今回は腎臓が弱っていると目にこのような症状がでますということに関してお話しいたします。腎臓
は腰の上あたりに左右一つずつある、そらまめ型をした臓器です。血液を濾過して、尿をつくる大切な役割があります。一方で目は視る臓器です。腎臓と目、全く違う臓器で何の関係があるの?と思う方もいるかもしれませんが、実はいくつかの共通点を持っています。『目は腎の鏡である』という言葉があるぐらい目は腎臓の状態を表しているとも言われています。
今回はこのような症状があれば腎臓も目も弱っているかもしれないので注意してくださいということに関してお話しいたします。
多くの方は「腎臓=尿を作る」のイメージがあると思います。実際に尿を作ることは腎臓の一番大切な仕事です。人は日々の食事や運動から栄養や酸素を取り入れて、その結果として体内で多くの老廃物が作り出されています。この血液中に貯まった老廃物を尿として捨てることが腎臓の役割です。
腎臓がうまく働かなくなると、体内に老廃物が蓄積して、むくみ、高血圧、貧血、骨の病気など、様々な健康問題を引き起こします。もちろん目にも影響があります。
腎臓は悪くなっても初期には症状でませんが、やがて進行がすすむとまず出やすい症状が浮腫みです。腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を尿として体外に排出する働きをしていますが、腎臓の機能が低下すると体内に水分がたまりやすくなります。この状態を浮腫と医学的にいいますが、特に顔の中でも瞼に現れやすいのが特徴です。最近になって寝不足でもない、疲れてもないのに瞼が腫れて、目の周りのしわが減ったなと感じたことはないですか?
瞼が腫れる原因にはアレルギーやアルコールの飲み過き、心臓による影響など様々ありますが、腎不全による瞼の浮腫みの特徴は通常、両目の瞼がほぼ同じように腫れていきます。そして寝ている間は横になっているので、朝起きたときにむくみがはっきりします。
また瞼だけでなく、顔全体や手足など、全身にむくみが見られることが多くて、むくんでいる部分
を指で押すと、圧痕性浮腫といいますが指の跡が残ることがあります。
更に、尿量の減少、尿の色が濃い、尿に泡が立つ、体重増加、食欲不振、吐き気、倦怠感があるなどの症状がある時は要注意です。瞼の腫れは腎臓による影響の可能性が高くなります。
また腎不全になると、貧血になりやすくなります。これは腎臓には、血液を作る働きもあるからです。赤血球を作るために必要なホルモンである「エリスロポエチン」を分泌して血液を作る指示を出しています。腎臓の機能が低下すると、このエリスロポエチンの分泌量が減少し、結果として赤血球が不足し、貧血状態になります。
この腎臓の機能低下による貧血を「腎性貧血」といいます。腎性貧血になると疲れやすくなったり、倦怠感や息切れ、めまいなどを起こすことがあり、目にも症状がでます。下瞼の内側、眼瞼結膜という部分が真っ白になります。これは、赤血球の減少によって、血流不足の状態になるからです。結膜の観察は、腎性貧血の診断の一つの手がかりによく使われます。最近めまいやふらつきが多くてという方の瞼をみると真っ白になっていて、貧血かもしれませんよと眼科でもお話しすることもあるぐらいです。
あっかん
べーしてみて、ピンクや赤みがあれば問題ないですが、真っ白になっていることないですか?
もし、結膜が蒼白でそれに加えて、倦怠感、息切れなどの症状がある場合は、早めに内科の先生に相談するようにしてください。腎性貧血は、単なる貧血ではなく、腎臓病の進行に伴う合併症の一つです。
貧血の症状を放置すると、腎臓病の悪化を加速させて、最終的には命に関わる状態に発展する可能性があるので注意してください。
また、腎臓が弱っていくと体内のカルシウムやリンのバランスが崩れやすくなります。腎臓は、体内の水分や老廃物を尿として排泄するだけでなく、ミネラルバランスを維持するために非常に重要な役割があります。このミネラルバランスの乱れが、目の角膜
という部分にカルシウムを沈着させて帯状角膜変性症という病気になることがあります。自分の黒目が濁っていないか確認してみてください。帯状角膜変性症は視力低下の原因になります。特に長期間透析治療を受けている患者さんは、カルシウム・リン代謝の異常がより起こりやすいため、帯状角膜変性症のリスクが高くなります。薬で濁った部分を溶かすという方法はありますが、沈着が強いと取り切れない場合があります。ぶどう膜炎など他が原因である場合もありますが、特に、腎不全との関連が深いことで知られています。
このように腎臓の機能がおちていくと瞼が腫れたり、結膜が白くなったり、黒目が混濁することがあります。黒目の混濁はだいぶ濁っていると自分で確認するのは難しくなりますが、瞼の腫れや結膜の色は確認しやすいと思います。目の表面側だけでなく、目の奥 網膜に障害がでてくると重症な後遺症を残す場合があるので注意となります。
腎臓と目は非常に細い血管が密集しているという共通点があります。腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分を濾過して尿を作る働きがあります。この濾過は、糸球体
と呼ばれるところで行われています。糸球体には無数の毛細血管が集まっていてこの部分で血液からの老廃物をこし出しています。
目にも目の奥
にある網膜には、非常に細い血管が密に張り巡らされています。網膜に酸素や栄養を効率的に供給するために、高密度に分布しています。
