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197.手術目 どっちから

今回は白内障手術 どちらの目から手術した方がいいの?ということに関してお話しいたします。

白内障は、眼の中の水晶体という部分が濁り、視力低下やかすみ、見えにくさを感じる病気です。加齢が一番の原因で、症状が進行すると、良くなることはありませんので、手術をするのが一般的になります。手術は、濁った水晶体を除去して、人工のレンズに置き替えるというものになります。

多くの方が悩むポイントというと、眼内レンズにあると思います。保険で使用する単焦点眼内レンズ、または保険外の多焦点眼内レンズ大きく分けて二つの選択肢がありますが、特に多焦点眼内レンズは色々種類がありますよね。一生の事なのでどのレンズを選択するかはとても重要です。その上で、どちらの目から手術を始めるべきかということも意外と重要なポイントになります。両眼手術するんだからどちらからでも別に関係ないんじゃないのかと思う方もいるかもしれません。

ですが目には、①優位眼、非優位眼といった概念がありますし、➁白内障の進行も右目と左目で差があることがあります また、 ③単焦点眼内レンズ、多焦点眼内レンズの特徴を知った上での選択など、実は手術を受ける上で知っておいた方がよいことがあります。

今回は白内障手術を受けるならこのように考えたらどうでしょうかということに関してお話しいたします。

白内障の主な原因は加齢ですが、それだけでなく糖尿病、外傷、ステロイドなどが原因となっていることもあります。通常白内障は両眼同じように進行していきますが、加齢だけでなくこのように様々な要因が複雑に絡み合って発生するので両目白内障があったとしても右目と左目に白内障の程度に差があることがよくあります。

例えば右目は眼鏡やコンタクトをしたら0.7以上見えている。場合によっては1.0ぐらいみえているということもあるかもしれません。ですが、もう片目は眼鏡やコンタクト度数を色々変えても0.4、0,3しかみえない。見にくいのは片目だけど、白内障自体は両眼あるから両目の白内障手術を予定することになったというケースです。

このように見え方に左右差がある場合、「こっちの目は見えていますが、両目とも手術しなければいけませんか?」とご質問を受けることがあります。

この場合必ずしも両目手術をする必要がありませんが、両目手術をすることにためらっている場合、ひとまず白内障が進行している方、すなわち見にくい方の目の手術のみを検討してみる、そしてその後術後の見え方で不自由がなければしばらくそのまま過ごしてみるということでよいと思います。もちろん、もう片眼も手術したいと感じれば、それから予定するということでよいと思います。

視力が良い方の目から手術をすると、手術は問題なく、術後視力が良好であったとしても「あまり変わらなかった」「手術前の方が近くがよく見えて便利だった」と不満が出るケースが稀にあります。

例えば白内障があってもある程度手元にピントが合っていた方が「術後は遠くが裸眼で見えるようになりたい」というご希望があって、患者さんのご希望通りにピントを遠方に合わせた結果、術前より近くが見えなくてクレームになる場合があります。

白内障手術の難しい点は手術前に術後の見え方を確認できないところにあります。何らかの方法で、手術前に術後の見え方が正確に分かればいいのですが、それが無理なので手術前にしっかりカウンセリングを行いイメージをしておくことが重要です。

