ネタルスジル塩酸塩とは?正常眼圧緑内障で期待される新しい点眼薬について

2026.02.11 緑内障ブログ・症例実績

はじめに

今回は、今後日本で登場が期待されている新しい緑内障点眼薬 ネタルスジル塩酸塩 について解説します。

本記事では、

・ネタルスジル塩酸塩とはどのような薬なのか

・なぜ注目されているのか

・どんな方に向いているのか

を、できるだけ分かりやすくお話しします。


ネタルスジル塩酸塩とはどんな薬?

ネタルスジル塩酸塩は、緑内障・高眼圧症の治療を目的とした新しいタイプの点眼薬です。

参天製薬の発表によると、

緑内障・高眼圧症治療点眼剤「STN1013900(ネタルスジルメシル酸塩)」について、日本における製造販売承認を申請した

とされています(2025年7月時点)。

薬が実際に使われるまでには、

  • 第Ⅰ相試験
  • 第Ⅱ相試験
  • 第Ⅲ相試験

を経て、申請・承認という段階を踏みますが、ネタルスジルはすでにこれらの臨床試験を終え、現在は承認申請中という最終段階に入っています。

海外ではすでに実際に使用されており、日本でも承認されれば新しい治療選択肢になると考えられています。


なぜネタルスジル塩酸塩が注目されているのか

最大の理由は、日本人に多い「正常眼圧緑内障」との相性がよい可能性があると考えられているからです。

その理由を理解するために、まず現在使われている緑内障点眼薬を整理しておきましょう。


現在の緑内障点眼治療の中心

👑プロスタグランジン製剤

緑内障治療の第一選択として使われることが多いのが、

・ラタノプロスト

・タプロス

・トラバタンズ

・ルミガン

といった プロスタグランジン製剤 です。

これらは眼圧を下げる力が非常に強く、2000年以降、緑内障治療を大きく変えた薬です。手術を回避できた方も多く、現在でも最も重要な治療薬といえます。

一方で、

・効きにくい方(ノンレスポンダー)がいる

・まつ毛が伸びる

・皮膚が黒ずむ

・まぶたがくぼむ

といった見た目に関わる副作用(プロスタグランジン関連眼周囲疾患:PAP)が出ることもあります。特に女性の方では問題になりやすい副作用です。目からあふれた薬の成分が長時間皮膚についたままになるとこのリスクが高くなりやすいので、お風呂入る前にやる習慣にしましょうと言われたことがあるかもしれませんね。


緑内障点眼薬の作用の違い

眼圧は、目の中で作られる水(房水)の

・産生

・排出

のバランスで決まります。

これまでの点眼薬の多くは、

・房水の産生を抑える薬

・副流出路(ぶどう膜強膜流出路)を促す薬

のいずれかでした。

房水の主な出口である「主流出路」に直接作用する薬は、実は多くありません。


ネタルスジル塩酸塩の最大の特徴

ネタルスジル塩酸塩は、 房水の主流出路(線維柱帯〜シュレム管)に直接作用する という点が、これまでの点眼薬と大きく異なります。

正常眼圧緑内障では、

・眼圧は正常範囲

・しかし線維柱帯やシュレム管の流れが悪い

と考えられており、 その結果、眼圧変動が起こりやすく、 数値としては正常でも、その人にとっては負担の大きい眼圧になることがあります。ネタルスジルは、この病態に直接アプローチする点眼薬といえます。


ROCK阻害薬としての作用

ネタルスジル塩酸塩は、ROCK(Rho kinase)阻害薬です。

ROCKは、

・線維柱帯の細胞を収縮させる

・組織を硬く保つ

といった働きを持っています。

ROCKが活性化すると房水の流れが悪くなりますが、 ROCK阻害薬はこの働きを抑え、 線維柱帯をやわらかくし、主流出路の流れを改善します。

同じROCK阻害薬としてグラナテックがありますが、 ネタルスジルには ノルエピネフリン輸送体(NET)阻害作用 もあり、

・房水流出の改善

・房水産生の抑制

という二重のアプローチを持つ点が特徴です。また、1日1回点眼でよい点もメリットです。

実際リパスジル vs ネタルスジルを比較した第III相ランダム化比較試験からは、ネタルスジルの方が平均日内眼圧下降が大きいと報告されています。


視神経乳頭の血流改善への期待

正常眼圧緑内障では、眼圧だけでなく 視神経への血流も病態に関与していると考えられています。

特に、

・低血圧

・夜間血圧低下

・冷え性

・片頭痛

といった特徴を持つ方(フラマー体質)は、視神経血流が不安定になりやすいことが知られています。

ROCKは血管平滑筋の収縮にも関与しているため、 ROCK阻害薬により

・血管が拡張しやすくなる

・微小循環が改善する

結果として、視神経乳頭の血流が安定する可能性が期待されています。


視神経保護作用の可能性

さらに、ROCK阻害には

・網膜神経節細胞の障害抑制

・軸索再生の抑制解除

といった視神経保護作用の可能性が、基礎研究レベルで示唆されています。

現時点では臨床で確立した効果ではありませんが、 眼圧低下に加え、複数の側面から作用する可能性がある点は注目されています。


どんな方に向いているのか

ネタルスジル塩酸塩は、

・正常眼圧緑内障の方

・プロスタグランジン製剤だけでは進行が抑えきれない方

・眼圧変動が大きいと言われた方

・点眼回数をできるだけ減らしたい方

に向いている可能性があります。

一方で、

・すでに眼圧が十分低く安定している方

・無症状で進行もない方

では、無理に変更・追加するメリットはありません。


まとめ

ネタルスジル塩酸塩は、

  1. 日本で承認が期待されている新しい緑内障点眼薬
  2. 主流出路(線維柱帯〜シュレム管)に直接作用
  3. 正常眼圧緑内障の病態と相性がよい可能性
  4. ROCK阻害+NET阻害の二重作用
  5. 血流改善・視神経保護の可能性

といった特徴を持つ薬です。

すべての方に最適というわけではありませんが、 これまでの治療で十分な効果が得られなかった方にとって、新しい選択肢になる可能性がある点眼薬といえるでしょう。

今後、日本で承認され実際に使えるようになった際には、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、慎重に検討される薬になると考えられます。