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184.単焦点眼内レンズ 度数の決め方

今回は白内障手術で使う眼内レンズの度数の決め方に関してお話しします。白内障手術で使用する眼内レンズは単焦点眼内レンズが多いです。単焦点という名前がついている通り見える範囲が限られているので、裸眼でどこにピントを合わせるかが非常に重要になります。

裸眼



で1m以降遠くをみたいのか、それとも50cm~1m程度の中間距離に焦点を合わせるのか、または50cm以内の近距離にピントを合わせるのか希望に沿って決めていきます。今まで近視で遠くを見る事に憧れていた、術後は遠くに合わせたいという方もいると思いますし、中には老眼で手元がみえないことが一番の悩みだ、とにかく裸眼で手元をしっかり見たいという方もいると思います。

基本的には皆さんのご希望に沿った見え方を選択することが原則になりますが、注意点もあります。

今回は単焦点眼内レンズの度数の決め方に関してお話しいたします。

術後の度数の決め方は基本的な考え方としては次のようになります。

  1. 元の目の屈折の状態に合わせる。
  2. 裸眼でみたい部分にピントを合わせる
  3. 強度近視は近視を弱める 
  4. 遠視の方が近くの見え方を選択する場合は注意
  5. 片目術後にモノビジョンを検討する場合がある

という5点になります。

順番にみていきます。

屈折の値は皆さんそれぞれ違いますね、近視の方もいますし、遠視の方もいます。原則としては近視の方は手元に合わせて、遠視の方は遠方に合わせるというのが原則となります。その方がもともとの見え方に慣れているので適応しやすいからです。

近視の方は手元は裸眼でピントが合いますが、遠くはぼやけるので眼鏡をしていると思います。特に強度近視の方はこの機会に遠方にピントを合わせたいと言われる方多いですが、遠くに合わすと、これまでピントが合っていた手元が見えなくなります。手術した直後はすごく良く見えるようになったと感動される方多いですが、しばらくすると手元が見えない不便さに気づくと思います。

単焦点眼内レンズ


は手元に合わすより遠方に合わせた方が眼鏡に依存することが多いということを知っておいてください。

スマホやパソコンといったデジタル機器を使わない方はあまりいないと思います。遠方に合わすと今度は近くを見るときは老眼鏡など近方用の眼鏡が必要になります。そのためせっかく遠くにあわせたけど、ずっと眼鏡をしないとスマホもみえないし不便だなと感じる場合があります。手元に合わせておけば家の中ぐらいならある程度裸眼で過ごすことができるので眼鏡の使用も減ることが多くなると思います。よく見えるから眼鏡をするの忘れていたという方もみえます。

それならどこにピントを合わせるのかとなりますが、ー6Dやー8Dとか近視が強い方はー2D程度



に合わせる事がおススメです。ー2Dぐらいにしておくと、本も読めるしパソコンもできるし、家の中ぐらいだとだいたい裸眼で過ごせます。

ー2Dよりも強い近視にすることはあまりおススメしません。どんどん遠くがぼやけていく上に裸眼でピントが合う範囲も狭くなるからです。単焦点眼内レンズは手元にピントを寄せるほどピントが合う範囲も狭くなります。

具体的にみていくと

完全


に遠方に合っている状態を正視と言いますが、屈折の値は0Dです。0D



に合わせると1m以降にピントが合います。少し近視



になったー1Dに合わせると50cm~3mにピントが合います。ピント



が合う範囲は2.5mぐらいです。ー2D



に合わせると30cm~1mの範囲にピントが合います。ピント



が合う範囲は70cmぐらいです。ー3D



に合わせると25~50cmにピントが合います。ピント



が合う範囲は25cm程度になります。ー4D



になると20cm~30cm程度 ピント



が合う範囲は10cm程度になります。 ー5D



になると15cm~20cm程度でピント



が合う範囲は5cm程度と、わずかになります。ー5Dになると少しでもずらすとみにくくなります。このようにピントを手元に寄せれば寄せるほど裸眼で見える範囲が狭くなります。

