白内障手術後に見にくさを感じる理由と対策

2025.09.29 白内障ブログ・症例実績

白内障手術後に見にくさを感じる主な理由と、それぞれの具体的な対策について

今回は、白内障手術後に“見えにくさ”を感じたときに、知っておきたいことについてお話しします。

白内障手術は、濁った水晶体を取り除いて、人工の眼内レンズに入れ変えることで、多くの方は通常、見え方がよくなります。ところが、手術を受けたにもかかわらず、「なぜか見にくい」「手術前と比べてかえって見えにくくなった気がする」と感じる方もおられます。

今回は、白内障手術後に見にくさを感じる主な理由と、それぞれの具体的な対策について、段階的にわかりやすく解説していきます。

術後の見え方は時間の経過とともに変化していくことがあるので、ここでは術後の時期ごとに分けてご説明していきます。

まず手術後、数日以内に関してです。白内障手術直後の数日間は、見え方が安定せず変動しやすい時期です。たとえば、

・術後翌日は遠くが見えていたのに、翌々日には少し見づらくなった

逆に

・手元が見えていたのに、数日後には同じ距離が見にくくなった

代わりに遠くが少し見やすくなった

といったことが起こることがあります。

時々コメント欄でも質問いただきますが、手術翌日はすごく遠くが見えていたのに、今日はそれほど見えた気がしない。手術の失敗でしょうか?どんどん見えなくなっていくような気がして不安です。というような見え方の変化に関するご質問をいただきますが、これは手術の失敗ではありません。

これから手術を受けられる方であればぜひ知って頂きたいのですが、術後数日は見え方が変動します。

これは眼内レンズがまだ目の中できちんと固定されていないからであったり、白内障手術後の角膜の浮腫みや創口の治癒具合によって屈折状態がわずかに変わるからです。手術を受けた翌日からピタッと希望した距離にピントが合うわけではなく、だいたい見え方が安定するのに2週間から1カ月程度かかります。手術後数日は見え方が変動することを知っていてください。

又、この時期は急に視線を動かすとキラキラしたものが見えるということもあります。特に多焦点眼内レンズでは、レンズの構造上、光を複数の焦点に分けるので、ハローやグレアが出やすい傾向にあります。

ただそれとは別に単焦点でも、目を動かすとキラキラした感じを訴える方もいます。これは「エッジグレア」と呼ばれていますが、人工レンズの「縁【ふち】の部分」で光が屈折することで、角度によってはキラキラした光が見えることがあるからです。

この現象は術後数日は瞳孔の調整機能が不安定で、暗所では瞳孔が大きくなりやすいから感じやすいとされています。瞳孔が大きくなると、眼内レンズのエッジ部分に光が当たりやすくなって、グレア感が強くなります。多くの場合、術後数週間〜数ヶ月で脳が慣れて、光のギラツキは軽減していきます。単焦点眼内レンズでは長期的に大きな問題にならないことがほとんどです。

このように術後すぐの見え方の変動であったり光のギラつきは、レンズの固定性や炎症や涙のバランス、脳の慣れの問題などでよくあることですが、術後2〜3週間以上たっても見にくさが続く場合には、「度数ズレ」も原因のひとつとして考えられます。

白内障手術では、眼の中の濁った水晶体を取り除いて、代わりに人工のレンズ(眼内レンズ)を入れますが、そのレンズの度数(ピントの位置)は、手術前の検査で計算して決めます。

ただし、目の形や特徴によっては、例えば強い遠視の方や、チン小帯といってレンズを支える筋がありますがそれが弱い方は、予定していた見え方と実際の見え方に少し差が出ることがあります。

これを「度数ズレ」と呼びます。白内障手術後の「度数ズレ」には近視ズレと遠視ズレがありますが、一般的には“近視ズレはあまり問題にならないことが多いですが、遠視ズレは見えにくさや不満が出やすい”傾向があります。

