緑内障は、日本人の失明原因の第1位とされる病気です。眼圧が高いことで進行するタイプもあれば、日本人に多い「正常眼圧緑内障(NTG)」のように眼圧が正常でも進行していくタイプもあります。
多くの患者さんから寄せられる質問に、
「緑内障は何歳で一番進みやすいのですか?」
というものがあります。
「高齢になると進むのでは?」「若いと進まないのでは?」と考える方が多いのですが、実際にはもっと複雑です。近年の研究では「高齢期だけでなく、若年期にも進行が速い時期がある」ということが報告されています。今回は、世界の臨床試験や論文のデータを交えながら、緑内障と年齢の関係について詳しく解説します。
まず最初に押さえておきたいのは、高齢になるほど緑内障が進みやすい傾向があるという事実です。
有名な臨床試験 EMGT(Early Manifest Glaucoma Trial) では、年齢が1歳上がるごとに、視野が悪化するリスクが少しずつ高くなることが報告されました。
これはどういうことかというと、同じ眼圧でも60歳の方より70歳、70歳より80歳の方のほうが進行リスクが高いということです。
なぜ年齢が上がると進みやすいのか?
・網膜の神経線維や視神経が加齢で脆くなる
・血流が低下し、視神経に酸素や栄養が届きにくくなる
・酸化ストレスや代謝の負担が増える
こうした要因が重なり、高齢者は視神経がダメージに弱くなるのです。
ところが、若いから進まないとは限らないというデータもあります。
2024年に Scientific Reports に発表された研究では、
20代の緑内障患者において、網膜神経線維層の欠損が年間およそ4°ずつ広がるという非常に速い進行が観察されました。
すなわち、わずか数年のあいだに視野が大きく欠けてしまう可能性があり、日常生活に支障をきたすリスクが高いということです。
特に 強度近視を伴う正常眼圧緑内障(NTG) で、この傾向が強く見られます。
若い人で進行が速く見える理由には、
・強度近視による眼の構造的な弱さ
・自覚症状が少なく、発見が遅れる傾向
・長時間のスマホ・パソコン使用など生活習慣の影響
などが挙げられます。
つまり「若いから大丈夫」とは言えず、若年層であっても急速に進行する場合があるのです。
さらに興味深い研究があります。
2024年に Ophthalmology Science に発表された論文によると、緑内障の進行速度は二つの年齢層でピークを示すことがわかりました。
・1つ目のピークは19〜29歳(若年期)
・2つ目のピークは40〜49歳(中年期)
・その後50歳以降は進行がやや落ち着く傾向
という結果です。
・強度近視が多い世代であり、眼球が長くなることで視神経に負担がかかる
・自覚症状がほとんどなく、発見が遅れることで見かけ上進行が速く見える
・学業や仕事でのストレス、長時間のデジタルデバイス使用などが血流や神経に影響している可能性
・加齢変化が始まる年代で、視神経や血管の脆弱性が増してくる
・仕事・家庭でのストレスや睡眠不足など、生活習慣が影響
・人間ドックや健康診断で発見されることが増え、統計上「進行が速い」と検出されやすい
・この年代では点眼治療やレーザー・手術などが積極的に導入され、進行が抑えられている可能性
・すでに神経線維がかなり失われ、残っている範囲が少ないため、見かけ上「進行が鈍化したように見える」可能性
研究結果を整理すると、
高齢になるほど進行リスクは上がる(EMGTなど)
若年層でも速く進行する例がある(Scientific Reports 2024)
進行速度には「若年期」と「中年期」に二つの山がある可能性(Ophthalmology Science 2024)
ということがわかります。
しかし、実際には年齢だけで進行を説明することはできません。
進行の速さは、
・眼圧の高さや日内変動
・強度近視の有無
・血流や血圧の状態
・遺伝的要因
・治療をきちんと続けているかどうか
といった多くの因子によって決まります。
緑内障は「高齢だから進む」「若いから安心」といった単純な病気ではありません。
20代や30代でも急速に進行する場合があり、60代以降はさらに組織が脆弱になることでリスクが高まります。つまり、どの年代でも油断はできない病気なのです。
だからこそ大切なのは、
・定期的に眼科を受診すること
・視野検査やOCTで進行をチェックすること
・治療を中断せずに継続すること
です。
緑内障は一度失われた視野を取り戻すことはできませんが、進行を抑えることは可能です。早期発見・早期治療、そして毎日の治療の積み重ねが、将来の視力を守ります。「自分はまだ若いから大丈夫」と思わず、年齢に関係なく定期的に検査を受け、治療を続けていくことが重要です。