今回は緑内障検査における視野検査、眼科医はこのように見ていますということに関してお話いたします。緑内障の診断、進行の程度を判断するために欠かせない検査が視野検査です。だいたい4-6カ月に一度されていると思います。
定期的に視野検査を行うことで、どのように緑内障が進行しているかを評価して、治療効果を判定しています。
よく患者さんから聞かれることとして、視野検査は定期的に受けています。けど結果の説明がないから自分の緑内障はどのような状態になっているか分からないから不安ですと言われる事があります。視野検査は確かに専門的な内容がたくさん記載されているので、すべて説明を受ける機会は中々ないかもしれませんが、自分の目のことですのできちんと理解することは治療のモチベーションに繋がりますし、非常に重要と思っています。
検査結果が分かると、自分の緑内障はまだまだ問題ないんだとか、逆に結構悪いことが分かってこれからは治療をきちんとしようというような動機づけになると思います。今回は緑内障の視野検査のポイントに関してお話しいたします。
緑内障の視野検査は通常は静的視野検査というもので評価しています。
視野検査は主
に動的視野検査と静的視野検査の二つあります。動的視野検査
は検査員が行う検査で視野全体をみる検査、静的視野検査は機械を覗いて行う検査です。通常行う検査は静的視野検査の方で、緑内障で特に障害がでやすい部分を調べています。人の視界
はこのような感じで広いです。上方60°、鼻側60°、下方70°、耳側100°といった広域でみえる範囲が存在しています。片目でみた場合上側と鼻側の視界がやや狭めで、下側は少し広め、耳側が最も広い視野となります。緑内障で調べている視野の範囲
はどこかというとここで、30°以内の視野を調べています。これは緑内障の視野障害はこの範囲で発症し、進行していく様子をみていくのに適しているからです。
その静的視野検査には
24-2
または10-2という検査が行われます。
24-2
は黄斑部を0°中心として24°以内を調べる検査です。10-2
は更に狭い範囲、10度以内の範囲を調べています。
24-2は緑内障全体の視野検査で、10-2は黄斑部に特化した視野検査となります。
何故緑内障の視野検査は24-2の全体を見る検査と10-2の中心をとる検査と二つあるのかというと、検査点の間隔をみると理由がわかります。
24-2
は6度間隔に検査点がプロットされています。検査点は54点あります。この54点から光が出てそれに反応して視野検査が作られています。
検査範囲が広いので緑内障全体の状態をみるには適しています。ただ6度というと間隔が少し広め、荒いんですね。視力に大切な中心部分である黄斑部の障害が拾いきれません。検査点自体は54点
ありますが、黄斑部はたった4点しかありません。
一方で10-2
の検査間隔は2度毎で、68点あります。黄斑部の障害をしっかりみることができます。
24-2のみしていると黄斑の状態が充分に評価されない可能性があります。黄斑部の障害は周辺部分の障害より見え方に大きく影響します。
特に近視型の緑内障は中心部分に障害がでやすいので10-2の検査を行うことも非常に重要になります。
視野検査のデータを見るときは、このような視野結果を見る前にまず検査がきちんとできたかどうかを見ます。
24-2
をみるとこのように暗点が一カ所あります。この部分をマリオット盲点といいます。マリオット盲点とは誰にでもある「見えないスポット」です。よく、この黒い部分は緑内障で見えていないところですかと聞かれることがありますが、そうではありません。マリオット盲点
は視神経にあたる部分で、ここには光を認知する細胞、視細胞が存在しません。そのためどんな強い光をあててもこの部分では光を感じません。視野検査
では右眼なら右に左眼なら左に盲点が表れます。もし自分の視野検査結果が右か左か分からなければ盲点の位置で確認できます。
実は視野検査中はこの盲点に光をたびたび出しています。なぜ気づかない部分にも光をだしているのかというと目が動いていないかをチェックするためです。
目をきょろきょろ動かさずにきちんと検査が出来ている方はこの部分に暗点がきちんとつきます。一方で目をきょろきょろ動かしている方はこの部分もみえてしまうので暗点がつかないことがあります。視野検査中はこのように気づいてはいけない光がある、全ての光りに気づいてはいけないということも知っていてください。
患者さんが視野検査をどれだけ上手に受けたかをあらわす指標が3つあります。
1つ目が固視不良
です。
固視不良とは検査中にどれだけ目を動かしてしまったかを表す指標です。目が動いているとカウントされます。この数値が高ければ、光を探していることになります。動きすぎると固視不良の隣に××と表記されます。
目が動いてしまった証拠になります。視野検査は、見える範囲を検査していますが、一点を見た状態で、周辺がどのくらい見えるかを調べています。末期の緑内障の方でも目がきょろきょろすると正常の視野かのように真っ白にデータがでることがあります。検査中全然光が出てこないので不安になって探してしまったと言われる方も中にはおられますね。検査中
は真ん中のオレンジの光だけ注目してください。全ての光をみようと集中しているとつい瞬きを忘れがちになりますが、瞬きが減ると目が乾いて見づらくなってします。意識的に瞬きはしていただいて大丈夫ですが、光は探さないように注意しください。
二つ目は偽陽性