近視とは「近くは見えるけど、遠くがぼやける状態」のことです。ピントが網膜より手前に合ってしまうので、遠くのものがはっきり見えません。たとえば、本やスマホは裸眼で見えるけど、テレビの文字や標識がぼやける…という方は典型的な近視です。

予定されていた狙い目より近視にズレた場合、たとえば −1.0D から−2.0D にずれた場合でも、手元や中間距離のどこかにピントが合います。そのため、この程度のズレであれば、スマホを使ったり、本を読んだり、料理をしたりといった動作は、裸眼のままでも問題なくこなせることがあります。

もともと近視だった方にとっては、軽い近視が残っていた方が“慣れた見え方だから困らない”と感じることも少なくありません。

これに対して遠視ズレとは、ピントが網膜より後ろに合ってしまう状態のことで、遠くも近くもピントが合わず、「全体的にぼやけて見える」という感覚になります。

「遠視」と聞くと、「遠くがよく見える目」と思われがちですが、実際は遠くも近くもピントが合っていない状態です。

たとえば、手術後に遠くにピントが合う状態、0Dを目指していたにもかかわらず、実際の度数が+1Dや+1.5D、と遠視側にずれてしまうと、遠くも近くも裸眼でピントが合いにくくなります。

このような場合、遠方合わせにしたのに「遠くもなんとなく見えにくい」「メガネをしないとどの距離も見にくい」と感じることがあって、見え方に対する不満が出やすくなります。

適切な度数の眼鏡やコンタクトレンズをすれば視力の矯正は可能ではありますが、裸眼だとどの距離にもピントが合いにくいと感じていることがあれば、遠視方向へのずれが原因かもしれません。

このような「白内障手術後の度数ズレは、実際は頻繁に起こるわけではありませんが、起きた場合は「近視ズレ」はある程度日常生活で許容されやすく、「遠視ズレ」は不満につながりやすいという傾向があります。遠くを見たいけれど、裸眼で0.8くらい見えれば十分という方であれば、手術で少しだけ近視を残す4mにピントを合わせる−0.25Dや2m先にピントが合う−0.5Dという度数の合わせ方がおすすめです。

遠くの見え方に強いこだわりがない場合は、遠方合わせでも少し近視を残すという合わせ方であれば、裸眼でもパソコンなどの中間距離まで見やすくなり、全体的な満足度が高くなる傾向にあります。
また、仮に多少度数がズレたとしても、近視寄りに設計しておけば、多くの場合は0D付近にとどまるので、見え方に大きな支障は出にくいという点でも安心です。

単焦点眼内レンズに限った話ではありませんが遠視にズレてしまうと、遠くも近くも裸眼での見え方のメリットが小さくなって、眼鏡に頼る場面が多くなることを知っておくといいかもしれません。

そのような度数ズレとは別にもともとの目の病気が悪化したという場合もあります。

白内障手術は、視力を回復させる治療法ではありますが、白内障以外の目の病気を治療することはありません。

手術前からすでに緑内障のような他の目の病気がある場合、白内障の手術によって視界がクリアになることで、それまで白内障の影に隠れていた見えにくさの原因がはっきりと分かるようになることがあります。

また、手術の影響によって、加齢黄斑変性症などもともとの目の病気が悪化してしまうこともあります。

よくある訴えとしては飛蚊症

の悪化です。飛蚊症とは、視界の中に虫や糸くずのようなものが浮いて見える現象です。

 

これは主に、眼球の中を満たす硝子体というゼリー状の物質の濁りが原因で起こります。

白内障がある間は、視界全体がかすんでいるので、硝子体の濁りによる飛蚊症が目立ちにくいことがあります。ですが、白内障手術で水晶体がクリアになると、今まで見えにくかった硝子体の濁りがはっきりと分かるようになって、「飛蚊症が悪化した」と感じることがあります。これは、飛蚊症の症状自体が急激に悪化したというよりも、白内障がなくなったことで、もともとあった飛蚊症が「見えやすくなった」からです。

