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166.次世代型多焦点眼内レンズVivity

今回は白内障手術で使う眼内レンズ、ビビティに関してお話いたします。

ビビティとは2023年6月にアルコンという会社から国内で販売された次世代型の多焦点眼内レンズです。

欧米では2020年より販売・使用されていましたが、当時欧米含め国外で先行して販売されていたものはアクリソフという素材のものでした。日本ではクラレオンというより質の高い新しい素材に改良されたクラレオンビビティが販売されています。

アクリソフとクラレオン何が違うのかというと、見える範囲、明視域は同じですがレンズの素材がよくなったことでレンズの混濁が減って長期間透明性を維持できるようになりました。

以前はホワイトニングといってレンズが少し混濁することがありました。新しい素材のクラレオンはレンズ自体が混濁する事がまずありません。それだけでなく後発白内障の頻度が減りました。

後発白内障とは白内障手術後の白内障と言われたりしますが、レンズを入れている嚢という袋の部分が混濁することをいいます。後発白内障はYAGレーザーというレーザーで外来で簡単に処理できますが、頻度が少ないに超したことないですよね。

アルコン社の眼内レンズは単焦点レンズもアクリソフからクラレオンという新しい素材に変わっていますし、パンオプティックスという多焦点眼内レンズもアクリソフからクラレオンというものに変わっています。

クラレオン素材のビビティは日本が初なのですが、乱視用のレンズがまだ承認されていません。海外で使用されているアクリソフのビビティは乱視用があるのでいずれ出てくるのは間違いないと思いますが、残念ながらメーカーから聞く限りだと今年中2024年中の発売予定はないみたいです。当院でもビビティの乱視用待ちの方が結構みえるので、同じように待たれている方も多いのではないでしょうか。ある程度乱視が残ってしまうとビビティの効果を最大限発揮できないのでまだ手術を待てる状態なら待った方がいいですし、乱視を残した状態でビビティを入れるのは。お勧めしません。

クラレオンビビティとてもいいレンズで人気がありますが、様々な特徴があり、中には気を付けた方がいい方もいます。今回はビビティに関してお話しいたします。

クラレオンビビティはとても人気のあるレンズですが、何故人気があるのかというと単焦点眼内レンズより見える範囲が広く、多焦点眼内レンズでみられる光にじみや散乱が非常に少ないレンズだからです。単焦点眼内レンズの良さを伸ばしつつ、多焦点眼内レンズの欠点を感じさせない、それがビビティです。

具体的にどのような特徴があるのかというと

①遠方から50cm程度の距離までは連続的に見ることができる。

通常単焦点で遠方に合わせるとせいぜい70cm程度までしかみえない。僕らは中間距離を60cn程度の距離といっていますが、保険のレンズだとパソコンなどの中間距離がぎりぎりみえるかどうかという見え方になります。そのため単焦点眼内レンズで遠方に合わせる場合、手元はもちろん60cm以内の距離は眼鏡が必要になるケースが多いです。ビビティは40cm以内の距離は少し弱いですが、50-60cmの中間視力はしっかりピントが合います。

➁コントラストが単焦点眼内レンズと同じくらいよい。

コントラストとはそのままですが、くっきりはっきり見る能力の事をいいます。

このコントラストが最もよいのが単焦点眼内レンズです。単焦点という名前の通りピントが合う箇所は限られていますが、ピントが合う部分に100%光が集まるのでコントラストが最もよいです。

一方で遠くから手元まで幅広くピントが合うレンズが多焦点眼内レンズですが、コントラストは単焦点より若干落ちます。多焦点眼内レンズは遠く、中間、近くと入ってきた光を振り分けます。通常の多焦点眼内レンズは、反射などの影響で眼内に入ってこない光が10%ほどあります。眼に入る90%の光を遠く、中間、近くを50:20:20といった程度に振り分けます。

そのためコントラストに差が出来ますが、多焦点は単焦点と比べてだいたい15%程度コントラスト感度が落ちるとされています。

ではビビティはというと、ビビティは単焦点と同じくらいにコントラスト感度がよいです。光学的なエネルギーロスは0%、遠く、中間、近くと光を振り分けるような事をしないので従来の多焦点眼内レンズと違って光を全て有効活用します。その結果、単焦点眼内レンズと同レベルのコントラスト感度で、見え方の質が非常に高いことが魅力です。