目と腎臓どちらも細い血管が集中していますが、細かい血管は、高血圧や高血糖などの影響を受けやすく、損傷しやすいという特徴があります。そのため目も腎臓も糖尿病や高血圧の影響を受けやすい臓器です。
事実、腎機能障害に影響を与えるもので最も多いのは糖尿病による糖尿病性腎症で腎不全全体の4割程度占めています。目も糖尿病による影響受けやすいですね。糖尿病がきっかけで起きる目の出血を糖尿病網膜症といいますが、糖尿病網膜症で年間約3,000人の方が失明されていて、成人の失明原因は緑内障に次いで第2位、50〜60代では第1位となっています。
糖尿病は血糖値が高い状態が続くことで、全身の血管にダメージを与える血管病です。高血糖の状態が続くと、血管の内側に糖がくっついて炎症をおこして血管が傷つきやすくなります。そして血管が硬くなったり、狭くなったりします。これを動脈硬化と言います。
手足などの身体の先端部分や目や腎臓といった細かい血管がある臓器から障害がおきてきます。
糖尿病網膜症は目の奥に出血を起こします。初期には自覚症状が出ませんが、進行した場合、難治性の網膜剥離や緑内障を合併して失明に至る場合もあります。目の次に障害がくる臓器はどこかというと腎臓です。糖尿病性の障害はこの神経、目、腎臓の頭文字をとってしめじといわれていますよね。糖尿病の三大合併症です。
また腎臓の働きが悪くなると余分な塩分や水分がたまるので高血圧にもなります。そして血圧が上がれば腎臓への負担が増え、ますます腎臓の機能が低下するといった悪循環が生じやすくなります。高血圧によって網膜の血管が障害をうけると、同じく眼底出血をおこします。眼底出血は糖尿病だけでなく、高血圧が原因の場合もあります。
眼底出血があった場合、眼科のレーザーなどで出血を治す治療と同時に内科への受診も必要となります。血液検査、尿検査などを内科で行って出血の原因は何でおこったかということを調べていきます。検査の結果から、じつは腎臓が悪くて高血圧になっていた、糖尿病があって腎臓も悪くなっていたという事が眼底検査をきっかけに分かったりします。
40歳を過ぎたら必ず眼底検査を受けるようにしてください。
法律で決められている眼科の検査は視力検査だけです。実は視力検査だけでは目の状態は何も分かりません。
目の奥に細かな出血があっても視力は1.0普通に出ます。黄斑というところが腫れたり、かなりの眼底出血を起こさない限り視力は落ちないからです。腎臓も末期にならないと症状が出ないように、目も末期にならないと視力は落ちません。
眼底検査から緑内障など別の病気がみつかったり、眼底の血管の状態から糖尿病、高血圧、腎臓の病気が見つかるということもよくあります。
このように腎臓と目は意外と関連があります。
緑内障の方だと腎臓の機能が悪くなると使えない目薬もあります。エイゾプト、トルソプト、コソプト、アゾルガという目薬です。炭酸脱水酵素阻害薬というタイプを含んでいる目薬です。これらの成分は腎臓で処理されるので、腎機能が低下している患者さんでは、体内に薬物が蓄積します。電解質のバランスに影響する可能性があるので腎不全の方には原則禁忌となっております。ちなみに腎臓が正常な方なら問題なく使えます、腎臓を悪くするということもありません。ですが、今まで使っていた目薬が腎臓をきっかけに使えなくなるなんてことがこのようにあります。
腎臓を悪くしないためには、日々の生活習慣の見直しと、初期症状が現れないので定期的な検診が大切です。腎臓病のほとんどは、「尿検査」と「血液検査」で早期発見できます。病気を見逃さないためには両方の検査を受けることが大切です。
腎臓への負担を減らすために、まず塩分の摂り過ぎに注意してください。腎臓は食事として摂取した塩分を尿として排泄するという働きをしています。そのため、塩分を摂り過ぎると、過剰排泄となり、腎臓に大きな負担がかかります。加工食品や外食には塩分が多く含まれているので、注意が必要です。
また、風邪の症状を抑える時に使う解熱薬の中には、腎臓の働きを悪化させる恐れのある薬があります。セデス、バファリンそして病院だけでなく市販薬として買う事ができるロキソニン、これらは「非ステロイド性抗炎症薬」、通称NSAIDs、と呼ばれている薬ですがお薬が腎臓を痛めてしまうことがあります。
腎臓の働きが低下している方は、かかりつけ医に飲んでもよい市販のお薬について尋ねるようにしてください。
腎臓の働きが低下していくと、血液中の老廃物や不要物の濾過・排泄が十分にできなくなってしまい、目にも様々な症状を引き起こします。腎機能低下の進行を抑えるには、普段から腎臓に無理がかかる生活を送っていないかどうかを考えることが大事です。
今回の話をまとめますと
- 腎不全の初期症状はむくみです。
- 腎性貧血によって結膜が白っぽくなることがあります。
- ミネラルのバランスが崩れることによって黒目が濁ることがあります。
- 細かい血管が多いので糖尿病や高血圧の影響を受けやすいです。
- 腎臓を守るために減塩・常用薬に注意が必要です。
という5点です。
慢性腎不全になると、腎機能の回復は見込めません。そのまま腎機能が低下していくと末期腎不全へと進行して、人工透析が必要になることもあります。そして透析を始める方のだいたい半分は重度の視覚障害があります。腎臓の健康は目の健康にも繋がります。目と腎臓を守るために定期的に内科、眼科で検査を受けるようにしてください。
今回は腎臓と目が弱るとこのような症状が出ますということに関してお話いたしました。
(2024.12.9)