白内障手術を行っているクリニックは数多くありますが、実は手術の進め方や使用する機械、選ぶレンズ、そして度数の考え方には、施設によってかなり違いがあります。
レンズの種類や度数の合わせ方って色々あったんだなということを術後に知って、もっと前から知っておけばよかったと後悔される方もいます。
白内障手術に限ったことではありませんが、自分で事前に色々調べるということ凄く大切です。
その中で今回はこれから白内障手術を考えている方に、こんなレンズすすめられたら注意してくださいということについてお話しいたします。
色々ありますが、注意したい項目として①単焦点レンズの種類をまず確認する。②単焦点の場合0Dかー3Dの二択しかない。➂乱視矯正をしていない、④モノビジョンへの考え方、⑤単焦点しか取り扱っていなくて多焦点は全てダメといわれてしまう。そして最後⑥医師が実際に患者と対話する時間が短くてスタッフ任せ・流れ作業的になっていて、患者さんが質問できる雰囲気がない。という6点です。
それぞれみていきます。
まず一つ目、実は単焦点レンズにも種類があるということを知っていてください。
モデルによって旧式と新しいタイプがあり、それによって後発白内障といって白内障手術後の濁りの頻度やレンズの透明さをどれくらい保てるか、乱視用レンズならレンズの固定性が変わってきます。
やはり、手術を受けるなら新しいモデルを選ぶほうが安心です。
ただし、中にはコスト面などの理由から、あえて最新モデルを採用せず、旧型のレンズを使い続けている施設もあります。そのため、「どのモデルのレンズを使っているのか」を確認しておくとよいと思います。具体的にはアルコンという会社ならクラレオン、ジョンソン&ジョンソンという会社ならテクニスオプティブルー、HOYA社ならVIVINEX【ビビネックス】シリーズ ニデックはNSP-2 興和はアバンシーYP2というモデル、これに加えて単焦点プラスといってやや単焦点より見える範囲が広がったレンズがありますが、テクニスアイハンスや、NSP-3 VIVINEXインプレスというモデルが最新になりますね。このあたりを提案されているならいいと思います。
単焦点ならどれも同じだよという説明を受けるかもしれませんが、やはり新しいモデルは長期にわたってよい視機能を維持できるように改良されています。自分の中に入れるレンズに興味をもっていただいて、単焦点の種類を聞いてみる、これ1つ目のポイントです。ネットで調べると今すぐ分かるので、意外とあれ、これひとつ前のモデルじゃないかということが発覚することがあるかもしれません。
2つ目はその単焦点眼内レンズの度数の合わせ方に関してです。
これは本当によくあるご相談なのですが、単焦点レンズ=0Dすなわち5m以降の遠方かまたは−3Dの33cmの近く合わせの二択しかないというのは誤解です。以前は慣例的に遠視なら0D、近視の人はー3Dと両極端にすることが多かったのですが、実際には、−0.5D〜−2.5Dの範囲で細かく調整できます。ちなみに当院では手元を狙う場合でもー3D合わせはまずしません。そこまで近視を残さなくても近見は充分みえるからです。
近視を残すとしてもせいぜい40cmまで、それで近くが見にくいと言われたことは経験上私はありません。生活スタイルに合わせて、パソコン中心・運転中心・読書中心など、最適な焦点位置を選んで、できるだけ眼鏡を使わない見え方を目指しています。単焦点でも“自由度”は高いということをしっていてください。
3つ目はその単焦点で、知らないと後悔することが乱視矯正に関してです。
単焦点で眼鏡をできるだけ使わない見え方を目指していますが、その上で欠かせないのが乱視矯正です。乱視を放置すると、単焦点含めどんな高性能なレンズも性能を発揮できません。見え方がにじんだり、シャープさが失われたりします。術後結局遠くも近くも乱視入りの眼鏡が必要になっていまいます。なんかすっきりしないというと眼鏡をしてください。単焦点は眼鏡が必要ですからと片付けられてしまうことがあります。
