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176.眼内レンズの選択を間違えると・・・

今回は白内障手術で使う眼内レンズの選択を間違えるとどうなるのかということに関してお話しいたします。

眼内レンズの選択は、術後の視生活の質を大きく左右するので非常に重要です。最適なレンズを選べば、快適な生活を送れる可能性が高まりますが、間違ったレンズを選んでしまうと手術前より不便になったということがあります。

今回は白内障手術で眼内レンズの選択を間違えないために知っておきたいことに関してお話しいたします。

眼内レンズには大きくわけて単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがあります。単焦点眼内レンズはピントが合う距離は限られています。遠く



に合わせば近くは老眼鏡が必要になりますし、手元に合わすと遠くは眼鏡が必要になります。単焦点という名前の通り、焦点が一カ所に集まるので、ピントが合った部分に関しては鮮明にものを見ることができます。一方で多焦点眼内レンズ



は手元から遠くまでピントが合うレンズです。眼鏡をできるだけしたくない方はこちらのレンズがおススメです。ですが、多焦点眼内レンズは眼に入ってきた光を、遠方、中間、近方と振り分けます。 そのため、それぞれの焦点が、正常よりやや少ない光で見なければいけません。 はっきりした見え方に関しては1カ所に全ての光が届く単焦点眼内レンズよりどうしても落ちてしまいます。

このようにレンズはそれぞれ特徴があって注意点も踏まえて選択しないといけませんが、

どちらのレンズを入れるとしても共通して大切なことがあります、それは乱視をきちんと矯正することです。

乱視



とは、ものを見るときに焦点が1ヶ所に集まらない状態のことをいいます。

角膜や水晶体のゆがみが原因で、乱視があると網膜に焦点を結べなくます。そのため文字やものが二重に見える、ぶれて見える、ぼけて見えるなどの症状が現れる原因となります。乱視の自覚がある方だと、長時間の運転や映画鑑賞などをしている時に、夕方に目が重く感じたり、肩こりや頭痛などの不調を感じた事がある方もいるかもしれませんね。

手元にピントを合わす、遠くにピントを合わすこととも大切ですが、乱視を治さないと、どこもすっきりした見え方にならない可能性があります。手術後に乱視用の眼鏡をすればすかっと見えますが、できるだけ白内障手術の機会に乱視を治して裸眼できちんと見えるようにしたいですよね。乱視が治ればその分眼鏡も薄くなります。

乱視があると濃い線にそって角膜や水晶体が歪んでいます。上下方向



が濃く見える場合、直乱視といいますが、上下方向に押しつぶれた形になっています。最も多いタイプの乱視です。縦方向の線がはっきり見えるものの、横向きの線はぼやけて見えます。横方向で濃く見える場合倒乱視といって、横につぶれたような形になっています。60歳以上の方に多い乱視です。斜め方向に濃くみえる場合斜乱視といいます。先ほどの直乱視、倒乱視と比べると割合は少ないですが、一般的に一番視力に影響しやすい乱視とされています。乱視の程度はどうでしたか?

注意点として、ほぼ同じ濃さで同じ太さに見えたとしても乱視がないとは言えないといいましたが、白内障によってもともとの乱視が弱まっている事があります。白内障が進行すると水晶体の形が変わって、角膜の乱視の影響を打ち消す事があるからです。本当に乱視があるかどうかは眼科で検査をするとすぐに分かります。

乱視がある方は乱視もしっかり治さないといけませんが、ちょっと医療の裏話になりますが、乱視矯正用眼内レンズは通常の眼内レンズより乱視機能が備わっている分レンズ代が高くなります。患者さんとしては乱視があるレンズ、無いレンズどちらを使っても手術料金に含まれているので費用は変わりませんが、施設によっては、手術による利益が減ることを嫌がって乱視があっても乱視用のレンズを使うことに消極的なところもあります。

他で手術された方がどこもぼやけてみえるんです、とご相談いただくことがありますが、乱視のせいなんだけど、眼の状態をみると全然乱視が治っていないうことがあります。

屈折矯正にきちんと力をいれている眼科で手術をされるのがいいかもしれません。心配な方は手術前に乱視を治す必要があるか眼科の先生に聞いてみるといいと思います。

特に多焦点眼内レンズは乱視の矯正が単焦点眼内レンズより重要です。裸眼で快適な生活を送るのが多焦点眼内レンズの目的なのに乱視が残ると全ての焦点がぼやけてみえるようになるからです。当然乱視の分多焦点眼内レンズ特有の異常光視症ハローグレア



