今回は視機能を維持するための大切な生活習慣に関してお話しいたします。
加齢黄斑変性症という病気をご存知でしょうか。
国内での中途失明原因
1位は緑内障ですが、4位がこの加齢黄斑変性症です。米国での中途失明原因は1位の病気です。
あまり聞き慣れない病気だなと思われたかもしれませんが、日本で増加傾向で今後増えていくとされている眼疾患です。
この病気にかかると
①視力が下がるだけでなく、②変視症といいますが、ものが歪んで見えたり
、③中心暗点といって見たい部分に暗点ができたりします。放置すると視機能が更に悪化して、最終的には視力回復が不能になってしまう厄介な病気です。
この病気に絶対ならない方法はありませんが、リスクを減らしたり、進行を抑制するための大切な食生活であったり生活習慣があることで知られています。今回は加齢黄斑変性症にならないために知っておきたい生活習慣に関して5つお話させて頂きます。
加齢黄斑変性症のお話をする前に見るために欠かせない黄斑部の働きに関して知っておく必要があります。私達はものを見る時、光が瞳孔に入って、レンズを通り、硝子体を通って、網膜にあるたった2㍉の部分、黄斑という部分に焦点が結ばれてその刺激が視神経、脳と繋がって物をみています。
どの部分もみるために欠かせません。加齢性変化で障害を受けやすい部分はレンズ、水晶体という部分です。すなわち白内障
です。白内障は主に加齢が原因で水晶体というレンズが混濁して発症します。視力低下の代表的な病気ではありますが、白内障なら手術を受けて、人工レンズに置き換われば視力は回復します。国内では年間150万人近くの方が白内障手術を受けて実際多くの方が視力回復されています。問題なのはその奥の部分なんですね。
黄斑部
視神経というところです。ここに障害を受けると何らか視覚的に後遺症を残す事がほとんどです。
それはこの黄斑、視神経は発生学的に脳からできていて、脳の一部だからです。脳も脳梗塞などで機能障害が起きると半身麻痺のような後遺症が残りますよね。
神経系の組織は、障害を受けると再生することができません。
黄斑部
は広い網膜の中でたった2㍉の部分ですが、この中に見るために大切な細胞、視細胞の中の錐体細胞といいますが、他の網膜の部分に対してぎゅっと密になって存在しているので見る能力が格段に優れています。
この部分が加齢などが原因で構造が劣化して発症する病気を加齢黄斑変性症といいます。
加齢黄斑変性症は加齢とついていることからわかるように歳を重ねると発症リスクが高くなります。ですが原因は加齢だけではありません、食事やライフスタイル、遺伝、環境要因など様々な事が原因になります。
まず知っていただきたい事一つ目は食事です。黄斑部には黄斑色素というバリア機能があります。このバリアによって黄斑部にある視細胞が光刺激による酸化ストレスから守られています。この黄斑色素は何でできているかというと、多くの方がご存知になってきましたが、ルテインとゼアキサンチンというカロテノイドと言われるものです。
加齢黄斑変性の発症予防のためにルテイン、ゼアキサンチンの摂取が重要であることが多くの論文で報告されています。
カロテノイドというのは植物などに含まれる色素をいいます。自然界に600種類以上のカロテノイドが確認されているんですが、目に含まれるカロテノイドはたった2つで、それがルテインとゼアキサンチンです。目の水晶体と黄斑部に含まれています。目は寝ている時を除いて常に光刺激を受けていますが、
ルテインは
①視細胞を保護したり、
②炎症を抑える働きや
③網膜内に蓄積された老廃物を除去する作用
④免疫を調節する作用
があることで知られています。そのため目だけでなく、脳にもルテインは多く含まれているので認知機能の改善や、心筋梗塞の予防、大腸癌のリスクの軽減など全身的に様々なメリット
が報告されています。
植物は自らの力でルテインを合成できますが、人を含めた哺乳類は合成できません。そのため積極的に食事から摂取して吸収する必要があります。ほうれん草、ブロッコリー、小松菜のような緑黄色野菜や卵はルテイン、ゼアキサンチンの優れた供給源です。中でも
卵は全ての食品の中でルテインの生体利用率が最も高いことが報告されています。そのため1日1個普段の食事に卵をとること推奨しております。
ルテインやゼアキサンチンは脂溶性の抗酸化物質なので脂質と一緒に摂ると吸収力が高まります。卵には天然の脂質が多く含まれています。ひと昔前は卵は摂りすぎるとコレステロールが上がって良くないと言われていましたが、これに関しては国内、海外含めて食事によるコレステロールの摂取は血中のコレステロールの値に影響を与えないと報告されています。
野菜と卵
を一緒にとることでダブルルテイン効果で多くのルテインを効率的に摂取する事ができます。
よく調理方法はどのようにしたらよいのか?と聞かれますが、ルテインなどのカロテノイドは熱変性に強いです。好きな調理方法で摂取するようにしてください。