見にくい方の目から手術を行って、もう片目は特に困っていなければしばらく様子をみるということでいいと思いますが、

両目とも手術を検討した方が良いケースももちろんあります。具体的には、強度近視の方の場合です。

強度近視の方は通常、白内障手術を行うときに近視を弱めますが片目だけだと、左右の見え方に差ができます。例えば手術前は両目とも-7Dぐらいの近視の値だった。術後は片目だけー2Dになったとします。そうなると片目はー7Dでもう片目はー2D、手術しないほうの目と度数の差が非常に大きくなってしまいます。これを不同視、がちゃ目といったりしますが、裸眼だと見え方の差・視力の差が左右で強く、アンバランスな見え方になります。そのため、左右差にどう対処するか片目のみの場合は検討する必要がでてきます。最も左右差を感じにくいのが、術後にコンタクトを使うことです。手術しない方の目にコンタクトをする。ただし、コンタクトは24時間ずっとつけっぱなしにできないのが難点になります。またコンタクトが嫌いな方もいますよね、その場合眼鏡になりますが、眼鏡で矯正する場合、左右差が大きいと右目と左目で見え方に差ができるのでコンタクトと違って完全に矯正するのが難しくなります。手術した方の目を中心にしっかり合わせて、反対目は低矯正、少し弱めに合わせたりしてバランスを取ったりするなど何らか工夫した眼鏡の処方が必要になります。

問題なく適応できればそれでいいですが、中にはガチャ目がしんどくて適応できない方いますので、その場合早めに反対目も手術を検討することになります。このように強度近視含めて元の目の度数から変わる方は、両目のバランスを考えて手術を計画していきますので、白内障の程度に左右差があっても両目行うことが多いかなと思います。

その中で基本的には見にくい方の眼からの手術がよいかと思います。

では白内障の程度に差がなく、同じように視力が下がっている。この場合どちらから手術をしたらいいのかとなります。この場合明確にこちらからということはありませんが、優位眼と非優位眼のことを知っておくといいと思います。

よく使うほうの手や足を「利き手」「利き足」と呼ぶように、目にも効き眼があります。

医学的に効き眼を優位眼、効き眼でない方を非優位眼といいます。

普段両眼で見ているので気付かないと思いますが、脳には左右どちらかの眼の情報を優位に認識するという特徴があります。例えば非優位眼に緑内障や黄斑変性症など何らか目の病気があっても、優位眼が健康な場合、その病気の自覚症状が出にくいことがあります。これは、脳が優位眼からの情報を優先的に処理するためです。逆に、視力や視野が悪くなった目が利き目だとしたらその症状が軽くても見え方に影響しやすい傾向があります。反対側の目の視力が良くて健康であったとしても見えづらさや不便さを強く感じる場合ありますね。

自分の眼がどちらが効き眼か分かりますか?もし分からなければ、目の前に輪をつくってその穴から何かものをみてください。片眼ずつとじてみて両眼みていた時と比べてください。すると



どちらかの眼は両眼でみていたときと同じようにみえて、もう片眼は少しずれると思います。白内障がかなり進んでいる状態だと効き眼がどちらか分かりにくくなりますが、ズレない方が優位眼でズレる方が非優位眼です。左右の見え方がほぼ同じ場合、利き目と非効き目ははっきりしていない状態で、条件によっては変わるとされています。

一般的に利き手と利き目が一致する人が多いです。全体的に9割の方が右利きとされているので右目が優位眼であることが多いですが、必ずしも利き手と効き目が同じ側でなく右利きだけど目は左が効き目ということもあります。

このように優位眼とは、普段何気なく物を見るときに主に使用している目のことで、非優位眼は、優位眼を補助する役割を担っています。

では優位眼、非優位眼どちらの目から手術すべきか?

これには明確な答えはありません。優位眼から手術する先生もいますし、非優位眼から手術する先生もいます。優位眼と非優位眼は変わることがあるので、気にしない!という先生もいますね。そのため正解はないわけですが、私は非優位眼からの手術をすすめています。

