自分にしか見えない浮遊物 飛蚊症
明るい所や白いもの、青空を見た時に、目の前
に糸くずやアメーバのような「浮遊物」が見えることはないですか?自分にしかみえない浮遊物を飛蚊症といいます。
飛蚊症を感じると目の前に何か飛んでいるのかなと思って思わず払ってみたり、目の表面にゴミがついていると思って瞬きを何回したことがある方もいるかもしれません。中には目を洗ったりする方もみえますが、そのようなことをしても飛蚊症の症状は無くなりません。そこで、あ、これは自分の目の中で何か起きていて、それが見えているんだということに気づきます。
飛蚊症は見えても、多くは問題ないですが、中には注意したい飛蚊症もあります。
今回は飛蚊症には色々種類がありますが、特にこのような症状には注意してくださいということに関してお話しいたします。
飛蚊症の原因は目の中の硝子体という部分に問題があります。硝子体
とは、眼球の水晶体の後ろ側にあるゼリー状の透明な組織です。90%以上が水でできており、ほかにコラーゲン線維などの細胞成分を含んでいます。
硝子体は眼球内
を保護する役割があって通常は透明です。濁りがなければ視界はクリアになりますが、何らか
の原因で”濁り”ができると、網膜に影となって映ることで飛蚊症として自覚します。
この濁りは多くの場合は加齢に伴い発症しますが、20~30代で発症する方も少なくありません。中にはだいぶ幼いときからみえているという方もいます。これは生まれつき少し硝子体に濁りがある方もいますし、近視の
方は眼球が通常よりも長く伸びることによって、中の成分が変化して濁りができることがあるからです。飛蚊症は白い壁や青空を見たときに目立ちやすく、暗い場所では目立ちにくいという特徴があります。
生理的飛蚊症と病的な飛蚊症
飛蚊症には色々タイプがあって全ての飛蚊症が問題なわけではありません。
20-30代の若い方で、外傷歴がない、目をぶつけたことがない、飛蚊症があっても1~2個程度、強度近視やアトピーでないという条件であれば、その飛蚊症は病的である可能性がかなり低くなります。
このような問題にならない飛蚊症を生理的飛蚊症といいますが、飛蚊症には生理的なものと病的なものと二つに別れます。生理的なものは放置するしかありませんが、病的なものは治療が必要になります。
病的な飛蚊症とは、網膜裂孔や網膜剥離などの病気によって引き起こされる飛蚊症のことです。網膜
に孔があいたり裂け目ができた状態を網膜裂孔といい、網膜裂孔の状態から網膜が剥がれてきた状態を網膜剥離といいます。網膜が剥がれたままの状態が続くと剥がれた部分の網膜の細胞が死んでしまい、たとえ剥離が治ったとしても十分に視力は回復しないことがあるので緊急性が高い病気です。
病的な飛蚊症を見抜くポイント
病的な飛蚊症は治療が必要で、問題な飛蚊症を見抜くためにいくつかポイントがあります。
まず好発年齢です。網膜剥離は全ての年代で一定に起きるわけではなく、起きやすい年齢があります。それが20代と50~60代です。それ以外の年齢なら問題がないというわけではありませんが、起きやすい年齢を知っておくといいと思います。
20~30代の方と50~60代で網膜剝離を起こす原因は違います。20代で多い理由は主に外傷と近視です。
サッカーボールが目に当たった、ボクシングで目をぶつけたということで目に振動が加わると網膜に穴があいて網膜剥離に繋がることがあります。近視が強い人は、眼球が長く、網膜が薄く、裂けやすい状態になっているので余計に外傷に弱いです。近視が強く、目をぶつけたことがある方で飛蚊症が最近増えたということなら一度眼科で目の奥を調べてみてもらった方がよいと思います。
一方で50,60代の方は後部硝子体剥離
という生理現象がきっかけになります。50歳以降の飛蚊症の原因として最も多いのがこの後部硝子体剥離です。
