〒500-8847 岐阜県岐阜市金宝町1-11

ブログ BLOG

167.緑内障目薬、一番効くのはこれ!

  今回は緑内障点眼の強さに関してお話いたします。緑内障の治療として最も重要なのは眼圧を下げることです。高い眼圧が視神経に損傷を引き起こすので、眼圧を適切な範囲に維持することが非常に重要とされています。その眼圧下降には目薬を中心とした治療を行われています。緑内障目薬はたくさんあります。先発品だけでも30種類以上あります。普段さしている緑内障目薬、どのようなものかご存知ですか?何か分からずさしているより、どのようなものか知ってもらうと治療の継続に繋がります。

今回は緑内障目薬の強さに関してお話しいたします。

緑内障の目薬の目的は眼圧を下げる事です。眼圧を下げる治療が視神経を守って、視野の維持につながります。現在のところ唯一エビデンスを伴った治療とされています。ところで眼圧ってどのようなものなのでしょうか。

目には



絶えず循環している房水というお水があります。そのお水は常に一定量作られて、そして一定量排出されてこの産出と排出のバランスによって眼圧の値が決まります。

緑内障の方はこの内、排出



に問題があるとされています。排出が悪くなると、お水が溜まって眼圧が高くなります。

日本人に多い正常眼圧緑内障は眼圧が正常値ではありますが、正常値の眼圧であってもその人にとっては負担になる眼圧なので更に下げることが必要と考えられています。

その眼圧の値を下げるにはどうするかというと、

①お水の排出をよくするか もしくは

②お水ができるのを抑えるか

のどちらかになります。

緑内障には30種類以上の目薬がありますが、大きく3つに分ける事ができます。

①房水の排出を促すか



②房水の産生を抑制するか



➂その両方に作用するもの



のいずれかです。排出路には主経路を促進させるもの、副経路を促進させるものなど細かな違いは色々ありますが、大きく分けるとこの三つに分かれます。

緑内障でもっとも眼圧下降効果が期待できるものはプラスタグランジン製剤です。

プロスタグランジン製剤はお水の排出



を促して眼圧を下げるタイプの目薬です。

眼圧下降効果が20ー30%前後期待できます。プロスタグランジン製剤の薬が出始めたのは2000年頃です。もう発売されて20年以上たつわけですが、未だに1剤でプロスタグランジン製剤を超す目薬は存在していません。

緑内障の眼圧下降の目標値はだいたい無治療の状態から20-30%下げることなので、たった1本で目標値を達成できる可能性があります。第一選択として使われるタイプの目薬です。点眼回数も1日1回でよいです。目の周りが黒ずんだり、瞼がくぼんだり、まつ毛が伸びたりという副作用があるものの、身体への副作用がまずないといった点でよく使われています。

そのプロスタグランジン製剤にはどのような目薬があるのかというと

キサラタン(一般名 ラタノプロスト)、
タプロス(一般名 タフルプロスト)、
トラバタンズ(一般名 トラボプロスト)、
ルミガン(一般名 ビマトプロスト)、
レスキュラ(一般名 ウノプロスト)、
エイベリスです。

この中でレスキュラはやや昔の目薬になるので今だとあまり使われることがないかなと思います。網膜色素変性症に対して一部使われている場合がありますが、緑内障で使われる事は今だとあまりありません。

この中で眼圧下降効果が最も強いのはルミガン、ビマトプロストです。

ルミガン以外


のプロスタグランジン製剤 キサラタンなどはFP受容体に結合するのに対して、ルミガンはFP受容体だけでなくプロスタマイド受容体というもう一つ他の受容体にも薬理作用を表すので一番下がるとされています。

眼圧は一番良くさがりますが、薬の作用がその分強いのでプロスタグランジン製剤の副作用である、目の周りが黒くなったり、まぶたのくぼんだり、まつ毛が伸びるといった副作用が他の薬より出やすいです。

