返してもらう時に、うまく言えない、言葉が詰まる、あるいは意味不明なことを言う場合は要注意です。
TはTime(時間)のTです。
これらのF(顔)、A(腕)、S(言葉)の症状のうち、一つでも当てはまる場合は、「すぐに病院に行く」ことが大切です。 脳梗塞であれば、発症から4.5時間以内で条件を満たせば使用できる薬もあります。「Time is brain(時は脳なり)」という言葉がありますが、脳梗塞は発症から治療開始までの時間が非常に重要です。たとえ症状が軽度であっても、数分でも早く医療機関に到着することが、その後の後遺症を大きく左右します。よくなったけどこんなんで呼んでいいのかな?とためらわないようにしてください。
そして自分で運転して病院に行くのは危険です。途中で症状が悪化して運転できなくなったり、事故を起こしたりする可能性があるからです。
- 定期的な健康診断と人間ドック
脳梗塞や脳動脈瘤を予防するためには、普段からの体のチェックがとても大切です。
症状がなくても、定期的に健康診断や人間ドックを受けて、血圧・血糖値・コレステロールなどを確認するようにしてください。
これらの値が高いと、脳の血管に負担がかかり、脳梗塞などの病気につながりやすくなります。
早めに異常を見つけて治療を始めることで、脳の病気を防ぐことができます。
また、「脳ドック」、脳のMRIを受けるのもおすすめです。脳ドックでは、脳の血管の詰まりや、破裂する前の動脈瘤がないかを詳しく調べることができます。
特に、
・高血圧や糖尿病がある方
・家族に脳卒中になった人がいる方
は、脳ドックを早めに受けておくと安心です。
まとめ:命を守る「目のサイン」、見逃さないで!
今回の話をまとめますと
急に片目の視力が落ちたり、一部が見えなくなる「一過性黒内障」
急に物が二重に見える「複視」
片側のまぶたが突然下がる「眼瞼下垂」
視野の片側半分が見えなくなる「同名半盲」
ピントが合わず、全体的にぼやけて見える
これらの症状は、脳が発している重要なSOSです。たとえ症状が一時的に回復したとしても、決して放置しないでください。 その背後には、本格的な脳梗塞が迫っている可能性が高いです。そして、脳梗塞の代表的な症状であるF.A.S.T.(顔の麻痺、腕の麻痺、言葉の障害、時間)と合わせて、目の異変にも敏感になりましょう。
「いつもと見え方が違う」「おかしいな」と感じたら、迷わず病院を受診するようにしてください。早めの対応が、命を守ることはもちろん、目にも重い後遺症を防ぐ鍵になります。
今回は、脳梗塞が近い人におきやすい目の症状に関して、解説いたしました。
(2025.5.27)