基本的には問題ないことが多く、時間とともに慣れていくことが多いですが、急に飛蚊症が増えた、光がピカピカ見える、視野が欠けてきたといった症状がある場合は、早めに眼科を受診することをおすすめします。

多焦点眼内レンズを選びばれる場合は、見え方の特徴や注意しておきたいポイントなど、事前に知っておくと安心できることがいくつかあります。

白内障手術で多焦点眼内レンズを選択した場合、「Waxy Vision(ワキシービジョン)」と呼ばれる独特の見え方を経験することがあります。これは、単焦点眼内レンズではほとんど感じられない、多焦点眼内レンズ特有の現象です。

多焦点眼内レンズは、「遠くも近くも、眼鏡なしで見えるようにしたい」という方のために作られた特殊なレンズです。レンズの中に、遠く・中間・近くを見るための仕組みが入っていて、1つのレンズでいろんな距離にピントが合うようになっています。

これはとても便利な反面、光をそれぞれの距離に分けて使うため、一つ一つのピントに届く光の量が少しずつ減ってしまいます。

その結果、見え方に次のような特徴が出ることがあります

・なんとなく全体が白っぽい

・もやがかかったように感じる

・コントラストが弱く、はっきり見えない

・昼間は気にならなくても、夜になると見えにくい

こうした状態は「Waxy Vision」と呼ばれていて、視力は1.2とか裸眼で出て数字は良いのに、スッキリした見え方にならないという違和感が出ることがあります。

特に、暗い場所や夜間の運転では、光がにじんだり、まぶしく感じたりすることもあります。

このような見え方は、多焦点眼内レンズの構造によるもので、病気や手術の失敗ではありません。

ただ、知らずに手術を受けると、「思っていた見え方と違う」と感じて後悔してしまうことがあります。

そのため、多焦点眼内レンズを選ぶときは、「見え方のクセ」や「夜間の違和感」が出る可能性があることを、しっかり理解しておくことがとても大切です。

眼鏡なしでの生活を重視するか、見え方のスッキリ感を重視するか。

ご自身のライフスタイルや希望に合わせて、レンズを選ぶようにしてください。

又、多焦点眼内レンズは近方の見え方に限界があることもしっておきましょう。現状「40cmの壁」があります。

多焦点眼内レンズは、遠方から近方まで複数の距離に焦点を合わせられるレンズですが、現在の技術では、近方焦点の限界がおおむね40cm程度とされています。40cmよりも近い距離を鮮明に見たい場合は、別途老眼鏡が必要になることを理解しておくことが非常に重要です。特に、小さな文字を読んだり、裁縫などの細かい作業をするときには、無理せず老眼鏡を使うことをおすすめします。

そうすることで、目が疲れにくくなり、スッキリとした見え方になることが多いです。多焦点眼内レンズは「眼鏡からの解放」を謳うことが多いですが、必ず完全に眼鏡なしの生活を送れるわけではない、という現実を認識しておくことが大切です。

今回の話をまとめると

1、術後数日は見え方が変動します

2,度数ズレ(特に遠視ズレ)が見え方に影響しているかもしれません。

3,もともとの目の病気が関係していることもあります。

4、白内障が取れたことで飛蚊症に気づきやすくなることがあります。

5、多焦点眼内レンズの場合、視力は良くても、白っぽさやすっきりしない感じを覚えることがあります(waxy vision)。

6、多焦点眼内レンズでも細かい作業には老眼鏡が必要なこともあります(40cmの壁)。

白内障手術は、視力を大きく改善できる素晴らしい治療ですが、術後の見え方には「個人差」や「レンズの特性」によるクセがあります。

特に多焦点眼内レンズを検討されている方は、「どんな見え方の特徴があるのか」「眼鏡なしの生活はどこまで可能なのか」といったことを、事前にしっかり理解しておくことが、満足度の高い結果につながります。

どのレンズが一番良いかは、生活スタイル・仕事・趣味に応じて変わりますので、よくご相談して決めていただけたらと思います。今回の話は白内障手術後見にくいと思ったときに知っておきたいことについてお話いたしました。