これは、優位眼を大切に考えて、非優位眼の視力の状態の結果を元に優位眼の目の状態を調整する機会ができるからです。

非優位眼の手術結果に満足できれば、優位眼の手術へのモチベーションがあがるだけでなく、不安が少なくなりますね、安心してもう片目と手術に臨むことができます。

例えば単焦点眼内レンズで手元合わせを希望したとします。40-50cmに合わせることになったとします。手術が終わって予定通り、40-50cmにピントが合うようになった、その見え方に満足しているということなら、優位眼も同じ度数を選ぶようにしたらいいと思います。非優位眼で見え方を試してから優位眼への手術に臨めるので心理的な安心感もあります。一方で40-50cmの見え方が少し手元過ぎて不便さを感じている、思っていた感じと少し違ったということがあります。その場合は優位眼で少し遠目に合わすことも検討できます。左右で少し差をつけることをマイクロモノビジョンといいます。具体的には屈折の値を右-1.5D 左-2.0Dといったように左右の目のピントを0.5D程度少しずらす方法を言います。0.5D程度の差であれば違和感はあまり感じないと思います。そもそも人の目は両眼全く同じ度数の方はほとんどいません。大勢の方に多少左右差があります。0.5Dやもう少しずらして0.75Dまでずらすことがあります。

特に多焦点眼内レンズのような少し癖があるレンズは両目同時手術を避けて別々に行う事、非優位眼からの手術がおススメです。非優位眼から手術を行って、多焦点眼内レンズをいれた、視力は遠くも近くもバッチリでている、けどハローグレア



が思った以上にでて悩まれている方もいますね。最近の論文




でも多焦点眼内レンズの不満の多くがハローグレアのようです。

その場合優位眼にビビティのような癖のないシンプルなレンズを入れると両眼視だとハローグレアがだいぶ軽減されるという報告がされています。一方で逆の組み合わせだと、あまり改善がなかったということも言われています。

これは、優位眼から得られる情報の方が、脳に与える影響が大きい傾向にあるからです。このように最近になって白内障手術の満足度を更にあげるために優位眼と非優位眼の関係も注目されています。

左右に別々の多焦点眼内レンズを入れることをMix&Matchいいます。もちろんレンズは左右同じものを入れた方が違和感はすくなく、理想的ではありますが、必ずしも同じものをいれないといけないわけではありません。片目にいれた多焦点眼内レンズの見え方に不満を感じているのに、もう片目に同じレンズを入れても同じような結果になってしまう可能性が高くなります。その場合このようにレンズを変える手法が有効となる場合があります。積極的に別々のレンズにすることを推奨しているというわけではありませんが、片目入れたときに違和感が強かった場合の選択肢として知っておくといいかなとおもいます。

白内障手術は1度きりですし、人生において重要な決断になると思います。絶対これが自分に合っていると思っていたレンズであったとしても、思っていた感じと違った場合があることも想定しておく必要があります。ハローグレア少ないって聞いたけど結構あるなと思う事もあるかもしれません。実際ハローグレアは徐々に慣れてしまう事が多いですが、中には深刻に考えてしまう方もみえます。単焦点眼内レンズで手元に合わせた、けど思った以上に遠くが見えなくてがっかりしている。そのようなことがあるので保険をかけるという意味で、できるだけ片目ずつ、まずは悪い方の目から、または非優位眼からの手術を行うのがいいのではないかと思っています。

よければ参考にしてください。

今回の話をまとめますと

  1. 両眼手術の場合視力が悪い方の目から手術を行うのが一般的です
  2. 見え方に困っていなければ片目手術をして様子をみるということでよいです。(閉塞型緑内障を除く)
  3. 利き手があるように目にも効き目があります。
  4. 両眼手術なら非優位眼からがおススメです。
  5. 多焦点眼内レンズは非優位眼からおすすめです。

という5点です。白内障手術は眼内レンズの選択であったり単焦点眼内レンズならどの部分にピントを合わせるかがとても重要です。レンズのメリットを最大限にいかすために手術する目をどちらから選べばいいかというのも同じく大切になってきます。

眼の状態や患者さんが希望する見え方によって最適なレンズや手術プランは異なりますので、皆さんにとって今回の話が当てはまるわけではありませんが、よくご相談して頂いて手術のプランを検討してもらえたらと思います。

今回は白内障手術どちらの目から手術を行えばいいのということに関してお話しいたしました。

(2025.5.9)