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192.足踏み運動

今回は目と身体にいい足踏み運動に関してお話しいたします。ウォーキングなどの有酸素運動は身体によい影響があるということはよく聞くと思いますが、目にもよい影響があります。有酸素運動を行うと全身の血流が改善し、それに伴い目の血流も良くなります。例えば、緑内障の方にはウォーキングなどの有酸素運動を行うと眼圧が下がるという報告や視野の進行が抑制されたという報告もされています。血行が良くなることで涙腺の働きが活発になり、涙の分泌が促されるのでドライアイにもよいです。有酸素運動は体内の抗酸化力を高め、活性酸素による細胞のダメージを抑制する効果があります。加齢黄斑変性という網膜の病気は、活性酸素による酸化ストレスが一因とされているため、有酸素運動による抗酸化力の向上は、病気の進行を遅らせる可能性があります。

また、有酸素運動は、インスリン抵抗性を改善し、血糖値を下げる効果もあります。糖尿病網膜症の予防や進行抑制に良い影響を与えます。

このように全身だけでなく目への健康効果も様々あるのでよく患者さんにはそのような事をお伝えしていますが、中には視覚障害をお持ちで転倒や事故の可能性があるので外出てウォーキングのようなことを積極的にすすめることができない場合があります。実際患者さんとしても目が見えないから、歩くのが怖い、ずっと基本家で寝ているという患者さんもおられます。すると足腰が悪くなり、やがて一人で病院に通えなくなり、病状がどんどん悪くなる、ご家族の方にあれ最近すごく見にくそうにしているなと感じて久しぶりに連れて来られたときにはだいぶ病状が進行しているということを実際に僕らは経験します。

そのようなことがないように家でもできる有酸素運動をお勧めしています。

今回は自宅にいてもできる足踏み運動に関してお話しいたします。

★足踏み運動とは

足踏み運動とはそのままですが、その場




で足踏みをするだけの簡単な運動です。

立ちながらしていただいてもいいのですが、イスに座ってもできます。その場で5分足踏みするだけです。足踏みの速さは自由で、膝を高く上げすぎると腰に負担がかかる可能性があるので床面から5cm程度上がればよいです。

負荷を入れたい方は自分の手で太ももを押しながらやると少しきつく感じると思います。

さらに、つま先足踏み



というのも効果的です。つま先足踏みとはかかとを上げておろすだけです。これはふくらはぎを鍛えるのに適していて。1分程度行ってみるとかなりの負荷を感じると思います。

このような足踏み運動は、手軽にできる運動でありながら、様々な足の筋肉を鍛えることができます。

太もも・ふくらはぎ・お尻の筋肉を鍛えることができ、下半身の筋力効果の他、ひざや足の関節の安定性を高める効果もあります。実際に足を前に踏み出して歩かなくても、その場で足踏みするだけで歩行に近い有酸素運動の効果が期待できます。

注意点としては①無理をしないこと、そして②姿勢を正して行うようにしてください。猫背になると腰への負担が大きくなるので、背筋を伸ばし、肩の力を抜くようにしてください。また③息を止めずに、リズムよく呼吸をすることも大切です。④ひざの角度を90度にして、速く動かすよりも一歩一歩ゆっくり動かすことが大切となります。【動画内で箇条書きでお願いします ①無理をしない ➁姿勢を正して行う ➂息を止めない ④ゆっくり動かす】

★何故足腰の運動なのか?

トレーニングには様々ありますが、その中でもなぜ足への運動なのかと思われた方もいると思いますが、「歩く」という行為は、思っている以上に健康によい影響を与えています。特に下半身、足の筋肉は大切で全身の筋肉の7割が下半身に集まっていますし、そして足の筋肉は他の部位と比べて、サイズが大きいという特徴があります。大きい筋肉



を鍛えるということは単に足腰を鍛えるだけでなく、全身の血流を改善するという大きなメリットがあります。

足の筋肉が衰えるとどうなるでしょうか?歩行が困難になり、寝たきりになるリスクが高まります。

歩けないから「座ることが中心の生活」にシフトしていき、目が悪いだけでなく足腰が更に悪くなる可能性があります。その状態を放置すると、フレイルという状態に陥り、健康寿命を短くする原因になります。

★フレイルとは

フレイルという言葉聞いたことありますか?

フレイルとは自立した生活を送るための身体の機能が低下して介護の必要性が高くなっている状態のことです。

誰もが避けられない加齢による影響が主ではありますが、中でも足腰の衰えは、フレイルをすすめる重要な要因の一つとされています。

足腰の筋力が弱まると、歩行や立ち上がりなどの動作が困難になり、活動範囲が狭くなります。

御年配の方が転倒し骨折するようなことがあると大変です。目が悪くなるだけでも転倒のリスクが高まります。白内障や緑内障のような病気がある方はそれらがない方に比べると、4-5倍転倒のリスクが高いという報告もされています。特に緑内障の方



は下方の視野障害が強くなるほど足元がみえないので転倒のリスクが高まることで知られています。

緑内障などで充分な視界が確保できない、その上足腰が悪くなるとさらに転倒のリスクが高まります。目が悪ければ、見ることもできない、そして歩くこともできないとなると日常生活動作が大きく制限され、そのまま寝たきりになる恐れもあります。

次のようなことに当てはまる方はフレイルの状態に近づいているかもしれません。

  1. 体重が減っている。筋肉が落ちて体重が半年間で2~3kg以上減った
  2. 疲労感を感じている、普段の生活や動作でもすごく疲れるようになった
  3. 歩行速度が低下した。歩くのが遅くなり、一回の青信号で横断するのが不安になってきた

