白内障手術で入れる眼内レンズを347名の眼科医にアンケートをとり自分自身が白内障手術を受け眼内レンズに入れるのならどのレンズを選ぶのかという論文がありましてそれに関してお話させて頂きます。
この論文は「Eye」という眼科の中でも高いレベルの雑誌に載ったものです。以前に保険診療で選ぶ眼内レンズでもこちらに関して少し触れたのですが、もう少し詳しく触れてみたいと思います。眼内レンズは現在単焦点眼内レンズから多焦点眼内レンズまでたくさんありますよね。少しだけ復習しますと、単焦点眼内レンズは保険診療で受けることができるレンズです。遠方合わせか手元合わせかどちらかを選びます。遠方を選んだ場合は1.2m以降は裸眼ではっきり見えるようになるんですが、手元は見にくくなるので手元は老眼鏡が必要になります。逆に手元合わせにした場合は裸眼で本を読んだり、スマホを触ったりするような手元30cmくらいのところが合うようになります。遠方はピントが合いませんので遠方に関しては眼鏡が必要になります。
一方、多焦点眼内レンズは現在3焦点眼内レンズもしくは2焦点+焦点深度拡張型眼内レンズが主流ですが、どちらも遠方、中間、近方が裸眼で見えるようになり、最近の報告だと完全眼鏡フリーになる可能性が85%以上あると報告されております。ただし、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズと違い、ここ大事なのですが特殊な加工がしてあるのでハロー・グレア、コントラスト感度といって見え方の質が悪くなるんです。単焦点は焦点が遠方か近方かどちらかにしか合わすことができないのですが、多焦点眼内レンズのような特殊な加工がないので、見え方の質は落ちません。なので遠方なら遠方、手元なら手元をはっきり見ることができます。わかりやすく言うなら単焦点眼内レンズはピントが合う部分は光学的なロスがなく100%はっきり見えるようになるわけですが、多焦点眼内レンズは見える力が分散されますので、遠方、中間、手元が85%くらいの質にどうしてもなってしまうんですね。
なので単焦点眼内レンズか多焦点眼内レンズか選ぶときの基準として大事なのは2つです。1つ目は見え方の質をどの程度重視するか。2つ目は完全眼鏡フリーの生活を望むか。この2点を天秤にかけて選ぶことになります。これに関しては前回のブログで私自身の意見をあげさせて頂きましたが、私なら見え方の質をとりますので、単焦点眼内レンズで近方合わせ、そして遠方見るときは眼鏡というスタイルを選びます。この見え方を選んだ理由は①見え方の質を落としたくない、②手元が裸眼で見える生活が大事だと思っているので手元合わせにします。これは自分がもともと近視であるということもあります。③多焦点眼内レンズを入れた後に眼疾患にかかった場合ややこしくなる可能性があるという将来的なリスク回避のためという部分も含めて3点をお話しました。よければ前回のブログもご参考ください。これに対して眼科医347名が出した答えは次のようになっております。まず眼内レンズを選ぶ上で1番大事にすることは見え方の質であると93.0%が回答しました。完全に眼鏡フリーを求める眼科医は43.1%いました。逆に言うと60%近くの眼科医は完全に眼鏡フリーになることを望んでおりません。これはもちろん完全眼鏡フリーがいいのだけど、現状は見え方の質もとって更に完全眼鏡フリーになるのが難しいのが分かっているからだと思います。この論文では自分が乱視がない場合と乱視であった場合でどのレンズを選ぶかというアンケートが取られています。乱視というのは角膜とか水晶体の歪みをいいます。乱視が強いと乱視をレンズで矯正しないと視力が出ないのですが、乱視は眼内レンズで矯正できるんですね、トーリック眼内レンズという乱視用の眼内レンズがありますので、そのようなものを用いて矯正します。まず乱視がない場合です。その場合は61.3%の眼科医が単焦点眼内レンズを選ぶというものでした。そしてなんと多焦点眼内レンズを希望する人は26.9%しかいませんでした。
逆に乱視がある場合です。乱視矯正ができるレンズは単焦点、多焦点どちらもありますので、その場合はどうなのかということですが、乱視がある場合は73.0%の人が乱視用もしくはあえて乱視のない単焦点眼内レンズを選ぶという結果になりました。乱視矯正用の多焦点眼内レンズを選ぶ人は20.0%人しかいませんでした。これは乱視があればその乱視を矯正させて更に多焦点ではなく単焦点にして見え方の質を取る傾向が出たということです。
この論文の考察は次のようになっています。多焦点眼内レンズを扱っている眼科医がいるにも関わらず、乱視の有無に関わらず単焦点眼内レンズを選ぶ傾向があった。その理由は眼科医は眼鏡フリーになるよりも見え方の質を重視し、リスクを嫌う傾向がある。ということでした。リスクというのは多焦点眼内レンズのハロー・グレアやコントラスト感度の低下のことです。これらが実際どの程度起こるのかそれは白内障手術を受けてみないと分かりませんし、術前にシュミレーションを行うことは困難です。合わなかったら眼内レンズを交換したらいいのではと思われるかもしれませんが、眼内レンズの交換は眼鏡のレンズ交換のように簡単にできることではなくて、少し専門的な話になりますが角膜内皮細胞が減ったり、網膜剥離になったり、眼内の炎症が起こり得るリスキーなことでありますので基本レンズの交換ができるというのは安易に考えないほうがいいです。なのでレンズを入れる手術は一度きりですからリスクをさけたいという考えかたになったのだと思います。皆さんはどのようにお考えでしょうか。遠くから手元、まったく見え方の質を落とさずハロー・グレアのような欠点がないレンズが今後できればもちろんそれが言い訳なんですけれども現状はありませんので、先程いった2点、見え方の質を取るか、それとも完全眼鏡フリーの生活を取るかということになると思います。今回は眼内レンズ347名の眼科医が自分に入れるならどのレンズを入れるのかということに関してお話させて頂きました。
(2021.8.1)