後部硝子体剥離とは、眼球の中にあるゼリー状の物質である硝子体が、網膜から剥がれてしまう状態のことをいいます。剥がれた硝子体の断片や、網膜から剥がれ落ちた細胞などが、眼球内をただようようになります。これらの浮遊物が光をさえぎると影が網膜にできることによって、飛蚊症として感じるようになります。
また網膜が硝子体に引っ張られると、光が走るように見える現象が起こります。これを光視症と呼びます。後部硝子体剝離をきっかけに起きる飛蚊症や光視症は必ずしも病的なものではありませんが、中には網膜剥離などの眼の病気をきっかけとして飛蚊症や光視症といった症状がでていることもあります。
何か簡単な方法で病的ものが起きているのか、それともただの加齢性の変化なのか判断できればいいのですが、自分で判断することができません。僕ら眼科医でも50~60代になるとこの飛蚊症を自覚するようになりますが、後部硝子体剝離だろうけど網膜に穴があいているかどうかの判断はできないので知り合いの先生などに頼んで検査を受けるしかないです。
そのため50歳以上で注意が必要な飛蚊症は
①急に飛蚊症の数が増えたり大きくなった(何時何分に突然に増えたという表現をされる方もいます)
②ぴかぴか光る現象が連発している
③強度近視又はアトピーである
④視界が欠けている・モノが歪んで見えるという
これらは網膜剥離の初期症状の可能性があるので、いますぐ眼科に行く必要があります。
よくないのは、片目のみの症状が多いので、いつか治るかもしれないと放置される方がいることです。視界
のかけ方は視界の端から中心に向かって迫ってきます。視界の端が欠けても中央の視野が見えるのでいきなり見にくくるわけではない、これが放置される理由の1つです。視野の上側
から欠けていくこともありますし、下方から欠けていく事もあります。飛蚊症がある場合、視野の周りが欠けていないかチェックするようにしてください。
中には完全に見えないのに片目みえているからということで放置されている方もみえます。
網膜は脈絡膜という部分から栄養をもらっていますが、網膜剥離はこの脈絡膜からはがれてしまう病態です。治療が遅れるとはがれた部分は栄養や酸素が送られません。そのため、たとえ手術して見た目上、網膜は治っても充分に見え方が回復しない場合もあるので早急な治療が必要になります。
ワイスリングとは?
50歳以降で飛蚊症が急に増える方の原因の多くがこの後部硝子体剥離です。後部硝子体剥離をきっかけにワイスリング
と呼ばれる大きな濁りができることもあります。輪っか状またはねじれた糸状の形状をしています。突然、おおきな飛蚊症が出現するのでびっくりして受診される方多いです。気にしないようにしても視界のど真ん中に出てくるのでどうしても気になってしまうと思います。
ワイスリングは、加齢に伴う眼球内の変化によって生じる浮遊物で、有効な治療法がありません。はじめは大きな黒い輪のようなものが見えますが、硝子体
が縮んでいくにつれて位置が網膜から離れていきます。離れて行くにつれて網膜に映る影も薄くなるので自覚しにくくなります。だいたい半年から1年ぐらいで視界から外れて気にならなくなる方が多いです。ワイスリングのような大きな飛蚊症は、必ずしも病気のサインというわけではありませんが、網膜裂孔や網膜剥離などの合併症を伴っていることもあります。大きな飛蚊症に気づいた時は眼科でチェックするようにしてください。
このような飛蚊症の原因は硝子体に含まれているコラーゲンの変性物質です。そのためこの元を除去できれば飛蚊症の症状はなくなります。ですが保険診療では変性したコラーゲンを取り除く治療が残念ながらありません。自由診療では主に二通りの治療法があります。
1つが硝子体手術、もう1つが硝子体YAGレーザーという治療法です。
