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193.老眼

今回は老眼になったら眼鏡、コンタクトレンズそれとも

ICLまたは白内障手術で多焦点眼内レンズどれがいいの?ということに関してお話しいたします。老眼とは、加齢とともに起きる目の現象で、誰にでもいつかは必ず訪れます。

目がいい方は老眼になりやすい、近視の方は老眼になりにくいなど言われたりしますが、誰しもいつか発症するのが老眼です。早いと30代後半から老眼の症状がでてくることもありますが、だいたい40代半ばになると多くの方が見にくさを感じるようになります。老眼鏡かコンタクトそれとも老眼用のICL、または白内障手術で多焦点眼内レンズ?色々あるみたいですが、どうしたらいいですかという質問を患者さんからよく言われます。今回は老眼になったらどのように対応していけばいいのかということにかんしてお話しいたします。

まず初めに老眼とは、手元が見えなくなる、と思っている方が多いのですが、老眼とは、ピントの調節力、すなわち見える範囲が低下した状態をいいます。これまで目がよかった人は手元が見にくくなるので老眼を自覚しますし、普段近くが見えている近眼の方でも、眼鏡やコンタクトで遠くに合わせると手元が見づらくなります。

このように老眼とはコンタクトや眼鏡で遠くがよく見える状態のときに近くのものが見えにくくなる状態のことをいいます。

目がいい人も近視の人も同じように老眼になります。

近くの細かい字が読みづらい、また新聞を見た後に遠くを見るとすぐにピントが合わない、 逆に遠くを見ていて、すぐにスマホを見るとピントが合わないといった症状があれば老眼が起きているかもしれませんね。

老眼の原因は何かというと、目の中の水晶体という組織が関係しています。水晶体はカメラのレンズによく例えられます。様々な距離を見る為に水晶体の厚みを即座に変えて、ピントを合わせるという優秀なオートフォーカス機能を私たち人間はもっています。しかし残念なことにこの優秀な調節機能は一生続きません。耐用年数が40年程度と短いです。

40歳を過ぎだすと水晶体は硬くなって、厚みを変えることができなくなっていきます。いわゆる老眼のはじまりです。

近くを見るときには水晶体は膨らむのですが、水晶体が硬くなると膨らむことができなくなります。その結果、近くに焦点が合いづらい状態になってしまいます。老眼は40歳頃から始まって70歳くらいまで進行しつづけます。

弾力性がなくなってきた水晶体の機能を取り戻せたらいいのですが、そのようなことは不可能なので老眼をなおすことはできません。

中には高価なサプリメントやツボ押しなどの老眼トレーニングをされている方もいますが、残念ながらそのような方法では治すことができません。また、「老眼鏡をかけると老眼はすすむから」と、老眼鏡をかけずに頑張る方もおられますが、これも老眼の嘘になります。老眼鏡をすることで老眼が早まるということなら水晶体が早く硬くなるということになりますが、そのような事はありえないですよね。老眼鏡で老眼が早まるなら眼科医は誰も老眼鏡をすすめることはないと思います。

なんとかして老眼を遅らせたという気持ちはよく分かりますが、誰にも起きる加齢現象なので歳を取ったなと受け入れて頂いて早めに対応していくことが重要になります。

老眼になるともうコンタクトレンズや眼鏡を諦めて、老眼鏡を使わないといけないと思う方多いですが、そういうことはありません。ただ、コンタクトや眼鏡の使い方には工夫が必要になります。

①コンタクトレンズや眼鏡を使われている方で老眼初期の40-50代前半の方でしたら、まず少し弱い度数のコンタクトレンズや眼鏡に変えてみるというのがいいと思います。具体的には視力を1.2の状態にするのではなく0.7ー0.9程度まで少し落とします。

遠方の見え方はぴったり合っている状態よりややぼやけますが、手元の見え方がよくなることに気づくと思います。

0.7以上の視力があれば運転できますし、パソコンやスマホなど近くを見ることが多い生活の方ならむしろ見え方は楽になります。少し弱めにするということを低矯正にすると表現しますが、低矯正は老眼を感じ始めた初期の方には有効です。ちなみに、若いときから低矯正眼鏡やコンタクトレンズに慣れている方は、自分が「老眼になっている」ことに気づきにくいです。コンタクトや眼鏡は1.2や1.5見える状態にしておかないといけないと思っている方多いですが、デスクワークのような近くの作業が多い方ならやや弱めの度数に慣れておくと目が疲れにくくなるだけでなく、将来老眼も気づきにくいのでおススメとなります。

とはいえ、長時間車を運転するといったように遠方をはっきりと見る必要がある方は、度数を弱めることは難しいので別の対処法が必要になります。

もしこれまでのコンタクトレンズを継続して使用したいなら、見にくさを感じるときだけ「コンタクトレンズを装用した状態のまま、老眼鏡もしくは遠近両用メガネをかける」というやり方もよいです。

メガネのかけ外しは必要になりますが、手元は楽に見えるようになります。できるだけ今までどおりの見え方を維持したいという方にはよい方法です。

➂一方で眼鏡をしたくないという方もいると思います。その場合

コンタクトレンズにも遠近両用があるのでそのようなものを使ってみるというのも候補になります。遠近両用コンタクトレンズにはハードコンタクトレンズにもソフトコンタクトレンズにもあります。一般的にソフトの方が多いかなと思います。

遠近両用コンタクトレンズは、



1枚のレンズに、遠くから近くを見るためのレンズの度数がついているので、遠くと近くのどちらも見える構造になっています。

遠近両用の眼鏡の場合はレンズの上の方が遠用部分で、下方が近用部分です。そのため視線を動かす必要がありますが、遠近両用のソフトコンタクトレンズは視線を変える必要はありません。それなら眼鏡よりも便利だと思う方もいると思いますが、遠近両用コンタクトレンズも完璧ではありません。

