首の血管の異常

2025.11.13 目の病気ブログ・症例実績

今回は“首の血管の異常が目に現れる”ことがあるという、意外と知られていない危険なサインについてお話しします。

見え方に違和感を感じたとき、それはただの目の疲れや目の病気ではなく、実は首の血管、頸動脈が詰まりかけているサインのことがあります。

この頸動脈は脳へ血液を送る大切な通り道ですが、動脈硬化などで狭くなると、脳への血流が低下して、『脳梗塞』のリスクが一気に高まります。

そのため「脳の症状に注意すべき」と思われがちですが、実は目にも早期のサインが現れることがあり、しかもそのサインは非常に重要です。

今回は、見逃してはいけない「見え方のサイン」と、それが意味する深刻な病気について、わかりやすく解説していきます。

まず早速、どんな見え方が注意なのか結論からお伝えしますと、片目だけが突然真っ暗になる

という症状です。一過性黒内障と言われています。

このような見え方の異常は、単なる「疲れ目」や「老眼」などとは明らかに違って、首の血管からの“警告サイン”であることが多いです。特に

症状が数分〜数十分で自然に改善する場合でも、絶対に見逃してはいけません。

なぜこのような目の異常が起きるのでしょうか。

私たちの首

には、左右1本ずつ、親指ぐらいの太さの重要な血管、頸動脈があります。

この頸動脈

は脳に血液を送る太い血管ですが、その途中で目に向かう

「眼動脈(がんどうみゃく)」という細い血管に枝分かれしています。

枝分かれした血管は、元の太い血管よりも細くて狭いので、動脈硬化などが起こると血流が悪くなったり、詰まりやすくなったりします。

特に目へ向かう血管は細いので、血流の変化や詰まりの影響を受けやすく、その

大きな原因のひとつが、「プラーク」と呼ばれる動脈硬化のかたまりです。

プラークとは、血管の内側にコレステロールやカルシウム、炎症細胞などが沈着してできた“血管の汚れ”のようなもので、加齢や高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などが原因で徐々に蓄積されていきます。

このプラーク

が大きくなると、血液の通り道が狭くなって血流が悪くなり、目や脳に十分な血液が届かなくなることがあります。さらに厄介

なのは、このプラークがある日突然、破れて中から小さな血栓、血のかたまりが飛び出すことがある点です。

飛び出した血栓は、血流に乗って脳や目の細い血管へ流れ込んで、一過性黒内障や脳梗塞の引き金となることがあります。

特に

目の血管は非常に細いので、最初に詰まりの影響が出やすいとされていて、突然片目が見えなくなったり、暗くなったりする症状は、まさにこのメカニズムによって起こります。

目への血管が詰まるとどうなるのでしょうか。脳梗塞のように手足が痺れたり、麻痺したりというようなことが目に起きるわけではありません。

目への血流が一時的に遮断されると、網膜に酸素や栄養が届かなくなって、視界が真っ黒になります。

網膜は、カメラでいうところの「フィルム」のような場所です。フィルムが壊れると、綺麗に画像が映りませんよね。目も同じでここが正常に働かなくなると、映像そのものが映らなくなります。すなわち

真っ暗になったり、部分的に見えづらくなるといった症状が起こります。

ただし

しばらくすると元の状態に自然に戻ることがあります。

これは、詰まっていた血栓がたまたま流れ出して、血流が再開したことで回復したからです。

そのため一過性黒内障と言われています。

頸動脈は

右左1本ずつあってそれぞれ主に脳の右半分、左半分といったように血流が流れています。

右目

だけに見え方の異常が起きた場合は、右の頸動脈が詰まりかけている可能性が高くて、左目

に起きた場合は、左の頸動脈が原因となっている可能性が高いと推測されます。

この一過性黒内障の症状 何故放置してはいけないのかというと、まさに「脳梗塞の予兆」だからです。実際に過去のデータでは、一過性黒内障を経験した人の約10~15%が、3カ月以内に本格的な脳梗塞を発症すると報告されています。

