秋の味覚の代表的な果物には柿があります。私は岐阜出身なのですが、柿は岐阜の特産物の1つです。柿には品種が色々あって日本で最も生産量が多い柿は富有柿(ふゆうがき)なんですが、その発祥の地は岐阜です。毎年11月頃になると柿の収穫時期になるのでその時期は柿の収穫で忙しくなるので中々受診できないと言われる患者さんもみえます。柿が赤くなると医者が青くなるということわざがあります。これは柿の収穫の季節には、それを食べて病気にならず、医者がいらなくなるという意味です。このように柿は身体に良い食材としてよく取り上げられますが、目の健康をサポートする栄養素も豊富に含まれています。今回は柿に含まれている栄養素はどのような点で目によいのかということに関してお話させて頂きます。
柿は古くから日本になじみのある果物ですが、栄養価の高さはあまり知られていないと思います。まず柿の良さは何と言ってもあの果肉の色にあります。柿の果肉の色は黄色ですよね。
何故柿の果肉の黄色なのかというと、カロテノイドが多く含まれているからです。カロテノイドとは天然の色素のことです。トマトは赤色ですがリコピンというカロノイドの色素によって赤色になっていますし、みかんはβクリプトキサンチンというカロテノイドの色素によってオレンジ色になっています。
そのような色素のことをカロテノイドといいます。柿は緑色から熟して黄色になっていきますが、緑から黄色になるにつれてカロテノイドがどんどん合成されて黄色く色づいていきます。
柿には多くの種類のカロテノイドが含まれています。α-カロテン,β-カロテン β-クリプトキサンチン、リコピン ゼアキサンチン ルテインも含まれています。これらのカロテノイドが、柿を黄色く色づかせているだけでなく、私たちの体を酸化から守る働きをしています。柿はカロテノイドの含有量が多いだけでなく、人に含まれる主要なカロテノイドをすべて含んでいます。
カロテノイドはただ色づく色素だけの役割ではなく、天然由来の強い抗酸化作用があります。紫外線から身を守るためにこのような色素を作りだして身を守っています。
人にもこのカロテノイド必要ですが、私達人間を含めた、動物はカロテノイドを合成することはできません。その代わりに植物や微生物が作り出したカロテノイドを摂取とすることによって,体内に取り入れています。
腸から吸収されると血液の循環によってさまざまな臓器中に運ばれることが知られています。酸化ストレスから身を守ることでがんや糖尿病、心筋梗塞などさまざまな病気の予防に役立つのではないかと考えられています。
目にもルテインとゼアキサンチンというカロテノイドが含まれていて目の健康のために重要な働きがあります。
柿に特に多いのがβ-クリプトキサンチンとβカロテンとゼアキサンチンというカロテノイドです。β-クリプトキサンチンやβカロテンは強い抗酸化作用があり臓器を守る役割があるだけなく、必要に応じてビタミンAに変わります。
ビタミンAは粘液を作ってのどや鼻などの粘膜を保護する作用があります。粘膜を守り、乾燥や細菌の感染を防ぐ働きがあります。
目にも粘膜があります。白目の表面とまぶたの裏側を覆っている部分で、「結膜(けつまく)」と呼ばれている部分です。結膜はムチンという粘液をつくって目の表面を保護していますが、ムチンの合成にビタミンAが関わっています。不足すると、角膜や結膜が乾燥して眼球乾燥症という極度のドライアイ症状を引き起こすことがあります。
また、ビタミンAは、目の奥の網膜にあるロドプシンの主成分で、暗順応といいますが夜の見え方に重要な役割を果たしています。不足すると夜盲症といいますが暗いところで周りが見えにくくなることがあります。
日本ではビタミンAが不足することはあまりありませんが、発展途上国ではビタミンA不足によって失明されている方もいるぐらいです。
ビタミンAはこのように大切な成分ではありますが、脂溶性なので、摂り過ぎると体に蓄積して 過剰症の心配が出てきます。ですが、柿含まれるβカロテンやβクリプトキサンチンなどのカロテノイドは体内に必要な分だけがビタミンAに変化するので、ビタミンAの過剰症のリスクを避 けることが出来ます。安心して食べれるメリットがあります。
柿にはこのような目にとって大切なビタミンAに変換するカロテノイドが多く含まれています。
また、ビタミンAの元となるβカロテンやβクリプトキサンチンのほかにゼアキサンチンも含まれています。
ゼアキサンチンはビタミンAには変換されませんが、目の網膜に重要なカロテノイドです。眼球に含まれるカロテノイドはたった二つでルテインとゼアキサンチンです。ルテインはよく知れ渡っているのでサプリなどでとられているかたも多くなったなという印象がありますが、ゼアキサンチンも重要です。