 

ー4Dやー5Dだとピントが合う範囲は5~10cm程度とだいぶ狭いです。スマホの画面を見るとしてもすごく近い距離にしかピントが合わないということになります。

強度近視の方が白内障手術をする際の注意点となります。強い近視を残しておくことはあまりメリットがありません。

例外はだいぶ進行している緑内障や加齢黄斑変性症で中心視力すなわち黄斑部に著しい障害がある方です。偏心固視と言いますが、中心視力がほとんど失われている方は黄斑でものをみるのではなくて網膜の他の部分を使ってみようとします。だいぶモノを近づけて見ることになるので、その場合は強度近視をそのまま残しておくのというのも選択肢になります。

そうでなければ、スマホもできて、パソコンもできてという距離のー2Dが程よいとされています。私の経験上も、ー2Dで近くの見え方に不満を持たれた方はいないです。

もちろん私はスマホもしないし本も読まない、とにかく運転を快適にしたいしテレビを最優先したいという方であれば近視の方でも遠方に合わせるという事で問題ありません。

ー1.5Dやー1Dの弱度の近視の方は元の値に合わせた方がよいと思います。このような弱めの近視の方は良好な近方視力を維持している事が多いです。安易に遠方に合わせると、今まで手元が見えていたのに見えなくなったと不満につながることがあります。そのままの近視の値にすることが無難な選択肢になることが多いかなと思います。

遠視の方や正視といって屈折異常がない方は遠方に合わせることをおすすめします。

完全に



0Dに合わすよりは-0.5D、2mぐらいにピークがくる合わせ方がよいと思います。ー0.5Dに合わせると遠方視力は0.8ー1.0ぐらいでます。字を読んだり書いたりする際には老眼鏡が必要になりますが、手術前から老眼鏡を使われているの方が多いので、通常は問題になりません。

遠視の方が手元に合わせたいと言われることもありますが、これはあまりお勧めしません。近視の方が遠くに合わせるのがいいのなら、遠視の方も近くに合わすのもいいのではないかと思いますよね。

遠視の方を手元に合わせると近視の状態になるということになりますが、遠視の方が近視になると思っていた以上に遠くがぼやけて見えます。確かに手元はピントは合う、だけど遠くがぼやぼやで全然みえないと不満につながることがあります。

またそれだけでなくその後の眼鏡も慣れにくいという難点があります。近視の方の眼鏡と遠視の方の眼鏡は違いがあります。近視の方の眼鏡は凹レンズといってレンズの中央部分が少し窪んでいます。レンズを通して見るとものを実際の大きさより小さく見せる特性があります。一方で遠視の方は凸レンズといってレンズの中央部分が少し盛り上がった形をしています。レンズを通して見ると実際の大きさより大きく見せる特性があります。

遠視から近視になるということは、遠視用の眼鏡から近視用の眼鏡に変わるということになりますが、見え方の変化に上手に適応できないことがあります。視力の出方に影響する場合があります。

近くが見えるようになったということで、老眼が治ったと喜ばれる方がいるのも事実ではありますが、思っていた以上に遠くが見にくくなるというということと、術後の眼鏡にも慣れが必要になるということを理解していただく必要があります。

基本は遠視の方は遠方に合わせる、そして近くは今まで通り老眼鏡をするということがおススメとなります。

ここまでをまとめると近視の方は手元合わせ、または遠方合わせでもどちらでもいいけど、遠視の方は遠方合わせにしましょうとなります。

その上でよく頂く質問としてモノビジョンをするならどのような組み合わせがいいですか?ー0.5Dとー1.5Dの組み合わせ、ー1.5Dとー2.0Dの組み合わせを考えていますが、どう思いますか?という質問です。

モノビジョンは眼科医によっても意見が分かれますが、私としてはモノビジョンの状態をコンタクトレンズで体験してみたり、片目終わった後にFEST法といってずらしたらどの程度視力が出るか予測するという方法があるのですが、そのようなことをした上で検討してください