でもこれは凄くもったいないことです。知っておきたいことは、医療機関によって乱視矯正が必要なのに施設によって積極的に乱視矯正用のレンズをいれるところといれないところがあるということです。ここには少し“医療の裏事情”になってしまいますが、トーリックレンズ、乱視用のレンズは乱視がないレンズより仕入れ値が高いんですね。それなのに診療報酬では通常レンズと同じ扱いです。つまりどういうことかというと、単焦点の場合は乱視用レンズ、トーリックレンズを使うとクリニック側のコストだけが増えてしまうという仕組みになっています。さらに、トーリックレンズは挿入するだけではなく、手術中に乱視の軸に合わせて正確な角度に回転させて固定する必要があります。
そのため、手技的にもやや高度な技術が求められます。ちなみに当院では「ベリオン(VERION)」という機械を使って、乱視用レンズの角度を正確に合わせられるようにしています。
一方で、医療機関によっては「乱視用は扱っていません」「年齢とともに乱視も変わるので矯正しなくても大丈夫」と説明されるケースがあるのも事実です。
ですが、実際には強い乱視がある方にとっては、トーリックレンズでの矯正によって明らかに見え方が改善することが多いです。白内障手術では、近視や遠視といった度数を調整できるだけでなく、乱視を矯正することも可能です。これまで眼鏡やコンタクトで乱視を入れないと「視界がにじむ」「二重に見える」といった症状を感じていた方は、手術で乱視用のレンズが使用されるかどうかを、事前に確認しておくことをおすすめします。
4つ目は「モノビジョン」への考え方です。
モノビジョンとは、左右の目で度数に少し差をつけ、両眼で見える距離の幅を広げる方法です。最近では、差をごくわずかに抑える「マイクロモノビジョン」という方法が注目されています。モノビジョンは大きく3つのタイプに分けられます。
左右差が −0.5D前後:マイクロモノビジョン左右差が −1.0D前後:ミニモノビジョン
左右差が −1.5D以上:通常のモノビジョン、昔のモノビジョンとしてわけられます。
モノビジョンに対する考え方は医師によって違って、否定的な先生もおられます。やはりそろえた方がリスクが少ないからなのですが、その一方で、モノビジョンを維持したほうが快適な方も確実におられます。
たとえば、もともと片眼が遠方、0D前後の度数で、もう片眼は近方−2.0D付近にピントが合っている方がいます。
こうした方は白内障が進んでも、遠くも近くもある程度見えて「便利」と感じている場合が多くて、実際に老眼鏡をほとんど使わずに生活されています。
このような方が白内障手術を受ける場合は、慎重な度数設定が必要です。
安易に両眼とも遠方すなわち0Dに合わせてしまうと、手元が見えなくなってしまって、
「以前は老眼鏡なしで見えていたのに、手術後は必要になった」と不満を感じるケースがあります。
実際に、「遠くはよく見えるようになったけれど、近くが不便になった、手術前の方がよかったんです」と相談に来られる方も少なくありません。
こうしたもともとモノビジョンで順応している方は、ある程度の左右差を残しても問題ないことが多いです。当院でもご希望があれば、違和感のない範囲でモノビジョンを維持できるように度数を設定しています。
特にご年配の方は、手元が見えないことが大きなストレスになりますからね。
ただし、こうした例外を除けば、左右差をつけたい方はまずは左右差0.5〜0.75D程度のマイクロモノビジョンを選択肢としてご提案しています。
もちろん、これは感覚的に「なんとなく」決めるものではありません。
当院では、FEST(フェスト)法という見え方シュミレーションを行いながら、最適な度数差を設定しています。
これは、片眼の手術が終わった段階で、さまざまな度数の眼鏡をかけていただいて、
「0.5D差ではこの見え方」「0.75D差ではここまで変わる」というのを実際に体験してもらう方法です。患者さん自身が自分の目で度数差を確かめて、納得してから次の手術に進めるだけでなく、医師側としても安心して設定できる、とても有用な方法です。