⑷筋力(握力)低下・・タオルやぞうきんがしぼれない、ペットボトルのフタが開けにくい

⑸活動量の減少・・・一日中家の中で座ったり寝たりして過ごすことが増えた

以上の5つのうち、3つ以上あてはまるとフレイル状態である可能性が高いです。

足腰を鍛えることは、フレイル予防において非常に重要な要素になります。

★足の筋肉を鍛えるメリット

人間の体は、頭からつま先まで、それぞれの部位に合った筋肉が発達していますが特に、足の筋肉は体の中でも大きな筋肉が含まれていることが特徴です。

足には、体の中



でも大きな筋肉であるふとももの大腿四頭筋やふとももの裏にあるハムストリングスなどが存在していますが、大きな筋肉を鍛えるということは大きなメリットがあります。

  1. 全身の血流が改善します。➁基礎代謝が向上します。➂骨を刺激し、骨密度を高める効果も期待できます。④また、テストステロンや成長ホルモン、脳由来神経栄養因子(BDNF)などの分泌が促進され、筋肉の成長を促したり、若々しさを維持する効果や神経細胞の改善に繋がります。特に近年脳由来神経因子、BDNFは、脳だけでなく、目の健康にも深く関わっていることが明らかになってきています。緑内障は、視神経が損傷することで視力が低下する病気です。BDNFは、視神経細胞の保護に役立つと考えられています。さらにBDNFは、加齢黄斑変性症においても黄斑部の細胞の再生を促す可能性も指摘されています。

★筋肉が減ると

運動をするメリットはこのように目にもよい効果が期待できます。

一方で筋肉量の低下は目の健康に悪影響を与える可能性があります。筋肉量の低下と目への健康、一見関係ないように思えますが、実は深い繋がりあります。

まず全身の血流による影響です。

筋肉は、血管を圧迫したり緩めたりすることで、血液を送り出すポンプのような役割を果たしています。特に、ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも呼ばれ、下半身に溜まった血液を心臓に戻す重要な働きをしています。

筋肉量が低下すると、このポンプ機能が弱まり、血液をスムーズに循環させることができなくなります。

眼は、多くの酸素と栄養を必要とする組織です。血流が滞ると、視神経や網膜への栄養供給が不足し、視力低下や眼疾患のリスクを高めます。

近年の研究では、慢性的な炎症が、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの眼疾患の発症に関与していることが指摘されています。筋肉量の低下は、炎症を引き起こす物質の分泌を促すことがあります。筋肉



は、マイオカインと呼ばれるホルモンを分泌しています。マイオカインには、抗炎症作用を持つものが多く、全身の炎症を抑制する働きがあります。

筋肉量



が低下すると、マイオカインの分泌量が減少し、炎症性サイトカインと呼ばれる炎症を促進する物質の分泌量が増加します。

近年のアメリカの研究で、運動をよくする人は、そうでない人に比べて加齢黄斑変性の危険性が低下する可能性が報告されており、これは運動による炎症の軽減効果によるものと考えられています。運動不足は、慢性的な炎症を引き起こしやすくなる原因の一つになります。

下半身の大きな筋肉を鍛える運動が効果的であり、足踏み運動のような軽い運動でもマイオカインが分泌されるとされています。

可能ならウォーキングやスクワット、レッグプレスを併用したほうがよいのは言うまでもありませんが、きついですよね。できる方はもちろんしていただきたいですが、きつい運動をすることに不安がある方はこのような軽い運動からはじめてみてはいかがでしょうか?古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、「歩くことは最大の薬である」という言葉を残しています。この言葉は、現代においても、その重要性が認識されていると思います。

筋肉量を維持するには運動だけでなく、食事や睡眠、ストレスとの付き合い方も大切です。

タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなどをバランス良く摂取することが、筋肉の維持に繋がります。中でもタンパク質を積極的に摂取するようにする、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを毎食に取り入れるようにしてください。特に、ご高齢の方はタンパク質摂取量が不足しがちなので、意識して摂取する必要があります。1日に必要なタンパク質量は、体重1kgあたり0.8gが目安ですが、フレイル予防には1.0〜1.2gが推奨されます。

足踏み運動は今の寒い時期や天候にも左右されず、自宅でできる有酸素運動になります。座ったまま気軽にできるので音楽を聴きながら、テレビを見ながらといった「ながら運動」も可能です。

運動習慣が全くない方はこのような簡単な運動からはじめてみてはいかがでしょうか?。

今回の話をまとめますと

①有酸素運動は目への健康効果も期待されています。

➁足腰の衰えは、フレイルの重要な要因の一つです。

③足踏み運動は足の大きな筋肉【ふくらはぎ、ふともも、臀部】を鍛えることができます。

④大きな筋肉を鍛えると血行が改善し、抗酸化力も高まりまり目への健康効果も期待されます。

⑤タンパク質を中心の食生活を意識してください。

という5点です。

筋トレというと身構えてみてしまう方も多いと思いますが、このような足踏み運動であったり、1時間に1回は席を立ち、ストレッチや簡単な体操をしたり、エレベーターやエスカレーターの代わりに、階段を利用してみたりという簡単な事から始めてみるといいと思います。私自身も外来で数時間座りぱなしで何時間も立っていないなと思う事がありますが、その分できるだけ意識して歩くことや階段を使う事を意識したりしています。

今回は自宅でできる足踏み運動に関してお話しいたしました。

(2025.3.18)