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172.単焦点眼内レンズの見え方

今回は白内障手術で使われる単焦点眼内レンズの見え方に関してお話しいたします。白内障手術は濁ったレンズを取り除いて、人工のレンズに置き換える手術です。その人工レンズは大きく分けて単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズの二種類ありますが、保険診療での場合主に単焦点眼内レンズが使われます。単焦点眼内レンズは見え方の質がよくてピントが合った部分に関してくっきりはっきり見ることができます。ただし若いときのように遠くから手元まで全ての距離にピントが合うというレンズではありません。「遠く」か「中間」か「手元」かどこにピントを合わせるのか、患者さんのご希望を聞いて決めていきます。

例えば、手元にピントを合わせた場合はスマホや読書などには不自由しません。でも遠くは眼鏡が必要になります。一方で遠くに合わせた場合は信号や看板、遠くの景色が良く見えます。でも近くは老眼鏡が必要になります。YouTubeのコメントでもよく頂きますが、白内障手術後の不満として
「ピントが合う部分に関しては希望通りになったのですが、合わない部分が思った以上に見えないです」
という見え方に対する不満です。「遠方合わせ



にして遠くは確かにみえるけど、手元は全くみえない」、逆に「手元合わせにして確かに手元はみえるようになったけど、遠くってこんなに見えないんだ」という事があります。

このようにピントが合っていない部分の見え方に対して不便を感じている方も少なくないようです。当院では見え方のシュミレーションを行って術後の見え方をある程度イメージして頂いていますが、今回は白内障手術での単焦点眼内レンズの見え方に関してお話しいたします。

単焦点眼内レンズの合わせ方は主に3つです。遠方に合わすか中間に合わすか、手元にあわすかの3点です。完全に遠方に合わせた状態からみてみます。見え方のイメージはこんな感じです。



完全に遠方に合っている状態を正視と僕らは言っています。屈折の値でいうと0Dです。D(ディオプター)は屈折の度数の単位ですが、単焦点レンズの合わせ方で非常に大切なので、簡単に説明します。

マイナス

の数値が大きくなるほどピントは手元によってきます。0Dよりもー1Dの方が近くがみえますし、―1Dよりもー2Dの方がより近くがみえます。逆に遠方はマイナスの値が大きいほどぼやけていきます。ー2Dよりー1Dの方が遠くがみえて、0Dが最も遠方にピントが合います。

5m以降遠方に最もピントが合う状態が0Dです。遠方視力は白内障以外に目の病気がなければ視力は1.0でます。見え方


のイメージはこのような感じです。

とにかく運転を裸眼でしたい、演劇や景気を裸眼で楽しみたい、それができたらそれ以外はいいという人の合わせ方です。ピントが最も合う部分は5m以降遠方ですが、1mまでならピントが合います。逆に1m以内は少しみにくくなります。パソコンの画面もぼやけてみえます。中間、手元をみたい場合は眼鏡が必要になります。食事



だとこんな感じ、手元がみえないので、メニューをみるときや食事中は眼鏡が必要になるかもしれません。

完全に遠方ではなく-0.5Dに合わすと見え方のイメージ



はこんな感じです。-0.5Dは完全に遠方でなく2m付近に合わせる方法です。0Dの時と比べると若干遠方視力は下がります。通常の視力検査だと裸眼で0.8ぐらいになると思います。運転免許更新に必要な視力は0.7なので、ぎりぎり裸眼で運転免許がクリアできるかなという視力です。遠くの見え方は完全に遠方に合わせた場合より落ちますが、その分ピントは手元によってきます。スマホなどはまだまだ厳しいですが、パソコンなどの中間距離はピントが合うようになります。通常パソコンとの距離は50ー70cm程度離すことが多い思います。有効視力


といって実用的な視力は0.6以上なのですが、50cmの距離は0.6ほどでてきます。車の運転の時は眼鏡が必要になるかもしれないけど、できるだけ遠くに合わせたい、裸眼でテレビやパソコンもみたいという方にはおすすめです。

パソコンが若干見やすくなるというのがポイントかと思います。

今お話ししたのは遠方に合わせ場合で次は、中間距離に合わせ場合になります。

遠方合わせも5m以降遠方に合わせるのか、2m程度の距離に合わせるかで分けたように中間合わせも50㎝-1m付近に合わすのか、40-70cmと少し近めに合わすかで分けています。

屈折の値でいうと―1.0Dとー1.5Dでの合わせ方です。

ー1.0D



の場合はこのような感じです。遠くはぼやけますが、中間距離の見え方


はよりはっきりしてきます。―1Dは1mにピントが最も合います。裸眼視力は0.6ぐらいになりますが、パソコンの画面の見え方は遠方に合わせた場合より改善します。スマホは少しフォントを大きくしないと見にくいと思います。

その次-1.5D



での合わせ方、中間合わせの中でも少し手元の見え方を優先させた見え方です。スマホも裸眼でみたいという方の合わせ方です。裸眼視力は0.3程度になります。40cm程度離せば、スマホもみえるようになります。

