今回は、足の動脈硬化が進行しているサインに関してお話しいたします。
動脈硬化とは、血管が硬く狭くなる状態のことです。動脈硬化というと、心筋梗塞や脳梗塞といった心臓や脳への影響をイメージする方が多いと思いますが、足の動脈硬化も非常に重要です。
何故足の動脈硬化が重要なのかというと単に足だけに影響が出るわけでなく、全身の動脈硬化の状態を反映しているからです。足は心臓から最も遠い位置にあります。心臓から遠くにある血管は末端に向かうほど細くなります。そのため足は動脈硬化が進行しやすい部位の1つになります。
実際、足の動脈硬化が進むと、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患のリスクも高くなることで知られています。そのため寿命とも深く関わっていますし、目の健康にも影響を及ぼすことが報告されています。
今回は、足の動脈硬化が進行するサインを見逃さずに早期発見して、全身の健康を守るためのポイントについてお話しいたします。
足の動脈硬化とは?
まず、動脈硬化とは何かですが、動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどが蓄積し、血管が狭くなったり、硬くなったりする状態のことです。主な原因としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、運動不足などでこれらの要因が複合的に関わって動脈硬化が進行します。足の動脈硬化は、末梢動脈疾患(PAD)と呼ばれていますが、足の血管が狭くなることで血流が悪化して、様々な症状を引き起こします。
足の動脈硬化が進行するサイン
初期段階では自覚症状がないことが多いですが、進行すると次のようなサインが現れます。
①足の冷感・しびれ(まず一つ目が足の冷感、しびれです。)
動脈硬化が進むと、血管が狭くなります。狭くなった血管は、血液が通りにくくなるので、足先への血流が減少します。血流が減少すると温かい血液が十分に届かなくなるので、足が冷たく感じます。また神経に十分な酸素や栄養が届かなくなるので、しびれも感じるようになります。
中期段階に進行すると
➁間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状がでます。
足の血管が狭くなると、筋肉に十分な血液が届かなくなります。
足の筋肉は大きいので、活動するためにたくさんの酸素を必要としています。血液が不足すると、酸素不足になります。筋肉は酸欠になると痛みを感じるようになります。
休む
と筋肉の活動量が減るので、必要とする酸素の量も減ります。結果として痛みが和らぎます。でも、
またしばらく歩くと、同じように足が痛くなります。 そのため、
また休みが必要になります。
このように、歩くと足が痛くなり、休むと楽になる、これを繰り返す症状を「間欠性跛行」といいます。
この状態から更に放置すると
➂安静時疼痛
安静にしていても足に痛みを感じるようになります。慢性的な酸素不足になっている状態です。特に、夜間は血圧が低下して血流が減るので痛みが増強することがあります。足を高く
上げた状態で寝ると、重力の影響でさらに血流が悪化するので、痛みを強く感じることがあります。これは、かなり重症化しているサインになります。
さらに重症になると
⑤足の潰瘍・壊疽(えそ)
足に傷ができやすく、治りにくくなります。手足の感覚が鈍くなって、ケガをしても気づかないケースもあります。もともと血行が悪くなっているところに細菌が入って感染症を起こすと治りが悪くなります。最悪の場合、
壊疽といいますが病変部が腐ってしまいもはやこの状態になると治すことはできません。壊疽した部分は再生することができないので正常な組織を守るために部分的に切断しなければなりません。そのような事にならないために、早めの段階に発見して、治療を開始することはとても重要です。
足の動脈硬化を簡単にセルフチェックする方法があるのでいくつかご紹介いたします。
まず足の温度をチェックしてみてください。
足を触って冷たいということは正常の方でもよくあるので、冷たければ異常というわけではもちろんありませんが、両足を比較して片方だけ明らかに冷たい場合、血流が低下している可能性があります。ですがやはり、冷たさだけでは分かりずらいので次のことが当てはまらないかチェックしてみてください。
- 足の末端の血流をはかります。
これは毛細血管再充満時間(CRT)というものを測る方法です。やり方は
非常に簡単で足の親指の指先、腹の部分を、適度な力で5秒間程度圧迫します。圧迫により、
その部分の皮膚が白くなります。圧迫を解除し、
皮膚が元の色に戻るまでの時間を計測します。通常、2秒以内
に元通りになります。2秒を超える場合は、末梢の循環が悪くなっている可能性があります。寒い部屋だと正常でも遅れることがあるので温かい部屋で行うことがポイントです。
2. 足の脈拍をチェックします
足の甲
の内側やくるぶしの後ろあたりで脈拍を感じられるか確認してみてください。脈拍が弱い、または感じられない場合、動脈の狭窄や閉塞が疑われます。
3. 足の皮膚の色チェック
足の皮膚の色を観察します。青白い、紫色、または黒ずんでいる部分がある場合、血流障害が疑われます。
4. 足の爪の状態チェック
足の爪の色や厚さを確認します。爪が厚くなっていたり、変色している場合、血流が悪くなっている可能性があります。爪は、健康な状態を維持するために血液から栄養を必要としますが、血流が悪化すると、爪の質が変化したりして、厚みが増すことがあります。
5. 間欠性跛行のチェック