野菜などが苦手という方はサプリメントでもよいかと思いますが、栄養摂取の基本は食事です。出来るだけ食事から摂取するように心がけて下さい。
このようなルテイン、ゼアキサンチンに加えて、同じく大切な栄養素は抗酸化作用があるビタミンCやビタミンE、亜鉛のようなミネラル成分、ω3脂肪酸のDHAやEPAの摂取も大切です。ビタミンCが多い食品はオレンジやキウイフルーツに多く含まれていますし、ビタミンEや亜鉛はナッツ、牡蠣に含まれています。
ω3脂肪酸であるDHAは視細胞の主な構成成分です。必須脂肪酸で、ルテインと同様に体内で合成できないので食事から積極的に摂らなかればなりません。
週に2回程度の魚料理をとることで黄斑変性症のリスクを40%軽減したという論文も報告されているので、魚の摂取さるようにするといいですね。。
一方で砂糖を多く含んだ食品や牛肉、豚肉のような飽和脂肪酸の摂りすぎは炎症を起こし、黄斑変性症リスクを増加させるとされています。甘い食べ物や清涼飲料水、ハムやベーコンなどの加工食品もできるだけ避けるようにして下さい。
2つめ、適切な体重を維持するようにしてください。肥満の指数でBMIというものがあります。BMIとはボディマス指数というもので、体重と身長から計算される肥満度を表す指標です。標準のBMI値は25.0未満とされていますが、25.0未満と30以上の方を比べたところ加齢黄斑変性症の発症率が2倍高かったと報告されています。
肥満が何故黄斑変性のリスクを高めるのか、完全に原因がわかっていませんが2つの仮説が考えられています。
①ルテインなどカロテノイドが脂溶性であるため脂肪細胞に吸収されてしまう
というのが一つめです。せっかく食事から摂取したルテインが網膜内に蓄えられずに体内の脂肪細胞に吸収されてしまうからというのと
②脂肪細胞が多いと炎症細胞を誘導するから
という2点がこの論文
では考察されています。、
重症型の加齢黄斑変性症の発症が32%高まると別の報告でもされています。目のためにも身体のためにも適正な体重を維持するのがいいかもしれません。
3つ目タバコを吸わないようにしてください。タバコを吸うと肺がんや脳梗塞のリスクを高めるというのは良く知られている事だと思いますが、目とも明らかに関係があります。喫煙することで、黄斑変性症の発症リスクが5倍程度高まることが報告されています。タバコの煙に含まれる有害物質が体内の様々な組織を攻撃しますが目にも攻撃します。副流煙も関係あるので、喫煙習慣がある方は身体のためだけでなく目のためにも禁煙されるようにしてください。
4つ目、自分の家族歴を知ることも大切です。ご両親に黄斑変性症の方いないでしょうか。英国の研究
では親が加齢黄斑変性症だと、27.8倍発症率が高まると報告されています。加齢黄斑変性症は先ほどあげた食生活などのライフスタイルとも関係しますが、遺伝的な要因もあることで知られています。遺伝である以上避けられない部分もありますが、ルテインなどの抗酸化物質を多くとると加齢黄斑変性症の発症リスクが大幅に減少することが報告されています。
そのため最後5つ目は40歳を過ぎたらまず目に何も異常がない方でも検診を受けてください。加齢黄斑変性症の初期病変はドルーゼンといいますが、老廃物が網膜内に少しずつ発生していきます。
この老廃物は網膜内に少し溜まっても自覚症状はでません。しかし、病変がやがて黄斑部に広がり、炎症を起こすと、網膜が腫れて歪みや、色覚異常のような視覚的な症状が出てきます。初期の病変は眼科で診察するとすぐに分かります。初期状態から食事を意識したり、タバコをやめたり、または体重を落とすことで進行を抑制できる可能性があります。
目に自覚症状がなくても40歳を過ぎたら眼科受診するようにしてください。簡易検査でアムスラーチャート
というものがあります。こちらを片目ずつつぶってみて歪みや暗点がないかチェックしてみください。何らか違和感を感じたら早めに眼科受診するようにしてください。
今回の話をまとめますと
①網膜の中にあるたった2mmの黄斑部は良好な視力を維持するために欠かせない部分です。
➁ルテインやゼアキサンチンといった黄斑カロテノイドで視細胞が守られています。
➂私達人間の身体はルテイン、ゼアキサンチンを合成できません。食事から摂取するしかありません。
④緑色の野菜や卵を摂るようにしてください
⑤適正な体重を維持して、タバコを吸っている方は禁煙を、家族歴がある方は早めに一度眼科受診してください
という5点です。加齢黄斑変性症は2パターンあります。治療薬がある滲出型と治療薬がない萎縮型です。このうち日本人に多いのは滲出型です。薬があるなら安心だと思われたかもしれません。確かに薬である程度治る方もみえますが、実際は多くの方は治療をしても、再発し、完全に完治するような事は中々難しいです。そうならないために日頃から食事などを意識して頂けるといいかなと思います。
今回は目に大切な黄斑部を守るための生活習慣に関してお話させて頂きました。
(2023.12.6)