そのためあまりファーストチョイスとして使われる目薬ではありません。最後の切り札として処方されることが多いかなと思います。

他のラタノプロスト、タフルプロスト、トラボプロスト、エイベリスは眼圧下降がほぼ横ばいです。まず最初に選ばれるのがこのどれかが多いかと思います。

ラタノプロストはプロスタグランジン製剤で最も歴史がある目薬です。使用経験が豊富で長年の実績があります。

さきほどあげたプロスタグランジン製剤の中でも副作用も少なめです。

トラバタンズは塩化ベンザルコニウムという防腐剤が含まれていないので角膜に優しい目薬です。緑内障の目薬に限りませんが、多くの目薬に塩化ベンザルコニウムという防腐剤が入っていてそれが目に悪さする場合があります。防腐剤に影響を受けやすい方はトラバタンズがよい可能性あります。タプロスは日本製です。このように細かな違いはありますが、眼圧を下げる力はビマトプロストを除いてだいたい横ばいとされています。

目の周りが黒くなったり、まぶたのくぼんだり、まつ毛が伸びるといった副作用が嫌な方は2018年より発売されているエイベリスがよいと思います。そのような副作用がまれです。

それなら副作用が少ないエイベリスが一番いいのではないかとなりますが、エイベリスは

①白内障手術を受けた人にはさせません。黄斑浮腫といって、レンズが入った眼にさしてしまうと、薬の影響で目の奥が腫れることがあります。

➁まれにぶどう膜炎を起こすことがあります。

③先発品しかないので薬価が高いです。

エイベリスだと3割負担で1本650円程度、キサラタンの後発品 ラタノプロストだと1本200円きります。

このように注意点はありますが、プロスタグランジン製剤の最大の欠点であった眼局所への副作用が無いという点でエイベリスとてもよい目薬です。緑内障点眼の離脱率は点眼の副作用と大きく関係があるので、ストレスなく眼圧がしっかり下がる目薬が長く治療を続けるポイントになります。

単剤でもっとも眼圧をさげる力があるのがこのようなラタノプロストやエイベリスといったプロスタグランジン製剤ではありますが、中には

①ノンレスポンダーといって効きにくい方や

➁まつ毛が伸びるなどの眼局所の副作用、【エイベリスにはない】そのような点から

第1選択とならない場合があります。

2番目に眼圧下降が期待できるものはいくつかあります。1つ目がβ遮断薬という薬です。チモプトール、ミケランがこの部類に入ります。

眼圧下降は先程のプロスタグランジン製剤と比べると劣りますが、15%~20%程度下がるとされています。こちらの目薬はお水の排出を促進するものではなくてお水が作られるのを抑える目薬です。まつげが伸びたり、まぶたがくぼんだりというような眼局所の副作用はありませんが、全身への副作用がまれにあるので注意が必要です。喘息のような呼吸器の疾患や、不整脈のような心臓の病気をお持ちの方は慎重投与とされています。

プロスタグランジン製剤は1番眼圧下がるとされていますが、やはり効き方には差があって、先ほども話しましたがノンレスポンダーといって効きにくいかたもいます。その場合こちらのチモプトールやミケランが代わりに選ばれることが多いかなと思います。

β遮断薬は何と言っても先程のプロスタグランジン製剤よりも長い歴史があります。緑内障治療点眼薬の歴史は 1960年代に副交感神経作動薬であるサンピロ 一般名ピロカルピンがはじめです。薬理作用が他の緑内障点眼と違ってやや特殊で、閉塞型緑内障のような一部のタイプの緑内障には隅角というお水の排出路を広げる作用があるので、今でも使用されています。その後1980年代にチモプトール、β遮断薬が発売されて以来、プロスタグラン製剤がでるまで長い間,緑内障治療の第一選択薬でした。