一定の距離を歩いた時に、ふくらはぎや太ももに痛みやしびれを感じるか確認します。
痛みのために歩行が困難になり、休憩すると症状が改善するかどうかを確認します。
これらのセルフチェックは、あくまでも目安ですが、一つでも当てはまる場合や当てはまらなくても気になる症状があれば一度循環器を専門にしている病院に受診してみてください。
足の動脈硬化から目の病気がみつかることがあります。いくつかケースをご紹介すると、
ある日、偶然足に
傷があるのを見つけた。ほかっておいても治らないどころか病変が悪化していた。皮膚科
にいったら足の壊疽と診断された。動脈硬化の原因として実は重度の糖尿病
があった。糖尿病から目の検査
をしたら網膜の出血も見つかった。そこから眼科の通院も必要になったということもありますし
逆に目から分かる場合もあります。人間ドックで眼底検査を受けたら眼底出血
が見つかった。通常眼底出血がある場合、高血圧
や糖尿病が背景にあることが多いので内科受診すすめられます。内科受診したら足の動脈硬化が進んでいることが分かった、更
に頸の血管を調べたらプラークといって頸の動脈硬化もすすんでいた。頸の血管が詰まると脳梗塞のリスクとなります。その予防
のために血液をサラサラにする治療が始まったというケースもあります。このように眼底検査をきっかけに治療が開始されたということもあります。
意外かもしれませんが、動脈硬化は目からも判断できます。眼底写真からチェックしています。眼底写真
とは、目の奥にある網膜という組織を撮影した写真です。網膜には、全身で最も細い血管が網の目のように張り巡らされているので、血管の状態を直接観察することができます。血管が細くなったり出血していたり、動脈硬化が進むと反射が強くなったりしますが、そのようなことから総合的に判定しています。
近年では、動脈硬化と目の関連性は様々注目されていて、緑内障や加齢黄斑変性症などの目の病気のリスクを高めるという報告もされています。
海外で行われた
緑内障と足の動脈硬化との関連性を調べた大規模な調査では、約95,000人の緑内障患者さんと、同じ人数の健常者を約7年間追跡調査しました。
その調査の結果から緑内障の方は、足の血管が詰まりやすいリスクが、健常者より約20%高いことが確認されました。緑内障患者さんは動脈硬化を起こしやすいリスクがあるという結果ですが、緑内障は「目の病気」にとどまらず動脈硬化とも深く関連している可能性があります。
緑内障治療において目薬などで眼圧を下げる治療はもちろん大切ですが、緑内障は以前から血液循環の影響も受けやすいと考えられています。そのため血管のケアも同じく重要となります。
緑内障だけでなく加齢黄斑変性との関連性も注目されています。加齢黄斑変性症は、目の中の「黄斑」という、ものを見るために一番大切な部分の働きが悪くなる病気です。その黄斑の機能を維持するためには、十分な血液供給が不可欠です。動脈硬化によって網膜や脈絡膜の血管が硬くなったり狭くなったりすると、必要な酸素やルテインなどの栄養が黄斑に届きにくくなって、加齢黄斑変性症の発症や進行を促すと考えられています。
これらの研究結果からも、動脈硬化は全身の血管に影響があるだけでなく、目の健康にも深刻な影響を与えることが分かります。
動脈硬化の予防と対策
動脈硬化は、完全に元の状態に戻すことは難しいですが、生活習慣を改善することで進行を遅らせたり、改善させたりすることは可能です。
まずバランスの取れた食事を心がけてください。動脈硬化を予防しながら、目にも良い食品は、抗酸化作用や血管保護作用のある栄養素を豊富に含むものがおすすめです。代表的な食品には例えばサバ、イワシ、サンマなどの青魚です。これらはDHA・EPAといったオメガ3脂肪酸が豊富で、血液をサラサラにする効果や、悪玉コレステロールを減らす効果など、健康に良い影響があります。血管の柔軟性を保って、血栓ができるのを防ぎます。血管にいいだけでなくDHAは網膜の主要な構成成分でもあるので目の健康維持に重要です。ブロッコリー、ほうれん草といった緑黄色野菜もよいです。ビタミンC、ビタミンE、ルテインなどの抗酸化物質が豊富で、活性酸素による血管の酸化を防ぎます。ルテインが豊富な食材は、目の黄斑部の健康を維持し、加齢黄斑変性症のリスクを軽減することで知られています。豆腐、納豆などの大豆製品もよいです。これらは良質なタンパク質も豊富です。大豆イソフラボンという強い抗酸化作用をもつポリフェノールが含まれています。コレステロールの値を改善して、血管を丈夫にします。アーモンド、クルミなどナッツ類もおすすめです。ビタミンEやオメガ3脂肪酸が豊富で、悪玉コレステロールを減らして、血管を保護します。ビタミンEは、目の網膜の細胞の酸化を防ぐために大切なビタミンです。
食事以外に適度な運動を習慣化する、禁煙する。質の良い睡眠をとる。定期的な健康診断を受けるということも同じように大切です。
今回の話をまとめますと
足の動脈硬化は、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。早期発見、早期治療が大切です。足の冷感、しびれ、皮膚、爪の変化を見逃さないようにしてください。
つまるところ、目の健康維持にとっても血管が非常に重要です。目は体の中でも特に酸素と栄養を必要とする組織であり、それらを運ぶのは他でもない血管だからです。バランスの取れた食生活、適度な運動、禁煙など、健康的な生活習慣を心がけるようにしてください。
今回は、足の動脈硬化が進行するサインと、それが目に及ぼす影響についてお話しいたしました。
(2025.5.9)