30cm以内は厳しいですが、パソコンやスマホを中心に使用している方にはこの度数で合わせます。。

このような中間合わせは①お化粧をしたり、➁食事をしたり、➂買い物に行ったり ④パソコンをみたり、⑤料理をしたり、⑥ピアノを弾いたりといった屋内での生活が主な方に対する合わせ方です。幅広い日常生活に合った合わせ方かなと思います。

次は近方合わせです。-2.0Dと-2.5Dの2つの見え方をみてみます。

-2.0Dの場合裸眼視力は0.2程度になると思います。イメージ



はこんな感じです。50cmの距離が最もピントが合います。30cmでも見えます。遠くをみることはいい、とにかく新聞、本を裸眼で読みたい方はこのあたりにあわせるかと思います。

最後、-2.5D



の合わせ方です。先ほどよりも更に近くはピントが合いますが、遠くは結構ぼやけます。読書を何時間もする方にはいいかもしれません。手元はしっかりピントが合いますが遠方視がぼやけるので、その点は注意が必要です。

よく聞かれる事として眼内レンズで手元に合わせたら、昔のように遠方用の眼鏡をすれば遠くも近くもみえますかというご質問を頂くことがあります。

老眼をまだ経験していない若い方は特に注意が必要ですが、遠用の眼鏡をすれば遠くも近くも見えるわけではありません。



遠くはみえるようになりますが、手元はみにくくなります。これは眼内レンズには調節力が全くないからです。通常私達の水晶体は遠くも近くもピントがあうように水晶体がピントの調節をしています。ある程度老眼になって見にくくなったとしてもわずかに調節する力が残っています。ところが水晶体から眼内レンズにかわった途端調節力がゼロ、無くなります。

そのため眼内レンズで手元合わせにした方が、遠くも近くも見る場合遠近両用眼鏡または遠近両用のコンタクトレンズが必要になります。

もちろん遠方に合わせた場合も同じです。

元々老眼を自覚していて老眼鏡に使いなれている方はこのあたりの理解はスムーズです。術後も遠近が必要なんだなと理解していただけますが、30-40代の若い方、調節力が十分残っている方が単焦点眼内レンズを選択する場合は注意が必要です。術直後から遠近のメガネやコンタクトレンズが必要になることを知っていないといけません。

メガネをすることが嫌なら多焦点眼内レンズが選択となります。40cm程度まで連続的にピントが合います。白内障以外に眼疾患があって適応にならない場合がありますが、メガネのわずらわしさを避けたい方にはとても良い選択です。ただ、多焦点眼内レンズは、見え方の鮮明度の低下や、ハロー・グレアという光の周りににじんだ輪が見える現象や、ギラギラと光ってまぶしさを感じることもあります。単焦点眼内レンズにはない独特な見え方の癖があるので、そのようなデメリットも知っておく必要があります。

最近出たビビティは40cmの近距離はちょっと厳しいですが、50cm以降連続的にものを見ることができます。見え方のイメージ



はこのような感じです。

スマホはもしかしたらピントを大きくしないと見えないということを理解していただければよいレンズです。さきほどお話しした多焦点眼内レンズ独特の癖がほとんどないです。

保険で唯一使える多焦点眼内レンズも私としてはおすすめです。

ビビティと同じ程度50cm程度までピントが合います。保険の範囲内で出来るだけ幅広い見え方を希望される方には良いレンズです。

ただ多焦点眼内レンズなので、ハローグレアやコントラスト感度低下の可能性がありますし、眼疾患がある方は原則適応外となります。ビビティはその点副作用があまりないので、やや優位かと思いますが、金銭的に少しでも抑えたい方はこのようなレンズの選択もよいかと思います。

今回は単焦点眼内レンズを中心に見え方の特徴をお話ししましたが、ピントが合わない部分に関して、思った以上にみえないと問題になることがあります。術後の見え方を術前にイメージできたらこのようなトラブルはないと思いますが、完全に再現するのは不可能です。その方の目の状態、年齢によって同じ度数の眼内レンズであっても見え方は違ってくるからです。今回のイラストもイメージで、完全に再現できているものではありませんが、なんとなく見え方のイメージを知っていただけたらと思います。

今回の話をまとめますと

①単焦点眼内レンズでピントが合っていない部分の見え方で不満となる場合があります。

➁完全に遠方に合わすと、60cm以内の距離は見にくくなります。

➂あまり遠くを見ることがない、みえなくてもメガネをすればよいという方は中間や手元に合わせるのがよいです。

④術後は若い方でも遠近両用のメガネまたはコンタクトレンズが必要になる場合があります。

⑤メガネが煩わしい方は保険適用の多焦点眼内レンズのようなレンズがおススメです。

という5点です。

眼内レンズは一度挿入したら基本的に入れ替えることはあまりないと思います。後悔しないように色んな事を知って頂いて目に入れるレンズを決めてもらえたらと思います。

今回は単焦点眼内レンズでの見え方に関してお話しいたしました。

(2024.7.9)