です。光が見えていないのに誤ってボタンを押してはいないかを表す指標です。これも反応しすぎると偽陽性の隣に××と表記されます。視野検査中は、視野計が光を出さずに30回に1回程度音だけ出ている場合があります。何となく音と同時にリズムよく押したくなりますが、そのときに誤って押してしまった回数をカウントしています。良い結果を出したいと意気込んでいくと、光ではなく音に反応してしまうことがあります。視野検査でよい結果をだしたいという心理的な背景が影響していると言われています。リラックスして検査を受けるようにしてください。
三つ目、偽陰性です。
偽陰性は光が見えているはずなのにボタンを押していないことを示す指標です。偽陽性とは反対に見えるはずの強さの光なのにボタンを押せなかった場合にカウントしています。検査に十分に集中できていないことをあらわします。同じようにエラーが多いと××と表記されます。
このように視野検査の結果を見る前に検査自体がしっかりできたかをまずみますね。
その上で視野障害の程度をみていきますが、ざっくり見ていくのが、グレースケール
という右上に表記されているものです。右目でみるとこのような感じです。
見たままを反映しているので、上側、
鼻側、下側、耳側となります。
例えばこの視野の場合
はこの部位がマリオット盲点で、鼻上側が黒くなっていますね。色の濃さは5dB毎に濃淡がついています。濃いほど感度がおちているということになります。
緑内障の変化は通常
このように鼻側から変化がでます。そして盲点に繋がっていきます。
中には
中心部分から障害が始まる方もいます。中心部は黄斑部の障害を意味します。人は中心部ものを見ているので、中心視野に障害があると見にくさを感じるようになります。その場合10-2という中心をみる検査を定期的に行うことが重要になります。
緑内障の患者さんを長期間診療していると、「この人が悪くなっているのかどうか」ということを判断しなくてはなりません。その時役に立つのがMD値
です。MD値は、視野がどのくらい欠けているかを表す数値です。正常が0dBで、マイナスの数字が増えるほど視野が欠けている、より重症ということになります。0~―6までが軽度、―6~―12で中程度、―12以下が重度、―30dB付近になると失明に近い値となります。
この数字が増えていれば「緑内障が進行している」、同じくらいであれば「緑内障はあまり進行していない」と考えることができます。
緑内障はゆっくり進行する事、それに加えて自覚検査なので誤差があります。なので2、3回視野検査した程度で進行の判定はできません。正常眼圧緑内障なら4,5年検査を続けないと進行の判定はできないと思います。
何度か視野検査をしている方ならMD値を年単位で変化をみたMDスロープ
というもので進行具合を評価します。正常眼圧緑内障は比較的進行が緩やでMDスロープが緩やかであることが多いです。正常眼圧緑内障は無治療で1年あたり平均ー0.5進むとされているので、年あたりの進行が-0.25程度なら治療は順調だと思ってください。10年たっても2.5しかすすみません。もし今60歳でMD値が-5ぐらい、年の進行具合が-0.25だとしたら80歳になってもMD値は-10ぐらい。通常の緑内障なら特に問題になりません。
ただ-1ずつ進むと少し進行は早めなので注意が必要です。
60歳の時のMD値が-5なら80歳になると-25Dぐらいになります。
-25でも全く見えない状態になるわけではありませんが、視野狭窄をだいぶ感じると思います。
このように緑内障の視野は障害の範囲をみて、進行程度をみていくことになります。基本的には中心に近いほど緑内障としてよくない、MD値が悪いほどより重症となりますが、注意点がいくつかあります。
視野検査は緑内障だけを評価しているかというとそうではありません。白内障や黄斑変性症、網膜の血管閉塞症といった目の病気、場合によっては脳梗塞など頭の病気の影響も視野に反映されます。
そのためMD値は緑内障以外に病気があれば、それに加えてその病気による影響も当然受けます。視野が悪化しても単純に緑内障の進行であるとは言えないことがあります。
例えば緑内障があるけど経過中に白内障がどんどん進行してくるとそれだけでMD値は悪くなります。その場合は白内障手術をすればMD値は回復します。これは緑内障の視野欠損が回復したわけではなくて、白内障の影響がなくなった分回復したとなります。
また網膜動脈閉塞症のような病気を途中で発症するとがくっとMD値は悪くなりますし、中心部分に視野障害が出てきます。
黄斑前膜、黄斑円孔のような黄斑疾患の症状が悪化すると同じように中心部分に障害がでてきます。
このように視野検査は緑内障だけの状態だけなく他の病気の影響で視野が悪化している場合があります。
このあたりを詳しく知りたい方は、新刊になりますが、緑内障を悪くしない7つの習慣が発売されました。詳しく書いていますのでよければ参考にしてください。
今回の話をまとめますと
- 緑内障の視野検査は全体の障害の程度をみる24-2と中心部分の障害をみる10-2の検査があります
- 視野検査の結果を見る前にきちんと検査が行われたかをまずみています
- 検査中は気づいてはいけない光(盲点に対する光)があります。
- 視野欠損は鼻側から盲点に繋がるように広がっていきます
- 視野検査は他の目の病気の状態も影響します。
という5点です。視野検査はこのようにポイントがいくつかあります。視野検査があると、やりたいっという方はほとんどいないですね。やりたくない、今回はなしにしてほしいとか消極的なことを言われることがほとんどです。視野検査の代わりになる検査があればいいのですが、現状は視野検査の代わりとなるものがないので、結果の見方を理解してできるだけお付き合いいただけたらと思います。今回は緑内障検査における視野検査の見方に関してお話しいたしました。
(2024.10.25)