このFEST法は単焦点だけでなくて、ビビティ(Vivity)やピュアシー(PureSee)などの焦点深度拡張型(EDOF)レンズにも応用できます。
たとえば、片眼を0Dで手術した後に「手元が少し弱い」と感じた場合、
眼鏡で+0.25Dや+0.5D分を負荷して、どのくらい近くが見やすくなるかを試します。
手元が見やすくなる方もいれば、逆に手元の見え方もそんなに変わらないし遠方がぼやけていまいちだな感じる方もいます。
その結果、「マイクロモノビジョンにしなくてよかった」と判断できるケースもあります。
つまり、FESTを通して(とおして)事前に見え方の差を体験しておくことで、後悔のない度数設定を選択できるというわけです。
もし手元重視の見え方を希望される場合でも、両眼を同じ度数にそろえて近見は老眼鏡を使用する、あるいはパンオプティクスとの組み合わせを検討するなど、他の選択肢を納得のうえ選べるのが大きなメリットです。
このように、FESTは白内障手術における見え方の確認と度数決定に非常に有効なツールになります。
5つ目は単焦点しか取り扱っておらず、「多焦点はすべて良くない」と言われてしまう場合にも注意が必要です。
なかには、昔の多焦点レンズの印象をそのまま持たれている先生もおられます。以前の多焦点は、現在のような3焦点タイプではなく、遠近の2焦点が主流でした。当時の多焦点はまだ発展途上で、遠くも近くも“なんとなく見える”ものの、コントラストの低下や中間距離の見づらさなど、課題が多く残されていました。ですが今は、レンズの光学設計や素材の改良が進んで、見え方の質は大きく改善しています。もちろん、ハロー・グレアやコントラスト感度の低下といった課題は今もありますが、「多焦点はダメだからやめたほうがいい」というものではありません。
患者さんのライフスタイルによっては、むしろ推奨した方がいい方もおられます。
多焦点を推奨しているわけではありませんが、「知らなかった」「説明されなかった」という状況は避けるべきだと思います。一方で、逆に単焦点を選択すべきなのに、経営的な理由から多焦点を強くすすめる施設もあります。高いレンズであれば万能というわけではありません。
重要なのは、単焦点・多焦点の両方を公平に提案して、患者さんが自分に合った選択をできるようにすることですね。
最後6つ目はカウンセリング不足です。
医師が実際に患者さんと対話する時間が短くて、スタッフ任せ・流れ作業的になっていて、患者さんが質問しづらい雰囲気になっている場合も注意が必要です。
白内障手術や眼内レンズの選択は、一人ひとりの生活スタイルや希望によって最適解が異なります。
そのため、医師が直接話を聞いて、患者さんの生活や見え方の希望を丁寧に確認するプロセスが何より重要となります。もし診察の中で「質問しづらい」「相談できない」と感じるようであれば、思い切って別のクリニックで相談してみるのもいいと思います。
クリニックを選ぶ際は、名医かどうかよりも、どれだけ術前説明やカウンセリングに時間をかけてくれるかを重視してください。
現在の白内障手術は、技術的な失敗で見えなくなるようなことはまずありません。
むしろ、術後の満足度を左右するのは、レンズの度数設定や種類の選択であることがほとんどです。
医師やスタッフが一方的に進めるのではなく、患者さんの希望や生活スタイルを丁寧に聞き取って、一緒に方針を決めてくれるクリニックを選ぶことが何より大切となります。
目の手術は一度きりのことが多いので、安心して話せる環境で、自分に合った見え方を一緒に考えてもらえる場所を探してみてくださいね。
という6点です。
繰り返しますが白内障手術はどこで受けるかよりも、どう自分の希望を伝えて、どう納得して受けるかが大切です。手術の成功は、納得できる説明から始まるということを知っていてください。今回はこんなレンズをすすめられた場合は注意してくださいということについてお話しいたしました。