癖が少ないタイプの目薬なので全身的な問題がなければこのタイプの目薬が使われるかと思います。

不整脈など全身的な問題がある場合、

アイファガン、一般名ブリモニジンという目薬も選択される場合があります。アイファガンは



お水の排出と産生の両方を抑えるタイプの目薬です。チモプトールと同じくらい眼圧が下がります。特にアイファガン



はチモプトールとの比較試験で眼圧下降が変わらないのに視野の進行が遅かったというデータから神経保護作用があるのではないかとされています。そのため正常眼圧緑内障のような元から眼圧がかなり低いのに進行している方に処方されるケースがあります。ただし他の目薬と違って若干充血の頻度が強く、まれに眠気を起こす場合があるので中止する事があります。

これらの目薬に効きにくい場合 グラナテックという目薬が検討される場合があります。

グラナテックはお水の排出



を促す目薬です。

正常眼圧緑内障に対して眼圧下降は10%程度下がると報告されています。点眼後1-2時間程度充血するので、充血が気になる方は就寝前とか起床直後にさすとよいかなと思います。全身への目立った副作用は特にありません。

その他には炭酸脱水酵素阻害薬、エイゾプト、トルソプトも選択になります。お水



が作られるのを抑えるタイプの目薬です。チモプトールのようなβ遮断薬よりは若干弱めです。眼圧下降は10%程度です。プロスタグラン製剤の点眼が出始めてからは眼圧下降を最も優先すべきなので、ラタノプロスト→チモプトール→エイゾプト又はトルソプトというように処方されるのが一般的でした。

ですが、今はこのような流れであまり処方することは少ないです。

それは2010年以降は色々な合剤がでているからです。

合剤とは2つの成分が組み合わさって1つの目薬になったものをいいます。

キサラタン+チモプトール、トラバタンズ+チモプトールのような組み合わせです。1+1=2となるように、薬理作用も別々なのでやはり合剤の方が単剤よりも眼圧下降は強いです。なので緑内障目薬で現状一番強力なのはこの合剤です。プロスタグランジン+β遮断薬の組み合わせが一番強力な組み合わせです。点眼名でいうと、キサラタン、チモプトールの組み合わせで先発品名 ザラカム、または トラバタンズ、チモプトールの組み合わせ ヂュオトラバなどです。

それならいきなり合剤から処方するのがいいのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、急を要する状態、緑内障として早急に眼圧を下げないといけない状態でも無い限りあまりないかなと思います。

それは眼圧は単剤よりよくさがりますが、その分副作用の頻度も増えるからです。ガイドライン上も単剤から点眼を開始し、目標値の眼圧に到達できるかを確認して合剤への変更を検討とされています。

緑内障点眼薬はそもそも市販の目薬で売っているようなスッキリする目薬と違います。充血したり、ゴロゴロしたり、ドライアイがひどくなったりなんらか嫌な目の症状が出ることがあります。その場合、目薬を中止、変更しなくてはなりませんが、合剤だと二つの成分のうちどちらが悪さしているのか悩むケースがあります。金銭的にも合剤の方が単剤より高いので、まずは単剤から初めて、目標眼圧まで下がるのか、薬の効果が出ているか順を追って経過をみていく事が多いです。

緑内障について詳しく知りたい方は絶賛発売中の私の著書『緑内障の進行を抑えるたった二つの習慣』をご覧ください。

今回の話をまとめますと

①緑内障の目薬で単剤で最も眼圧下降が得られるのはプロスタグランジン製剤です。

➁その次がチモプトール、ミケランのようなβ遮断薬やアイファガンが多いです。

③合剤含めるとプロスタグランジン製剤+β遮断薬が一番強力です。

④合剤は眼圧が下がる分、副作用が多いです。急ぎの場合を除いて単剤から治療を開始するのが一般的です。

という4点です。

このように緑内障の目薬はたくさんあって、処方のされ方はおおむね決まりがあります。

ただ合う合わないもありますし、効き方は人それぞれ違うので処方される目薬は人それぞれ変わってきます。緑内障治療には点眼継続のモチベーションが非常に重要です。色んな事を知って頂いて治療を継続していただけたらと思います。

今回は緑内障目薬に関してお話しいたしました。


(2024.6.5)