とお話しております。

モノビジョンは左右で度を少しずらして見える範囲を広げる方法です。昔は左右で2D程度、しっかり離して遠くも近くも見えるようにとされていました。

理屈上はそれだと遠くも近くもみえますが、慣れなくて合わなかったということもあって従来の方法は現在ではあまりされていません。

今だとモノビジョンで眼鏡をしないというよりは、眼鏡を前提としてそのうえで少し見える範囲を広げるマイクロモノビジョン、ミニモノビジョンという方法がわりと安全にずらせる方法になります。無難な例をいうとー0.5Dとー1.0Dの組み合わせ、またはー1.5Dとー2.0Dの組み合わせです。

片目手術したあとにもう少し遠くが見えたらいい、逆に手元がみえたらいいといった場合には有効です。

眼鏡の使用を前提として、両眼でほぼ同じ度数を狙って手術をするのが安全ではあります。神経質な方や白内障以外に目に病気がある方は両眼揃えた方がいいですが、中には同じ度数にする方が気持ち悪いので少しずらしてほしいという方もいます。
このような場合やモノビジョンに希望があれば検討していきますが、

モノビジョンを検討する場合、片目手術が終わった後、これから手術する方の目にコンタクトレンズをするというのも白内障が軽い方なら有効な手段となります。白内障がかなり強い状態だとコンタクトレンズは参考になりませんが、まだ軽めということならコンタクトレンズの度数を色々試してみて、モノビジョンの状態で生活してみるのもよいと思います。ある程度離すと気持ち悪いけど、この程度なら見え方も良くなるし、いいなと感じるきっかけになるかもしれません。当院ではFEST法を行っています。これは片眼手術を終えた後に、手術した方の目を使って、反対の目の度数を決める方法です。

例えば片目手術した後にもう少し近くがみえたらいいなと思ったとします。

その場合、手術した目に度が入った眼鏡をしてー0.5D手元にずらした状態をつくったうえで、遠方から近方の視力を測定します。その状態で満足できる見え方になれば、もう片眼はー0.5Dずらした状態で手術を検討するということになります。

満足できない結果であれば更に手元にずらしたー0.75Dになった状態の眼鏡をしてもらい、同じように遠方から近方の視力を測定します。その状態で満足できればもう片目はー0.75Dずらした状態のマイクロモノビジョンで手術を検討します。このように意図的にずらした状態を作って見え方を確認してから手術を計画をするという方法がFEST法です。

この程度ずらせばどのような視力になるのか予測できるので患者さんの満足度があがるだけでなく、手術を計画するこちら側もなんとなくずらすというわけではないので自信をもってレンズの度数が選べてよい方法だと思っています。

この方法は単焦点眼内レンズだけでなくVivityのような多焦点眼内レンズでもよくします。Vivityのマイクロモノビジョンを計画して、片目を0Dにした、もう片目をー0.5Dとなるようにもともとは計画していたけど予測した方法では近見視力があまりでないということがあります。Vivityのマイクロモノビジョンをしても近見視力が出ないことが予測された場合は3焦点タイプのパンオプティクスも検討になります。

このようにモノビジョンを検討するならある程度見え方を体験してから検討されるのがよいですね。よければ参考にしてください。

今回の話をまとめますと

  1. 眼内レンズは近視の方は近視に遠視の方は遠方に合わせるということが基本です。
  2. 近視の度数が強くなるほどピントが合う範囲が狭くなります。
  3. スマホ、読書など近方の見え方に不満になりにくいのがー2D程度となります。
  4. 片目手術して見え方に不満がある場合はモノビジョンも検討となります。
  5. 0.5D程度離す程度なら通常はあまり問題になりません。

という5点です。

単焦点眼内レンズを選択する上で重要なのは裸眼でピントが合う部分になります。白内障手術は自分の屈折の値を治せる絶好の機会です。先生任せにすると思っていた感じにならなかったと不満になることがあるので、よく担当の先生と相談していただいて決めるようにしてください。

今回は白内障手術で使う単焦点眼内レンズの度数の決め方に関してお話しいたしました。

(2024.12.6)