緑内障という病気は目の中の圧力、眼圧といいますが高い眼圧がその人の目にとって負担になるため視神経へ障害が起きて視野障害が起きていると考えられています。
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治療の中心は目薬です。目薬で眼圧を下げて緑内障を治療していくのですが、段階を踏んでいかないと正確な治療状況がわからないことがあります。外来で来られた患者さんで眼圧が凄く高いタイプの方であったり、緑内障がかなり悪く待ったなしの状態である方は段階を踏まずにすぐに治療開始しますが、緑内障として初期であったりもしくは若い方はすぐに目薬などをつかって治療を開始しません。
緑内障の治療が始まっている方で詳細な治療経過が分からない方は一度目薬をやめていただくような事もあります。緑内障の治療を途中でやめるなんてそんな事してしまっていいのかと思われるかもしれませんが、これには大きな理由があります。今回は緑内障でも特に正常眼圧緑内障と診断された方の治療はどのように行われていくのかということに関してお話させて頂きます。
緑内障の治療は眼圧治療が中心になります。私は緑内障専門病院ではたらいていた事もありまして色々な病院から緑内障患者さんのご紹介をいただいておりました。例えば
30台の若い方ですでに緑内障の視野が出現しており目薬による治療が始まっている、眼圧の値がだいたい12ぐらいという状態です。眼圧の正常値は10ー21なので正常値を考えると12というとかなり低めですよね。若い方であり念のために専門施設で一度診てくださいという内容です。この場合皆さんどのように思いますでしょうか。眼圧が低いのならその治療を続ければいいのではないかと思われるかもしれません。確かに12ぐらいの眼圧は低めで私としてもよく下がっているなと思うような値ではあります。ですが一旦立ち止まって考えてみると、この人のもともとの眼圧はどのくらいなのでしょうか?一般的には目薬を使っているので眼圧がもとより下がっているのだろうと思いますが、もしかしたら薬使っても眼圧が下がっていない可能性もあります。眼圧が12ぐらいと低めだからいいと思われていても実はもともと12ぐらいの眼圧で薬が全く効いていなくてもとの眼圧と変わっていなかったという可能性もあるんです。その場合は当然目薬を変えるなど何らか治療方針が変わりますよね。少し回りくどくなりましたが、何が言いたいかといいますと緑内障治療で大切な事は元の眼圧からどのぐらい眼圧が下がったのかというのがとても大切なんです。これは色々な論文で言われておりますが緑内障の治療の目標はもともとの眼圧より30%下げることなんです。30%下げれば80%は停止すると言われていますので、どの程度眼圧が下がったのかを評価することがとても大切なんですね。先程の12ぐらいの眼圧の方がもともと20ぐらいの眼圧なら元の眼圧より30%以上下がっており一般的には緑内障の治療がうまくいっていると考えます。もしもともとの眼圧が13ぐらいならほとんど下がっていないので慎重に経過を診ないといけないし、薬を変更した方がいい可能性があります。このように無治療の状態の眼圧がわからないことには治療の指針がたたないので薬をつかっていない眼圧を把握することがとても大切なんです。一度目薬を始めると基本的には一生目薬を使うことになります。なので緑内障と診断されたらすぐに治療をせずに何度か眼圧を測ってベースの眼圧を把握するんですね。治療前の眼圧が分からなくて、先ほどもお話しましたが30台と若い方ならなおさら長い治療経過が必要になりますのでしっかり無治療眼圧を測ってベースとなる眼圧を測るんです。そのため目薬を使っていただいている方で無治療の状態がわからない方はあえて目薬を一度やめてもらって2週間もすればもとの眼圧にだいたい戻りますので、そこでもともとの眼圧を把握するということする場合があります。一時的に目薬をしなくてもいいのですかと聞かれる事がありますが、もちろんした方が良いに決まっているのですが正常眼圧緑内障は数年かけて進行する病気であり1,2週間薬を中断したところでほぼ視野への影響はありません。緑内障の治療は始まったら一生しなくてはならないこと、このまま何となく治療してもその眼圧が本当に有効な値なのかわからないことを説明して了解していただけましたら治療を中止して再評価をするという方針をします。薬の効果がなくなった頃に眼圧を測ります。何度か測ります。眼圧は一般的には朝高くて夕方低くなるという日内変動パターンをとりますので、午前中に測ったり、夕方に測ったり、場合によっては日中1時間おきぐらいに眼圧を測ることをします。そこで測った眼圧をもとにどの程度眼圧を下げるのかというように目標をたてていくんですね。
そしていよいよ目薬を開始します。両眼緑内障だとしてもまずは片目から目薬をしてもらいます。これは片眼トライアルといいますが片眼にまず目薬をしてしっかり眼圧が下がっていることを確認するためです。いきなり両眼さしてしまうと本当に眼圧が下がったのか分からないことがあるからです。片目さして、さしていない方と比べて確実に差があって下がっているなら効果があると判断します。そして両眼さしていただくという流れになります。このように色々段階があるんですね。緑内障と診断されすぐに治療が始まることもあるのですが、初期の緑内障、特に正常眼圧緑内障の場合はしっかり治療前の状態を段階を把握して治療することになります。
今回の話をまとめますと
①緑内障治療においてベース眼圧の測定が大切です。
②一度治療が始まっていてもあえて一度目薬をやめてもらい元の眼圧を測ることがあります。
③両眼緑内障としても治療を始めるときは片目から治療を開始します
④目薬している方の眼の眼圧が下がっていることを確認したのちに眼に目薬をします。
という4点です。緑内障の治療ははじまってしまえば一生その治療が続くことになります。そのために治療前のデータはとても貴重なんです。もともとの眼圧はいくつだったのか、最高の眼圧はどのくらいだったのかというのは治療経過において大事な指標となります。そのために緑内障と診断されてもすぐに治療しないのはこのような理由によります。私は昔大学病院にいた頃は日内眼圧測定というものをやっていました。これは名前の通り1日に何度も眼圧を測ることです。日中ももちろん眼圧を測りますし患者さんには入院していただき寝てるときも途中で起きていただき眼圧を測定するというものです。今はそこまでしなくていいという流れになっておりますが、それでも無治療の状態を把握することは今でも緑内障診療において基本的な考え方となっております。
緑内障と診断されてもすぐに治療しないことがあるのはこのようなためだと知っていただけますと幸いです。
今回は緑内障治療の始め方に関してお話させて頂きました。
(2022/4/26)