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175.白内障手術後の生活

今回は白内障手術後のよい見え方を維持するために知っておきたい術後の過ごし方に関してお話しいたします。白内障手術を受けると多くの方は視力があがります。やってよかった、もっと早くうければよかったと言われる方多いですね。一方でよくなると今度心配になるのが、この見え方はいつまで続くのか?ということだと思います。手術を終えた患者さんから実際よく聞かれる質問です。

眼内レンズは生きている間に劣化して交換が必要になる事はありません。なので、眼内レンズの寿命を心配する必要はありません。ですが当然ではありますが、眼内レンズだけで人はみているわけではないので何らか目の病気が発症するとその見え方は維持できなくなる可能性があります。白内障手術後の良い見え方を維持するためにいくつかポイントがあります。今回は白内障手術をした後に知っておきたい術後の過ごし方に関してお話しいたします。

白内障手術術後の過ごし方のポイントはいくつかあります。

まず一つ目、術後は目薬をきちんとさすようにしてください。白内障手術後の目薬は感染や炎症から目を守って、視力回復のために非常に重要です。特に手術後1週間以内は非常に大切な期間です。なぜかというと白内障手術後の感染症を眼内炎といいますが、術後の感染症は1週間以内に起きることがほとんどだからです。

術直後は目薬さえきちんとさせばよほどトラブルになることがありません。術後の目薬はレボフロキサシンのような抗生剤の点眼、リンデロンといったステロイドの目薬、そしてジクロードのような非ステロイドの目薬 3つされていると思います。どれも大切できちんと回数こなすようにしてください。点眼を自己判断で中断すると、感染や炎症が再発して思わぬトラブルをきたす可能性があります。たとえば、術後の目薬でジクロードのような非ステロイドの目薬をやめてしまった結果、目の奥の黄斑が腫れて極端に視力が落ちてしまうケースがあります。黄斑とは網膜の中心部分にある視覚機能が最もすぐれている部分です。この部位



が腫れることを術後黄斑浮腫といいますが、黄斑部に水が溜まって視力低下や歪み、ぼやけなどの症状を引き起こすことがあります。せっかく白内障手術がきちんと終わってもこのために視力が落ちて後遺症を残すことがあります。非ステロイドの目薬はこの黄斑浮腫に対して予防効果があります。術後抗生剤の目薬もステロイドの目薬もどれも大切です。眼科医の指示通りきちんとさしてください。

2つ目、目をこすったりぶつけたりしないように気を付けてください。術直後はできるだけ保護メガネをした方がよいと思います。無意識に目を触れてしまうことを予防できるからです。術直後の見え方に慣れていないと、目をぶつけたり転倒したりすることもあります。あまりに強い衝撃を受けると、手術で挿入された眼内レンズがずれたり、手術部位が再び開いてしまう可能性があります。

白内障手術



で使用するレンズはどのレンズも非球面レンズといいますが、光が1点に集中するようにデザインされています。眼内レンズの形を中央部分と周辺部分でやや形状をかえることで視界がよりクリアにみえるようにできています。

その分、レンズが理想的な位置からズレると、視力に影響が出やすくなるというデメリットがあります。また乱視用のレンズを入れている方もいると思います。乱視用のレンズは、乱視を矯正するために特定の角度で眼の中に固定されるように設計されています。このよう



な感じで眼内レンズには乱視の向きがあるのでこの向きと実際の患者さんの乱視の向きを合わせて固定しなくてはなりません。

乱視用レンズが目の中で大きくズレると乱視矯正効果がなくなるどころか、乱視が悪化するようなこともあります。乱視が悪化すると、術後すっきりした見えかたにならなかったり、二重三重に見えるといった症状がでてきます。

眼内レンズが大きくずれて視力が落ちると、再手術が必要になることがあります。

手術直後はレンズがまだしっかり目の中で固定されていません。レンズのズレがおきやすい時期はさきほどの感染症と同じでだいたい手術1週間以内が多いです。なので術後1週間はとても大切な時期なんですね。

目をぶつけたり、重いものを持ったり力んでしまうと目の中でレンズがずれることがあるので注意してください。

3つ目 術後はきちんと定期検査を受けるようにしてください。

術後の経過が順調であっても、定期的な検査を継続することで他の目の病気の発見が早くわかります。

白内障手術後に注意すべき目の病気や合併症はいくつかあります。まず術後の視力低下の原因として代表的なものは後発白内障です。後発白内障は白内障手術後の白内障と言われたりします。眼内レンズ