そのため医療の現場では見逃してはいけない重要なサインとされています。

見えるようになるとああよかったなぁとなるんですが、必ず脳神経外科または眼科にかかるようにしてください。

一時的に目の血管を詰まらせた血栓は溶けてなくなるわけではなくて、その後脳の血管に流れ込んで、本格的な脳梗塞を引き起こすリスクが高いからです。

これらの症状は、医学的には**TIA(Transient Ischemic Attack:一過性脳虚血発作)**と呼ばれています。目への血流が一時的に途絶えると「一過性黒内障」のような症状が出ますが、

脳の視覚中枢への血流障害が起きると、まったく異なるタイプの見え方の異常が現れることがあります。

具体的には、

  • 同名半盲(左右の視野の同じ側が見えなくなる)
  • 眼瞼下垂(まぶたが下がる)
  • 複視
  • 視覚性失認(見えていても意味が認識できない)

といった症状です。これらの症状も同じく注意が必要です。

🔹同名半盲(どうめいはんもう)とは

左右の視野の同じ側が見えなくなる症状です。たとえば

「両目とも右側が見えない」「左側が見えない」といった状態です。目の異常ではなく、脳の視覚野という部分への血流障害によっておきます。本人は意外と気づきにくくて、片側にあるものによくぶつかる、文字が読みづらい、食べ残しがあるなどの行動から、周りの方が先に異変に気づくこともあります。

🔹眼瞼下垂(がんけんかすい)は加齢によるものを思い浮かべる方が多いと思いますが、

そのようなものと違って片方のまぶただけが突然下がるという特徴があります。これは脳から出ている動眼神経というまぶたを動かす神経への血流障害で起きることが主な原因です。脳梗塞の前触れとして現れる場合もあり、特に急に起きた場合は注意が必要です。

🔹複視(ふくし)とは

物が二重に見える症状です。片目

で見ると正常に見えるのに、両目で見るとズレて二重に見えるという事が急に起きた場合は、脳神経障害の可能性があります。特に、脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の初期症状として現れることがあるので、突然の複視も決して無視しないようにしてください。

🔹視覚性失認(しかくせいしつにん)は少し難しいことばなんですが、

目ではしっかり物が見えているのに、それが「何か分からない、意味が理解できない」という状態です。

人の顔が誰かわからない、文字を見ても読めない、物の形を見ても判断できないなど、パニック状態になることがあります。脳には視た情報を“意味づける”場所があるんですが、その部分にダメージを受けることで起きる症状です。

これらの症状はすべて、一時的に現れてその後回復することもありますが、だからといって安心してはいけません。一見目の異常のように見えてしまいますが、それが実は脳梗塞の前兆で脳からのSOSだったというケースは少なくないからです。

では、もしこうした症状を感じた場合、どう行動すれば良いのでしょうか? 次のような順序で対応してください。

🩺 ステップ1:まず最初は眼科を受診してください。

「目の見え方がおかしい」と感じた場合、まずは目そのものの病気ではないかを確認するために、眼科を受診してください。網膜剥離、視神経炎、緑内障、眼底出血など、まれに似たような見え方の異常が起こることがあります。

眼科で検査して、まずこれらの病気が原因ではないかを確認します。もし、眼科の検査で「目に異常はない」と診断された場合、それは「目の異常」ではなくて、脳など他の部分が原因で見え方に影響している可能性が非常に高くなります。

🧠 ステップ2:脳の専門科で検査を受ける

次に受診すべきは脳神経内科、または脳神経外科です。通常、眼科で異常がなければ受診するように言われると思います。

一過性脳虚血発作の原因を見つけるために、頸動脈の超音波検査やMRI、心電図のような検査を行います。

頸動脈エコー(超音波)検査とは首に超音波を当てて、頸動脈の血流や血管の状態をリアルタイムで見る検査です。プラークが有るかどうか、血管の狭さなどを、痛みなく安全に調べることができます。

🧠 頭部MRI・MRA

MRIは、脳の断面を詳しく調べる検査です。

脳梗塞のあとが残っていないか、あるいは自覚症状がなくても知らないうちに起きていた「隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)」なども見つけることができます。一方、MRAは、