三つ目のポイント、これが最大の特徴といっていいと思います。

➂ハロー・グレアを最小限に抑えています。



従来の多焦点眼内レンズは夜間の運転をする方には向き不向きがありました。

それは多焦点眼内レンズに特有の症状であるハロー・グレアという異常光視症があるからです。

ビビティ



のハローグレアは実際のデータでは0%に近く、これは単焦点眼内レンズと同程度です。

ビビティにはこのようなメリットがあります。40cm以内の近い距離は少し弱いので老眼鏡をする可能性がある事が分かっている。けどとにかく自然な見え方にこだわりたいという方には向いていますね。夜間の運転をされる方はハローグレアのため多焦点を躊躇していた方もみえると思いますが、ビビティならよい適応になると思います。

このようなメリットがある一方で、唯一の弱点は

40cm以内の近方視力が弱いことです。

スマホや読書をしている方、だいたい40cm程度の距離で読まれている方多いですが、この距離は老眼鏡が必要になると思っていないといけません。中にはビビティをいれた方でも40cmまでピントが合うかたもみえますが、実際は老眼鏡が必要と思っていた方がよいです。有効視力


は0.6以上とされていますが、中間視力

は0.8程度でよくみえますが、40cm程度

の視力は0.6ぎりぎりです。近くで細かい文字を見る時は少し見にくい感じがすると思います。この点、パンオプティクスのような3焦点タイプなら40cmの距離でも1.0視力が出るので、近距離に関しては従来の多焦点眼内レンズが有利です。

もしビビティが40cm視力までしっかり焦点が合うというレンズであればもはや他の多焦点眼内レンズを使う理由がなくなるのですが、全ての方にビビティが向いているといえないのはこのためですね。

そのため注意した方がいい方もいます。今お話ししたことに繋がりますが、

どういう方かというと白内障があっても裸眼で40cmの距離にピントがしっかり合っている方です。

白内障はあるのですが、ピントの調節機能がまだ残っているので手元まで裸眼で見えている、

または-2.0D程度の軽い近視で裸眼で近い距離は見えているという方は注意した方がよいでしょう。

これは先ほどもお話した通りVivityは40cm程度の近方視力が弱いからです。遠くや中間距離がははっきりみえるようになっても、近くの見え方は手術前の方がみえていた、これならやるんじゃなかったというような場合がVivtyでもありえます。

手元までしっかりみたい、眼鏡をしたくないという事がご希望ならハローグレアの問題点はありますがパンオプティックスのような3焦点タイプがよいと思います。

そのため裸眼で細かい作業が好きな方は注意してください、絵を書いたり、スマホをよくみたりという方は術後にフォントを大きくする必要があることを知っておいた方がよいです。

このようにビビティで問題になる場合、近方視で問題になることがほとんどなので当院ではビビティを希望される方には次のようにお話ししています。

まずは優位眼から手術をすすめています。人には効き眼と非効き眼があります。

医学的には効き眼を優位眼、効き眼でない方を非優位眼といいます。

普段両眼で見ているので気付かないと思いますが、脳には左右どちらかの眼の情報を優位に認識するという特徴があります。

自分の眼がどちらが効き眼か分かりますか?もし分からなければ、目の前に輪をつくってその穴から何かものをみてください。片眼ずつとじてみて両眼みていた時と比べてください。するとどちらかの眼は両眼でみていたときと同じようにみえて、もう片眼は少しずれると思います。白内障がかなり進んでいる状態だと効き眼がどちらか分かりにくくなりますが、ズレない方が優位眼でズレる方が非優位眼です。

優位眼から手術をすると次のようなメリットがあります。

術後近くが見にくいという場合、非優位眼を少しピントを手元にずらして手元の見え方を確保できる可能性があります。右眼と左眼で少し度数をずらすことをモノビジョンといいます。単焦点眼内レンズでもある程度左右の度数を離して見える範囲を拡大することができます。その場合、右眼と左眼の度数を離さないと遠くも近くも見るようにすることができません。その点ビビティの場合はもともと明視域、見える範囲が広いのでわずかにずらすだけで手元までピントが合う事があります。