も強くでるようになります。

乱視を治すようにする、これが一つ目のポイントです。

2つ目、緑内障や網膜前膜など目の病気がある方は軽度であっても多焦点眼内レンズを選択する場合は注意してください。多焦点眼内レンズは原則白内障以外に眼病変がない方が適応になりますが、少々病気があっても今は問題ないから多焦点眼内レンズにしましょうと言われる事があるかもしれません。緑内障の場合は周辺から障害が起きてくるので、中心部分、黄斑部分に問題なければ視力にほとんど影響を受ける事はないので、多焦点眼内レンズを選択される場合もあります。ですが同じ軽度であっても黄斑前膜のような黄斑症の場合は全くおススメしません。黄斑というと視力の要となる部分です。その部分に病気があれば、軽度であっても今後少しでも変化すればその見え方は大きく悪化する可能性があります。周辺部にわずかな変化がある緑内障とはわけが違うかなと思います。緑内障に関しても同じで中心部分、黄斑部に視野欠損がある場合は単焦点眼内レンズにしましょう。さきほども話した通り多焦点と欲張らず、乱視があれば乱視をきちっと直して、生活したいポイントに焦点を合わせるということを優先すれば充分快適な見え方になります。

3つ目、多焦点眼内レンズはすっきりした見え方にならない事がある事を知っていてください。多焦点眼内レンズは遠くも近くも鮮明にみえるレンズではありません。光を分散させて複数の焦点をつくっていますが、その結果各焦点に届く光の量が減少するので見え方のシャープさは単焦点眼内レンズや若い時の見え方と比べるとどうしても低下してしまいます。

どこも薄い膜が張ったようにもわっと見えるというような事があります。これを専門用語でwaxy visionといいます。脳の適応に問題がある場合もあるので、時間と共に改善することもありますが、慣れないと眼鏡をしても何してもみにくいということがあります。レンズを取り出して単焦点眼内レンズに交換が必要になる場合もありますね。

カメラマン,デザイン関係のお仕事をされている方,歯科医さん,非常に精密な仕事をされている方,術後の見え方の質にこだわりを持っている方,あるいは性格的に細かいことが気になりいろいろと考え込んでしまう神経質な方は,多焦点眼内レンズに向いていない可能性があります.多焦点眼内レンズは眼鏡なしで遠くから手元まで見えるようになるわけですが、近くを見る時は、単焦点眼内レンズで老眼鏡をかけた場合の方がシャープに見える事を知っていてください。

4つ目、手元にピントが合っている方が安易に遠方に合わすと後悔することがあります。近視の方に多いです。近視の方は遠方視にあこがれている方が多いので、これを期に遠くにピントを合わせたいといわれる方多いです。術後の



見え方を理解している方ならいいですが、安易に考えているかたは次のイラストをみてもらってどちらがいいですか?と聞いています。術後裸眼で近くにピントが合うようにすれば新聞やスマホは裸眼でみえます、遠くは今まで通り眼鏡をすればみれます。

もし遠くに合わすときは近くを見るのに今度は老眼鏡が必要になります。自宅で過ごすことがほとんどで、家で新聞を読んだり、パソコンをしたりデスクワークがメインの方でしたらあまり遠方に合わすメリットはないかなと思います。術後の不満



として、裸眼で遠くがみえないより近くが裸眼で見えなくなったということのほうが相談にみえる方多いです。一人一人生活で必要に距離な距離は違うので、全員に手元に合わすのがよいというわけではもちろんありませんが、きちんと相談して生活スタイルを理解してもらうことがトラブルの防止になります。

今回の話をまとめますと

  1. 乱視がある方は乱視矯正のレンズをいれましょう
  2. 目に病気がある方、軽度でも黄斑部に病気がある方は多焦点眼内レンズは注意が必要です。
  3. 多焦点眼内レンズの副症状にどの焦点もぼやけてみえるwaxy visionというものがあります。
  4. 生活にあった距離にピントが合うように伝えてください。

という4点です

後悔のない選択をするためには、事前にしっかりと情報収集を行い、担当の先生とよく相談することが大切です。眼内レンズはたくさん種類がでてきましたが、保険のレンズ単焦点眼内レンズも充分によさがあります。

今回は眼内レンズの選択を間違えると、ということに関してお話しいたしました。

(2024.9.12)