脳の血管の状態を立体的に映し出す検査です。血管の詰まりや、血管の一部が膨らんでできる動脈瘤などがないかを調べることができます。

どちらの検査も造影剤を使わずに行えるので、安全で身体に負担の少ない検査です。

💓 心電図・ホルター心電図

また、脳梗塞は、心臓の不整脈(特に心房細動)が原因になることもあります。

心電図で脈の乱れを調べて、必要に応じて24時間以上記録するホルター心電図というものを使うこともあります。

心房細動という不整脈があると、心臓の中で血のかたまり(血栓)ができて脳に飛ぶ危険性があるので、非常に重要な検査です。

このように、脳・血管・心臓の状態を総合的に調べて、脳梗塞のリスクを評価します。

検査の結果、頸動脈や眼の血管に異常が見つかった場合でも、すべての方がすぐに治療が必要になるわけではありません

血管の詰まりが軽度であり、動脈のコブ、プラークの状態が安定している場合は、経過観察となることもあります。この場合、定期的に頸動脈エコーやMRIなどの画像検査を行いながら、血管の状態を経過みていくことになります。

そのうえで、脳梗塞のリスクがあると判断された場合、血栓をできにくくするお薬が処方されます。これによって血液をサラサラにして、目や脳の血管が再び詰まらないように予防していきます。

もし、頸動脈の狭窄が重度で、将来的に脳梗塞のリスクが非常に高いと判断された場合には、プラークを直接取り除く手術や血管を広げるようなステント手術が検討されます。

このように、治療の内容は血管の詰まり具合やプラークの状態、患者さんの全身状態などを総合的に判断して決められます

どのような方が特に注意が必要なのかというと次の方です。

1つ目が高血圧の方

高血圧は常に血管にストレスがかかって、血管の内壁を傷つけます。これがプラーク形成の最大の原因となります。

2つ目が糖尿病がある方

高血糖は血管を内側からボロボロにして、動脈硬化を急速に進行させます。

3つ目はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い方

LDLコレステロールはプラークの主成分です。コレステロール値が高いと、プラークが形成されやすくなります。

4つ目は喫煙習慣がある方

タバコに含まれるニコチンやタールは血管を収縮させて、動脈硬化を促進させます。

5つ目は心房細動などの不整脈がある方

心房細動があると、心臓の中で血栓ができやすくなります。

6つ目は60歳以上の方

加齢とともに動脈硬化は進行します。また、女性は閉経まで女性ホルモンの作用で血管が守られやすいため、男性の方がリスクが高いとされています。

7つ目は家族に脳梗塞を起こした人がいる方

遺伝的な体質や、家族で似たような生活習慣を送っている場合、リスクが高まります。

これらのリスクファクターを複数お持ちの方は、ご自身の健康状態に特に注意をして下さい。たとえ自覚症状がなくても、定期的に健康診断や、頸動脈の超音波検査、血液検査などを受けるようにしてくださいね。

脳にとって血流障害は“時間との勝負”です。「見え方がおかしかったけどすぐ治った」といったような症状だとしても、その裏に重大な異常が隠れている可能性があります。

少しでも異常を感じたら、迷わず脳神経外科や眼科を受診してください。

今回の話をまとめますと

首や脳の血管(頸動脈)の異常は、目にサインが出ることがあります。

2  片目だけが突然見えなくなり、すぐに回復するのは危険な前兆です。

3  症状が治まっても安心せず、眼科→脳神経科へと早めに受診をしてください。

4  検査と治療によって、脳梗塞を未然に防げることがあります。

5  高血圧・糖尿病・高コレステロール・喫煙・不整脈がある方は要注意です。

「見え方の異常」は、単なる目の疲れや病気ではなく、全身の命に関わる危険なサインであることがあります。違和感があったときには、「目」だけではなく、「首や脳や血管」にも視野を広げて考えることが、大切になります。

今回は“首の血管の異常が目に現れる”ことがあるという、意外と知られていない危険なサインについてお話ししました。