こんにちは。岐阜市の真鍋眼科、院長の真鍋です。
今回は、強度近視の方が白内障手術を受ける際に「どのような度数に合わせるのがよいか?」について、眼科専門医の立場から詳しく解説していきます。
「この機会に遠くが見えるようにしたいけど、近くも出来るだけ不便になりたくない」「老眼のようになってしまうのは困る」
そんな悩みを持つ方に、快適な術後生活を送るためのヒントをお届けします。
「強度近視」とは、一般的に-6.0D以上の近視のことを指します。
たとえば-10Dの方であれば、裸眼でピントが合う距離は約10cm。眼鏡やコンタクトなしでは日常生活がかなり不便になります。そのため白内障手術を機に「遠くを裸眼で見えるようにしたい」と希望される方が多いのです。
白内障手術では、濁った水晶体の代わりに「眼内レンズ(IOL)」を挿入します。
多くの方が選ぶ単焦点眼内レンズでは、「どこにピントを合わせるか」が術後の見え方を大きく左右します。
・裸眼で遠くがよく見える(視力1.0以上も期待)
・車の運転やテレビ視聴に便利
ですが…
・近くは老眼鏡がないとほぼ見えない
・強度近視の方は「急に見え方が変わりすぎてつらい」と感じることも
単焦点レンズは「1点にしかピントが合わない」と思われがちですが、実際には“焦点深度”といって、ある程度の前後の見える範囲があります。
・0D(遠方)に合わせると、±1Dの範囲でそこそこ見える(おおよそ1mまで)
・−0.5Dに合わせると、遠くと中間距離(50〜70cm)の両方がそこそこ見える
・手元にピントを寄せすぎると、見える範囲が狭くなる(視線の動きに敏感に)
狙い目毎の視力のイメージはこのような感じです。
注)視力データは平均値です。照明や年齢、瞳孔径、網膜の状態などによって変わります。
私が日頃おすすめしているのは、「遠くをしっかり見たい」という遠方狙いであっても、完全な正視(0D)に合わせるのではなく、少しだけ近視を残した「−0.25D〜−0.5D」程度の設定です。
確かに0Dにすれば遠方の視力は1.0以上出る可能性がありますが、ピントが合う範囲はだいたい1メートル以遠に限られます。そこまで遠くにしっかりピントを合わせる必要がない方にとっては、やや使いにくいこともあります。一方、わずかに近視を残しておくことで、遠くは多少ぼやけるかもしれませんが、70cm前後までの距離が見やすくなり、日常生活ではむしろ便利に感じられることが多いです。
また、逆に「手元を見やすくしたい」という方には、−1.0D〜−2.0Dくらいの軽度の近視を残す設定をおすすめしています。-2.0Dであれば30〜50cmくらいの距離が自然に見えるため、読書やスマホ操作には適しています。ただし、−3.0D以上の強い近視にしてしまうと、30cm以内は確かに見やすくなりますが、それより遠くはピントが合わず、実用性に欠けることがあります。「とにかく近くを重視したい」という方以外には、少し近視を抑えた設計の方が使いやすい印象です。特に強度近視の方にとっては、白内障手術は長年のメガネ生活からある程度解放され、裸眼で快適に過ごせる貴重なチャンスでもあります。その機会に、やや強めの近視を残してしまうのは、少しもったいないと感じることもあります。近くの見やすさを取り入れつつ、ある程度の遠方視力も確保できるようなバランス設計が、満足度の高い見え方につながります。
このように、強度近視の方にとっては、術後にどの距離にピントが合うようにするかをよく考えて設計することが大切です。完全な正視にこだわらず、ライフスタイルに合わせて「少しだけ近視を残す」ことが、快適な見え方につながるポイントだと考えています。
この図から近視の度数を強くすると、ピントの幅がどんどん狭まり、「少し離すだけで見えにくい」と感じやすくなる傾向にあることを知っておきましょう。
手術後の見え方を具体的にイメージするために、当院では次のようなシミュレーションも行っています:
・ビジョンシミュレーター:術後の見え方を映像で疑似体験
・体験コンタクト・眼鏡:術後の度数を再現して見え方を体験
例)
−2.0D → 手元はよく見えるが遠くがぼやける
−1.5D → 手元はやや見えにくいが、遠くもそこそこ見える
片眼を−0.5D、もう一方を0Dにする「マイクロモノビジョン」も選択肢のひとつです。
・両眼視で遠くも近くもカバーできる可能性
・多焦点レンズに比べてコントラストが落ちにくい
・違和感が出る方もいるため、事前体験が大切
強度近視の方は、角膜乱視を伴っているケースも多くあります。
・トーリック眼内レンズを使うことで乱視を矯正可能
・乱視を放置すると、せっかくの度数設計の効果が台無しに
・術前にしっかりと相談を(乱視矯正を行っていないクリニックもある)
白内障手術は、視力だけでなく、ライフスタイル全体に影響する一大イベントです。強度近視の方は特に慎重な度数設計が必要です。
✅ できるだけ「少し近視を残す」ことでバランスよく見える
✅ 「ピントの幅」は近くに寄せるほど狭くなる
✅ 事前に見え方の体験をしておくと後悔が少ない
✅ 乱視の矯正も重要ポイント
手術後に「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、ご自身の生活スタイルや希望に合った度数を、主治医と一緒にじっくり考えてみてください。