当院ではFEST法という方法で見え方の確認を行っています。FEST法とは眼内レンズが入った眼を使って、見え方のシュミレーションを行う方法です。ビビティを少し手元に寄せた状態を作って、見え方の確認をします。遠方視力をある程度維持しながら、近方視力があがればビビティのモノビジョンがよい選択になる場合があります。一般的に優位眼を正視といって遠くに合わせて、非優位眼を少し近くに合わせる事が多いです。

このようなシュミレーションで少し手元にピントをずらしても近方視力が改善しないこともあるので、その場合は

ミックス&マッチという方法がよい選択になる場合があります。Mix&Matchとは左右に別のレンズを入れることをいいます。例えば優位眼にビビティ、非優位眼にパンオプティクスという三焦点タイプの眼内レンズをいれます。左右別々のレンズを入れることによって違和感があるのではないか?と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、ミックス&マッチとはそれぞれのレンズのいいところをいかして、欠点を補うことを目的にした手法です。

人の脳は凄く良く出来ていて、常に良い方を選択しようとします。遠方を見ようとするときは遠方が見えやすい眼で、近方を見ようとするときは近方が見えやすい眼を自然に選択します。これを両眼加算と言います。国内の報告では優位眼にビビティ、非優位眼にパンオプティクスをいれると、Vivityの手元の見にくさが改善されて、パンオプティクスでみられるハローグレアが軽減されたと報告されています。逆のパターン、非優位眼にVIvity 優位眼にパンオプティクスはハローグレアの感じ方はあまり変わらないとされているので、その点からも優位眼にVivityのような癖の少ないレンズを入れるのがポイントだと思います。

最近の2024年

に海外で報告された研究では両眼ビビティ、両眼パンオプティクス、片眼ビビティ、もう片眼にパンオプティクスをいれたミックス&マッチ 三つのグループを比較検討された結果が報告されました。結果として両眼別々に入れたレンズが最も満足度がよく、両眼パンオプティクスの場合より片眼別々のレンズの方が視力もよかったという報告もされているぐらいです。

だからといってミックス&マッチをみなさんにすすめているわけではありませんが、こういう事もできる事を知って頂くだけで、レンズの選択の幅は広がりますよね。

両眼同じ度数、同じレンズを入れるのが一番理想ではありますが、術後やっぱり手元がみにくい、思っていた以上に不便だといった場合このような方法を術後に計画することも可能です。

ちなみにパンオプティクスの場合は非優位眼からの手術をすすめています。ハローグレアが気になる場合、優位眼にビビティをいれることで、症状が緩和される可能性があるからです。

Vivityを検討している方はよければ参考にしてください。

少し専門的だったので難しかったかもしれません。

今回の話をまとめますと

①国内で発売されているビビティはクラレオンという新素材のレンズです

➁遠方から50cmまではしっかり見えます。40cmは見える見えない個人差がありますが、基本は老眼鏡が必要と思ってください。

➂コントラストが単焦点と同等、異常光視症も単焦点と同等でほぼないです。

④手元が見にくい場合、ミックス&マッチや、ビビティの軽いモノジョンが有効となる可能性があります。

⑤優位眼からの手術がおススメです

という5点です。究極の眼内レンズはというと単焦点眼内レンズの見え方を維持して、出来るだけ広範囲な見え方が出来るレンズだと思います。近距離が少し弱いとはいえレンズの癖がすくなく、自然な見え方が獲得できる点でビビティはとてもよいレンズです。

海外ではビビティに対抗する新たなレンズとしてTECNIS PureSee



というレンズが販売されています。非回折構造で、レンズのスペックとしてはビビティと同じようです。国内での発売はまだまだ先になりそうですが、発売されたらビビティと同じように人気が出そうな気がします。

今回は白内障手術で使用するビビティというレンズに関してお話しいたしました。

(2023.5.16)