を固定している後嚢という袋が混濁することでおきます。発症頻度は数年で2割ぐらいの方に起きるとされています。今は眼内レンズが進化しているのでこのような後発白内障が起きる頻度はだいぶ減ってきていますが、それでも1年以内におきることもあります。後発白内障は、レーザー治療で簡単に治療できて、ほとんどの方はその日のうちに視力が回復します。

このような後発白内障だけでなく、緑内障がだいぶ進行していたり、加齢黄斑変性のような網膜の病気になっていたということもよくあります。

白内障手術終わってからどこも受診しなかったんですかと聞くと見にくさに感じなかったからどこも行きませんでしたといわれますね。緑内障は末期まで自覚症状が出ないということを知っておいて下さい。

また白内障手術後に飛蚊症や光視症といって自分にしかみえない黒いや光の筋が見るようになることがあります。これは白内障手術でもともとの水晶体が眼内レンズに置き換わることで、後部硝子体剥離という現象が起きやすくなるからです。目の中には硝子体という組織があって網膜とくっついています。この硝子体



が網膜から離れていくことを後部硝子体剥離といいます。通常加齢とともに自然におきますが、手術をきっかけにおきやすくなります。

後部硝子体剥離がおきると、硝子体内に浮遊物



が増えるようになります。これが術後の飛蚊症の主な原因です。飛蚊症が増えるだけなら様子をみていくしかないんですが、この




タイミングで網膜裂孔といいますが、網膜に穴があく事があります。ほかっておくと網膜剥離になるので治療が必要です。頻度しては1%以下でまれではありますが、手術直後だけでなく3カ月以降、視力が安定してからもおきることがあります。近視が強いかたほど頻度が高いので注意が必要です。白内障手術後飛蚊症が増えることがあれば必ず眼科医に相談するようにしてください。

4つ目、紫外線から目を守るようにしてください。現在、ほぼすべての眼内レンズには、UVカットの機能が実は備わっています。眼内レンズ



は着色眼内レンズといいますが、このように少し黄色がかった色をしています。これは私たちのもともとの水晶体も黄色がかっているので、自然な見え方に近くなるように黄色く色づいているということと、UVカットをするために黄色く着色されています。このため




眼内レンズより後ろにある網膜や視神経はある程度保護されています。よく聞かれることとして、白内障手術後はレンズが透明で光が大量に入ってくるからいつもサングラスをしないといけないといわれる方もみえますが、今の眼内レンズはUVカット機能もついているので日光を浴びる事に過度に心配する必要はありません。

それならサングラスはもう不要かというとそういうわけではありません。眼内



レンズより前の部分角膜や結膜といって目の表面は紫外線から守られていませんよね。特に手術直後の角膜はドライアイになっていることが多くて光刺激に対してデリケートです。手術後も手術前と同じようにサングラスなどで紫外線対策をするようにしてください。

5つ目 健康的な生活をするようにしてください。喫煙されている方はできるだけ禁煙するようにしましょう。喫煙は肺癌や心筋梗塞のリスクを高める事で知られていますが、目への影響も明らかなっています。タバコの煙に含まれる有害物質が網膜に影響して黄斑変性症のリスクを高めます。

糖尿病や高血圧がある場合、これらの病気が視力に影響を与える可能性があるので、眼科以外の管理もきちんと続けることが重要です。

食生活に関しては、ほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜や卵にはルテインという目を保護する栄養素がたくさん含まれています。また魚に多く含まれているDHAは脳に多く含まれている事が知られていますが、網膜にも多く含まれています。網膜の機能維持や視神経の保護に重要な役割をしています。ルテインやDHAは、目の健康維持に欠かせない栄養素ですが、不足しがちであることが知られています。積極的にとれるといいですね。

このように白内障手術後に気を付けたいことはいくつかあります。長くよい見え方を維持するために参考にしてもらえたらと思います。

今回の話をまとめますと

  1. 術後の点眼を指示通りきちんとさすようにしてください
  2. 眼内レンズは固定されいる位置が重要です。ぶつけたりしないように気を付けてください。
  3. 目に異常がなくても定期通院するようにしてください
  4. 手術後も手術前と同じようにサングラスをしましょう
  5. 健康的な生活を送るようにしてください

という5点です。

白内障手術後、視力が回復されて喜ばれる方が多いです。せっかくよくなった視力を長く維持するために、このような点に注意して生活を送るようにしてください。視力が低下したり、物がぼやけて見えたりするだけでなく、痛みがでたり充血することがあれば、感染症の可能性があるのでその日のうちに眼科を受診する必要があります。ちなみに当院では通院中の患者さんに限ってではありますが、常に僕と直接相談できる連絡先を知っていただいているのでよくご利用していただいています。

今回は白内障手術術後よい見え方を維持するためのポイントに関してお話ししたしました。

(2024.9.3)