硝子体手術は、眼の中の濁りを直接取り除く手術ですが、大きな手術となるため、感染症などの合併症のリスクも考慮する必要があります。一方、硝子体YAGレーザーは、レーザーで濁りを小さくする治療法で、比較的負担が少ない治療法です。低侵襲ではありますが、レーザー治療によって、まれに網膜に穴が開いたり白内障が進行することもあります。
どちらも確立された治療法ではありませんし、飛蚊症が完全に消失するとも限りません。
飛蚊症を完全になくす事は中々難しいですが、日常生活で出来るだけ飛蚊症を気にしないようにするための環境作りをされるのも大切だと思います。
そこで、飛蚊症を気にしなくするためのポイントをいくつかご紹介します。
まず1つ目。
外出時はサングラスをするようにしてください。飛蚊症は青空や白い壁を見るときに気づきやすいです。逆に夕暮時や夜間になるとほとんど気にならなくなると思います。これは光量が関係しているからです。飛蚊症は光がコラーゲンにあたり、その影が網膜に映ることで自覚します。そのためはっきりした影をできるだけ作らないように工夫することが大切です。サングラスをかけることで、光を遮断して、飛蚊症による視覚的な不快感を軽減できる可能性があります。またサングラスには黒目の収縮を和らげる作用があります。明るい光に反応して黒目、瞳孔は収縮して小さくなります。黒目が小さくなると光が集まりやすくなります。結果として網膜に映る影も強くなりやすい、すなわち飛蚊症を自覚しやすくなります。サングラスをすることで飛蚊症の症状を緩和できる可能性があります。飛蚊症が非常に多く、視界が大きく妨げられている場合は、サングラスだけでは症状を改善できないことがありますが、症状を軽減する一つの手段として有効な場合があります。
2つ目。
スマホやタブレットを使う時はダークモードにしてみてください。通常モードは白を基調として黒文字になっていると思います。明るくて見やすいというメリットはありますが、先程と同じで光量が強いため飛蚊症を自覚しやすくなります。ダークモードは目に優しく電池が長持ちする効果があります。強い光量ほど飛蚊症を自覚しやすいので光量を落としたモードにされると飛蚊症が目立ちにくくなる可能性があります。ダークモードがなければ、ディスプレイの光量を少し落としてみてください。
3つ目。
日常生活のほとんどを自宅で過ごされている方なら、部屋の光が調光ができるのであれば少し部屋の光量を落としてみてください。部屋の照明は、暖色系の光を選ぶと目に優しく、飛蚊症も気になりにくくなります。またこれから家を建てる予定がある方なら真っ白な壁にするよりは少し色調を落とした壁紙を選ばれるのも良いと思います。デスクワークがメインの方であれば思い切って自分の周りを黒のパーテションで区切るのも有効だと思います。
これら3つ、どれも共通していえることは
飛蚊症の原因となっている光の強さを落として、原因となる影をできるだけ薄くするという事です。非常にシンプルなことですが、これだけでだいぶ自覚症状が軽減できる可能性があります。よければ参考にしてください。
まとめ
- 以前から見えている数個の飛蚊症は問題ない事が多い
- 20~30代で若くして網膜剥離を起こす方は近視や外傷が多い
- 50から60歳台は後部硝子体剝離をきっかけに飛蚊症を自覚することがある
- 放っておいてよいものかどうかは眼科医の診察が必要
- 飛蚊症には有効な治療法がないので、サングラスなどで出来るだけ目に入る光の量を減らすことがポイント
という5点です。
飛蚊症は、最初は鬱陶しく感じることがありますが、時間の経過とともに徐々に慣れていく方がほとんどです。だいたい1年もたつと飛蚊症の存在を忘れる方が多い印象があります。診察を受けて問題がなければ様子をみるようにしてください。ただし、一度診察を受けて問題なければその後も問題ないわけではありません。
その後に急に症状が変化した場合は、必ず再度眼科を受診するようにしてください。今回は注意したい飛蚊症のポイントに関してお話しいたしました。
(2025.1.28)