白内障手術後、「できるだけ眼鏡を使わずに生活したい」と希望される方が増えています。
中でも「スマホや読書を快適に見たい」という“近見重視”のニーズは年々高まっており、それに応える方法として注目されているのが次の2つです:
① ビビティ(Vivity)を使ったマイクロモノビジョン
② Vivityとパンオプティクス(PanOptix)のMIX&MATCH(左右で異なるレンズを使う)
それぞれにメリット・注意点がありますので、どちらが自分に合っているかを選ぶ参考にしてみてください。
Vivityは、焦点深度拡張型(EDOF)の眼内レンズで、以下のような特徴があります
・遠くから中間距離(50〜80cm)まで自然に見える
・ハロー・グレア(光のにじみやまぶしさ)が非常に少ない
・コントラスト感も単焦点レンズ並みに良好
・夜間運転や自然な見え方を重視する方に人気
ただし、スマホ距離(30〜40cm)などの“近く”にはやや弱いため、「近くまで見たい」方には追加の工夫が必要です。
ビビティを使って、両眼のピントをわずかにずらすことで見える距離を拡張する方法が「マイクロモノビジョン」です。
・優位眼(利き目)には遠方にピントを合わせたVivity
・非優位眼(非利き目)には少しだけピントを近方にずらしたVivity(例:−0.25D〜−0.5D)
この微調整によって、遠方〜40cmまでの距離が自然に見える構成が期待できます。
ここで重要になるのが、左右のピント差をどれくらいにするか。
その答えを見つける手助けとなるのが、FEST法です。
FEST(フェロー・アイ・セルフ・チューニング)は、白内障手術で片眼の手術が終わったあと、その見え方を基準にしながら、もう片方の目の度数を実際にいろいろ試してみて、自分にとって一番見やすいピントの位置を“体感しながら選んでいく”方法です。
・最初に片眼(通常は優位眼)を遠方ピント(±0D)に設定
・非優位眼で、−0.25D/−0.5D/−0.75Dといった度数差を実際に体験用レンズで試す
・自分の感覚で“ちょうど良い見え方”を体験・選択できる
FESTは、服の試着と同じようなもの。
「試着せずに買ったけどサイズが合わなかった…」という経験はありませんか?
視力も同じで、数字だけではわからない「見え方の快適さ」があります。
FESTを使えば、術後の見え方をあらかじめ体験して選べるので、後悔を減らすことができます。
実際にFESTを受けてみると、次のような声がよく聞かれます:
・「−0.5Dにしても、スマホの文字がまだ見にくい」
・「結局、細かい文字を裸眼で読むのは厳しいかも…」
このようなケースは決して珍しくありません。
だからこそ、片眼の手術後に、もう片眼を近くにずらしても本当に見えるのかどうかを“自分の目で確かめてから決める”ことが非常に重要です。
FESTで近見視力が十分に出ると確認できれば、Vivityでのマイクロモノビジョンが有力な選択肢になります。
しかし、もしFESTでも思ったほど近見が出なかった場合は、より強力に近方をサポートするパンオプティクスを非優位眼に使うMIX&MATCHを検討する価値があります。
パンオプティクスは、遠・中・近の3つの距離を明瞭に見せる3焦点眼内レンズです。このレンズを片眼だけに使用し、もう一方にVivityを入れることで、以下のような構成になります:
・Vivity(優位眼) → 遠方・中間距離の自然な見え方(ハロー・グレアが少ない)
・パンオプティクス(非優位眼) → 中間〜近方までくっきり見える(スマホ・読書に強い)
パンオプティクスは強力なレンズですが、ハロー・グレアが出やすいという弱点もあります。人間の脳は、主に優位眼からの映像を重視して処理します。→(重要)
そのため、
・優位眼にハローの強いパンを入れると違和感を感じやすい
・優位眼にVivityを入れると、脳が受け取る“主な映像”となり、自然で快適になることが多い。
つまり、違和感や見え方の不安定さを抑えるには、「優位眼にVivity」が鉄則です。
眼内レンズは、ただ「よく見える」だけではなく、
「どう見えるか」「違和感が少ないか」「自分の生活に合っているか」が大切です。
FESTを使えば、自分の見え方を事前に“試着”してから決めることができます。
そして、MIX&MATCHという柔軟な選択肢をうまく活用することで、さらに快適な裸眼生活に近づくことができます。
当院では、Vivity・PanOptixを含む各種眼内レンズの適応相談や、FESTを活用した術後調整にも対応しています。
「どちらが自分に合っているかわからない」という方も、ぜひお気軽にご相談ください。