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173.見えなくなってきた時

今回は見えなくなってから困らないように知っておきたいことに関してお話しいたします。

緑内障は中途失明原因1位の眼疾患です。早期発見して、きちんと治療を継続すれば失明にまでいたることがまずない病気です。ところが残念ながら①治療を自己中断して放置してしまった、または➁通常の緑内障と違い重症の緑内障で失明されている方もおられます。国内全体では30万人ぐらいの視覚障害の方がいるとされています。そのうち緑内障で視覚障害をお持ちの方は5万人ぐらいです。

私はもともと緑内障専門施設の大学病院の眼科に長年勤めていたこともあって、症状の軽い方から手術を必要とする重症な緑内障患者さん、どちらかというと重症の方をたくさんみさせて頂いてきましたが、その時によく感じたのが重症の方なのに視覚障害の認定や障害年金の申請を何もされていないなということを感じていました。

緑内障であること自体で何か認定がおりるわけではありませんが、ある程度生活が不便な状態まで悪化すると

  1. 医療費が無料になったり
  2. 障害年金で年間に100万円以上支給

される場合があります。

視覚障害の条件を満たしているのに何故、このようなサービスを受けている人と受けられていない人で別れるのかというと、自ら市役所に申請しないといけないからです。

ある程度見にくくなったら自動的にサービスの案内が届くというものではありません。医師自身もこのあたりの知識は不十分な場合があるので結果として必要なサービスを受けるタイミングが遅れている場合があります。

請求が遅れた場合、過去にさかのぼって遅れた分が支給されるということは通常ありません。

今回は、視覚障害の種類や受けられるサポートなどについてお話しいたします。

視覚障害の請求は①そもそもそのようなものがあることを知らなった、知っていたとしても➁緑内障は適応外だと思っていた、③全く見えない全盲の状態にならないと申請できないと思っていた。患者さん自身も誤解されていて、本来受けられる支援やサービスを見逃していることがあります。例えば片目視力が0.5程度あったとしても、視野障害の程度によっては身体障害者2級に該当し医療費が無料になるケースもあります。

0.5って結構見えるじゃん、もしかしたら私もそうかなと思う方もいるかもしれませんが、

視覚障害の適応となる緑内障の0.5って見え方はこんな感じ



です。顔を傾けたり、視線を動かしてなんとかして見える視力です。緑内障の病態は視野狭窄ですが、通常周辺から視野はかけていって、最終的に残る視野は視野の中心部分と耳側の視野です。こちらはゴールドマンの動的視野検査という視野検査ですが、正常の視野




はこのような感じ、だいたい同心円状の広い視野があるわけですが、緑内障の最終段階




は中心部分と耳側部分が残り、最終的




には耳側の視界が残ります。わずかに中心視野




が残っていれば視力は0.5ぐらい場合によっては1.0近く出る事がありますが、健常者の見え方とはわけが違うこと分かっていただけると思います。

視覚障害は主に視力障害と視野障害の2つによって決まり、それぞれの検査結果を合わせて障害認定が決まります。視力検査だけとか視野検査だけで決まるわけではありません。併合認定といって、それぞれの障害の程度を併せて判定を行います。

視力障害には全く視力がなく明暗も分からない「全盲」~少し視力が残っている弱視の場合と様々です。視野障害も程度によって重症度が異なります。自動視野検査またはゴールドマンの動的視野検査



を行い視野障害の程度を判定します。

該当する場合次のような手当や給付金を受け取ることができます。

①一つ目が身体障害者手帳です。書類



はこのようなものです。身体障害者手帳は、障害者の経済的または物理的負担をサポートしてくれる証明書です。身体障害者手帳を持つことで受けられるサービスには、医療費の助成、税金の減免、バス、タクシーなどの交通運賃の割引、眼鏡などの補装具の交付、障害者雇用枠での就労、その他、市単位で独自の手当てやサービスを行っている場合があります。

身体障害者手帳1級や2級の方は、通常医療費は無料になります。

経済的な負担を感じている方には利用価値が高いのではないでしょうか。

障害者雇用による就職や転職を検討している場合には、この手帳が必要になります。視覚障害があっても事務職をはじめ、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格を取得して医療分野で働かれている方もおられます。

身体障害者を申請するにあたってして頂くことは診断書を役所に行って書類をもらうか、またはネット環境がある方でしたら、インターネットから同じものをダウンロードして印刷し、クリニックに提出して頂くだけです。

注意点として身体障害者手帳は医師であれば誰でも記載できるわけではありません。身体障害者福祉法第15条によって指定されている指定医による診察が必要です。指定医の先生なら当然この制度はご存知ですから見逃される心配がまずないと思います。私もこの指定医ですが、自分のかかりつけの先生がこの指定医かどうかはホームページに記載されている場合がありますので、気になる方は確認しておくのがよいと思います。もし主治医が指定医でない場合は、お住まいの市役所や役場の担当窓口で指定医を紹介してもらうことができます。