ルテインとゼアキサンチンは、どちらも目を守る効果があります。ですが、それぞれ位置する場所が微妙に違います。水晶体にはほぼ同じ割合で存在しているとされていますが、網膜の場合ルテインが黄斑の周辺組織に多く含まれる一方で、ゼアキサンチンは黄斑の中心部に含まれています。存在する部分がそれぞれ違うのでどちらも摂取することが理想となります。
これらは光エネルギーによる網膜の酸化から保護する役割があります。
柿にも含まれるルテインやゼアキサンチンは加齢黄斑変性症という黄斑という病気の進行抑制、予防や白内障の中でも核白内障に対する予防効果がある事で知られています。
ゼアキサンチンが含まれている食品は中々ありません。圧倒的に多い食品といえばクコの実ですが、スーパーなどで見かける機会もないと思いますし、あまり食べる方はいないと思います。
柿は効率よくビタミンAを補給できるだけでなく、ゼアキサンチンも供給できる数少ない食品の1つとなります。更に、ビタミンCが豊富に含まれています。抗酸化作用の高いビタミンCが多いというのも特徴です。1日に必要なビタミンCは100mg程度ですが、柿1個に100mgビタミンCが含まれています。ビタミンCというとレモンを思い浮かべる方が多いと思いますが、含有量はレモンより多く5倍も含まれています。
ビタミンCは酸化防止のために常に大量に目の中で消費されています。目の中には房水という絶えず循環しているお水があります。
そのお水から栄養をもらっています。房水に含まれるビタミンCは血液中の20倍も多く含まれています。紫外線などからの酸化ストレスから水晶体の透明性を維持するために大量のビタミンCが消費されています。目にとっても大切なビタミンですが、加齢に伴って房水のビタミンCの濃度は減少していきます。またビタミンCは体内で合成することができないので積極的に摂取する必要があります。ビタミンCの減少が高齢者の白内障形成に関与している可能性も報告されています。
目だけでなくこれから寒くなる時期には柿を食べる事によって免疫力を高め、風邪予防に効果的です。柿に含まれるタンニンという成分には、ウイルスが体内に吸着する段階を阻止する効果があることが知られています。国内の報告からはインフルエンザウイルスやノロウイルス、コロナウィルス等の感染を防ぐ効果が高いことが明らかにされています。これからの時期にいいかもしれませんね。
このように柿には身体だけでなく目にもよい栄養素がたくさん含まれています。
柿を選ぶときは果皮の色を目安にするといいと思います。果皮の色が濃いオレンジ色をしているほど、カロテノイドの量が増えています。
また、意外と知られていませんが、柿の皮は栄養価が非常に高いです。柿の皮には、抗酸化物質であるタンニンや食物繊維、ビタミンやミネラルなどの栄養素が含まれているだけでなく、特にカロテノイドは、柿の実の数倍、皮の部分に含まれています。そのため皮は実よりも鮮やかなオレンジ色をしています。柿に限ったことではありませんが、野菜や果物の皮には紫外線や外敵から身を守るために栄養が集中しています。とはいえ皮を食べる事に抵抗があると思います。実の中でも皮に近いほど栄養素が多く存在するのでできる限り皮を薄くむくようにすることを意識してみてください。また、熟した柿は皮も柔らかくなるので食べやすくなります
栄養素が豊富な柿ですが、食べすぎにはご注意ください。糖分が多く、食べすぎると中性脂肪を上昇させる原因になりますし、柿腹痛や下痢の原因になったり、一度に大量の柿を食べることによって「胃石」ができることがあります。「胃石」は、胃の中に石のような固い塊ができてしまう症状のことです。めったに起こることではありませんが、タンニンを多く含む食品である柿は、胃石ができやすい食品です。胃石ができると、吐き気や腹痛を引き起こすほか、胃潰瘍や腸閉塞の原因になることもあります。栄養価が高いといわれると、「健康のために」とついたくさん食べてしまいがちですが、目安としては1日に1~2個となります。多くの食べ物がそうであるように、柿も一度に大量に食べることは好ましくありません。適量を守りつつ、美味しい柿を食べることで秋の味覚を味わってみてください。
今回の話をまとめますと
という5点です。柿に含まれるカロテノイドは、目の健康維持に欠かせない栄養素です。特に、β-カロテンやゼアキサンチンは、視力低下や眼病の予防に役立ちます。旬の柿を美味しく食べて、目の健康を意識してみてはいかがでしょうか。