遠近両用ソフトコンタクトレンズでは、同時視と呼ばれる見え方をしています。同時視とは遠くと近くの像が両方同時に眼の中に入ってくる見え方のことを言います。少し分かりにくいのでイメージしてみます。例えば遠く



をみようとしても近くの情報も同時に入ってきます。この状態から脳は遠方の画像のみを選択して処理しようとしますが、近方




の画像を打ち消しながら処理するので見え方の鮮明さは通常のコンタクトレンズより落ちます。

遠近両用のソフトコンタクトレンズはすべてこの同時視タイプですが、最大のデメリットが通常のコンタクトレンズに比べて、遠方も近方も見え方の質が低くて、特に遠方がぼやけて見えるという点です。

また、近方の加入度数を老眼の程度によって増やしていく必要がでてきますが、度数が強くなるほど遠くは更に見え方が悪くなる傾向にあります。

 見え方に慣れるために遠近両用コンタクトレンズはある程度の期間が必要になりますね。

慣れた上で、普段の生活で見え方に満足できるようになればいちいち老眼鏡を掛ける必要もなくなりますし、非常に便利です。ただし、全ての方が遠くも近くも見え方に満足できるかというと、なかには鮮明さで満足できない方もおられますので、まず試してみることが必要です。

ちなみに白内障手術で使われる多焦点眼内レンズも遠近両用のソフトコンタクトレンズと仕組みは全く同じで同時視です。

広い範囲に焦点を合わせる多焦点眼内レンズですが、各焦点距離における見え方は、1つの焦点に合った単焦点眼内レンズよりも鮮明度が劣ります。また、多焦点眼内レンズは構造上



「ハロー・グレア現象」が起こりやすいという特徴もあります。

白内障がほとんどなくて症状が老眼のみの状態で多焦点眼内レンズをいれると手術前よりコントラストが落ちる可能性があります。多焦点眼内レンズが合わなくてレンズ交換をされる方で最も多い理由がwaxy visionといいますが、すっきりした見え方でないという理由が一番になります。眼鏡やコンタクトレンズで1.0見えている。ダブりやかすみといった白内障の症状がほとんどないのに多焦点眼内レンズでの手術を検討している場合はリスクを伴うので注意してください。

 遠近両用コンタクトレンズを使用してみたいけどコスト面がネックになっている方に、普通のコンタクトレンズでモノビジョンという方法もあります。

 目は、常に両目が同じようにものを見ているわけではありません。

右利きと左利きの人がいるように、目にも効き目があって効き目の方で視界の大部分をみて、効き目でない目は補助的な役割をしています。利き手も右が同じように、利き目の割合も右目に多いといわれています。

 効き目に遠方に合わせたコンタクトレンズを装用して、もう片方の目に近方に合わせたコンタクトレンズを装用する方法を、モノビジョンと言います。また片目だけ遠近両用のコンタクトレンズを使う場合があります。効き目に通常のコンタクトレンズ、効き目でない方の目に遠近両用のコンタクトレンズを使うという方法もあります。

これもモノビジョンの一種となります。

モノビジョンになれると両眼で遠くから近くまでをカバーできるので結構便利です。

とはいえ遠くも近くもしっかり見えないとストレスを感じる方、夜間の運転が多い方には向かない可能性があるのでやはりこれもまず試してみるということが必要です。遠近のコンタクトは両眼だと合わなかったけど、片目だけなら問題なかったと言われる方もいますね。合わなければやめればいいだけなので、挑戦してみるのもいいかと思います。

患者さんの中には健康保険が使えない自由診療になりますがICLはどうなの?若い方だけでなく老眼治療としてやることもあるみたいだけどと詳しく調べて来られる方もいます。

ICLとは目の中に入れるコンタクトレンズです。老眼用のICLというものがありますが、原理としては遠近両用のコンタクトレンズや多焦点眼内レンズと全く同じです。すっきりした見え方にならない場合がありますし、いずれ白内障手術を行うときには抜かなくてはなりません。手術であるため感染症などのリスクもあります。それを超すメリットがどこまであるのかなという疑問が個人的にはあって、それならコンタクトや眼鏡でいいのではないかと思うのであまりお勧めしていません。

このように老眼に対する方法はいくつかありますが、どの方法をとっても若いときのように遠くも近くも鮮明にみえるようにするということはできないんですよね。妥協点をさぐりながら、これなら自分に合いそうだという方法をみつけることが重要です。

今回の話をまとめますと

①老眼の初期の段階だとお使いのコンタクトの度数を落とす【低矯正にしてみる】のがおススメです。

➁コンタクトの上から老眼鏡をかけるというのもよい方法です。

➂遠近両用コンタクトレンズは合う合わないがあります。効き目に通常のコンタクトレンズを効き目でない方の目に遠近両用コンタクトレンズをつけるとうまくいく場合があります。

④白内障がない目への多焦点眼内レンズはコントラスト低下の可能性があり、リスクが伴います。

⑤老眼用ICLも若い時と同じように見えるわけではありません。

という5点です。老眼対策は色々あって見にくさを感じたら早めに対策されることをおすすめします。遠近両用コンタクトレンズや遠近の眼鏡は老眼が軽いうちからはじめると、見え方に慣れるのも早いです。ある程度老眼が進んでからでは加入度数が強いものから始めなければなりません。眼鏡もコンタクトも近方の加入度数が強いほど慣れが必要になります。

手元のみにくさを感じるようになったら我慢せずに早めに老眼対策されるのがよいですね。今回は老眼になったらどのように対応したらよいのかという事に関してお話いたしました。

(2025.5.7)