身体障害者に認定された場合、

➁障害年金の申請ができます。障害年金は、原則公的年金に加入している方が怪我や病気によって生活や就労が制限されてしまった場合に受け取ることができる年金です。高齢になったらもらえる老齢年金と同じ年金制度の枠組みです。現役世代であっても年金の加入・納付状況、障害の状態によって、受給できる場合があります。

障害年金には



「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。

障害基礎年金



の額は年金の加入期間を問わず、定額です。等級に応じて一律の金額が支給されます。

1級と2級があって1級で年間約100万円、2級で年間約80万円程度支給されます。1級は2級の1.25倍の金額となっています。

障害厚生年金



は、現役で働いている方が、先ほどの障害基礎年金にプラスでもらえる「2階建て」部分です。障害基礎年金と違い、1級、2級だけでなく、3級、障害手当金とあり、軽度の障害から手当がもらえます。

こちらの額は、働いていたときの年収や、年金加入期間によって変わってきます。

障害厚生年金の等級が2級以上の場合、障害基礎年金と障害厚生年金を合わせて受給可能です。3級、障害手当金の場合は障害厚生年金のみとなります。

支給額に関してはこのような感じです。

注意点がいくつかあって、

1つ目は身体障害の申請を行う時にもいえることなんですが、視野障害の判定に関しては自動視野計かゴールドマンの視野計



のどちらかの結果を元に決めますが、検査器ごとで障害の程度に違いが生じることがあります。どういうことかというと、ゴールドマンの視野計では障害の程度は1級であったとしても、自動視野計では3級になってしまったり、その逆になることが普通にあります。どちらの検査でも同じ等級の判定になればいいのですが、やはり機械が違うと結果が異なる場合があります。両方検査してみて相違がないかチェックするのがいいのですが、ゴールドマンの視野計の場合、設置されている病院が限られているため、実際は自動視野計で行われる事が多いかなと思います。思っていたより軽度の障害と認定された場合、視野検査を両方行っているか、片方しかしていないなら医師に確認してみるようにしてください。

2つ目、初診日の証明です。

障害厚生年金が受給できるかどうかは、医師の診療を初めて受けた時、すなわち初診日に加入していた公的年金によってこのどちらかが決まります。申請書類では障害の原因となる疾患の「初診日」の証明が非常に重要になります。

さらに、初診日から原則1年6カ月が経過していることも条件の1つになります。

3つ目年金保険料を一定期間滞納していないことも申請の条件になります。

国民健康保険の自営業やフリーランスの方、旦那さんの扶養に入っている方は、厚生年金に加入していませんので、残念ながら障害厚生年金はもらえません。すなわち2級以上に認定されなければ障害年金は受給できないということになります。

年金法の定める障害年金の基準と先ほどの身体障害者手帳の基準は若干異なります。目安として身体障害者手帳1級、2級は障害年金1級に、身体障害者手帳3級は障害年金2級に、身体障害者手帳4級は障害年金3級に、身体障害者手帳5級は3級または障害手当金になります。

これらは緑内障の場合だけで申請できるものではもちろんありません、白内障や糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症をはじめとした眼の障害によって、視力や視野に障害が生じる場合に、基準を満たせば障害年金を受給できる可能性があります。

それ以外に

➂ 民間の医療保険に加入されているなら受け取れる給付金も確認してください。保険会社によって給付条件や金額は異なりますが、手術や入院をされた場合には、「入院給付金」や「手術給付金」の対象になると思います。

最後4つ目

緑内障の患者さんは該当しませんが、指定難病の患者さんは医療費助成の対象となります。

指定難病とは、難病の中でも、患者数が0.1%程度以下の稀な病気ですが、診断基準がしっかりと確立しているものをいいます。

眼科の場合、網膜色素変性症をはじめ、ぶどう膜炎の患者さんに多いベーチェット病、サルコイドーシスは難病として指定されています。自己負担が3割から2割に軽減され、さらに病気の重症度と所得によって医療機関での月額の上限額が決められています。指定難病患者の方が医療費助成を受けるためには、私もそうですが、都道府県知事から指定を受けた指定医の診察が必要になります。

このように病気があることで申請できるものは色々ありますが、患者さんが全て把握するのは難しいですし無理だと思います。

かなり見にくくて生活上も制限を受けているのに何もサービスを受けられていないという方は指定医の資格がある眼科の先生に一度相談してみるのもよいと思います。

今回の話をまとめます

  1. 緑内障の場合、視覚障害の認定は視力と視野の2つの状態で決まります。
  2. 等級が1級~2級であれば医療費が無料になる場合があります。(所得により制限あり)
  3. 障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金があります。初診日に加入している公的年金によって決まります。
  4. 身体障害者手帳と難病指定は指定医による診察が必要です。
  5. 入院、手術が行われる場合、医療保険も確認しましょう。

という5点です。

見にくくなると、仕事をやめなくてはならないケースがあると思いますが、仕事はやめても通院回数は減る事がないと思います。収入もないのに医療費は変わらずかかる、生活費にも困っている何か申請できるものはないのかと悩まれている方いないでしょうか。一度主治医の先生に申請できるものはないのか聞いてみるようにしてください。

今回は見えなくなって困ったときに知っておきたい申請できるものに関してお話しいたしました。

(2024.8.20)