~強度近視・夜間運転・自然な見え方を重視する方へ~
白内障手術では「どのレンズを選ぶか」で、術後の見え方や生活の質が大きく変わります。 今回は、注目の多焦点眼内レンズ「アクリバトリノバプロ(Acriva Trinova Pro)」について、私自身の見解を交えながら、人気の「パンオプティクス(PanOptix)」と比較し、わかりやすく解説します。
アクリバトリノバプロは三焦点の多焦点眼内レンズです。 遠方・中間・近方の3つの距離にピントを合わせ、メガネに頼らない快適な生活を目指せます。
主な特徴
✅ 素材:親水性アクリル(多くは疎水性アクリル) 柔らかいので手術時、挿入しやすい。(一方で術後嚢収縮の影響による微細な度数変化の可能性がある。)
✅ 光学ロス:約7% パンオプティクス(10〜12%)よりも光の無駄が少なく、コントラスト感度や夜間視力が良好。
✅ ハロー・グレアが少ない 夜間運転でも比較的安心。
✅ 0Dからの度数展開 強度近視の方でも使用可能で、従来「多焦点は不適応」とされていたケースにも対応。
✅ 日本人向けの中間距離設計 中間距離80cm(+1.70D)は、背丈の高い欧米人向けではなく、日本人の生活距離(パソコン・料理・会話)に適応。
◆ 加入度数・焦点距離・光学ロスの比較
◆ 近方視について
アクリバトリノバプロは、近方加入度数が+3.35Dと、パンオプティクス(+3.25D)よりも理論上は近方性能が高い設計です。 そのため、手元の細かい作業にも十分なポテンシャルを持っています。
しかし、実際の見え方は回折構造や光配分バランスといった要素の影響も大きく、データ上では約15%の方が細かい作業時に老眼鏡を必要とすることが報告されています。よって加入度数が強い方が、近くが見やすいとは限らない——この点は理解しておくと安心です。
◆ 現状の近方視:パンオプ優位の可能性
また、実臨床の印象では、現時点ではパンオプティクスの方が近方視においてやや優れていると言えるでしょう。その理由は①パンオプは中間60cm・近方40cmを重視した設計で、特に手元の細かい作業に向いている。②アクリバは遠方〜中間の自然さと夜間視力を優先しており、近方はやや控えめです。そのため、近方視力にこだわる方には、現状ではパンオプティクスが適する可能性が高いです。
◆ 乱視用(トーリック)レンズについて
現在、アクリバトリノバプロは乱視矯正タイプ(トーリック)の製品が未発売です。 ただし、乱視用トーリックは2025年秋頃に発売予定となっており、今後さらに適応範囲が広がる見込みです。現時点では、乱視が強い方にはパンオプティクス(トーリック)を選択するのが一般的です。
◆ どちらが合うか?
◆ マイクロモノビジョンやミックス&マッチへの期待
最近では、左右の眼に異なる度数やレンズを入れる「マイクロモノビジョン」や「ミックス&マッチ」といった方法も注目されています。 アクリバトリノバプロも、こうした新しいアプローチと組み合わせることで、さらなる見え方の向上が期待されており、今後の臨床データに注目が集まっています。
◆ 私の見解(まとめ)
アクリバトリノバプロは、夜間運転の影響が少ない(光学ロス7%)また強度近視への対応もされている、日本人に合わせに改良されている。これらの点で、多くの方に新たな選択肢を提供する有望なレンズです。ただし、近方視を最重視する方や乱視が強い方には、現時点ではパンオプティクスの方が適している可能性があることも、正しく知っておくことが大切です。今後、マイクロモノビジョンやミックス&マッチといった新たな手法との組み合わせも期待されており、さらなる臨床データに注目したいところです。最終的には、生活スタイルや見え方の優先順位を整理し、主治医と十分に相談してレンズを選ぶようにしてください。